沖縄の海兵隊は抑止力にならない(その1)

2010-04-30

●結論だけの主張は疑った方がいい

ダム反対運動の世界では「ダムありき」という言葉をよく使います。南摩ダムでも東大芦川ダムでも言えることですが、とにかくダムを造るという結論が先にあって、理由はあとからこじつけるのがほとんどのダムの実態です。

安全保障の分野でも、「日米同盟は重要だ」とか「在日米軍には抑止力がある」という結論だけを言う政治家が多いのですが、理由の言えない結論はデタラメだと考えた方がいいと思います。

鳩山由紀夫首相も次の朝日記事のとおり日米同盟は重要だと言っていますが、重要であることの理由はよく分かりません。

http://www.asahi.com/politics/update/0322/TKY201003220167.html

日米同盟「揺るぎなく継続」 鳩山首相、防大卒業式で
2010年3月22日

鳩山由紀夫首相は22日、防衛大学校(神奈川県横須賀市)の卒業式で訓示し、「日米同盟を基軸として、自らの防衛に努める方針は鳩山内閣でも揺るぎなく継続する」と述べ、米軍普天間飛行場の移設問題などで両国関係が揺らいでいる中で、改めて日米同盟の重要性を強調した。

沖縄県副知事の上原良幸さんも「日本政府は"沖縄の海兵隊は抑止力のためには必要"だといいますが、なぜそうなのか.国民はきちんとした説明を政府から受けていません。」(2010-04-18しんぶん赤旗日曜版p4)と言います。

「(鳩山政権が)"沖縄の海兵隊は日本の平和と安全のための抑止力"だという幻想にとりつかれている」(2010-04-23赤旗)という赤旗の主張の方が正しいのでしょうか。

●沖縄海兵隊の定数はねつ造だった。

2009-04-04琉球新報のグアム海兵隊移転、削減数「分からない」 北米局長が答弁に「(在沖米海兵隊の)現状の定員1万8000人」と書かれており、沖縄に駐留するアメリカ軍海兵隊の定数は18,000人ということになっていたようです。

2010-03-18読売に「基礎からわかる米海兵隊」という記事が載っています。政治部の白川義和、笠井智大記者が書きました。そこにも、「沖縄の海兵隊は定員1万8000人。」と書かれています。

しかし、その数字はでっち上げだったようです。

米軍幹部がポロリ 在沖海兵隊「1万8000人」は自民党政権のデッチ上げ (ゲンダイネット)

大詰めを迎えた普天間移設問題。大マスコミは「5月決着困難」などと、相変わらず鳩山内閣の足を引っ張ろうとしているが、重大な秘密が暴露されたことにはなぜか、ほぼ目を伏せている。

 政府が普天間代替施設建設の根拠としてきた「在沖縄海兵隊の定数1万8000人」という数字が、基地利権絡みのデッチ上げだったのだ。

 今月4日に民主党の沖縄等米軍基地問題議員懇談会会長の川内博史衆院議員が沖縄海兵隊基地を現地視察。訪問先のキャンプ瑞慶覧で、在日米軍トップのロブリング中将に質問した。

「沖縄の海兵隊員は1万8000人というが、その根拠は何か」

 1万8000人とは、現行の辺野古移設計画(V字案)でグアムに移る8000人に、政府が移転後に残るとしてきた1万人を足したもの。V字案をまとめた当時の守屋武昌防衛事務次官と、額賀福志郎防衛庁長官が出してきた数字だ。

 沖縄県基地対策課の調べでは、在沖海兵隊員は1万2400人(08年9月末時点)。2月に北沢防衛相も「イラク、アフガンに行っているので実数は4000〜5000人」と語るなど、数字の根拠は曖昧だった。

 ロブリング中将は「部下に答えさせる」と退席。代わった在沖縄米海兵隊外交政策部のエルドリッジ次長は「(1万8000人は)日本政府が言った数字だ。私たちの責任ではない」と言い放ったという。守屋と額賀が持ち出してきた数字を否定したのだ。

