マスコミが首相に抱き込まれている

2015年1月4日

●首相とメディア幹部が会食をしまくっている

2014年12月20日付け東京新聞「こちら特報部」によると、「衆院選直後の16日夜、安倍晋三首相が全国紙やテレビキー局の解説委員らと会食した。首相は2年前の就任以来、大手メディア幹部と「夜会合」を重ねる。」といいます。

記事を引用します。

東京・西新橋の「しまだ鮨」は、表通りから一本奥まった路地に立つ数寄屋造りの一軒家である。大きな柳の木と黒塀が渋い。16日夜、安倍首相はこの老舗で、時事通信、朝日、毎日、読売、日経、NHK、日本テレビの解説・編集委員らと会食した。やり取りは一切秘密の「完全オフレコ」である。
(中略) 夜会合に出席した時事通信の田崎史郎解説委員によると、首相と親交がある記者の集まりで、2008年ごろから年2回ほど開催しているという。今年5月にもしまだ鮨に集まった。田崎氏は「会合の日程は衆院解散が決まる1カ月以上前から決まっていた。総理からお金はもらえないし世間の目もあるので、総理の食事代はわれわれが払った」と説明する。
(中略)
安倍首相の夜会合は、歴代首相と比べても盛んだ。13年1月の渡辺恒雄・読売グループ会長を皮切りに、朝日、毎日、日経、産経の全国紙や、フジテレビ、日本テレビなどのテレビキー局、共同、時事通信の社長や解説委員らと次々と会食した。さらに中日(東京)、中国、西日本などの地方紙の社長とも意見交換。首相のメディアとの夜会合は、この2年間で40回以上に上った。


●首相と会食したメディア関係者は7人

カレイドスコープというサイトの「安倍のグルメ接待で「事実を報道しない」卑しい編集委員たち」というページ及び2014年12月30日付け赤旗によると、首相と会食したメディア関係者は、次の7人です。

日本テレビ・粕谷賢之・報道局長
読売新聞・小田尚・論説委員長
朝日新聞・曽我豪・編集委員
NHK・島田敏男・解説委員
毎日新聞・山田孝男・政治部専門委員
時事通信・田崎史郎・解説委員
日本経済新聞・石川一郎・常務

カレイドスコープの「安倍首相とメディアの会食(最新版2014.8.17)」もご参照ください。

●食事代は誰が払ったのか

会食に使った高級寿司店の代金は、夜は、1人1万5千円以上はかかるそうです。

12月18日付け赤旗は、上記会食について「雨上がりの夜、寒風吹きすさぶなか、SP(要人警護の警察官)が店の周りで午後6時59分から午後9時21分まで目を光らせました。」と報じます。

赤旗記事には、「首相との会食を終えて、おみやげを持って出てきたマスメディア関係者の多くは足早にタクシーへ。」とか田崎氏が「あらかじめ座る席が決まっていた」と言ったと書かれていますので、「総理の食事代はわれわれが払った」という田崎氏の説明とちぐはぐな感じがします。田崎氏の言う「われわれが払った」とは、メディア各社が払ったのか、個人が自腹で払ったのかも不明です。

中日(東京)新聞の社長が2013年5月14日に会食した際は、「会食の話は首相側から来た。費用は中日新聞社が負担した。」(憲法メディアフォーラムの「読者の疑念招く新聞社トップと首相の会食」というページ)そうなので、個人が自腹で払ったということではなさそうです。

メディア各社の取材費から食事代を払ったとすれば、公のカネですから、おみやげの代金まで会社が払うのは、必要最小限の出費とはいえず、会社の会計倫理に違反すると思います。それとも、食事代は会社が支払い、おみやげ代は個人が別会計で支払ったとでもいうのでしょうか。

全て割り勘だとすると、「しまだ鮨」は、14枚以上の領収書を発行したことになりますが、現実的でないように思います。

メディア各社が領収書を見せてくれない限り、毎月1億円以上のペースで使われている官房機密費から支払われた可能性も否定できません。

後記のように、首相側が会食の相手を選別しているのに、また、前記のように首相側が席順まで決めているのに、首相が食事代を相手から払ってもらうのは非常に不自然です。

高級料理店に誘っておいて、食事代を相手に払わせることは世間では非常識だと思いますが、政治の世界は特別だということでしょうか。

2013年4月11日付け赤旗には、次のように書かれています。

ある大手紙記者OBは「社長から局長・部長へ、部長からデスク・キャップへと『会食作戦』はエスカレートするかもしれない」と指摘。「こうした会合は割り勘ではないだろう。ジャーナリズムの世界では『おごってもらったら、おごり返せ』とされている。安倍首相にどう、おごり返すのだろうか」と語っています。

