想定問答集が発見された(黒川検事長勤務延長問題)

2020-02-26

●やっと文理解釈が議論されるようになったと思ったら

これまでの国会審議で国家公務員法の規定の文理解釈に関する議論がなされてこなかったことを私は嘆いてきましたが、2月25日11:30からの後藤祐一議員の質問は、文理解釈が成り立つのかという質問でした。 20200225衆議院予算委員会第三分科会(国会中継)

しかし、質疑は、私が期待した展開とはなりませんでした。

●想定問答集で立法者意思は明らか

後藤は、文理解釈の質問の前に、1980年10 月に内閣府人事局が作成した国会審議対策としての想定問答集を基に質問しました。

2020年2月24日付け毎日記事を引用します。

「勤務延長、検察官は除外」 1980年の文書が見つかる 検事長定年延長
毎日新聞 2020年2月24日 19時46分(最終更新 2月24日 23時16分)
阿修羅でのU R Lは下記のとおり。
http://www.asyura2.com/20/senkyo269/msg/899.html

東京高検の黒川弘務検事長の定年を国家公務員法(国公法)に基づいて延長した問題で、国公法改正案が国会で審議されていた1980年当時に総理府人事局が「(検察官の)勤務延長は除外される」と明記した文書が国立公文書館で発見された。立憲民主党などの統一会派に属する小西洋之参院議員(無所属)が見つけた。

80年10月、内閣法制局まとめた「想定問答集」に

文書は、内閣法制局がまとめた法律案審議録にとじて保管されている「国家公務員法の一部を改正する法律案(定年制度)想定問答集」と題された80年10月のもの。

文書では「検察官、大学の教員については、年齢についてのみ特例を認めたのか。それとも全く今回の定年制度からはずしたのか」という問いに、「定年、特例定年、勤務の延長及び再任用の適用は除外されることとなるが、第81条の5の定年に関する事務の調整等の規定は、検察官、大学の教員についても適用されることとなる」としている。
国公法の定年制を巡っては、人事院は81年の衆院内閣委員会で「検察官は(検察庁法で)既に定年が定められており、今回の定年制は適用されない」と答弁していた。これに関し、森雅子法相は20日の衆院予算委員会で「立法者の意思が議事録では、必ずしもつまびらかではない」と指摘した上で、「検察庁法の所管省庁として法務省が今般、(適用できると)解釈した」と説明した。

小西氏は、取材に「政府の説明を根底から覆すものだ。今回のは『解釈変更』ではなく、『解釈捏造(ねつぞう)』だ」と述べた。【野原大輔】

「定年、特例定年、勤務の延長及び再任用の適用は除外されることとなる」と書かれていたのですから、立法者の意思は明らかです。

なお、「第81条の5」とあるのは、現在の条文では第81条の6のことです。

●森は答弁を撤回せよ

上記記事では、森の答弁が「立法者の意思が議事録では、必ずしもつまびらかではない」とされていますが、正確には、「解釈をする中で、当時のですね、いろいろなまあ議事録や様々なものも検討したわけでございますが、必ずしもダイレクトに記載してあるものがございません。」(32:10)と言っています。

また、「当時は、立法者の意思が議事録等では必ずしもダイレクトに詳らかではないんでございます」(39:32)とも言いました。議事録以外も検討したと言っていました。 国会中継 2020年2月20日 衆議院予算委員会

想定問答集はダイレクトに詳らかなので、後藤は、上記答弁の撤回を求めました。

しかし、森は撤回しません。

その理由は、最初は、議事録には明記されていないからだと言いましたが、後藤から、森は「議事録等」と言っており、想定問答集も承知している旨の答弁があったと指摘されると、想定問答集では、結論を得るに至った経過や過程や理由が明らかでないからだと言います。

詰んでいても負けたとは言わないのが安倍の流儀ですから、子分の森がまいりましたと言うはずがありません。

想定問答集に理由が書いてなかったとしても、勤務延長は検察官には適用除外だという結論は明記されているのですから、立法者意思は明らかであり、この解釈をみだりに変更することはできないはずです。

森は答弁を撤回すべきです。

●森の論理は破綻した

前回記事の再掲ですが、森は2月20日に次のように答弁しています。

当時の議事録の中に法制度が羅列してあるところのご指摘だと思いますけれども、それを全てパッケージとして検察官に定年制の適用がないというふうに、これまた別の5日前の議事録でございますが、そちらから読み込んだということをご指摘を受けましたので、それに対する答弁として、それをもしパッケージであるとするならば、(藤野保史議員の「なんで根拠になる」の声)今それをご説明しているんですけれども、それがもし定年制という意味がですね、それが全てを指すということであれば、内閣総理大臣の総合調整機能がですね、検察官に及んでいるということの説明がつきません

【暫定字幕表示】藤野保史(日本共産党)VS森まさこ法務大臣「巨悪を眠らせるな、被害者と共に泣け、国民に嘘をつくな」2020年2月20日衆議院予算委員会31:18

つまり、山尾が国家公務員法による定年制はパッケージで検察官には適用除外になっている、だから勤務延長だけ適用されるという解釈はあり得ない、と言ったことの揚げ足を取って、内閣総理大臣の総合調整機能が検察官に及んでいると昔から解釈されていたから、パッケージで検察官には適用除外とする山尾の解釈は誤りだ、というのが森の理論の支柱です。

今回、想定問答集が出てきたことで、確かに、山尾が全ての項目をワンパッケージとして適用の是非を論じるべきであるという立場なら、その説は当時の政府の解釈ではなかったことになり、森のいうツーパッケージズ説が正しいことが判明しましたが、森の発言が正しいのはそこまでです。

想定問答集では、「定年、特例定年、勤務の延長及び再任用」までをワンパッケージとして検察官には適用除外と言っているのですから、結論としては検察官に勤務延長は適用されないとする山尾の解釈が正しいことになります。

●後藤議員の目の付け所

後藤議員は、政府の解釈が文理解釈として無理があることに気づいたようです。

それはいいのですが、後藤議員の目の付け所は、勤務延長の起算日となる「定年退職日」でした。

勤務延長を定める国家公務員法第81条の3第1項は、次のとおりです。

任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。

勤務延長を認める要件は、「定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」かどうか、「その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるとき」かどうか、の2点ですが、後藤議員は、要件には興味がないらしく、要件の問題はさておいて、効果に書かれている期間延長の起算日に目を付けて、検察官については、国家公務員法に基づいて退職するものでない以上、「定年退職日」(運用として一律に3月31日)の概念が検察官には存在せず、そうであれば、起算日が特定されないではないか、起算日が特定されなければ、延長のしようがないから、勤務延長の検察官への適用は不可能だ、という議論に持ち込みました。

分りにくいと思います。

「定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」かどうかという要件の問題を丁寧に議論してほしかったと思います。

(文責:事務局)
フロントページへ>その他の話題へ>このページのTopへ