「転び公妨」とテレビ報道

2009-01-06

●麻生太郎首相邸見学ツアーが公務執行妨害とされた

この2か月で16万回も閲覧されているビデオがあります。2008-10-26に麻生太郎首相の邸宅を見学するために東京・渋谷駅周辺を歩いていた3人が逮捕されました。動画サイトYouTubeの「10/26 麻生邸宅見学に向かおうとしたら逮捕」で逮捕の場面が見られます。

都条例の規制対象となるデモ行進でもなければ、公務執行妨害でもないことは明らかです。http://d.hatena.ne.jp/tzetze/20081028/1225035075というサイトによると、「フリーター全般労働組合は、10月26日、渋谷で、反戦と抵抗の祭〈フェスタ〉2008のプレ企画であるイベント、麻生太郎邸拝見「リアリティ・ツアー」に麻生太郎首相への団体交渉申し入れ書を携えて参加しました。」ということです。また、「これは明白な不当逮捕です。渋谷警察署・警備課長と合意があったにもかかわらず、路上で突然に私服警官が襲いかかり、3名を拉致したというのが真相です。その過程でこちらは誰も「殴る」も「蹴る」もしていません。一方的に路上に引き倒されて押さえつけられたのです。」という主張もビデオを見る限り、正当だと思います。

「公妨だ。公妨害だぞ。」、「押さえろ。」などと叫びながら、この逮捕の指揮をとったのは、麻生でてこい!!リアリティツアー救援会ブログアクセスジャーナルというサイトによると、警視庁公安部公安二課長・栢木國廣(かやき・くにひろ)警視のようです。逮捕当日の事実は、麻生でてこい!!リアリティツアー救援会ブログの 幻の勾留理由開示公判意見陳述要旨に最も詳しく書いてあると思います。3人は現行犯逮捕されたにもかかわらず、11月6日に処分保留で釈放され、11月27日に不起訴決定となったという結果からも、上記陳述要旨に書いてあることが正しいと思います。

http://shadow-city.blogzine.jp/net/2008/12/vs_fbd2.htmlというサイトには、「この逮捕、余りにデタラメだったため、国会議員によって4回にわたって国会質問がされ、鈴木宗男(10月30日)、阿部知子(11月6日)、近藤正道(11月13日)、河村たかし(11月14日)各議員が「質問趣意書」を出している。さらに、亀井静香議員も鈴木議員らと会見し、疑問を呈している。」と書かれています。

警視庁公安部は、なぜあのような違法逮捕を敢行したのでしょうか。自公政権の本意が従順な貧乏人をつくり出すことによって金持ちを更に富ますことだったとしても、麻生首相の直接的な意向があったとは考えにくいですね。参加者の一人が麻生太郎首相への団体交渉申し入れ書を携えていたことを警視庁が察知し、その提出を阻止することによって、自分たちの組織が権力者にとって役に立つ存在であることを示そうとしたという推理は成り立たないでしょうか。

しかし、見学も書面を渡そうとする行為も違法ではありませんから、それらを止めるのは無理があります。

●「転び公妨」

上記リアリティツアーに対して使われたでっち上げ逮捕の手口は「転び公妨」と呼ばれています。もちろん違法ですが、日本は法治国家であるにもかかわらず、一部始終を撮影したビデオが存在したとしても、違法逮捕した警察官が逮捕罪、監禁罪、特別公務員暴行凌虐罪などで処罰されることは絶対にないようです。

詳しくは、Wikipediaの「転び公妨」を参照してください。手口が類型的に紹介されています。

また、「転び公妨(ころびこうぼう)とは、警察官などの捜査官が嫌疑対象者に公務執行妨害罪(公妨)や傷害罪などの罪名をこじつけて強引に現行犯逮捕する行為。実質的に別件逮捕の手段として用いられる。」、「名称の由来は、警察官が嫌疑対象者に突き飛ばされたふりをし、自ら転倒して対象者に公務執行妨害罪を適用することからきている。特に第三者から見られないような状況を選んで、触れてもいないのに暴行を受けたと言いがかりを付けて無理に逮捕するなどの事例が存在する。」と解説されています。

鈴木邦男著「公安警察の手口」(ちくま新書)P14〜にも「転び公妨」が解説されています。ただし、鈴木氏は、「伝家の宝刀「ころび公妨」」なんて書いてますが、伝家の宝刀というのは、「いざという時以外は使わない思い切った手段。とっておきの切り札。」(大辞林)であり、滅多に抜かないものです。ところが「転び公妨」は、鈴木氏が何度も使われているのですから、公安警察の常套手段であり、「伝家の宝刀」とは言えないと思います。

「公安警察の手口」は、2004年に出版されていますが、既に2000年にジャーナリストの青木理(おさむ)氏が「日本の公安警察」(講談社現代新書)p34に次のように書いています。ここでも「伝家の宝刀」とされていますが。

