女川原子力発電所が無事だったのは技術の成果ではない

2013年4月8日

●櫻井よしこ氏が女川原発を称讃

ジャーナリストであるとされる櫻井よしこ氏が理事長を務める公益財団法人国家基本問題研究所が2011年10月から11月にかけて、「選ぶべき道は脱原発ではありません」と題する次のような意見広告を朝日新聞、読売新聞、産経新聞、日本経済新聞、月刊Will、月刊正論に載せました。

原発事故で大きな岐路に立つ日本。

事故は二つのことを教えてくれました。事故が原発管理の杜撰さによる人災だったこと、震源地により近かった東北電力女川原発が生き残ったように、日本の原発技術は優秀だったこと、この二点です。だからこそ、人災を引き起こした「管理」の問題と、震災・津波に耐えた「技術」の成果を明確に分離して考えることが重要です。

エネルギーの安定供給は社会と経済の基盤です。いま日本がなすべきは、事故を招いた構造的原因を徹底的に究明し、より安全性を向上させた上で原発を維持することです。選ぶべき道は脱原発ではありません。

この意見は国家基本問題研究所の意見ですが、櫻井氏の意見でもあります。

「通販生活」のホームページの「原発輸出」は是か非か。というページにも櫻井氏の同様の見解が書かれていますので、上記の同研究所の見解は、櫻井氏の意見そのものと言えます。

櫻井氏は、「東北電力女川原発が生き残った」のは「日本の原発技術は優秀だった」からだと言っていますが、実態は違うと思います。

●女川原発は運が良かっただけ

2011年5月15日付け赤旗には、次のように書かれています。

女川原発 共産党国会議員団が調査

津波で浸水の原発建屋など
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-05-15/2011051501_03_1.html

同原発の1〜3号機は3月11日の本震後、外部電源5系統のうち4系統が遮断され、残った1系統で原子炉を冷却。4月7日の余震でも4系統のうち3系統が遮断されました。

渡部所長らによると、「高さ約13メートル」の津波による被害は施設内建物や重油タンクだけでなく、2号機の原子炉建屋地下3階に海水が流入し、約2・5メートルまで浸水しました。約1500立方メートルに達したといいます。

発電機などを冷却する「熱交換器」が海水につかったため、非常用ディーゼル発電機2機が使用できなくなり、原子炉冷却ができなくなる一歩手前にまでなりました。

2013年3月9日付け赤旗記事「女川原発も紙一重だった」には、「東日本大震災のとき、女川原発は外部電源5系統のうち4系統が失われ、火災も起きました。原発建屋の敷地高13.8メートルのところに13メートルの津波が押し寄せていたことも分かりました。」と書かれています。

2012年7月3日付け読売新聞には、次のように書かれています。

わずか80センチ 明暗分ける

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/miyagi/feature/tohoku1341505776930_02/news/20120706-OYT8T00181.htm

ただ、想定外の事態も起きていた。原子炉を冷温停止するために必要な電気を外部から送り込む電源5系統のうち、4系統が破損した。地震から43分後に到達した津波は、海水を取り込む水路を通じて2号機建屋の地下3階に流れ込んだ。そこには、外部電源が喪失した場合に備え、非常用ディーゼル発電機につながるポンプが3系統あり、うち2系統が使えなくなった。

辛うじて外部電源と非常用電源が一つずつ残ったことが、冷温停止の命綱になり、福島と明暗を分けた。

要するに、大震災当時、女川原発では、外部電源5系統のうち4系統が破損し、非常用ディーゼル発電機につながるポンプ3系統のうち2系統が使えなくなっていたというのです。

「東北電力女川原発が生き残った」のは、「日本の原発技術は優秀だった」から、あるいは、「震災・津波に耐えた「技術」の成果」ではなく、単に運が良かったからだったとしか私には思えません。

核発電の推進を使命とする読売新聞がこのように事実を書かざるを得なかったのです。

2011年5月には、赤旗が女川原発も紙一重で過酷事故になっていたことを明らかにしていました。

櫻井氏がこの事実を知らずに「優秀な技術」と書いたとしたら、判断の根拠が誤っていたことになります。

●東海第二原発も危なかった

農と島のありんくりんというサイトには日本原子力発電株式会社の東海第二原子力発電所について次のように書かれています。

3月11日、茨城県東海村ではこのようなことが起きていました。
2時46分の第1波に続き、3時15分に第2波が茨城県沖で発生したために、たてつづけに2ツの巨人のゲンコツが降り下ろされました。
結果、原子炉は緊急停止したものの、外部電源の3ツがすべて切断しました。外部電源の遮断、まさに福島第1で起きた悪夢の事態が茨城でも起きていたのです。
かろうじて非常用電源3台が稼働したものの、海水取水ポンプのうち1台が故障して起動できず、使用可能は2台のみ。
しかも福島第1を襲った巨大津波ではなく、たかだかといっては語弊がありますが、5m前後の津波で、一台が壊れたというわけです。
なんという脆弱性!6つの電源のうち、主電源3つともが全滅、3つある予備電源も2つしか生き残らなかったとすれば、なんと電源の生存率3割だったわけです。
しかも予備電源ポンプがもうひとつ破壊されていたら、おそらくは充分な冷却水の供給は不可能だったことでしょう。そうなったら・・・、福島第1とまったく同じシナリオが始まったはずです。
下に東海村の首長のアンケートがありますのでご覧ください。津波は防潮堤のわずか40cm下まで迫っていたのです。もう少し津波が高ければ、東北各県を襲ったクラスの大津波だったのならば、東海第2は間違いなく福島第1と同じ結果をたどったと思われます。