「歴代の自民党政権は在沖米軍の数を水増しして、代替施設建設の基地利権を拡大させた疑いが濃厚です。沖縄に残る海兵隊員が現実よりも多ければ、代替施設は大きくなる。V字滑走路という巨大な公共事業をつくるため、数字をデッチ上げたのです」(軍事ジャーナリスト・神浦元彰氏)  本当にフザケタ話だ。当の米軍は、06年7月の「グアム統合軍事開発計画」や、08年8月の「グアム軍事統合マスタープラン」で、普天間基地の機能および全部隊のグアム移転を発表済みだった。米軍にとって普天間の代替施設は必要なかったのだ。なのに、自民党政権は巨大利権を生み出すため、根拠となる数字をデッチ上げてまで、V字案をまとめたのだ。 (以下略) (日刊ゲンダイ2010年4月12日掲載)

18,000人は、日本が勝手につくった数字であり、アメリカは知らないというわけです。

田中宇氏も官僚が隠す沖縄海兵隊グアム全移転というページに「外務省が捏造した1万人の幽霊隊員」という見出しを立てて、次のように書いています。

外務省などは、1万人の幽霊部員を捏造し、1万人の海兵隊員がずっと沖縄に駐留し続けるのだと、日本の国民や政治家に信じ込ませることに、まんまと成功してきた。


●なぜ定数をでっち上げる必要があったのか

同じく、日刊ゲンダイが次のような記事を掲載しました。小沢一郎氏のほかにも辺野古の土地を買っていた政治家がいたという話です。

辺野古を買っていた「政界9人リスト」が問題化

2010年3月8日

 ようやく決着か。連立与党の足並みがそろわず、候補地が浮かんでは消えるばかりだった普天間基地の移設問題。鳩山首相は4日、今月中に移設先の政府案をまとめると語った。しかし、移設問題を足元から揺るがしかねない「秘密のリスト」が存在するという。

「1月の名護市長選では基地移設反対派が当選しましたが、いくら沖縄県民が反対しても、移転先は辺野古で決まりでしょう。基地移転を当て込んで、先行投資している勢力がいるからです」(政界事情通)

 沖縄の土地をめぐっては、小沢幹事長が購入していることが一部で報じられた。これは資産公開で明らかになっているが、問題は、隠れてコッソリ買っている連中だ。

「公安当局と防衛庁調査部が秘密裏に調べた結果、辺野古周辺の土地を購入している政界関係者は、小沢氏以外に少なくとも9人いた。当局は購入時期や面積、購入価格など詳細なデータを持っているが、今のところ、この"9人リスト"は封印されている。いずれも別人の名義にしてあったり、間にいくつも業者をカマせるなどして、本人の名前が表に出ないよう巧妙にカムフラージュされています」(公安関係者)

 普天間の移転先は、05年に小泉内閣が、キャンプ・シュワブのある辺野古の沿岸部を一部埋め立てる案で米国と合意。06年には沿岸部に「V字滑走路」を建設することが決まった。当時、このV字滑走路案を推し進めたのが、防衛省汚職事件で罪に問われた守屋武昌次官だった。

 問題の「9人リスト」には、守屋と近かった政治家を中心に、自民党の防衛族議員がゾロゾロだ。防衛庁長官を経験したNとKとI、官房長官経験者のN、特命大臣として沖縄問題などを担当したT、首相秘書官の立場で官邸を仕切ったIと、自民党だけで計6人。他には、民主党の現職閣僚MとK、国民新党のSの名も挙がっているという。(以下略)

では、この9人とはだれなのか。

一夢庵という人が 秘密裏に辺野古土地購入の政界9名リストで考察していますので、ご覧ください。リチャード・コシミズ氏のブログ( 辺野古土地転がし〜ず9人衆)でも取り上げています。

●米国務長官が「沖縄の海兵隊は日本の防衛のために存在するのではない」と証言

2010-04-18しんぶん赤旗日曜版p19には、次のように書かれています。

レーガン政権時のワインバーガー国防長官は82年4月、米上院歳出委員会に提出した書面で、沖縄の海兵隊について重要な証言をしています。 「沖縄の海兵隊は、日本の防衛に充てられていない。それは米第7艦隊の即応戦力であり、同艦隊の通常作戦区域である西太平洋、インド洋のどの場所にも配備される」

