福田富一栃木県知事の言い訳は正しいか

2008-10-03,2008-10-09追記

●県民を守らない知事

霞ヶ浦導水事業を巡る福田富一知事のふがいなさについては、過去記事栃木県知事は霞ヶ浦導水事業にNOを突きつけよ に書きましたが、未だに状況に変化はありません。

下野新聞社も論説で「本県の自然環境をどう守っていくかは、県の重要課題となる。都市の持続可能性を探る調査では、環境保全が大きな要素となっている。地方分権の時代に、国任せの姿勢では県の将来像は描けまい。」(2008-07-30)、「那珂川は本県の宝である。福田知事には宝を守る努力を求めたい。」(2008-09-26)としつこく知事に迫っていますが、知事が宝を守るための努力をする気配はありません。

「福田富一知事は23日、国土交通省が進める霞ヶ浦導水事業について「首都圏の下流県が事業の水を必要としている。私が事業に反対し、下流県のことは構わないとは言いにくい状況にある」とし、現時点では事業自体に反対する考えがないことを表明した。那珂川町で開かれた「とちぎ元気フォーラム」で参加者の質問に答えた。」(2008-08-24下野)。

「福田知事は、既に総事業費の約8割が使われ、東京、千葉、茨城の三都県が事業による水を工業用水などで使っていると指摘。「首都圏の水をどうするのかという問題。下流県の水需要を全く無視することはできにくい」とした。」(同)。

●壊せとは言っていない

「福田知事は、既に総事業費の約8割が使われ、東京、千葉、茨城の三都県が事業による水を工業用水などで使っていると指摘」したそうですが、何が言いたいのでしょうか。那珂川と霞ヶ浦を結ぶ那珂導水路が完成していないのに、水が使えているなら那珂導水路の建設に反対することが三都県の水利用を邪魔することにはなりません。事業に反対するということは、既に完成している利根導水路(利根川と霞ヶ浦を結ぶ導水路。2.6km)を壊せということにはなりません。だれも言っていない説を前提に言い訳しても言い訳になりません。

●水は余っている

知事は、「首都圏の下流県が事業の水を必要としている。私が事業に反対し、下流県のことは構わないとは言いにくい状況にある」と言いますが、下流県の水需要と栃木県民の利益とどちらが大切だと心得るのでしょうか。人助けとは自分が助かってからやるものです。そもそも下流県は、水が足りなくて困っているのでしょうか。下流県の水需要を知事は調べたのでしょうか。

1都3県のおおよその水需給状況は、下記のとおりです。

自治体名保有水源量1日最大給水量(2005年度)余剰水量人分(1人1日最大給水量を400Lと仮定)
東京都690万m3/日500万m3/日190万m3/日 4,750,000
茨城県(水道用水+工業用水)240万m3/日 170万m3/日 70万m3/日1,750,000
千葉県(水道用水+工業用水)375万m3/日300万m3/日75万m3/日1,875,000
埼玉県330万m3/日(2010年度) 280万m3/日50万m3/日 1,250,000


福田知事は、これでも「首都圏の下流県が事業の水を必要としている。」と言うのでしょうか。福田昭夫前知事は、「下流県が水が足りないと言っているのだから、下流県に水需要はあると考える」と言っていたものです。あれから7年経って、知事が代わっているのに、知事が同じことを言っているわけです。福田知事が下流の都県のために栃木県が犠牲になると言うのなら、下流都県の水需要ぐらいは調べるべきだと思います。

事実を把握しないで、正しい結論は得られません。

●那珂導水路は霞ヶ浦の浄化にも役立たない

福田知事が触れていない問題ですが、霞ヶ浦導水事業の目的の一つに霞ヶ浦の水質浄化があります。那珂川からの導水が「霞ヶ浦の湖水を希釈するとともに、霞ヶ浦の水質浄化に効果を発揮する」ことが事業目的とされています。

しかし、茨城大学名誉教授の高村義親氏によれば、那珂川の水の全窒素濃度は霞ヶ浦の湖水のそれよりも1.6倍以上も高いし、硝酸態窒素濃度は7.8倍も高い。硝酸態窒素濃度はアオコの栄養素であり、那珂川からの導水で霞ヶ浦の富栄養化をさらに促進し、水質を悪化させる可能性が大きいのです。

これほど有害無益であることがはっきりしている"公共"事業も珍しい。こんな事業にNOが言えない知事は、「無駄」という言葉の意味が分からない人物と思われても仕方がないでしょう。

●知事は事実に基づいて発言すべきだ(2008-10-09追記)

福田知事は、10月8日の記者会見で知事選用マニフェストに関連して霞ヶ浦導水事業にも言及しました。「那珂川の水環境などについての認識が甘いとの批判があるのは承知している。」(2009-10-09下野)そうです。そりゃそうでしょう。何回も下野に書かれていますから。そして次のように述べたようです。

この事業で下流都県が水を必要としているのに、水源県だからといって反対の立場を貫けるかは悩ましい問題だ。さまざまな懸念が指摘されており、国がまず、その懸念について判断し解決していくかを見届けることを優先していくべきだ。その上で県としての考え方をまとめないといけない。

国は工事をどんどん進めようとしています。知事のような考え方では、国が懸念について判断し解決しないまま事業を進めれば、県の考え方をまとめる前に事業が完成してしまうじゃありませんか。知事がそういう考えなら、国はサボタージュ作戦に出るでしょう。

知事は、「下流都県が水を必要としている」とまだ言っています。無駄な事業はウソから始まります。ウソつきは無駄の始まりです。上記のように都県では水が余っており、余剰水源の最も少ない埼玉県だって、水源に100万人分以上の余裕があります。このことは那珂川の漁協が9月7日の集会で使った資料にも明らかにされています。知事は何をもって「下流都県が水を必要としている」と言うのでしょうか。知事は、事実に基づいて発言すべきです。

漁協の関係者がこのサイトを読んでいたら、福田知事が「下流都県が水を必要としている」と発言する数量的根拠を公開質問することをお勧めしたいと思います。説明できなければ、「反対できない」という知事の立場は崩れることになります。

昔の人は、「知事と言えば親も同然、県民は子も同然」と言ったものです。親は子どもが罪を犯したとしても無条件にかばってしまうものです。ところが知事は、なんにも悪いことをしていない漁協組合員や県民を守ろうとしません。水が必要だと言っている都県の利益の方が大切だというわけです。ところが都県が水を必要としているかどうかについて知事はきちんと、科学的に説明していません。

(文責:事務局)
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