「鹿沼市議会の政務調査費は違法」の判決

2008-03-24,2008-03-25追記,2008-03-26追記

●鹿沼市議会の政務調査費に違法判決が出た

下野新聞2008-03-13によると、2005年度の鹿沼市議会の政務調査費のうち、当時の5会派(明政クラブ、自由クラブ、自民党クラブ、民主市民クラブ、市民クラブ)が会議費を食事代などに使用したのは違法などとして、住民が阿部和夫市長に政務調査費約50万円の返還を受けるよう求めた訴訟の判決が12日、宇都宮地方裁判所でありました。

「柴田秀裁判長は「食事代の支出は条例で定める使途基準に反するもので、目的外使用にあたる」などと認定し、阿部市長に48万2,920円の返還を請求するよう命じ」ました。

なお、自民党クラブは、2005-11-15に明政クラブ(7人)、自由クラブ(3人)、創政会(5人)が同日解散して結成された会派です。

●議員1人当たり2,470円も食べていた

下野新聞は、5会派の支出からそれぞれ一つだけ取り出して具体例の表を3面に掲げていますが、裁判では、以下の48回の支出が問題とされています。
明政クラブ (14回)
自由クラブ (7回)
自民党クラブ (9回)
民主市民クラブ (12回)
市民クラブ (6回)

各会派の支出を概観してみます。

下記の根拠となる資料は、次のとおりです。
住民監査請求に関わる政務調査費(会議)の支出内容調査票(PDFファイル1MB)
裁判所が清書した支出内容(PDFファイル564KB)
会議の開催理由等(PDFファイル788KB)
会議の食事代に酒代が含まれているか聴取記録(PDFファイル128KB)

上記の下野新聞記事は3面で各会派から1例だけを取り出して表を作って掲載しています。分からないのは、作成の基準です。自由クラブと自民党クラブについては、1人当たり単価の最も高額な例を選んでいますが、その他の会派についてはそうではありません。どういう基準で例を選んだのか知りたいところです。下野の記事からは、例えば、10人の市民にごちそうを食べさせたという事実やラーメンやチャーハンを1人が1,500円もかけて食うというような不思議さが見えてきません。

裁判で問題となった支出は、すべて領収書が証拠として提出されていませんから、どこまで信用してよいのか分かりません。本来は、領収書を見て、その支出が妥当かどうかを判断するのが筋だと思いますが、裁判の審理はそういう展開にはなりませんでした。原告は「領収書を証拠として提出させるべきだ」と裁判長に三度も言ったようですが、裁判長は「各会派が作成した調査票が提出されているのだから、領収書の提出は必要ない」と言い、領収書の提出要求を認めなかったそうです。

これだけ食費に使っていれば、政務調査費が第二の議員報酬と呼ばれるわけが分かるような気がします。議員は、税金でごちそうを食べるのが議員活動と勘違いしているような気がします。現在の議員の報酬は次のとおりです。
議長 月額 530,000円
副議長 月額 445,000円
議員 月額 420,000円
ボーナスを加えれば、年収は議長・副議長でなくても700万円を超えます。メシを食うなら、この報酬を使うのが筋です。 「メシぐらい自腹で食え」と言いたいのが市民の気持ちではないでしょうか。

一般の鹿沼市民は、昼食を買うときは、500円前後の弁当や麺類だったりします。夕食もスーパーの398円の弁当が20時すぎに半額に値引きされるのを待って買う市民もたくさんいます。

政務調査費で豪勢な食事をしている議員に庶民の気持ちが分かるはずないと思います。上記5会派以外の会派の議員が政務調査費を食事代に充てていなかったのは、救いですし、敬意を表します。

●市長も議員も反省していない

上記下野記事によると、阿部和夫市長は「内規に沿って運用してきたが、主張が受け入れられずに誠に遺憾」「時代の流れであり仕方がない」と言っています。阿部市長は、2003年9月に行われた鹿沼市議選の直後、当選した議員のうち、阿部市長のお気に入りの議員の選挙事務所などに四役総出で日本酒を贈って回ったような感覚の持ち主ですから、当然のコメントかもしれません。

