市民皆水道は民意か

2008-12-21

●新聞が水問題を取り上げない

ブログ"鹿沼市政ウオッチング"の作者佐渡ケ島氏から市議会一般質問からのページで当サイトあてに次のようなお願いをされてしまいました。

下野新聞の記者が、どういう基準でこれらの質問を選んだのか分かりませんが、 今回も、芳田議員のダム問題に関する質問はスルーされてしまいました。 「下野新聞」は、霞ヶ浦導水事業に関しては、連日のように批判記事を掲載し、 検討しているのですが、思川開発については、全くといって良いほど記事にしません。 まるで、事業の推進が日常化してしまったかのようです。
しかし、水道料金が大幅値上げになるかもしれないことなど、 市民生活に大きな影響を与えかねない問題が多いのですから、 すくなくとも、市長が交代したことにより、ダム問題への姿勢がどう変わったかについては 独自の取材と記事を期待したいと思います。
とりあえず「鹿沼のダム」サイト管理人さんに、今回議会でのやり取りについて 記事にしていただくことを、この場を借りてお願いしておきます。

私も、下野新聞が霞ヶ浦導水事業に関しては連日の容認熱心に追及しているのに、思川開発事業に関しては「終わった話」でもあるかのように、ほとんど報道しないことを不思議に思っています。

市長が交代して、新市長が「ダムの水は水道に使わない」と発言したことは重要です。芳田利雄議員は、佐藤信氏が市長に就任してから、7月、9月、12月の市議会で連続して質問していますが、新聞記事にならないことを不思議に思います。

確かに霞ヶ浦導水事業に関しては漁協などが活発に活動しており、記事を書きやすいのに対して、思川開発事業については反対運動が活発とは言いがたいので記事にしにくい、何か事件が起きないと書きにくいという言い分はある程度理解できますが、私たちは反ダム訴訟を起こして、そこに精力を注いでいるのですから、裁判の経過を取材して記事にしてもいいと思います。口頭弁論では、原告側の傍聴人が少ないのも弱みですが、記者も行政訴訟に関心がないのか、取材に来ませんね。

たとえ市民運動が盛り上がらないとしても、1850億円という巨額の費用を使った有害無益な公共事業なのですから、新聞が社会の木鐸であり、民主社会の監視者であることを自負するなら、住民が力不足の場合、独自取材に基づいて南摩ダムの有害無益性を暴く記事を書いてもよいはずです。

まして市長が議会という公式の場で、南摩ダムの水は使わないと発言したことは事件であり、報道する価値があると思うのですが。

●市議会と水問題にまつわる不思議

ダムに関する質問をする議員と言えば、芳田議員と決まっていることも不思議です。ほかにも質問した議員はいますが、単発的で熱意が感じられません。芳田議員の質問項目の中でダム問題に関する質問が最後と決まっているのも不思議です。

南摩ダムへの導水管で水がれが懸念される板荷地区の議員がダム問題について質問しないのも不思議です。

加蘇地区の大貫武男議員は、2007年6月6日の一般質問で黒川、大芦川から取水するための導水管について発言しています。大貫議員は、「全国的に見ても、このような工事を行った後に沢水がとまってしまい、見るも無惨な沢になったという話も聞き、そのような写真などを見ると、不安になると私は思いますし、これは私個人だけではないと思います。多くの地区民が悩んでいます。不安なことなのです。」、「導水管の近くの井戸水、またその影響が考えられる地区の井戸水や沢水対策をどのように考えておられるのか。」といいところを突いていますが、「 これは国の方針ですので、市当局に何をしてほしいというのは言いづらい点はある」として、水道を引けとか道路に歩道を設置しろという結論なっているように思います。つまり、ダム建設という国策には反対できないという前提で、加蘇地区が犠牲になるなら、起業者にきちんとした対策をやらせろという論調だと私は受け取りました。

導水管が加蘇地区にとってそれほど迷惑な施設なら、なぜ大貫議員は佐藤市長に南摩ダムに反対してくれと言わないのでしょうか。南摩ダムが国民にとって是非とも必要な施設であれば、加蘇地区が犠牲になることを前提とした議論をすることも理解できますが、栃木県にも下流県にも新規の水需要はなく、12.4km2の集水面積しか持たない南摩ダムがほとんど治水効果を持たないことも明らかなのに、そもそも南摩ダムは不要だという発想にならないのはどうしてでしょうか。下流県が水余りであることは、過去記事福田富一栃木県知事の言い訳は正しいかを参照してください。

大貫議員が「国が決めたことには逆らえない」と考えているとすれば、その考え方は、「地方自治の本旨」(憲法第92条)にもとると思います。2008-09-11に国営川辺川ダムに反対を表明した蒲島郁夫熊本県知事は、国賊なのでしょうか。国策に反対する知事は、国から制裁を受けるのでしょうか。「財務省は20日に内示した2009年度予算原案で、地元の知事が反対を表明している大戸川(だいどがわ)ダム(滋賀県)と川辺川ダム(熊本県)の建設事業費を国土交通省の概算要求から大幅に削減した」(2008-12-21下野)のです。国策事業でも知事が反対すれば、止められるということです。

