下野新聞論説に福田昭夫が憤る

2019-07-20

●問題の下野新聞論説とは

2019年7月15日に参議院議員候補者加藤ちほの個人演説会が鹿沼市内で開催され、応援弁士として登壇した福田昭夫・衆議院議員が下野新聞論説記事と裏面にそれへの反論を記載した内部連絡文書を配付し、「記事は間違いだ」と憤りました。

問題の下野新聞論説とは、次のとおりです。一部を都合よく抜き出した、と言われないために、全文を引用します。

2019年7月13日
下野新聞論説
参院選・消費税
どこに税源を求めるのか

参院選は、消費税増税実施の与党と反対の野党が争う構図だ。財政再建を進め、社会保障制度の持続性を維持するためには歳入を増やすことが欠かせないが、どこに税源を求めるのか、あるいは、いつから課税を始めるのかといった問題は、景気動向や経済社会の在り方についての考え方によって変わってこよう。

老後資金2千万円問題で公的年金に対する不安や不満が広がっている。一方で、社会保障制度を支える財政の傷みも激しい。景気の悪影響を極力避けつつ、財政再建を着実に進めるためにはどうすればいいのか。与野党が舌戦を交わす中で、じっくり考える機会にしたい。

与野党は負担増を伴う痛みに正面から向き合い、「不都合な」事実も説明した上で処方箋を示さなければならない。財政運営や社会保障政策についての現状認識や将来像について、責任を持った主張をしているかどうか目を凝らしたい。

安倍晋三首相(自民党総裁)は日本記者クラブでの党首討論で、2018年度の税収がバブル期を超えて過去最高の60兆円となったとした上で、今後10年程度は消費税を引き上げる必要はないとの認識を示した。

しかし、国の一般会計予算は100兆円。税収が過去最高となっても、必要額の6割しか賄えない状況の異常さに鈍感であってはならないだろう。歳入不足を補う国債を発行して帳尻を合わせ続けた結果、国と地方の長期債務残高は19年度末には1122兆円に上る見通しだ。利払い費が一般政策経費を圧迫している。

野党各党は景気への悪影響が懸念されるとして家計を直撃する消費税増税を実施しない代わりに、大企業や富裕層向けの課税を強化する必要性を強調している。

税負担が重くなれば企業は競争力をなくし雇用や賃金にも影響が出る恐れもある。高額所得者の所得税率を引き上げれば、個人の才覚や努力の結果である富を国家がさらに徴収することになり、経済のダイナミズムが失われることにつながりかねない。

課税対象や税率などの仕組みでこうした問題を容認できる程度に解消し、安定した税収を確保できるのか。有権者が判断するには情報不足だ。野党にはより現実に即した詳細な説明を求めたい。


●全体として何が言いたいのか

この論説は無記名なので、下野新聞社の見解と見るべきなのだと思います。

多分、公平に書いたつもりだと思います。

なぜなら、首相が今後10年程度は消費税を引き上げる必要はないとの認識を示したことに対しては、借金の利子が一般政策経費を圧迫していることを挙げ、その場しのぎでいい加減なことを言うな、という批判が含まれていると思うからです。

他方、野党が消費税増税を実施しないと言うことも、いい加減なことを言うな、と叩いているようにも受け取れます。

執筆者は、そうやって、与党も野党も叩いたからバランスが取れていると思って書いたと推測します。

しかし、この論説から読み取れる、あるべき税制についての考え方は、今年の消費税増税は必要であり、近い将来、更なる税率アップが必要だ、ということでないでしょうか。

つまり、社の見解は、与党の方針そのものだと思います。今後10年程度は消費税を引き上げる必要はないとの発言は正直さを欠くと考えているにしても。

私は、そのように読み取ったのですが、読者諸兄諸姉は、どのように読み取られたでしょうか。

そうだとすれば、選挙戦の真っ只中の、投票日の8日前に、栃木県内で唯一の地方新聞が与党の考え方を前提に、与党には説明を求めず、野党に対してだけ公開質問状を突きつける形の論説記事を書くことが「公正」な報道と言えるのかは疑問です。

「有権者が判断するには情報不足だ。野党にはより現実に即した詳細な説明を求めたい。」と野党だけに言うのであれば、紙面に野党の説明を載せるスペースを与えるのが筋ではないでしょうか。

●与野党は対等ではない

上記論説を読むと、与党よりも野党に厳しい説明責任を求めているように見えます。

そもそも与党と野党は対等でしょうか。

全ての行政情報を把握できる与党が圧倒的に有利な立場にあります。

それに引き換え、野党には情報がないのですから、厳しい説明責任を求めるのは酷というものです。

だからと言って、支出だけを求めるのでは流石に無責任という批判を浴びて、最近では、野党が政府に財政出動を求めるときは、財源も示すことが多くなっているように思います。

情報を持たない野党の財源論について「詳細な説明を求め」るのが新聞社の仕事とは思えません。

情報を握った上で都合の良いことを言っている可能性のある与党に対してこそ、「いい加減なことを言っていないか」というチェックを強めるのが新聞の役割ではないでしょうか。