小松英夫議長も「当時としては間違っていたとは思わない。数年前なら目的外使用とはならなかったはずだ」と言っています。各会派の代表も「敗訴するとは思わなかった」と言っています。

要するに、市長も議員も反省していません。「ご時世だから仕方がない」と言っているだけです。

議員は全部、政務調査費でメシを食ってはいけないと思わないのかというと、違います。上記のように鹿沼市議会議員の中にも政務調査費を食事代に充てていなかった議員もいますし、栃木県議会の自民党幹部は「会派の食事代は、一般県民の立場でみれば政調費として理解を得るのは難しいと思う」と話し、ベテランの宇都宮市議会議員も「これまでも会派の総会や会議の食事代は別途徴収していた。今回の判決は当然」と語っています。足利市議会でも政務調査費の使途に「一切食事代を認めていない」といいます。

●鹿沼市民はなぜ不幸なのか

本来、市長と議会は互いの無駄遣いをチェックしあう立場なのに、市長と議長が上記のような無反省なコメントを出しているようでは、執行部と議会が無駄遣いの競い合いをするような構図の市政になってしまうのではないでしょうか。

幸福だと思って暮らしている鹿沼市民も実は不幸なのではないでしょうか。下野新聞2008-03-22の「雷鳴抄」に今回の判決が取り上げられ、「(鹿沼)市議会は提訴後の昨年8月、食事代を政務調査費の使途から外したが、会派でメシを食うのは政務調査でない、と反省したからではなかったらしい」と書かれています。

●クリーンセンター事件の反省もない

朝日新聞2008-03-23http://www.asahi.com/national/update/0322/TKY200803220331.htmlに「栃木県鹿沼市・阿部和夫市長、住吉会系暴力団組長と同席 公共工事トラブル仲裁の会合」という見出しの記事が載りました。記事の一部を以下に引用します。

栃木県鹿沼市発注の公共工事をめぐって昨年12月、受注した地元企業と暴力団の間に起きたトラブルを収めるため、元県議会議長が両者を仲立ちした会合を開き、市長や市議会議長らが同席していたことが22日、分かった。元県議会議長は朝日新聞の取材に「市民と市長の間柄で話し合った。問題はない」と話している。会合は01年に起きた暴力団員らによる市職員の殺害事件をめぐり、市が再発防止への努力を遺族に誓う民事訴訟の和解協議を進めるさなかに開かれた。
 複数の関係者によると、会合が開かれたのは昨年12月20日。自民党鹿沼支部長を務める新井喜久雄・元県議会議長を呼びかけ人に、阿部和夫市長、市議会の小松英夫議長、鹿沼商工会議所の中津宰会頭、住吉会系暴力団組長の5人が出席した。
 

阿部市長と小松議長が暴力団組長との会談(場所は不明。市役所近くの建物という情報あり)にそろって出席し、「阿部市長は会合で「前からお会いしたかった」「何かあったら、私にじかにでもいいので言ってください」などと組長に呼びかけたという。 」と報道されており、これでは、"鹿沼市長は暴力団の御用聞きか"と疑いたくなります。小佐々事件への反省や教訓が生きているのでしょうか。ご遺族にどう言い訳するのでしょうか。  

「新井元議長は朝日新聞の取材に「ことが大きくならないうちに集まったらどうかと考えた。市の職員の安全を守るのは市長の責務。組長も市民なんだから、市長と話すことに何も問題はない」と語った。」そうですが、「下の者が関係する解体業者が下請けから外されてもめた。」(暴力団組長)ことが「市の職員の安全」とどうかかわるのかよく分かりません。「市の職員の安全を守る」ことが市長が暴力団組長と会談することにどうしてなるのでしょうか。