公安警察内で「転び公妨」と呼ばれる手法がある。複数の公安警察官が対象人物を取り囲み、職務質問なり所持品検査なりを強行し、相手が抵抗して取り囲んだ公安警察官に触れたり、押しのけようとしたら直ちに公務執行妨害。時には公安警察官が対象人物の前で勝手に転び、公務執行妨害という”虚像”を演出することすらある。「転び公妨」と呼称されるゆえんだ。公安警察にとっては、身柄確保が最優先の場合の”伝家の宝刀”であり、幹部の中には「転び公妨の名手」などという冗談とも本気ともつかない評価を与えられている人物すら存在する。

オウムの信者に「転び公妨」が使われる場面もYouTubeの「転び公妨」で見られます。森達也の記録映画『A』に収録されている映像のようです。

暴力を振るっていないのに警察官に倒された人が逆に公務執行妨害で逮捕されています。オウムの信者だから違法逮捕されても構わないと思う人もいるでしょうが、「転び公妨」は、ダム反対運動に関わる人にも使われています。

愛媛県大洲市の肱川に建設が計画されている山鳥坂(やまとさか)ダムの反対運動を巡り、2003年に「転び公妨」の手口が使われたと私は思っています(詳しくは「水と森と平和の声」というサイトを参照)。肱川流域委員会の会議に公安警察官が傍聴に来ていること自体異常です。

公安警察は戦前から恐ろしい存在であり、公安警察にねらわれたら、だれでも逮捕・勾留されてしまうということが分かります。どうしてそのような違法がまかり通るのか。裁判官は警察を信用し、警察は裁判官を信頼しているからでしょう。

●テレビは事実を報道せよ

どこのテレビ局か確認できないのですが、YouTubeで記者会見/「麻生太郎邸拝見ツアー」参加者3名不当逮捕というビデオを見ると、どこかのテレビ局が虚偽報道をしています。

テレビのアナウンスは、次のとおりです。

麻生総理の自宅を見に行こうとインターネット上で呼びかけ、東京・渋谷区の繁華街で無届けでデモ行進を行っていたグループの男3人が警察官に暴力を振るうなどして現行犯逮捕されました。(略)無届けデモを中止するようにとの警視庁の再三の警告を無視してデモ行進を行っていました。

映像にはご丁寧に「男3人無届けでデモを行い警察官に暴力をふるい取り押さえられる」、「無届けデモを中止するようにとの警視庁の再三の警告無視」というテロップまで付いています。

テレビ局は、事実を報道する姿勢が欠落していると思います。事実を報道しようとするなら、当事者や第三者から取材して、何が起きたのかをきちんと調べてから報道すべきです。調べていないのに報道するなら、少なくとも「警察はこのように発表しています。」という形で報道すべきです。警察の発表を事実として報道するのは言語道断であり、そのような報道機関は公共の電波を使う資格がないと思います。どうして日本のマスコミは、松本サリン事件における河野義行さんの事例などに学ばず、未だに警察発表を真実として報道するのか理解できません。

10月27日の朝日新聞も中身をよく読めば、「警視庁は(略)と発表した」と書いてありますが、見出しは「「首相宅」へ無届けデモ」ですから、読者には無届けデモがあったという誤解を招くと思います。なぜ首相宅にカギ括弧なのでしょうか。カギ括弧を付けるなら、「無届けデモ」の方ではないでしょうか。

1月3日に自殺したと報道された永田寿康元民主党衆議院議員は、真実に基づかずに自民党を追及したために破滅してしまいました。

田母神俊雄元航空幕僚長の問題では、組織のトップが侵略という不都合な真実から目をそらして物事を判断するという事実を露呈しました。

問題を解決する上で最も重要なことは「何が真実か」であるにもかかわらず、通信技術の発達した今日でも真実がないがしろにされていることにやり切れなさを覚えます。技術が発達したからこそ、ウソが巧妙になったのかもしれません。

とにかく警察は、民主主義の枠の中で活動している市民運動団体や労働組合を調査対象とし、監視するのをやめてほしいと思います。もっとも、労働組合の幹部の中には、公安警察は穀潰しだと言いながら、警察にマークされていることを権力に一目置かれていると勘違いしているのか、労働組合が監視されるのは当然と考えている人もいます。

チラシを郵便受けに入れても逮捕される。62億円の豪邸を見学しようと歩道を歩いていても逮捕される。そしてマスメディアは真実を伝えない。嫌な時代に逆戻りしてしまったようです。

幸い当サイトは、ダム反対鹿沼市民協議会が公安警察から監視されている を掲載してから、公安警察による直接的な監視はなくなりました。

(文責:事務局)
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