米国防長官が沖縄の海兵隊は、日本の防衛のためにいるのではないと証言しているのに、多くの日本の政治家や軍事評論家が海兵隊が日本を守ると主張するのは奇妙なことです。

●田中均氏と坂口大作氏も抑止力に疑問

2010-04-14赤旗の「主張」欄の海兵隊=「抑止力」論/基地押し付けの詭弁許さないにも、次のように書かれています。

国会で長年「抑止力」擁護の発言をくりかえしてきた田中均元外務審議官も今年初めの第16回日米安保セミナーで、「沖縄の海兵隊の役割は何か。はっきりした説明がほしい」と疑問を呈しました。防衛研究所研究員の坂口大作陸自2佐も研究論文で「米国が抑止力のために置いているのかどうかも定かではない」といっています。

こうした疑問に、政権は代わっても政府は答えていません。

●海兵隊の駐留は安保条約違反

上記赤旗で軍事評論家の稲垣治氏は、次のように書きます。

海兵隊は、日米安保条約に出てきません。「(米国の)陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」(第6条)というだけで、「海兵隊」の名前はありません。

日本政府は、海兵隊は法的には海軍に属するなどと説明していますが、実態を見ても海兵隊基地「米国海兵隊施設」と表記されており、日本の安全保障と全然関係ない部隊が、日本に駐留し続けるのはおかしい。

アメリカの海兵隊が日本に存在する法的根拠はないということです。

●「抑止論」からの脱却を

共同通信の石山永一郎・編集委員も2010-03-17下野の「時評」で次のように書いています。

(県内移設をなお探っているのは)政治家、官僚とも「沖縄の海兵隊は日本の安全保障に不可欠」という空論に縛られているからだ。
長島昭久防衛政務官は(3月1日に)(中略)抑止力維持に沖縄の米海兵隊は必要と強調した。 (中略)
海兵隊が抑止力になるとの主張には疑問がある。

海兵隊は相応の準備期間を経て適地に展開するのが本来任務だ。空軍のような緊急的有事への即応力はほとんどない。特に沖縄の海兵隊の場合、展開には佐世保にいる揚陸艦の迎えを待たなければならない。沖縄かグアムか、あるいはハワイにいるかで目的地到達に数日の差は生じるが、現在の東アジアで事前に外交的挑発など何ら兆しもなく、軍事的侵攻が突発的に起きることなどあり得るだろうか。そもそも海兵隊が去っても日本には約80カ所の米軍関連施設が残るのだ。

長島昭久防衛政務官は、アメリカの代理人と思った方がいいでしょう。

米軍の駐留を肯定している点に問題がありますが、沖縄の海兵隊に抑止力はないという主張は妥当でしょう。

上記読売記事には、「小規模な戦闘部隊なら、沖縄から朝鮮半島や台湾海峡にわずか1日で駆けつけることができる。一方、敵から瞬時にミサイル攻撃を受けるほど近くもない。沖縄は絶妙な場所にあるというわけだ。」と書かれています。

しかし、「これまでに取材した米軍司令官や退役将軍らは「日本が提供してくれるのなら、基地はどこでもいい」とこともなげに言う。」(世界2010年2月号p196の屋良朝博・沖縄タイムス社論説兼編集委員の記事)のですから、「絶妙な場所」は、読売の記者が勝手に書いていることになります。

●沖縄から朝鮮半島や台湾海峡にわずか1日で駆けつけることができるのか

上記読売の解説記事は、「(海兵隊は)沖縄から朝鮮半島や台湾海峡にわずか1日で駆けつけることができる」と書きますが、その記事の中に、次のような記述があります。

ルース米駐日大使は今年1月の講演で、海兵隊の対応能力についてこう説明した。

「海兵隊の短距離ヘリは、北東アジアと東南アジアをつなぐ諸島のどこへでも必要な場所へ、沖縄の地上戦闘部隊と支援部隊を迅速に輸送できる。より大規模、長距離での軍事行動の場合は、わずか2、3日の航行距離にある佐世保の米海軍艦隊が支援し、海兵隊の地上、航空戦力を地域内のどこにでも輸送できる」

佐世保と沖縄は、「2、3日の航行距離にある」とルース米駐日大使は言っています。

佐世保と沖縄が「2、3日の航行距離にある」のだとしたら、海兵隊は「沖縄から朝鮮半島や台湾海峡にわずか1日で駆けつけることができる」という読売の記述は矛盾すると思います。