「新井元県議会議長は朝日新聞の取材に「市民と市長の間柄で話し合った。問題はない」と話している」そうですが、「鹿沼市発注の建設工事請負契約に係る指名基準」(2001年4月24日告示第73号)には、建設業者が「警察当局から、市長に対し、暴力団員が実質的に経営を支配する建設業者又はこれに準ずるものとして、公共工事からの排除要請があり、当該状態が継続している場合など、明らかに請負者として不適当であると認められる場合」には入札に際して「指名しない」と決めているし、鹿沼市市営住宅条例第6条でも「その者又は現に同居し、若しくは同居しようとする親族が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2条第6号に規定する暴力団員(以下「暴力団員」という。)でないこと。」と決めているのですから、暴力団組長を一般の市民と同列に扱うのは、鹿沼市の方針として矛盾します。「問題はない」と言うわけにはいきません。まして、職員の安全が脅かされているというなら、市長は組長と密会するではなく、警察と連携して組織的に対応するのが筋でしょう。不当要求対応マニュアルで自らそう決めたはずです。

「阿部和夫市長は朝日新聞の再三の取材申し込みに対し、面会には応じず」というのですから、会談の事実はあったと市民から思われても仕方ないでしょう。  

阿部市長が3月21日に秘書室を通じて報道機関に出した「申入書」には「暴力団組長との会談の有無については触れていない」そうですが、「組長と会談した内容とされる「不審文書」が出回っているとし、「支持基盤の致命的弱体化を狙ったものである」などと記されている」そうですから、実質的には組長との会談を否定していると解釈せざるを得ません。  

ところが、新井元県議会議長は、「5人で話し合ったのは事実か。」と聞かれて 「間違いない。」と答えています。

新井氏か阿部市長か、どちらかがウソをついていることになります。

●阿部市長は組長と会っていた(2008-03-25追加)

朝日新聞2008-03-24Web版に下記の記事が載りました。
「鹿沼市長、組長との密会認める 入札巡り2度」
http://www.asahi.com/national/update/0324/TKY200803240415.html

阿部市長は、3月24日に記者会見を開き、組長との密会を認めました。それなら最初から認めればよかったと思います。

阿部市長は、「組長と会談した内容とされる」文書を「不審文書」と決めつけたようですが、「不審文書」とは、通常事実無根の中傷ビラを指すのではないでしょうか。ところが、ふたを開ければ根も葉もある話だったというわけです。阿部市長は、市民や新聞社にウソをついたことになりませんか。

問題点は二つあると思います。

一つは、朝日新聞が指摘するように、「会合は01年に起きた暴力団員らによる市職員の殺害事件をめぐり、市が再発防止への努力を遺族に誓う民事訴訟の和解協議を進めるさなかに開かれた。」ということです。「(クリーンセンター事件の)再発防止への努力を遺族に誓う」一方で、ヤクザとの手打ち式に出席するという言行不一致と無反省ぶりです。

二つは、自分で決めたことを守らないということです。阿部市長は、「市長として職員を守る盾となった」と言いますが、暴力団などから市に対し不当要求等があった場合には、警察や財団法人 栃木県暴力追放県民センターと連携して、指導や指示を受けながら対応すると自分で決めておきながら守らないのです。市長の後援会長である中津氏にからむ事件なので例外扱いするのかと市民から疑われても仕方ないと思います。

鹿沼市を語る掲示板には、「小佐々さん事件から数年・・。 身の危険を感じつつ行政介入暴力に立ち向かった意思を無駄にするつもりか? 何が前から会いたかった、話があるなら私にだ! 誰だって怖いけどさ 市長が暴力団に頭を下げちまったら、その下で働いてる市職員さんは暴力団の言いなりになるしかないじゃん・・。 人の上に立つ器量じゃねーよ。 いつまでたっても鹿沼は変われねーのかよ! 子供たちに何が良い事で何が悪い事だって教えればいいんだよ。 次の世代の為に、少しでも暮らしやすい町にしたいじゃん。 自分の保身を考えて鹿沼市をダメにするつもりなら、さっさと引退してくれよ。」という意見が書かれています。阿部市長には、こうした市民の意見を真摯に受け止めてほしいと思います。