ここでは、メディア関係者は首相からおごってもらったという前提で書かれています。

食事代を誰が払ったのかについて異なる情報があり、真相がさっぱり分かりません。

●夜会食は日本だけか

首相とメディアの会食は、世界中どこでも行われているのかというと、「政治の最高権力者が何の政治的意図も持たずに接触を求めるはずはありません。欧米では、メディア経営者は現職の政権トップとの接触を控えるのが不文律です。」(2013年4月11日付け赤旗)という解説がある一方で、「元時事通信記者で政治評論家の屋山太郎氏は「外国でも、大統領が親しい記者と食事をするのは普通のこと」と肯定する。」(2014年12月20日付け東京)との解説もあり、この点でも真相は不明です。

ただ、一口に首相とメディア関係者との会食といっても、現場記者が取材の一環として行う会食とメディアのトップや幹部クラスが出る会食では意味が違うような気がしますので、この点を混同すると議論がかみ合いません。

●幹部が首相と会食するメディアを信じられるか

確かなことは、首相とマスメディアの幹部が会食しており、何を話しているのかが国民に知らされることはないということです。

東京新聞によると、メディアは「(会合に参加しても)政権批判の筆が鈍ることはない」(毎日新聞社社長室)などと言いますが、信用する読者がいるのでしょうか。

メディアの感覚は、庶民の感覚とはずれていると思います。

幹部が首相と会食している日本のメディアの記事は八百長だと考えざるを得ません。

国民は、だまされるために新聞購読料やNHK受信料を支払っていると言ってもよいと思います。

民間放送は無料なので、だまされても文句は言えないという考え方もあるかもしれませんが、民放各社は、諸外国に比べ格段に安い電波利用料で公共の電波を利用している以上、政治権力と手を握り公共性を置き去りにすることは許されないはずです。

「不偏不党、公平公正の観点から取材、報道している」(NHK広報局。上記東京新聞記事から)と言うなら、李下に冠を正さずで、幹部が首相と会食しなければよいと思います。

国土交通省の職員がゼネコンの従業員と会食やゴルフをしていて、「入札業務に影響はない」と言ったら、マスメディアはどう報道するのでしょうか。

警察官がヤクザと会食やゴルフをしていて、「情報を収集しているだけだ」と言ったら、マスメディアはどう報道するのでしょうか。

●会食はどんなタイミングで行われるのか

2014年12月30日付け赤旗によると、「安倍晋三首相とメディア幹部との会食で目につくのは、政局の節目節目に首相が近しい記者との会食を行っている」とのことです。

上記7人のメンバーとは、「首相との定期的な会食を重ねています。秘密保護法強行の直後(13年12月16日)、集団的自衛権の検討表明の日(14年5月15日)にも会食しています。靖国神社参拝や消費税増税強行の直後には、報道各社の政治部長らが首相と懇談・会食をしています。」。

「首相の側は政局の節目に自分の考えをメディアに伝えようとしているのは明白です。」(上記30日付け赤旗記事)。

●「政権べったりの社を選別」

上記2014年12月30日付け赤旗記事は、首相は、「政権べったりの社を選別」していると言います。

この2年間で見ると、「突出しているのが、「読売」の渡辺恒雄会長の8回、フジテレビの日枝久会長の7回。それにつづくのが、「産経」の清原武彦会長の4回、日本テレビの大久保良男社長の4回などです。」と書かれています。

ただし、2013年中には産経の幹部が首相と会食する回数が2回しかないことを根拠に「産経の接待が殆どないのは事実上の自民機関誌だから調略の必要性がないのだろう。」(日本のメディアは権力中枢と距離を置け)という見方もあります。

●ジャーナリストが首相と会食してよいのか

立教大学名誉教授の門奈直樹氏によると、「英紙タイムズの往年の名編集長ハロルド・エバンス氏は、「首相と会食することはジャーナリストとして絶対に避けなければならない」と述べ、報道の独立性を強調して」(上記30日付け赤旗記事)いるそうです。