●読売の解説記事に疑問

屋良氏の論文を以下に引用します。

政府は、沖縄に基地が集中することをあたかも米軍の運用上の要求であるかのように情報操作してきた。
防衛白書は「なぜ沖縄か」を説明しているが、その中身は実に支離滅裂だ。少し長いが引用しよう。

「沖縄は米本土やハワイなどと比較して、東アジアの各地域に対して距離的に近い位置にある。このため、この地域内で緊急な展開を必要とする場合に、沖縄における米軍は、迅速な対応が可能である。また、わが国の周辺諸国との間に一定の距離があるという地理上の利点を有している。これらが、緊急事態への一時的な対処を担当する海兵隊をはじめとする米軍が沖縄に駐留する主な理由として考えられる」

(中略)
「地理的優位性論」を根拠とした政府説明を論破するのは容易だ。日本駐留の最大兵力である海兵隊は、その名の通り「海の兵隊」であり、海軍艦船に乗って出撃する。その艦船は沖縄ではなく、長崎県佐世保に配備されている、という事実を指摘するだけで事足りる。

例えば、日本が最も警戒しているところの北朝鮮が軍事行動を起こしたとき、「緊急事態への一時的な対処を担当する海兵隊」を朝鮮半島へ向かわせるために、長崎で錨を上げた艦船はいったん南下し、沖縄で兵員・物資を乗せた後、再び北上していく。政府の言う沖縄の地理的な利点とはいったい何なのか? (中略)

サンゴ礁に囲まれる沖縄には軍港がない。(中略)

さらに不可解なのは、長崎配備の強襲揚陸艦隊が運べる兵力は2000人でしかなく、その部隊規模では小規模紛争やPKO的な活動に任務が限られることだ。朝鮮半島の有事や中国の脅威に対抗するため、と説明するにはいささか無理がある。

上記読売の解説記事は、おそらくは東京本社の記者が机の上で書いたのに対し、沖縄タイムス社の屋良氏は、取材を繰り返し、沖縄の状況を知悉して書いているのでしょうから、屋良氏の主張の方が説得力があり、正しいのだと思います。

●そもそも海兵隊は沖縄にいない

2010-04-23赤旗の「海兵隊=抑止力」は幻想/アジアでの戦争の「引き金」にに次のように書かれています。

宜野湾市の伊波洋一市長は「第31海兵遠征隊(31MEU)が沖縄に駐留していないと台湾や韓国に1日で展開できないので抑止力の致命傷になると主張する学者や評論家、政治家がいるが、素人の国民をだます真っ赤なうそだ」と言っているそうです。

「市長はその理由として(1)在沖縄海兵隊の中核部隊である31MEUは例年、米海軍佐世保基地(長崎県)の揚陸艦に乗ってオーストラリアや韓国、フィリピン、タイなどで訓練・演習を実施し、1年の半分は沖縄を不在にしている(2)普天間基地配備のヘリコプター部隊も、例えば2006年には約5カ月間、訓練・演習のため海外に出動していた--ことを挙げます。」

●海兵隊を実際には使えない

上記赤旗によれば、昨年8月まで首相官邸の内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)だった柳沢協二氏は、4月20日に国会内での与党議員らの懇談会での講演で、次のように言っています。

『抑止力』というのは有事に実際に使うことが基本だ。例えば、台湾海峡の紛争でオバマ米大統領は海兵隊を投入する意思決定をするのか。その時、沖縄の海兵隊が出動するとなれば、安保条約6条に基づく事前協議で鳩山総理は『分かりました。OKです』と言えるのか。
海兵隊という陸上兵力が台湾に上陸して中国軍と直接たたかうことになれば事態をコントロールできなくなる恐れがあると、まともな政治指導者なら思うはずで、そうならないようにするはずだ。

「「海兵隊=抑止力」という立場を認めることは、東アジアでの本格的な戦争に引き金をかけているのに等しいのです」(上記赤旗)。

柳沢氏は、北朝鮮については、「北朝鮮の現状から「1950年の朝鮮戦争のように、北朝鮮軍が南下してきて(米韓合同軍が)釜山まで追い詰められるような戦争はまずあり得ない」と分析しています。

(文責:事務局)
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