電力会社は核発電をやめたいか

2012年6月4日、2012年6月7日追記

●総括原価主義なら再稼働はしないはず?

WEDGE Infinityというサイトがあり、誤解だらけの「総括原価主義」電力会社は無駄な金を一杯使ってる?というページがあります。

記事の筆者は、山本隆三・富士常葉大学教授です。

4月下旬のテレビ朝日の報道ステーションで「総括原価主義でコストの支払が保証されている電力会社は高い燃料を購入している」という趣旨の発言があったことをとらえて、山本氏は次のように書きます。

総括原価主義でコストが認められているのであれば、なぜそこまでして、原発を動かす必要があるのだろうか。火力を動かせば燃料代は、時間差があるにせよ確実に回収可能だ。総括原価主義があるのであれば、原発は稼働させないことになりそうなものだ。

「なぜそこまでして」というのは、大阪府市統合本部の特別顧問である古賀英茂明氏が、5月17日放送の「モーニングバード」(テレビ朝日)で、関西電力が「火力発電所でわざと事故を起こす、あるいは起きたときにしばらく動かさないようにして電力不足の状況を作り出し、パニックを起こすことにより原子力を再稼働させる「停電テロ」という状況にもっていこうとしているとしか思えない」(上記サイト)と言ったことを指しています。

ちなみに、この発言に対しては、「関電は「停電テロ」の言葉尻をとらえて「そんんなこと検討していません」という趣旨の声明を出した。電力会社が真面目な顔で「テロなんかしません」と言うとは。図星だったのか、という冗談さえ聞こえてきた。」(6月1日付け週プレNEWS 古賀茂明が"あの発言"の真意を語る。「停電を演出しているとしか思えない政府と関電の"不作為の作為"」)という記事があります。関西電力の声明については、ロケットニュースのテレ朝の「停電テロ」報道に関西電力が抗議!関電「そのような事を検討している事実は一切ありません」を参照。

さらなるちなみにですが、「電力会社が無駄遣いをしている」という指摘があっても、電力業界がこれにはなぜか沈黙しています。

●総括原価主義とは何か

「総括原価主義」あるいは「総括原価方式」とは電気事業法に定められた電気料金の決め方で、すべての費用をコストに反映させ、更にその上に一定の報酬率を上乗せした金額が、電気の販売収入に等しくなるようにする方法です。

マネー辞典というサイトの「総括原価方式」には、「事業運用にかかる費用と適正な事業報酬の和を適正な原価とし、設定するもの」と解説されています。

詳しくは、環境問題を考えるというサイトの脱原発は科学的な必然をご参照ください。

そこには次のように書かれています。

総括原価=必要経費(減価償却費+営業費+諸税)+適正利潤
適正利潤(滋養報酬)=レートベース×(報酬率)
レートベース=固定資産+建設中資産+核燃料資産+繰延資産+運転資本+特定投資
電気料金=総括原価÷販売電力量

ここから少なくとも次の二つのことが言えると思います。

第1には、総括原価方式の下では「発電のコストが膨らんでも電力会社は損をしない」ということです。

第2には、総括原価方式の下では「出来るだけ高価な発電施設を導入することが利潤を増やすことになる」(環境問題を考えるのサイト)ということです。

ちなみに、レートベースには、使用済み核燃料も含まれる扱いだそうです。死の灰が資産というのはおかしいと思います。

核燃料はリサイクルできるから、資産であるというのが立法者の理屈ですが、プルサーマル計画は破たんしているのですから、リサイクルできるという前提が成り立ちません。

●総括原価主義は核発電所を「再稼働しない」理由になるのか

山本氏は、「総括原価主義があるのであれば、原発は稼働させないことになりそうなものだ。」と書きます。

山本氏が、このように書く理由は、「火力を動かせば燃料代は、時間差があるにせよ確実に回収可能だ。」ということです。

つまり、火力発電の燃料代がどんなに高くても電気料金の値上げで回収できるので「電力会社は損をしない」から、核発電所を再稼働せずに火力発電所を動かすということです。

しかし、電力会社が損をしないということは、火力発電所を動かすときだけでなく、核発電所を再稼働したときにも言えます。核で発電しても、コストはすべて電気料金に転嫁できるので、電力会社は損をしません。

