ダムが水道料金を上げる?でも紹介したように、水道部のホームページに「第4回水道事業懇談会が開催されました」(PDFファイル)という記事が掲載されています。
今回の資料には、鹿沼市水道ビジョンの原案が載っています。
気がついたことを以下に記します。
●科学的な議論をなぜしないのか
p18では、クリプトスポリジウム対策として紫外線処理をする必要があると書かれています。
クリプトスポリジウムの指標菌となる大腸菌と嫌気性芽胞菌については、相変わらず検出されたかされないかの定性的な結果しか示していません。定量的な議論が欠けています。
水道業界では菌の検出量によってランク付けをしていると言います。ランクによって対応は違うはずです。
いつどこでどれだけの量が検出されたのかという視点が欠けた議論は非科学的だと思います。
鹿沼市は、なぜ科学的な考え方をしないのでしょうか。
●表流水に減量の可能性はあるのか
p20に「表流水に依存する取水量は当初よりも抑えられる可能性もある」と書かれていますが、意味が分かりません。
毎秒何トンが何トンに減るというのでしょうか。毎秒0.2トンが毎秒0.1トンに減る可能性があるのでしょうか。毎秒0.2トンが0になるのなら、端的に「表流水に依存できなくなる可能性もある」と書くべきです。
●意味不明
p20に「一日最大給水量37,800m3/日<取水可能量37,590m3/日」と書かれています。"<"の意味が分かりません。
●水需要は増加するのか
p21に次のように書かれています。
給水区域の拡大や世帯数の増加が見込まれるため、安定供給を行うためには新たな水源の確保は重要な課題です。
「見込まれるため、」の次に「水需要が増加するから」が抜けています。「水需要が増加するから」を補わないと文章がつながりません。
「給水区域の拡大」も「給水区域の拡大による給水人口の増加」の意味でしょう。給水区域が拡大すれば給水人口が増えるという前提での議論でしょう。
要するに、給水人口と世帯数の増加が見込まれるため、水需要が増加し、新たな水源が必要になると当局は言っています。
給水人口が増えると水需要が増えるでしょうか。
実際には、給水人口と水需要(1日最大給水量)は、相関していません。
給水人口は一貫して増えていますが、1日最大給水量は1994年度の35,739m3/日をピークに減少傾向にあります。
第4回懇談会の会議録のp2にも書かれているように、給水区域の拡張を行っても「実情は加入率が低い」のです。だから、給水区域の拡張は、給水人口の増加にも、水需要の増加にもストレートには結び付かないのです。
では、世帯数が増えれば、水需要は増えるでしょうか。
鹿沼市では世帯数は一貫して増えていますが、上記のように1日最大給水量は1994年度以降減少傾向にあります。世帯数と水需要(1日最大給水量)は相関していません。
給水人口と世帯数が増えても水需要は減っています。給水人口や世帯数が増えれば水需要が増えるという関係が成り立ちません。
したがって、「給水区域の拡大や世帯数の増加が見込まれるため、安定供給を行うためには新たな水源の確保は重要な課題です。」という命題が正しいとは思えません。
給水人口も世帯数もかつては水需要を増やす要因と考えられてきましたが、実際には、水需要との相関関係が見られなくなってきています。なぜ相関関係が見られなくなったのかと言えば、それらの増加要因よりも大きな減少要因が存在するからです。大きな減少要因とは、節水型トイレや節水型洗濯機などの節水機器の普及であると考えられています。
当局は、水需要の減少要因には目を向けず、増加要因だけを挙げて、水需要が増える、新たな水源が必要だ、と言っているのです。
当局が、実際には水需要と相関関係の認められない給水人口や世帯数を増加要因に挙げていること自体が、水需要が増加する見込みがないことの証左ではないでしょうか。
●粟野地域に上水道をつなぐのか
p21に次のように書かれています。
現在の適正利用量は、旧鹿沼市を対象とした『鹿沼市地下水調査報告書(平成16年3月)』を基にしたものであり、今後は事業統合を予定しているため、旧粟野地区も含めての適正利用量を把握する必要性もあります。
これも理解できません。粟野地域の簡易水道と鹿沼市上水道の水道管をつなぐ予定はないのですから、粟野地域を含めて(上水道における)地下水の適正利用量を議論することは、混乱を招くだけだと思います。
●適正利用量23,187m3/日は地下水賦存量から求めた適正な取水量ではない
p21の図4.3のグラフの中で「適正利用量23,187m3/日」が「地下水賦存量から求めた適正な取水量」というのは完全な誤りです。誤りでないというなら、当局は適正利用量23,187m3/日と鹿沼市の地下水賦存量との関係が書かれている地下水調査報告書の記述を示すべきです。示せないはずです。なぜなら、地下水調査報告書には、上水道の適正利用量は、各浄水場を代表する井戸の警戒水位から求めたと書いてあるからです。
第2回の説明資料のp21では、『鹿沼市地下水調査報告書(平成16年3月)』の「再評価についても検討課題となります。」と書かれていたのに、鹿沼市水道ビジョン(案)では、この記述が消えてしまったのはどういうわけでしょうか。
『鹿沼市地下水調査報告書(平成16年3月)』の結論は、鹿沼市上水道においては、地下水を23,187m3/日を超えて取水してはならないというものです。この結論を前提にすれば、新規水源は絶対に必要になります。
●水源に余裕はある
p21に鹿沼市が作成した水需要のグラフがありますが、実績と推計の線が連続していません。
1日最大給水量のグラフが実績と推計で連続性がないのは、推計が正しくないことの証拠です。このような過大な推計をすれば、水源は足りなくなります。鹿沼市が過大な推計を基に、さらに余裕を見て水源を確保するならば、二重に余裕を見ることになりますから、過剰な水源を確保することになります。
当局は、計画負荷率を過去10年間の実績値の最小値を採用したから推計は正しいと言っていますが、このような計画負荷率の設定の仕方は異常です。宇都宮市では、計画負荷率を過去10年間の実績値の平均値としています。水需要が減少傾向にあれば、平均値を採用しても水源に余裕はできます。
鹿沼市上水道の1日最大給水量は3万m3/日前後です。これに対して、地下水の取水可能量は36,290m3/日(第5浄水場の第2取水井1,300m3/日を除いても)です。水源には2割以上の余裕があります。十分な余裕ではないでしょうか。2割以上の余裕で足りないなら、当局は一体何割の余裕があれば満足するのでしょうか。新規の水源が必要とは思えません。
鹿沼市水道ビジョンには、表流水であれ地下水であれとにかく新規水源を確保するという強い意思が読み取れますが、老朽施設の更新に莫大な経費が見込まれるというのに、新規水源の確保のためにカネを使う場合ではないと思います。