しかし、考えてみれば、首相と会食するメディア幹部は、ジャーナリストとしての気概などさらさら持ち合わせず、メディアも一営利企業にすぎないと考えているのでしょうから、「首相と会食することはジャーナリストとして絶対に避けなければならない」という格言は、彼らにとって何の意味もないことになります。

●「政治の中身が分からない」なら分からなくてもよい

門奈氏によると、「ジャーナリストの中には、「政治権力の懐に入らないと政治の中身がわからない」と言う人もいます。」。

「政治権力の懐に入らないと政治の中身がわからない」としたら、「政治の中身」など分からないままで結構だと思います。

政治権力と癒着したメディアが有害な情報を流す、あるいは流すべき情報を流さないよりはましです。

田崎史郎氏は、「「総理の話を直接聞くことは政治報道に役立つ。取材するには相手方を知ることが大事。ぼくは総理に限らず、どの政治家にもおかしいことはおかしいと言う」と明言した。」(2014年12月20日付け東京)そうです。

つまり、「政治報道に役立つ」から首相と会食するというわけです。

田崎氏がそのように言うのは自由ですが、世間は信用するでしょうか。

田崎氏は、「目的は手段を正当化する」と言いたいのかもしれませんが、警察や検察が犯人を処罰するためには拷問をやってもいいと言っているようなものです。「政治報道に役立つ」なら何をやっても許されるというものでもないでしょう。

●メディアの狙いは新聞購読料に対する消費税の軽減税率適用か

門奈氏は、「メディアには消費税の軽減税率を導入させたいという狙いがある。」と言います。

ジャーナリストの斎藤貴男氏は、「メディアにしてみれば、広告収入が激減し、体制にたてつくようなことを書くと広告主がますます離れていくという心配もあるし、権力に取り入って消費税の軽減税率を適用してもらいたいという思惑もあると思います。」(上記赤旗記事)と言います。

メディアには、新聞購読料について消費税の軽減税率を適用してもらいたいという狙いがあり、それが弱みであることは確実だと思います。

●首相がメディアを会食に誘う理由は何か

首相がメディアを会食に誘う理由について、屋山太郎氏は、「マスコミが権力を監視するのは構わないが、偏向は許せないとの思いがあるため、まず自分のやりたい政策を理解してもらいたい。だから、分かってもらえる記者だけを呼んで話をする」(12月20日付け東京)と説明します。

しかし、そんなことが理由なら、完全オフレコにする必要はないと思います。

●メディアは今後どうなるのか

幹部が首相と会食を重ねるメディアは今後どうなってしまうのかというと、政府に批判的なコメンテーターを番組から排除する、政策の失敗や放射能の危険性を報道しないという報道姿勢をとることが考えられないでしょうか。

●メディアにジャーナリズムを期待するには

メディアにジャーナリズムを期待するにはどうしたらよいかについては、新聞については購読者が新聞を選別するしかないと思います。

しかし、多くの購読者は、新聞の中身を見て契約するのではなく、販売員が景品の合成洗剤などをどれだけ多く持ってくるかという基準で契約してしまうので、ジャーナリズムとは無縁の新聞が淘汰されることは今後しばらくはないと思います。

暗い結論になってしまいますが、民度が政治家やメディアの程度を決めるのですから、打つ手なしです。

●東京新聞よ、お前もか

前掲の憲法メディアフォーラムというサイトの「読者の疑念招く新聞社トップと首相の会食」というページによると、「安倍首相が、東京新聞を発行する中日新聞社の小出社長と会食した。このことが東京新聞労働組合の機関紙で取り上げられている。」ようです。

「新聞労連・東京新聞労組ニュース『推進』No.44」(6月26日付け)によると、2013年5月14日、東京新聞を発行する中日新聞社の小出宣昭社長と長谷川幸洋論説副主幹が、「西麻布のフランス料理店「彩季(さいき)」で安倍首相と2時間ほど会食したことが、翌日の新聞各紙「首相動静」「首相の一日」欄で報じられていました。