私は、大貫議員が地方自治の本旨を理解していないとは思いません。思川開発事業は、加蘇地区が犠牲にならなければならないだけの必要性があると、板荷地区と並んで甚大な導水管被害の予想される加蘇地区に在住する大貫議員は考えているのだと思います。必要性を説明できない公共事業をやってはいけないという認識は共有していると思います。大貫議員に限らず、議員である以上、あの"公共"事業はこういう理由で進めるべきなのだという説明が住民に対してできない以上、"公共"事業の経費は公金で賄われるのですから、その事業に反対すべきです。

鹿沼市が思川開発事業に参画してないとしても、ダムと導水路の建設予定地が鹿沼市である以上、同事業に賛成でも反対でもない市議会議員なんていないはずです。「自分は賛成も反対もしていないから、どんな結果が生じても自分に責任はない」という言い逃れは、次の世代に対して一般市民より重い責任を負う議員にはしてほしくありません。

私たち運動団体にもダムに関する認識について勘違いはあるでしょう。大貫議員に限らず、栃木県及び下流県はどれだけ水源が不足しているのか、南摩ダムは費用に見合った治水効果を上げられるのかなど、鹿沼市が南摩ダムの犠牲にならなければならないだけの必要性や公共性をご存知の議員さんに教えを請いたいと思います。

●情報が入らない

佐渡ケ島氏からのお願いについてですが、私も議会質問についてアップツーデイトな記事を書きたいのですが、彼と同じくケーブルテレビを録画できる環境にないので、無理です。テレビを見ている暇などそんなにないのに、高い料金など払えません。鹿沼ケーブルテレビから録画を買うという方法もあるにはあるみたいですが。

そんなわけで、議会質問に関する分析記事は、議事録が作成されてからということになります。ところが、議事録が図書館と市役所内の情報公開コーナーに1部ずつしか配備されないので、借りることができません。以前は図書館に2部配備されたので、1部は借りられたのですが、経費節減のため今年の7月議会分から、館内閲覧用1部のみの配備になってしまったのです。

そうすると、図書館や情報公開コーナーでコピーするときに1枚20円かかります。コンビニでコピーするときの2倍、ビバホームのコピーの4倍も高いコピー代を払うことになります。

議事録なんて見ないで、鹿沼市のホームページの議事録検索システムを使えばいいじゃないかと思われる向きもあろうかと思いますが、議会議事録のホームページへの掲載は時期的に相当遅れます。今年の9月議会の議事録が12月21日現在も掲載されていません。また、裁判所に証拠として提出する場合、ホームページからのコピーは、改ざんが容易で信用性に劣るので、製本された議事録のコピーの方が都合がいいということもあります。

●市民皆水道は民意か

そんなわけで、12月議会の質問を、内容が正確に把握できない今、分析することはできませんが、ケーブルテレビの中継をざっとながめていた限りでは、水道部長が「市民皆水道」と何度か言っていたのが、印象的でした。鹿沼市は、「市民皆水道」をキーワードとして、過剰な設備投資を進めていくつもりなのではないでしょうか。

簡易水道を含めて水道普及率が100%になることが、国是であり市是でもあるということでしょう。

鹿沼市の人口も減少している、1人当たりの使用水量も減っている、という状況の中で、水需要が増えるという根拠は水道普及率100%という目標設定しかないのだと思います。しかし私は、市民皆水道が民意であるとは思えません。2007-08-03の鹿沼市議会一般質問における山崎正信議員からの質問に襲田利夫水道部長は、次のように答弁しています。

2007-08-03 襲田利夫水道部長の答弁 (抜粋)
上水道の現状と今後の対策についての質問にお答えいたします。
 まず、上水道全体の有収率でありますが、前年度から0.2ポイント上昇して80.4%、普及率につきましては、1.1ポイント上昇して93.1%であり、年々上昇傾向にあります。

 次に、有収率、加入率、使用率の現状でありますが、上水道では全体の有収率は求めておりますが、浄水場から各町内への配水量は把握できないことから、町内ごとの有収率は求められません。したがいまして、上水道区域においては、加入率、使用率についてお答えさせていただきます。

 平成19年3月31日現在において、平成2年以後に地下水汚染が確認され、緊急対策として配水管を布設した深津・白桑田地区は加入率58.6%、使用率52.1%、池ノ森地区は、加入率82.9%、使用率76.4%、南上野町地区は加入率62.6%、使用率58.6%、さらに昨年地下水汚染が確認され、緊急対策として、今年度配水管を布設している上奈良部町、下奈良部町、南上野町西地区の給水可能区域におきましては、加入率79.1%、使用率77.7%となっております。