●鹿沼市議会議員はちゃんと仕事をしているのか

水問題に関しては、鹿沼市議会は、政務調査費をたくさん使ってきた割にはちゃんと仕事をしているとは思えません。日本共産党の議員以外は、反市長派の議員も市長と一緒になって南摩ダム建設を促進しています。水道事業第5次拡張事業の変更計画に反対したのも日本共産党の議員2人だけです。

民主党系の議員も市長と一緒になって無駄なダム計画や水道計画を進めようとしていますが、民主党は思川開発事業に反対すると決めたという話を聞いたのですが、間違いでしょうか。2008-03-07に松井正一議員に彼のホームページの掲示板で「鹿沼市が地下水源を放棄し、ダム水を買うことにどのようなメリットがあるのか教えてください。」という質問をしたのですが、今のところ無視されています。

●視察に行くなら茨城に行ってください

下野新聞2008-03-20によると、茨城県城里町議会は、那珂川漁協が提出していた請願を採択し、那珂川取水口の建設中止を求める意見書を近く、国土交通省に提出することを決めたそうです。

同町議会の産業建設常任委員会では「(建設反対を表明すれば)国から予算が回ってこなくなる」という意見も出たそうですが、委員長は、「われわれは県会議員でも国会議員でもない。圧力に屈せず町議として町民の意見を代弁したい」と言ったそうです。

聞いて涙が出るような話ではありませんか。鹿沼市議会議員は、視察に行くなら茨城県城里町に行って、地方自治の精神を学んできてほしいと思います。

●下野新聞社に注文(2008-03-26追記)

政務調査費に関する下野新聞2008-03-13に久保正洋(記者?)は、「本県の地方政治で常識離れした部分があったことは残念の一言だ。」、「判決は地方議員に警鐘を鳴らしたが、本来の機能を確保するには住民一人一人の監視が不可欠だ。」と述べます。間違ったことは書いてないと思うのですが、どうも他人事のように聞こえます。

新聞も権力を監視する役割があるのではないでしょうか。市民が権力とどう闘ったかを伝えることだけが新聞の使命ではないと思います。日々の生活に忙しい読者に代わって権力の腐敗を追及する責務があると思います。

朝日新聞社主筆船橋洋一氏は、「朝日新聞のジャーナリズム精神とは何か。私はそれを「権力監視」にあくまで食らいつく記者根性であると思っている。」と述べています。少なくとも、読者は新聞の権力監視機能を期待して購読料を払っています。

私はかつて新聞記者に、「いくらダム行政がおかしくても、住民が動いてくれないと記事は書けない」と言われたことがありますが、納得できません。住民が気がつかないような権力のウソや不正を新聞が暴くことは可能です。西山事件で知られる毎日新聞政治部記者・西山太吉氏は、住民が権力と闘う姿を伝えるだけという手法をとりませんでした。

議会が政務調査費をデタラメに使うのは今に始まったことではないのに、「下野」は自ら読者に伝える努力をどれだけしてきたのでしょうか。社として行政に情報公開請求をして資料を分析するような作業をやっているのでしょうか。かつて「朝日」はやっていたように記憶しているのですが。

上記鹿沼市長ヤクザ手打ち式参加事件でも「朝日」が先行していたのはなぜでしょうか。他社は、市長の出した、「選挙時機(ママ)を理由とする報道の自制を求める内容」の申入書に配慮したのでしょうか。それとも密会はニュースバリューがないと判断したのでしょうか。「下野」は権力との対立を避けていると思われても仕方ないのではないでしょうか。「下野」の鹿沼支局では「朝日」と同じペースで記事を書いていたと思いますが、本社が載せなかったということだったとしたら、その理由を知りたいものです。

(文責:事務局)
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