もり・かけ問題は勝負あった

2017-08-10

●首相が証人喚問を指示することは可能

安倍晋三首相が2017年7月24日、25日両日の衆参予算委員会で、学校法人加計学園の加計孝太郎理事長らの証人喚問を求められたのに対し、「国会が決めること」として応じなかったことについて、東京新聞が「証人喚問 首相は指示可能」(2017年7月27日付け)という記事を載せています。「名古屋大学大学院・後房雄教授に聞く」、「加計問題/自民総裁使い分け 意味ない」の副題です。

「国会のことは国会が決める」と言われると、三権分立だから仕方ないのかなと思ってしまいますが、三権分立は日本の議員内閣制には当てはまらないそうです。

後(うしろ)教授は、自民党の総裁イコール首相である以上、証人喚問をやるべきだと自分が考えるなら、少なくとも自民党総裁として「証人喚問の場を設定することに賛成するよう、自民党に指示を出します」と言えるはずだと言います。

「首相が与党党首として発言するのは、議院内閣制ではおかしくない。」と言います。

確かに、誰かの証人喚問を委員会が認めるかどうかは、委員会の理事会で決めるわけですが、理事会の過半数は与党委員が占めており、与党委員は党首の指示で動いているわけですから、実態としては、首相が証人喚問を決めているということは、公知の事実と言えるでしょう。

7月10日に両院の閉会中審査が開かれたのも、首相の意向で決まったことです。

それなのに、普段「私は立法府の長であります」と言っている安倍首相が「証人喚問については国会がお決めになることです。」と答弁すると、野党が引き下がってしまうのは、国会議員が議院内閣制と三権分立を理解していないから、ということになると思います。

ちなみに、菅官房長官は2017年8月1日の記者会見で「野党側が求める安倍晋三首相夫人の昭恵夫人の喚問を与党側が拒否していることについては「夫人は、そうしたことはしていないと明確に発言している」と語り、必要ないとの認識を示しました。」(8月2日付け赤旗)。明言はしてませんが、「必要ない」と言っちゃってます。(ちなみに、本人が「そうしたことはしていない」と明確に発言したら証人喚問を行わないとしたら、議院の国政調査権は無意味になるのであり、菅氏の発言は証人喚問を拒否する理由になっていません。昭恵夫人が正しいことを言っているかどうかは、存在する行政文書を「怪文書のようなもの」と言う程度の判断能力しかない菅氏に分かるはずがありません。)

首相の「証人喚問は国会で決めること」という発言と矛盾します。

結局、議院内閣制においては首相と党首の使い分けは無意味であるという後教授の説は正しいと思います。

●官邸訪問記録の保存ルールを明らかにせよ

愛媛県今治市が国家戦略特区の提案をする2か月前の2015年4月2日に今治市職員が首相官邸を訪問したことは、同市が2016年に開示した文書から明らかです。

しかし、今治市職員が首相官邸で誰と面会したのかは不明です。

今治市は、その部分を黒塗りで非開示としており、政府側は、次のように国会答弁をしているからです。

BuzzFeed Newsというサイトの【加計学園】今治市職員が決定前に官邸などを訪問? 政府は「確認できない」の一点張りで議論紛糾

6月8日、参議院農林水産委員会で森議員の質問に答えた萩生田光一官房副長官は「訪問者の記録が保存されていないために確認できない」と応じた。
一方、内閣府の藤原豊審議官も、同様に「訪問があったのか、誰が対応したのか、訪問者の記録もなく、確認できておりません」と答えた。

7月10日の参院・文教科学・内閣連合審査会においても、森裕子氏が「参議院議員会館でも訪問者の記録は3年間保存している。なぜすぐ破棄するのか。(今治市職員は)一体誰と会ったのか」と迫っても、菅義偉官房長官は「それは今治市に聞かれたらいかがでしょうか」と答弁しています。

東京新聞は「国会閉会後の6月21日、獣医学部設置に関し、内閣府との協議で出張した記録などを市に情報公開請求。市は今月5日付で、該当する文書41件のうち、この9件を全面非開示とした。」(2017年7月15日付け東京新聞)と報じます。

「市は非開示の理由について、「国家戦略特区の事業を進める上で、率直な意見交換が不当に害される」「国家戦略特区の事業は、関係機関との綿密な協議・調整があって執行できるものなので、事業の方針決定至る途中段階にある情報を公開することで、関係機関の協力や信頼関係を著しく失う恐れがある」などとしている。」(同上)そうです。