電力会社は、発電方法として火力を選んでも、水力を選んでも、核を選んでも、どっちみち損はしないようにできているということです。

電力会社は、どの方法で発電しても損をしないのですから、損をしないことは、特定の発電方法を選ぶ理由にならないと思います。

「火力を動かせば燃料代は、時間差があるにせよ確実に回収可能だ。」、だから「総括原価主義があるのであれば、原発は稼働させないことになりそうなものだ。」という山本氏の判断が論理的に正しいとは思えません。

●関西電力はなぜ核発電所の再稼働を望むのか

電力会社は営利の追求を目的とした企業です。損をしないために営業しているわけではありません。

総括原価主義では、利潤を増やすためには、レートベースを大きくする必要があります。

これまで書いたように、電力会社はどんな発電方法を選択しても絶対に損はしないのに、なぜ核発電を選択するのかと言えば、核発電はコストが高いからです。発電所を建設するには5000億円くらいかかるようです。

なぜ原発を動かしたいのか?電力会社の本音には次のように書かれています。

古賀茂明氏は「これには、企業としての事情が絡んでいる」と話す。 資産から負債を除いた関西電力の純資産が1兆5000億円ある。 この中に、原子力関係の資産というのが、発電設備と核燃料を合わせて9000億円ぐらい存在する。
しかし、原発が不要になった途端に、これは資産ではなくなる。
純資産から原子力関係の資産を引くと、6391億円しか残らない。 その上に昨年度、2422億円の赤字が出ている。
更に今年度も5000億円ぐらい赤字になるかもしれないと言われております、足すと約7000億円超のマイナス。
ほぼ純資産がないに等しい。
来年度また何千億か赤字を出すと、その時点で債務超過になってしまう可能性がある。破たんである。
だから、破たんは絶対に避けなければならないことなので、従って原発を永久に動かしたいのだ。

古賀氏の説が正解ではないでしょうか。

●山本氏の真意はどこにあるのか

山本氏の文章のタイトルは「誤解だらけの「総括原価主義」」です。

山本氏は、総括原価主義に関する世間の誤解を解くために記事を書いたのです。しかし、総括原価主義についてのきちんとした定義を書いていません。

総括原価主義に詳しいはずの山本氏が「電力会社は損をしないために営業しているわけではないこと」や「総括原価方式では、利潤を増やそうとしたら資産などを増やす必要があるということ」になぜ気がつかないのかが不思議です。

総括原価主義に詳しい山本氏が気がつかないはずがないと思います。

山本氏は、電力会社から頼まれて書いたと思われても仕方がないと思います。

●WEDGEとは何か

山本氏は月刊WEDGEに記事を書き、WEDGE InfinityはそのWEBマガジンのようです。

Wikipediaによると、月刊WEDGEとは、株式会社ウェッジから出版されている総合情報雑誌です。1989年創刊です。

定価400円ということですが、東海道・山陽新幹線のグリーン車では無料頒布で、事実上の東海旅客鉄道(JR東海)機関誌だそうです。

無料頒布といっても、結局はすべての東海道・山陽新幹線の乗客がその代金を支払っているのかもしれません。

「政治思想的には保守色が強く、中国脅威論や原子力発電推進などを持論とする。」ようです。

●WEDGEは電力会社と密接な関係にある

別冊宝島の「日本を脅かす!原発の深い闇」で公表された「雑誌の電力系PR広告出稿ランキング」によると、月刊WEDGEは、2010年3月11日から11年3月11日付け(発売日)の1年間で電力会社と原発推進団体の全面広告をどれだけ載せていたかというと、原発関係が11ページ、原発以外が10ページの合計21ページを載せており、堂々の8位入賞です。ちなみに1位は「ソトコト」という雑誌です。

4位の週刊新潮(合計28ページ)には及びませんが、週刊ポスト(12位)、週刊文春(13位)、週刊朝日(14位)、週刊現代(14位)、サンデー毎日(16位)より上位です。