「通販生活」(2012年秋冬号)p72以下には、落合恵子氏と茨城県東海村村長の村上達也氏の対談記事が掲載されています。

村上村長は次のように言います。

震災から約2週間後にその危機的な状況について聞いたのですが、ゾッとして凍りつく感じでした。福島原発のことは心配していましたが、東海第2原発は児童停止したから問題ない、津波もそう高いのは来ていないと思っておったんです。ところが第2原発への東電からの送電はストップし、3月11日の午後11時過ぎには、非常用電源装置3台のうち1台がダウンしていた。水を炉心に送る緊急冷却系のパイプがあるのですが、電気不足で半分しか動かせない状況でした。170回も圧力逃し弁操作をして、3日半かけて冷却しました。冷温停止前に外部電源の一部が復旧したので安定したわけですが、もう少しで福島と同じ事態に陥っていたわけです。
非常用電源装置3台のうち2台が使用できたのは、津波の被害に遭わなかったからですが、その装置を守った防潮壁をつくり始めたのが3.11の1年半ぐらい前で、完成したのは3月9日でした。 (震災の2日前に完成したのは)天佑でした。今回の震災では、東海第2原発以外にも天佑はいっぱいあるんでしょうね。福島第1原発の4号機の燃料プールがメルトダウンしないで済んだのは、工事の不手際で4号機の炉心上に水があり、それが流れ込んだからでした。その水も4日前にはなかったはずだと。あれこそ天佑です。
● 福島第二原発も危なかった

2012年2月9日付けJcastニュースによれば、福島第二原子力発電所でも、「当時から現場で指揮を続けている増田尚宏所長は、記者らに「福島第1原発ほど状態がひどくならなかったが、紙一重だったと思う」と振り返った。」、「第2原発では1〜4号機の4基とも運転中だったが自動停止した。3号機を除いて冷却機能が一時、失われた。しかし、3月14日には1、2号機が冷温停止(100度以下で安定的に管理)状態になり、15日朝には第2原発すべての「冷温停止」が発表され、「事なきを得た」形だ。」というのが実態です。

「さらに、限られた電源をほかに回すため、仮設電源ケーブルを突貫工事で設置することもできた。この「突貫工事」についても、増田所長は、震災発生が平日の日中だった「偶然」を指摘した。当時働いていた約2000人が手分けして復旧にあたったが、夜間や土日であれば所員は当直などの約40人だけで、初動に大きな遅れが出たのは間違いない、というわけだ。」と書かれていますので、偶然的に過酷事故にならなかっただけだと言えると思います。

● 櫻井氏は核のゴミについても無責任

核発電で問題なのは、事故が起きたときの損害が時間的にも空間的にも計り知れないくらいに遠くまで及ぶということがありますが、トイレなきマンションと言われるように、核のゴミの処分方法が確立していないことです。

国家基本問題研究所は、次のように言っています。

http://jinf.jp/suggestion/archives/6374

ウラン資源の確認可採埋蔵量は、約100年といわれている。したがって、世界の原子力発電の持続的な推進のためにはプルトニウム利用を軸とした核燃料サイクルを確立する必要がある。当面の対策として、既に海外で実績があり、日本でも一部運転されているプルサーマルによるプルトニウム利用の拡充を図り、高速増殖炉技術の研究開発を着実に進める必要がある。

さらに、最終審査段階にある青森県六ヶ所村再処理工場の稼働と廃棄物の処分地選定を早期に実現することが、原子力発電の継続についての国民の理解を得るために不可欠である。長期的な課題として、主要国が積極的に取り組んでいるトリウム原子力発電や核融合等の次世代型原発の研究開発にも積極的に取り組むべきである。

従来の国や電力業界の主張そのものではないでしょうか。

口ではなんとでも言えますが、所詮夢物語で実現性はありません。こんな話に国民はいつまでもだまされてはいけません。

核情報というサイトの下記のページに核のゴミの問題点がよく整理されていますのでご覧ください。

http://kakujoho.net/rokkasho/19chou040317.pdf

要するに核のゴミの問題は後の世代に押し付けておいて、核燃料から取り出した電力は今の世代が使ってしまおうという無責任な考え方です。

櫻井氏らが無責任でないなら、ゴミの処分方法が確立してから核発電を使おうと言うべきです。

●櫻井氏の目はくもっている

櫻井氏らは、意見広告で「いま日本がなすべきは、事故を招いた構造的原因を徹底的に究明し、より安全性を向上させた上で原発を維持すること」と言います。

しかし、事故原因の究明は2年経ってもできていません。どこに優秀な技術があるというのでしょう。

櫻井氏は、「人災を引き起こした「管理」の問題と、震災・津波に耐えた「技術」の成果を明確に分離して考えることが重要です。」と言います。

しかし、女川原発と福島第二原発は、「震災・津波に耐えた」と胸を張って言えるようなことではないという意味で間違っていると思いますし、「管理」と「技術」を峻別できるとする考え方も間違っていると思います。

