栃木県の思川開発事業参画のカラクリ

2009-02-27

●2001年3月時点の栃木県の要望水量は0.86m3/秒だった

2001年3月に栃木県が取りまとめた県南地域(鹿沼市を除く2市8町)における思川開発事業への参画要望水量は、0.66m3/秒でした。「思川開発事業に係る水需要調査」であったにもかかわらず、この要望水量の結果表の欄外には、「鹿沼市(東大芦川ダム)(0.2)」と書き加えられていました。東大芦川ダムの中止に備えて、鹿沼市の0.2m3/秒を県保有水として思川開発事業で確保する可能性があったからです。思川開発事業への参画水量は、両方を足しても0.86m3/秒でした。

●栃木県の参画水量は1.00m3/秒を超える必要があった

ところが栃木県は、この水量で思川開発事業に参画することは妥当でないと考えていました。なぜなら、福田昭夫知事(当時)は、「代替水源の県保有水、いわゆる鬼怒工業用水の転換を図っても、需要に応じるには不足する」(2001-06-07下野)と議会で説明しているからです。

使われていない鬼怒工業用水(川治ダムの水利権)の量は、1.00m3/秒です。栃木県内の要望水量が1.00m3/秒を超えないと、「余っている鬼怒工業用水を水道用水に転換すれば足りるではないか」という批判が出るので、県はそれをつぶしておきたかったということになります。要するに、余りにも少ない参画水量では、県民に対して説得力が出ないということでしょう。

県は何とかして要望水量を1.00m3/秒を超える量にして思川開発事業に参画しようとしていました。その理由は、栃木県の要望水量が1.00m3/秒未満で余剰水利権で対応できてしまうと、栃木県は思川開発事業に参画する必要がなくなり、その結果、思川開発事業自体が中止となってしまい、移転対象者の生活再建が図れなくなるということにあります。栃木県が思川開発事業に参画した理由 で紹介したように、県には次のような本末転倒した考え方がありました。

下流県の需要水量だけでは開発水量が過小となるため思川開発事業自体が中止となる可能性があり、その場合には移転対象者の生活再建対策が図れなくなる


●要望水量を増加させるための画策

そこで栃木県は、県内の要望水量を1.00m3/秒を超える水量にするために画策しました。

栃木県が都賀町に対して「使った水量分だけ支払えばいい」とウソの説明をしたために、都賀町は一時は0.080m3/秒で要望水量を報告しました(後記朝日記事による)が、結局都賀町は参画しませんでした。

そんな努力はしてみましたが、県南8町の参画水量は人口規模から考えてもたかが知れているので、結局、栃木県としては、小山市と栃木市と鹿沼市に要望水量を増やしてもらうしか手がありませんでした。

●栃木市は増加に応じた

栃木市は、市長が思川開発事業促進協議会の会長であり、一刻も早く同事業を完成させてもらわないと困ると言っていたのですが、ふたを開けてみれば、2001年の1回目の水需要調査報告では、0.06m3/秒の要望水量でした。その後、県が圧力をかけた結果でしょうが、要望水量を0.10m3/秒に増量させることに成功しました。それでも0.04m3/秒しか増やせませんでした。

●小山市は県に抵抗した

小山市は、3月8日の報告では、0.219m3/秒の単独参画分のほかに、地下水源を表流水に転換するための水源として0.20m3/秒の確保を県に要望していましたので、合計で0.419m3/秒の要望水量でしたが、6月15日の回答では、「地下水転換については、県の責任で対応されたい。」と反発したため、県は逆に0.20m3/秒を減らされる結果となってしまいました。最終報告の時期は6月でしたが、小山市では3月から4月にかけて既に減量に向けて県と交渉を重ねていたものと思います。

●鹿沼市も増加に応じた

そこで県にねらわれたのが鹿沼市だったのでしょう。

鹿沼市は、2001年2月の調査では、[東大芦川ダムに参画するから、思川開発事業には参画しない]と報告していましたが、2001年4月23日に福田昭夫知事自ら鹿沼市に乗り込み、阿部和夫鹿沼市長(当時)と直談判した結果、鹿沼市は同年4月26日に「表流水の需要量は0.423m3/秒」とする内容の報告書を提出しました。

0.423m3/秒とは、日量に直すと、0.423m3/秒*60秒*60分*24時間=36,547m3/日となります。鹿沼市は既に38,100m3/日の地下水源を持っています。合計すると74,647m3/日になります。鹿沼市の2007年度の1人1日最大給水量は384リットルですから、74,647m3/日÷384リットル/人・日=194,393人分の水道用水になります。

