今泉判決は崩れた(その1)〜栃木県南2市3町に新規水需要は存在しないことを県が認めた〜

2013年6月2日

●今泉判決は南摩ダム利水で崩壊した

栃木県の3ダム訴訟の第1審において、被告栃木県知事は、栃木県が思川開発事業に利水参画する主な理由として、新規水需要に備える必要があること及び水源転換による地盤沈下対策を挙げていました。

2011年3月24日、宇都宮地方裁判所(今泉秀和・裁判長)は、被告の言い分を鵜呑みにした不当判決(以下「今泉判決」という。)を下しました。

しかし、それらの理由が成り立たないことを控訴審において栃木県自身が明らかにしたために、今泉判決は、少なくとも思川開発事業の利水については、完全に崩壊しました。

●栃木県の思川開発事業参画の理由は二本立てだった

栃木県は、2001年2月23日付け水第199号 環衛第52−8号で(企画部長と保健福祉部長の連名で、ということ。)県南市町の長あてに「思川開発事業に係る水需要調査について」という文書を発送して、県南の関係市町に思川開発事業への参画要望について調査しました。

報告書の様式のタイトルは「水需要量について」とされ、「このことについて、次のとおり報告いたします。なお、この水需要量に対する水源としては、思川開発事業に参画し確保する考えであります。」と続きます。

水需要量として、「2025年における水需要予測量」を日量で報告する様式となっています。

この報告用紙には別紙が付いていて、そこには次のように書かれています。

2025年における水需要予測量の内訳
・新規水需要量  m3/日
・地下水転換量  m3/日

「地下水転換量」とは、水道水源の地下水を表流水に転換するための水量のことです。

栃木県は、思川開発事業に関する2001年の調査時から、参画する理由として、関係市町における「新規水需要」と「水源転換」の二本立てで考えていたのです。

●新規水需要量:転換水量=3:7だった

この水源転換に予定していた水量は、かなりの割合でした。

「最終的に小山市を含めた県南地域に1.04m3/秒(8万9841m3/日)の水需要があると被告は主張するが、削減予定の地下水源が0.4841m3/秒(4万1827m3/日)もあるのだから、新規水需要は正味0.5559m3/秒(4万80143/日)にすぎない。」(原告準備書面10のp7)のです。

すなわち、2001年6月当時の参画水量1.04m3/秒のうちの0.4841m3/秒が転換水量だったわけで、その割合は46.5%にもなります。

しかし、栃木県全体(小山市及び鹿沼市を含む。)の正味の参画水量は、1.04m3/秒ではありませんでした。

栃木県全体の参画水量1.04m3/秒のうちの0.223m3/秒は、福田昭夫・栃木県知事(当時)が鹿沼市に無理矢理押し付けた水増しの水量です(この辺の事情は、原告準備書面10のp8の(13)に記載されています。また、過去記事栃木県の思川開発事業参画のカラクリにも記載しました。)。

また、小山市の転換水量のために県が確保した0.12m3/秒も、小山市が要望していないのに県が勝手に「上乗せ」(2001年6月21日付け下野新聞)した水量であり水増しです。

したがって、栃木県の正味の参画水量は1.04m3/秒−(0.223m3/秒+0.12m3/秒)=0.697m3/秒でした。

この正味の参画水量0.697m3/秒で転換水量の0.4841m3/秒を割ると、69.5%ですから、参画水量のおよそ7割が転換水量だったことになります。

したがって、思川開発事業に関係する栃木県南(小山市を含む。)の新規水需要量は、参画水量の3割にすぎなかったことになります。

●栃木県は裁判でも二本立てを主張していた

私たちは、南摩ダム等三つのダム事業に対する栃木県の支出が無駄遣いであるとの訴訟を2004年11月9日に提起しました。

栃木県が思川開発事業に参画する理由について、被告栃木県知事は、次の理由を挙げています(3ダム訴訟の被告第7準備書面p5。2007年4月16日)。
(1) 将来の水道普及率増に伴う新規需要への対応
(2) 地下水位低下のおそれへの対応
(3) 地下水汚染のおそれへの対応
(4) 地盤沈下対策

注意しなければならないのは、被告が「将来の水道普及率増に伴う新規需要」と言っていることです。

被告は、「産業の開発又は発展及び都市人口の増加に伴い用水を必要とする地域に対する水」(水資源開発促進法第1条)としての水需要があることを堂々と主張することができず、「少なくとも水道普及率が上がることに伴う新規需要だけはあるはずだ」という旨の主張しかできなかったのです。

しかも栃木県は、その新規需要がどれだけあるのかを定量的に明らかにする作業を2011年2月1日と2012年6月29日に国から求められるまではやろうとしませんでした。

●1審判決も思川開発事業への参画理由は二本立てだった

そして宇都宮地方裁判所(今泉秀和・裁判長)の判決(2011年3月24日)は、栃木県の参画理由についての県側の主張を全面的に認めました(p44、45)。つまり、栃木県が思川開発事業に参画する理由として「新規水需要の存在」と「水源転換の必要性」を挙げたのです。

ちなみに、新規水需要について今泉判決は、「栃木県及び各市町がした行政区域内人口、給水人口及び一日最大給水量などの水需要予測の推計は、実績と比べると過大になっており、近年の人口変動状況に照らし、今後直ちに実績が推計に沿うことをうかがわせる証拠もない」と、原告の主張を認めながら、「水道事業の性質及びその重要性に照らし、栃木県及び各市町が水道事業者としての責務を果たすためには、将来にわたり安定的な給水業務を実施するため余裕をもった水需要予測をすることはやむを得ない面がある」と述べたのです。