ちなみに、この「彩季」という店は、インターネットで検索すると「完全個室のフレンチレストラン」「隠れ家レストラン」などと紹介されています。

この会食についての中日新聞社側の説明は次のとおりです。

■会社(片田労担代理)の説明要旨
会食の話は首相側から来た。費用は中日新聞社が負担した。会食したのは3人。小出社長、長谷川論説副主幹、安倍首相だけだ。
10年ぐらい前に名古屋で会っているが、ほとんど知らない人だから1回話を聞きたいと。話の詳しい中身は特にない。飯を食いながら人生論を戦わせたと聞いている。懇談したと。報道するに値するような話はなかった。

批判すべき対象と絶対に会食してはいけない、ということではない。機会があれば行ってもいいのでは。たとえば支局長が地元の知事や市長と懇親することもある。それでジャーナリズムが崩れるとは思わない。
(社長と首相の会食が)どう思われるかも含めて「今回はまずかった」とは思わない。各社みんなやってるみたいだし、紙面は(会食後も)変わっていない。

長谷川論説副主幹が会食の相手として選別された理由は、テレビやラジオによく出演しており、影響力が大きいこと、「2005年から08年まで財政制度等審議会臨時委員、06年から09年までは政府税制調査会委員も務めた。」(長谷川幸洋著「政府はこうして国民を騙す」講談社、2013年)し、第2次安倍内閣では「規制改革会議」の委員だったことから分かるように、考え方が自民党の政策と親和性があることだと思いますが、端的に言えば、第1次安倍内閣のときから安倍首相に信頼されていることでしょう。

長谷川幸洋著「官僚との死闘七〇〇日」(講談社、2008年)の紹介文には、次のように書かれています。

著者は「財政タカ派」を捨て去り、あるきっかけから出会った安倍晋三側近に依頼されて、高橋洋一とともに安倍政権成立前から安倍を支える極秘チームを結成します。極秘チームは年金改革、税制改革、道路特定財源の一般財源化、公務員制度改革といった一連の重要政策メニューを安倍総理と改革派政治家に提案し、それに反対する官僚たちと「改革バトル」の死闘を繰り広げていきます。

長谷川氏は、「安倍を支える極秘チーム」の一員なのです。

長谷川氏は、「2006年から07年にかけて第1次安倍政権が目指したのは、まさに官僚とのバトルに打ち勝って正しい政策を断行する政治だった」(現代ビジネスの「なぜ記者はこうも間違うのか!? 消費増税見送り解散&総選挙には大義がある」というページ)と言います。

「消費増税見送り解散&総選挙には大義がある」と主張する長谷川論説副主幹は、皮肉なことに、「政治記者も経済記者も同じ「ポチ取材」ばかりしているからだ、と思うようになった。取材相手に取り入ることばかりに熱心で、自分の頭で経済の実態やあるべき政策の姿、あるいは政治の正統性といった問題について考えていない。だから間違えるし、政局の本質が読めないのである。」(現代ビジネスの「なぜ記者はこうも間違うのか!? 消費増税見送り解散&総選挙には大義がある」というページ)と記者たちを批判しています。

「話の詳しい中身は特にない。飯を食いながら人生論を戦わせたと聞いている。」という会社側の説明にも説得力がありません。

首相というものは、マスコミ関係者と2時間もかけて人生論を闘わすほど暇な商売なのでしょうか。

そもそも会食でのやり取りは完全オフレコ(12月20日付け東京)のはずなのに、中日新聞社だけはオフレコではないのも不可解です。

会食の代金は購読料から支払われるというのに、社長らと首相が報道に値しないような人生論を闘わせただけというのでは、購読者はたまりません。

「各社みんなやってるみたいだし」といういい訳も子供染みています。

「自分の頭で経済の実態やあるべき政策の姿、あるいは政治の正統性といった問題について考えていない。」と他人を批判する長谷川論説副主幹が自分の頭で考えることもせず、「みんなで渡れば怖くない」と言ったとすれば、矛盾しています。

「紙面は(会食後も)変わっていない。」という弁明も信用できません。

中日(東京)新聞が政権に都合の悪い事実の報道を控えたとしても、読者は気づきようがありません。要するに、「紙面は(会食後も)変わっていない。」ことの証拠がありません。

地方紙は別にして、最もまともと目されている中日・東京新聞でさえ、トップが首相と手を握っているとなると、国民はどの新聞を購読すればよいのか分からなくなります。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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