消費税増税をすればうまくいくと言っている与党にこそ説明責任があるにもかかわらず、野党にだけ説明を求める下野新聞論説の意図が理解しかねます。

福田の憤りはもっともだと思えます。

●福田昭夫の反論

福田は、上記内部連絡文書で概ね次のように反論します。



●下野新聞は金持ちの味方か

下野新聞は、「税負担が重くなれば企業は競争力をなくし雇用や賃金にも影響が出る恐れもある。高額所得者の所得税率を引き上げれば、個人の才覚や努力の結果である富を国家がさらに徴収することになり、経済のダイナミズムが失われることにつながりかねない。」と言います。

こんな考えでは、大企業と富裕層への課税の強化は永久にできないことになります。

下野新聞は金持ちの味方、という見方以外の見方が可能でしょうか。

●消費税の害毒になぜ触れないのか

上記論説は、大企業と富裕層への課税の強化についての懸念を書く一方で、消費税の持つ逆進性と、それによる貧富の差の拡大、そして消費を冷え込ませるという欠点・害毒には一言も触れません。なぜでしょうか。

政府や与党から頼まれて書いているのではないでしょうから、財政再建を着実に進めるには、消費税増税しかないと本気で思っているから、ということになると思います。

●論説の挙げる懸念は本当に起きるのか

福田は、クリントンモデルに学べと言います。

ウィキペディアには、次のように書かれています。

クリントン政権はその当初から経済政策に力を入れる。アメリカ経済の中心を重化学工業からIT・ハイテクに重点を移し(インターネット・バブル)、第二次世界大戦後としては2番目に長い好景気をもたらし、インフレなき経済成長を達成したという意見がある。
税制では、レーガノミックスで引き下げられた高額所得者の所得税率を引き上げた。また、『忘れ去られた中間層』というキャッチフレーズの下、中間層の減税を実施し貧困層をターゲットにした民主党の方針を大幅に転換した。

クリントン政権の税制を少し詳しく見ましょう。

2016年10月22日付けニューズウィーク日本版の「93年、米国を救ったクリントン「経済再生計画」の攻防」から引用します。

「クリントンは、共和党政権の経済政策は「中間層・低所得者層を犠牲にして富裕層を優遇するトリクル・ダウン経済」だと批判」したそうです。

次のような記述もあります。

クリントンは増税も提案している。すなわち、(1)個人所得税に高額所得者(年収11万5000ドル以上、25万ドル以下)のカテゴリーを新設し、ここに属する人びとの最高税率を31%から36%に引き上げる、(2)年収25万ドル以上の超高額所得層の個人所得税率は最高税率を31%から39・6%とする、(3)法人所得税の課税率を現行の34%から36%まで引き上げる。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/10/93-1_2.php

そしてこの提案は、ぎりぎりで議会を通過したようです。

つまりアメリカでは、大企業や富裕層への課税を強化しても、景気はよくなったようです。

つまり、大企業や富裕層への増税をしてどうなるか、という社会実験は、アメリカで行われていて、悪い結果は起きないということが分かっているということです。

教養が豊かでクリントノミクスなど先刻ご承知のはずの論説委員が、大企業や富裕層への「税負担が重くなれば企業は競争力をなくし雇用や賃金にも影響が出る恐れもある。高額所得者の所得税率を引き上げれば、個人の才覚や努力の結果である富を国家がさらに徴収することになり、経済のダイナミズムが失われることにつながりかねない。」と書くことの意図が理解できません。

「有権者が判断するには情報不足だ。」と言うなら、クリントノミクスの成果を紹介したらどうでしょうか。それがマスコミの仕事ではないでしょうか。

クリントノミクスは日本に当てはまらない、という意見なら、なぜそうなるのか、その解説もしたらどうでしょうか。

下野新聞が金持ちに増税して経済がひどいことになった実例を挙げることだけでもしてくれれば、有権者の参考になると思います。

●自分で自分の首を絞めることにならないのか

上記のとおり、下野新聞社は、財政再建を進めるには消費税増税しか道はないという説を信奉しているようですが、自分で自分の首を絞めることにならないでしょうか。

消費税は逆進性があり、貧富の差が拡大します。そうなれば、ごく少数の金持ちと新聞購読をする余裕もない大多数の貧乏人しかいなくなるということです。

大企業関係者を含めた金持ち層しか新聞を購読できなくなって、新聞という商売は成り立つのでしょうか。

金持ち層が新聞社に広告料を払っても、購読者が少なければ、広告の効果はありませんから、金持ち層が広告を打つこともなくなると思います。そうなれば、広告料収入も減ると思います。

下野新聞社は、自分で自分の首を絞めているように思えます。

そんなわけで、福田昭夫と下野新聞社とどちらが正しいかと言ったら、福田昭夫の方に分があるように見えます。

(文責:事務局)
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