根拠条文は、おそらく今治市情報公開条例第7条第5号及び第8号だと思われます。

(公文書の開示義務)
第7条 実施機関は、開示請求があったときは、開示請求に係る公文書に次の各号のいずれかに掲げる情報(以下「非開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該公文書の開示をしなければならない。

(5) 実施機関内部若しくは相互間又は国等(国、独立行政法人等、他の地方公共団体及び地方独立行政法人等をいう。以下同じ。)の機関との間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え、若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの

(8) 実施機関と国等との間における照会、回答、依頼、委任、協議等に基づいて作成し、又は取得した情報であって、公にすることにより、国等との協力関係又は信頼関係を損なうおそれがあるもの

要するに、今治市は、国との率直な意見の交換が不当に損なわれるおそれや信頼関係を損なうおそれがあるから、職員が首相官邸で誰と会ったのかについて情報公開をしないと言っています。国に無断では開示できないということだと思います。

「安倍晋三首相は通常国会閉会を受けた19日の記者会見で、学校法人加計学園の問題が不信を招いたことを認め「丁寧に説明する努力を積み重ねたい」と述べた。」(2017年6月22日付け毎日新聞)のです。

しかし、今治市職員の首相官邸訪問については、丁寧に説明しようにも、首相官邸では記録を廃棄してしまったり、事務次官候補と言われる優秀なはずの国家公務員が記憶喪失症にかかったのか、記憶が消えてしまい、答えようがないというのが政府の態度です。(ちなみに、「官邸にも記録がないというのは、日ごろテロ対策を声高に叫ぶ政府とは思えないお粗末ぶりです。」(7月27日付け赤旗)。また、「(7月)24日の閉会中審査で、民進党の今井雅人議員が、訪問相手は当時、首相秘書官だった柳瀬唯夫審議官だと明らかにした。」(日刊ゲンダイ「“記憶ない”7連発で次官昇格の目 柳瀬審議官の素性と評判」)。簗瀬氏の目が泳いでいました。)

答えようはあります。「政府が同市(今治市)に問い合わせれば面会相手も突き止めることが可能なはずです。」(7月27日付け赤旗)。

この点について今治市が情報を開示しない理由は、国との意見交換と信頼関係が損なわれるおそれがあることですから、政府に対しては開示を拒否する理由は成り立ちません。

首相が「丁寧な説明」と言いながら、官房長官が「それは今治市に聞かれたらいかがでしょうか」と突き放すのは閣内不一致です。官房長官が首相の命令に背いていることになります。

●加計学園事務局長と簗瀬唯夫・首相秘書官は2015年に会っていた

2017年8月10日付け朝日新聞は、次のように報じています。

学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設をめぐり、愛媛県と同県今治市の担当者が2015年4月、協議のため首相官邸を訪れた際、加計学園事務局長が同行していたことがわかった。また、面会の経緯を知る関係者は、官邸で対応したのが当時の柳瀬唯夫・首相秘書官(現・経済産業審議官)だったと朝日新聞に認めた。

この面会は、愛媛県と今治市が獣医学部新設を国家戦略特区に正式に提案する2カ月前にあたるが、その時期に、県、市だけでなく事業主体の加計学園が首相に極めて近い立場の首相秘書官と会っていたことになる。安倍晋三首相は国会で、県、市の特区申請は知っていたが、加計学園の獣医学部計画を知ったのは今年1月20日だったと答えた。だが、その約1年9カ月前、首相秘書官の柳瀬氏が県、市の計画が加計学園と一体であることを認識していた可能性がある。

簗瀬氏は、動かぬ証拠を突きつけられれば、「記憶が戻ってきた」と言い訳をするのでしょうが、そんな猿芝居を国民は許してはいけないと思います。

首相はどんな言い訳をするのでしょうか。「簗瀬氏から報告はなかった」でしょうか。

●首相官邸の訪問記録のルールを解明すべき

この問題でもう一つ言いたいのは、首相官邸への訪問記録がどのようなルールによって廃棄されたのかを野党やマスコミは追及してほしいということです。

森裕子参議院議員は、7月26日のゴゴスマ(TBS系テレビ)で「平成27年4月2日首相官邸で、今治市の職員二人は一体誰と会ったのか、これは官邸に記録が残っているはずです。

実は昨日、質問しようと思って出来なかったんですけど、紙はもう、廃棄して無い、と言うふうに答弁してるんですけども、全部、すぐさま、その場で電子データになってますので、それを破棄したって言うのは、ちょっとあまりにもおかしすぎますから、記録は残ってるはずですので、そういうものを全部出していただければ真相が解明できると思います。」と言っています(阿修羅のゴゴスマ 7/26 東国原 英夫 自由党 森 ゆうこ 加計問題を斬る!)。