WEDGEは、電力会社や原発推進団体から多額の広告料を得て、原子力発電推進を唱えている雑誌だということです。

山本氏の記事もひょっとすると電力会社や原発推進団体の広告なのかもしれません。

●JR東海と電力会社は運命共同体だった(2012年6月7日追記)

WEDGEが電力会社と密接な関係にある証拠が見つかりました。

hogehoge速報というサイトのリニア中央新幹線の稼働には"原発3〜5基分"の電力が必要ーーリニアのために原発を稼働させたいJR東海[06/05]によると、建設費約9兆円をかけた日本史上最大の鉄道事業がJR東海が2014年10月に着工するリニアモーターカー「リニア中央新幹線」だそうです。

「山梨県立大学の伊藤洋学長は、乗客ひとりを運ぶエネルギーをもとに「リニアには原発3〜5基分の電力が必要」とまで推計する。」そうです。

そうだとすると、リニアはとんでもない電気食い虫ということになります。

この節電の時代に時代錯誤の産業と言えます。

山梨県のリニア実験線の主な電力供給元は東京電力・柏崎刈羽原発だそうです。

2011年5月14日付けの産經新聞にJR東海・葛西敬之会長の「原発継続しか活路はない」と題した談話が掲載されたそうです。

リニア計画の妥当性を話し合うために国土交通省に設置された「交通政策審議会中央新幹線小委員会」でも、2011年5月、家田仁・委員長は「原子力安全・保安院は浜岡原発の停止期間を2年程度としているため、現時点ではリニア計画に影響しない」と発言しているそうです。

これらのことから、リニアを核発電で動かそうとしていることは明らかです。JR東海が核発電による電気をガンガン使って、電力会社と一緒にもうけようという話です。

電力会社とJR東海が運命共同体であると言えると思います。

そうだとしたら、WEDGEは、電力会社の機関誌と見た方がいいかもしれません。科学的な記事を期待することは無理です。

救いがあるのは、JR東海労働組合書記長がリニア建設に反対していることです。ということは、組合が核発電に反対ということでしょう。

電力会社が労使一体となって核発電を進めているのとは、景色が違うように思います。

●子会社に天下りは無駄遣いではないのか

山本氏は、商社時代に電力会社に石炭を売る仕事をしていたが、値切られて苦労した経験を書いています。

それは事実なのでしょうが、電力会社が無駄遣いしていると思われる事象も見られます。

最近では、値上げの説明をしていた東京電力の高津浩明常務が関連会社の東光電気の社長に就任したことが批判されました。

3月7日付けJcastニュース(子会社に「高額」天下り、随意契約も横行 東電の「超甘お役所体質」あぶりだされる)によると、「東電の子会社や関連会社の211の役員ポストのうち、174人が東電から天下っていることが判明」したそうです。

「東電の子会社や関連会社は都内に40社、全国に264社もある。猪瀬副知事は東電の子会社や関連会社との取引の85%が随意契約と指摘。取引金額は1720億円にのぼる。」そうです。

天下りが高額報酬を得るためには、東電が不当に高い値段で資材やサービスを調達する必要があると思います。

山本氏は、これでも電力会社は無駄にカネを使っていないと言えるのでしょうか。

●電力会社のトップがなぜ財界のトップか

東京電力の会長や社長は、日本経済団体連合会副会長のポストが指定席となっています。

東京電力第6代社長の平岩外四氏は、経団連の第7代会長(1900年12月21日〜1994年5月27日)でした。

上記別冊宝島によれば、各地方の経済連合会の会長は、電力会社の会長や社長です(2011年7月5日現在)。

なぜ電力会社のトップが財界のトップになれるのでしょうか。

絶対につぶれないはずの会社の社長よりもつぶれるかもしれない会社の社長の方が私は偉いと思うのですが。

電力会社のトップが経済団体の会長や副会長になれる理由は、古賀茂明氏がテレビで言っていました。

電力会社は高い値段で商品やサービスを買ってくれるからだそうです。

山本氏は、これでも電力会社は無駄にカネを使っていないと言えるのでしょうか。

ほかにも無駄遣いはあります。

電力会社は地域独占で競争がないのに、多額の広告費を使うのは無駄ではないでしょうか。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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