 次に、簡易水道6地区の現状でありますが、旧旭が丘簡易水道は、有収率80.6%、加入率100%、使用率100%、旧西部簡易水道は、有収率27.8%、加入率46.3%、使用率29.0%、口粟野簡易水道は、有収率63.5%、加入率94.9%、使用率85.2%、粕尾簡易水道は、有収率50.2%、加入率97.4%、使用率87.8%、永野簡易水道は、有収率70.4%、加入率94.3%、使用率81.1%、清洲簡易水道は、有収率63.1%、加入率94.8%、使用率87.0%であります。
 (略)
 また、昨年地下水汚染が確認された上奈良部町、下奈良部町、南上野町西地区は、既に昨年度自治会を通し個々の住民の方から要望書を提出していただきました。この要望書には配水管布設終了後、給水装置の設置申請を速やかに行いますとの確約もあわせていただいておりますので、給水が可能になりましたら、100%の方に使用していただくことを目標に速やかな加入促進を図っていきたいと思います。

 次に、旧西部簡易水道地区は、昨年度職員により戸別訪問を実施し、加入や使用を促進してきました。あわせて戸別の訪問記録簿も作成し、つぶさに個々の水の状況がわかるようにいたしました。今年度は既にポスターの掲出やコミセンだよりに利用促進記事を掲載するなど加入への周知を図ったところであり、今後は昨年度作成した訪問記録簿をもとにして、再度戸別訪問を行い、加入促進を図っていきたいと考えております。(略)  
 

冒頭の普及率が93.1%とは、給水区域内であっても、水道を引いてない人口が約7%いるということです。  

2000年度に供用開始した「旧西部簡易水道は、(2007年3月末で)有収率27.8%、加入率46.3%、使用率29.0%」です。供用開始から7年経っても3割未満の世帯しか簡易水道を使っていないのです。「旧西部簡易水道地区は、昨年度職員により戸別訪問を実施し、加入や使用を促進してきました。」。市は、今後も使用促進のために涙ぐましい努力をするというのです。旧西部簡易水道は、民意とかけ離れた架空の水需要に基づいて建設されたことは明らかです。  

1990年にキヤノンによる地下水汚染事故のあったために急遽水道管を敷設した深津・白桑田地区でも、水道が引けるのに引かない世帯が半数もあります。  

こうした失敗を繰り返さないために、2006年に「地下水汚染が確認された上奈良部町、下奈良部町、南上野町西地区は、既に昨年度自治会を通し個々の住民の方から要望書を提出していただきました。この要望書には配水管布設終了後、給水装置の設置申請を速やかに行いますとの確約もあわせていただいております」ということなのです。そこまでやらないと水道を使ってもらえないのです。「市民皆水道」が論証不要なほどに市として当然やらなければならないことであるなら、「個々の住民の方から要望書」は不要ではないでしょうか。  

こうした事実を見ると、市民は、市民皆水道なんて求めていないのではないかと思えます。水道の利用は市民に強制できるものではありません。使う使わないは市民自らが決めることです。民意に基づかない公共事業なんて進めるべきではありません。市民皆水道のスローガンは、水需要を検証する必要性を否定するための道具ではないでしょうか。水道施設は、需要があれば建設すればいいし、なければ建設しなければいい。それだけのことではないでしょうか。需要も精査せずに水道普及率100%を目指すのは、職員の自己満足か水道業界と結託した利権目当てと勘ぐられても仕方がないのではないでしょうか。  

地下水汚染を甘受して水道水を供給することにカネを使うよりも、地下水汚染の防止にカネを使うのが筋ではないでしょうか。そもそも地下水法が存在しないことが問題だという説があります。私も法律か条例かはともかく、地下水の汚染や過剰なくみ上げを防止する体制を整え、地下水利用のルールを規定すべきだと思います。  

地下水に限らず、鹿沼市の山間部では、沢水を生活用水としている人が多く、その汚染などをめぐって争いごとが起きる可能性があるので、沢水を含めて生活用水の水源については、一定のルールを決めておくことが必要だと考えます。この点、佐藤市長は、水源保護には関心があるようなので、今後の水政策に期待したいと思います。  

水需要が縮小していくという実態に反して、架空の水需要を創出し、水道事業を拡大していくためには、市民皆水道というスローガンで押し通すしかないのでしょう。架空の水需要を創出してまで水道事業を拡大したい人とは具体的にだれなのでしょうか。市長は、第6浄水場なんて建設しないと言っているのですから、市長ではないと思います。  

なお、市民皆水道を目指すことが正しいとしても、国立社会保障・人口問題研究所の人口推計によれば、2030年の旧鹿沼市の人口は81,626人、これに対して現有水源は38,100m3/日あります、1人1日最大給水量を400リットルと仮定すれば、95,000人の水源があるのですから、新規水源を確保する必要はありません。鹿沼市上水道の施設利用率(=1日平均給水量/1日給水能力)は2007年度で68.7%にすぎません。余裕があります。  

そこで水道当局が新規水源を確保するために考えた理屈が「地下水は地盤沈下や汚染のおそれがあるので使ってはいけない」というものです。鹿沼市で地盤沈下は聞いたことがないし、汚染の確率は表流水の方が高いでしょう。水道のプロたちが地下水という最上の水源を捨てる理由が分かりません。  

(文責:事務局)
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