水道事業者が余裕を持って水源を確保することは当然のことと思いますが、そうであれば、知事が「余裕」としての必要量を主張・立証すべきですが、今泉判決は、給水業務における「余裕」の定義も審理せずに、水需要予測は過大でもやむを得ない、とまで言って県側の肩を持ったのです。今泉判決は、審理不尽の偏向裁判です。

ちなみに今泉判決には、「栃木県は、(略)水道事業を営んでおり」(p31)とか「水道事業者として」と書かれていますが、栃木県の場合、栃木県は現在水道事業者ではないし、栃木県が将来水道事業者となる計画もありません。

今泉裁判長らは、水道法第3条に規定する「水道事業」と「水道用水供給事業」の定義を理解していないということです。

今泉裁判長らがなぜこのような間違いを犯したのかについて、栃木県側代理人は、2013年5月16日開催の3ダム訴訟弁論準備において、今泉判決は、東京都民が起こしている八ツ場ダム訴訟の東京地裁判決をそっくりまねをしたためであると指摘しました。妥当な見方でしょう。

東京地裁判決を丸写しするような手抜き判決は、破棄されなければなりません。

●栃木県は新規水需要がないことを認めた

しかし栃木県は、2012年11月27日に「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討(案)」を公表しました。

2013年3月に公表された「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」(以下「報告書」という。)とほぼ同じ内容です。

報告書で言うと、p27には、2市3町(栃木市、下野市、壬生町、野木町、岩舟町)の上水道における2010年度の1日最大給水量は103,305m3/日でしたが、2030年度には96,200m3/日に減少すると推計しています。県は、2市3町の1日最大給水量が21年間で7,105m3/日(約6.9%)減少すると推計しました。

水需要の増加要因は考慮しても減少要因は考慮しない(報告書p2〜5参照)栃木県の恣意的な推計によっても、上水道普及率が90.4%(2010年度)から98.5%(2030年度)に上がる(報告書p27図表4−1)ことによる水需要の増加は県の目論みどおり見込めるとしても、人口と給水人口が減少すること等により打ち消されてしまうということです。

栃木県は、2012年6月に国から催促されて、自ら2市3町の水需要予測を行った結果、同年11月27日になって、私たちが主張してきたように、2市3町の水需要は今後減少することを初めて認めたのです。

栃木県は、2市3町の新規水需要については、遂に白旗を揚げたのです。2012年11月27日は、思川開発事業における歴史の転換点と言えます。

●栃木県は新規水需要があると主張した

ところが、栃木県は、2013年2月になると、思川開発事業に参画する理由は、次のとおりであると主張しました(被控訴人第2準備書面(2013年2月28日付け))。
(1) 将来の水道普及率増に伴う新規需要
(2) 地下水位低下への対応
(3) 地下水汚染への対応
(4) 地盤沈下対策

●栃木県は新規水需要が見込めないという内容の報告書を証拠とした

ところが栃木県は、2市3町において新規水需要は見込めないという内容の報告書を、2013年4月12日付けで乙第93号証として東京高裁に提出しました。

●栃木県の主張は支離滅裂だ

栃木県は、2007年4月には将来の水道普及率増に伴う新規需要があると主張していたのに、2012年11月には2市3町の水需要が増えないという見解を表明し、2013年2月には、先祖帰りをして、将来の水道普及率増に伴う新規需要があると裁判で主張し、同年4月には、2市3町の新規水需要は見込めないとする内容の報告書を証拠として東京高等裁判所に提出したのです。

栃木県の主張を箇条書きにすると以下のとおりです。
・2007年4月  栃木県南地域に新規水需要がある
・2012年11月  2市3町に新規水需要はない
・2013年2月  2市3町に新規水需要がある
・2013年4月  2市3町に新規水需要はない

支離滅裂というほかありません。

栃木県は、裁判所や県民を愚弄しています。

いずれにせよ、栃木県の現在までの最終的な主張は、2市3町に新規水需要はないということですから、2市3町の水需要が今後増えないことは、訴訟当事者間に争いのない事実となったわけです。

したがって、今後控訴審において、栃木県が2市3町の水需要が増えると主張しても相手にされないでしょう。

したがって、栃木県が思川開発事業に参画する理由は、水源転換しかないことがはっきりしたわけです。

●今泉判決は崩壊した

栃木県が思川開発事業に参画する理由が水源転換しかないことは、今泉判決の崩壊を意味します。

今泉判決は、思川開発事業の利水問題について、各関係市町における「余裕をもった水需要予測」による新規水需要の存在と「地下水利用による地盤沈下や地下水汚染の影響等」への対応策としての水源転換の必要性から栃木県が思川開発事業に参画したことに「裁量権の逸脱又は濫用があったとまでいうことはでき」(p45)ないと判示します。

今泉判決は、「新規水需要の存在」と「水源転換の必要性」という二つの事実を前提としています。

ところが、国が進める思川開発事業の検証における検討作業において、栃木県全体の水需要予測ではなく、参画市町に限った水需要予測を明らかにすることを検討主体から迫られた栃木県が、2市3町における新規水需要が存在しないことを、控訴審において証拠(乙第93号証)をもって自白したのですから、今泉判決の論拠の一角は崩れたことになります。

このことだけをもってしても、関係市町の水需要は増えないどころか減ると見込むべきだという原告らの主張を無視して、被告の裁量権の逸脱又は濫用を否定した今泉判決が間違いであったことは明白であり、破棄を免れません。

したがって控訴審は、水源転換という理由だけで栃木県が思川開発事業に0.403m3/秒の水量を確保するために公金を支出することが違法かどうかを判断すべきことになります。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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