人間はミスを犯すものです。

「管理」でミスを犯すと大事故になってしまう「技術」という概念を立てる意味があるとは思えません。

櫻井氏は、「より安全性を向上させた上で原発を維持する」と言っています。

「(櫻井氏は)「原発を忌避するのではなく、二度と事故を起こさないようにする姿勢こそ必要」とおっしゃいます」(Everyone says I love you ! )。

彼女にとっては、「姿勢」さえあればいいのですね。核を使う以上、事故が起きることは仕方がないというのが彼女の考え方でしょう。

私は、放射能のバラマキという事故は一度でも起きてはいけない事故だと考えていますが、櫻井氏は、今後も事故は起きるだろうが、それを教訓として安全性を高めていけばよいと考えているのでしょう。

櫻井氏は、「核をつくる技術が外交的強さにつながる。原発の技術は軍事面でも大きな意味を持つ」(Everyone says I love you ! )と言っているようなので、核兵器は使える兵器だと考えているようです。

被爆国日本のオピニオンリーダーと目される人物が核兵器を肯定する精神構造が理解できません。

やはり核発電に関する櫻井氏の見る目はくもっていると思います。

櫻井氏は、「通販生活」の取材に次のように答えています。

http://www.cataloghouse.co.jp/yomimono/genpatsu/yushutsu/honmon.html

原発について多くの情報が錯綜しています。できるだけ感情論を排して、事実に対して誠実でなければならないと思います。

女川原発が大事故にならなかったことを優秀な技術の成果だとする見方が「事実に対して誠実」かどうかは疑問です。

櫻井氏は、ダム問題では極めて真っ当なことを書いていた(「いつまで温存『水資源開発公団』は不要だ 」)のに、核発電については、ものを見る目がくもってしまうのはなぜなのでしょうか。

●カネはどこから出ているのか

大手紙や月刊誌に意見広告を掲載するには莫大な資金が必要です。億単位のカネが動いていると思います。

資金はどこから出てくるのでしょうか。

2013年3月31日付け朝日に次のように書かれています。

密室の電事連マネー 使途は非公表「任意団体なので」

http://www.asahi.com/business/update/0331/OSK201303310004.html?ref=reca

朝日新聞の取材で、東電は21億円、関電は4億5千万円、九電は6億円を電事連の年間会費として電気料金に上乗せしてきたことが判明したが、あくまで想定額で、実際の支出額は不明だ。

上記記事から、電気事業連合会(電事連)は電気料金を資金として活動していると言えますが、カネの使い道は非公表です。

したがって、電事連が核発電推進の意見を表明する公益財団法人国家基本問題研究所や櫻井氏に資金提供している可能性も考えられます。(電力会社の集めた公共料金の使い道が不透明でよいのでしょうか。電力供給事業は公営化し、関係情報を情報公開制度の対象にすべきだと思います。そうしないと、電力利用者のための電力供給制度は実現できないと思います。フクシマの対応策で民主党政権が東京電力の国営化はあり得ないという態度だったことは実に不可解です。政治家にとっても、電力会社が国営ではうまみがないということなのでしょうか。)

そうだとしたら、消費者が自分のカネで御用評論家の非科学的な提言を読まされているわけで、こうした構造をなんとか変えることはできないものでしょうか。

以下の優れた評論も是非お読みください。

櫻井よしこって超ド級のアホだったんですね〜「原発輸出」は是か非か。‐通販生活の国民投票より

櫻井よしこ女史の「意見広告」〜 脱原発!愛国デモ報告

阿Qも絶賛! 櫻井よしこ女史の精神的勝利法

●分からぬことばかり

とにかく分からないことばかりです。

2011年3月の福島の核発電所の事故で福島県のいくつかの自治体では、人が住めなくなったわけです。多くの住民の瀬活を破壊し、狭い日本が領土を失ったのです。海も山も野も田畑も川も汚染され、安心して食べられる物は少なくなりました。

その事故が収束もせず、原因も解明されないまま、大飯で再稼働し、他の核発電所も再稼働されようとしています。

ところが安倍晋三・首相は、「代替エネルギー確保が不透明なまま、原発ゼロを進めるのは「無責任」と批判」(2012年12月17日付け産経)します。

泥棒の被害者が泥棒から泥棒呼ばわりされたら、「泥棒はお前だ」と言うしかないのでしょうね。

安倍政権を誕生させたら核マフィアのやりたい放題の政治になることは分かっているのに、誕生させてしまう国民というものも理解できません。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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