首相官邸の訪問者カードが電子データになっていることが分かっているなら、「記録が破棄されているので確認できない」という答弁は虚偽になりますから、特にマスコミには、訪問者カードの取扱いについてのルールと実態を調査して明らかにしてほしいと思います。

野党も「首相官邸のセキュリティは一体どうなってるんですか」と嘆いただけで終わっては、きちんと仕事していることにならないと思います。国民のために真相を明らかにする努力をすべきです。

今のところマスコミは首相官邸の訪問者記録について詳しく報道していないので、関心がないのだと思います。

今治市職員の官邸訪問問題を曖昧なままで終わらせないでほしいと思います。追及や調査の仕方で、進展が可能だと思います。

●ウソとすり替えだらけのもり・かけ問題

森友学園問題と加計学園問題でも、ダム問題と同様、ウソとすり替えだらけだと思います。

加計学園問題の本質は、首相の「腹心の友」が経営する大学に対して国がえこひいきをしたのではないかということです。公平であるべき行政が歪められたのではないか、国政が私物化されたのではないかということです。

安倍首相は、「岩盤規制にドリルで穴を開けただけだ」と居直りますが、論点のすり替えです。

安倍首相は先般の閉会中審査において「私と加計さんの間において、お互いの立場を利用して何かを成し遂げようとしたことはただの一度もない」と言いましたが、「(8月3日)発売の「週刊文春」(文藝春秋)が、2009年の総選挙で、加計学園が安倍晋三氏の選挙のために、職員に“出張命令”を出して選挙活動に動員していたと報じたのだ。」(リテラの「安倍首相と加計学園“癒着”の決定的証拠! 加計が職員を安倍の選挙に動員していた事実を文春がスクープ」)というのです。

それが事実なら、安倍首相は加計氏に借りがあるのであり、いつかお返しをしてもおかしくない立場にあります。安倍首相は、ゴルフや食事で加計理事長からおごってもらったことを認めていますから、お返しをする機会をうかがっていたはずです。

安倍首相は、自分から頼んだ証拠はないと言うでしょうが、結果的には、加計氏が大学の理事長を務めているという立場を利用して職員を選挙事務所に派遣させ、選挙に勝とうとしたのですから、「私と加計さんの間において、お互いの立場を利用して何かを成し遂げようとしたことはただの一度もない」はウソだということになります。

森友学園問題でも、問題の本質は、首相夫人が名誉園長を務める学校法人に国有地が8億円以上も値引きされて売られたことの違法性です。

この問題も、籠池理事長夫妻による補助金詐欺問題にすり替えられてようとしています。(ちなみに、郷原信郎は、「補助金適正化法違反」を「詐欺罪」の事実に構成することは誤りであるという説には説得力があります(「郷原信郎が斬る」の検察はなぜ”常識外れの籠池夫妻逮捕”に至ったのか)。)

「この問題で、財務省の佐川宣寿・理財局長(当時)は3月15日の衆院財務金融委員会で、「価格を提示したことも、先方からいくらで買いたいと希望があったこともない」と答弁していたが、虚偽だった疑いが浮上。」(佐川国税庁長官に森友“虚偽答弁”疑惑 市民団体が罷免活動(日刊ゲンダイ))しています。

近畿財務局と籠池理事長が価格交渉をする音声データをFNNが入手したと報じているというのです。

●勝負あった

政府のやっていることは、ウソをつく、問題をすり替える、情報は出さない、記録を廃棄する、ということですから、政権を担当する資格はないと言うべきです。

首相や官房長官は、一点の曇りもない、とか、行政が歪められたことはない、と言いますが、なぜそう言えるのかについては、記録もなければ、記憶もない(自分に都合のよい事実を除いては)というのですから、話になりません。国民は首相の言うことを信じなさいというようなものですから、政府は宗教の世界で議論しています。

根本には文書管理や官僚人事の問題もありますから、この際、徹底的に追及すべきですが、それはそれとして、安倍政権に資格がないことは十分に判断できますから、国民が退場を命ずるべきです。国政選挙の機会は当分ありませんが。

信用できないマスコミの世論調査でも、最近は内閣支持率が落ちたので、国民もまともになったかと思いましたが、8月3日に内閣改造をすると、支持率が盛り返すのですから、一部の国民はどうかしています。

やっぱり、一番悪いのは国民です。

(文責:事務局)
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