鹿沼市が19万人分の水道水源を確保しなければならないという虚構の上に思川開発事業は成り立っているということです。

●鹿沼市の増量が栃木県の参画を決定づけた

その結果、2001年6月に栃木県が県内市町から取りまとめた思川開発事業への参画水量は、当初1.08m3/秒でしたが、最終的には1.04m3/秒となりました。

このうち鹿沼市の要望水量は0.423m3/秒ですから、栃木県全体の要望水量1.04m3/秒の40.7%ということになります。

2001-06-06朝日は、「水需要、鹿沼市が突出」という見出しで独自調査の結果を報道しました。鹿沼市が参画しなければ栃木県の参画水量は0.617m3/秒ですから、1.00m3/秒をはるかに下回り、栃木県が思川開発事業に参画する必要がなくなり、ひいては同事業が中止に追い込まれる可能性が大いにありました。

●小野口幸司議員の質問

2001年6月13日、鹿沼市議会一般質問で小野口幸司議員は、次のように質問しました。

(小野口議員)
(福田昭夫)知事が(思川開発事業への参画を)決断した理由が何点か報道されておりますけれども、その中で地元の阿部市長との懇談、またダム推進の署名、この決断前ですと5万4,258人、この声が大きく影響したものと思うところです。報道によりますと、知事との懇談の際、鹿沼市が新たに南摩ダムについて取水を要望したとのことでありました。その量は東大芦川ダムでの取水計画よりも多い毎秒0.22tとのことであります。(中略)この新たに追加いたしました南摩ダム取水の目的、理由につきましてお聞かせ願いたいと思います。2点目でありますが、新たに追加した南摩ダムから取水することによる負担金はどのぐらいになるのか、お聞かせ願いたいと思います。

(阿部和夫市長)
南摩ダムからの新たな取水の目的についてでありますが、ご存知のとおり、ダム見直しを公約にした知事が当選したことにより、県では思川開発事業及び東大芦川ダム建設事業について、県庁内の思川開発事業等検討委員会で県南地域の水需要や取水計画などが検討されてきました。

この結果、思川開発事業にかかわる水需要の再調査が行われることになり、本市に対し水需要量について報告するように県から求められました。このため、県には市の状況や将来の水事情等を総合的に判断し、表流水の需要量として毎秒0.423tで報告しました。この中には第5次拡張計画の毎秒0.2t分についても含まれていますが、この数量については今後も県との基本協定に基づき、東大芦川ダムにより開発される水を利用することで協議していく考えであります。

また、新たに追加した毎秒0.223tについては、南押原地区を始め、新たな(地下)水源の確保が難しいことや、地下水の汚染、地下水位の低下、地下水くみ上げによる地盤沈下や、市の将来人口を11万人とした場合に、普及されていない上水道の区域や、板荷、西大芦などの簡易水道の区域、及び新たな民間開発などによる簡易水道の区域などの水源利用を総合的に勘案して算出した最大値であります。

本市といたしましては、南摩ダムから取水することを前提として県に提出した数量ではありませんので、今後は本市が不利益にならないよう対処していきたいと考えております。

次に、南摩ダムから取水する負担金はいくらになるかについてでありますが、現段階では、先ほども説明を申し上げました0.223t、南摩ダムからの取水を前提としておりませんので、負担金の検討はしておりません。

(小野口議員)
新聞の報道によりますと、知事との懇談の際、阿部市長が新たに南摩ダムからの取水、0.22t、これを要望したということが載っていたと思うのです。そういったことを質問しまして、ダムの負担金やら、新たに取水した目的やら理由やらをお聞きしたところですが、南押原地区の地下水のくみ上げが反対のような状況で難しいとか、今後の地下水取水ということは非常に困難であるということで南摩ダムからの取水をしたのかなと思ったのですが、何か先ほどの答弁ですと、南摩ダムからの取水を前提としていないのだというお話だったかのようにお聞きしまして、したがって負担金も考えていないのだというふうに聞こえましたので、この辺をもう一度詳しくお聞かせ願いたいと思います。

(阿部市長)
0.223tの取水についてよく分からないということを含めてどのような経過かということに疑問がある、こういうことだと思います。この件につきましては、4月23日の知事との懇談の際に、鹿沼市の水没者の意向、あるいは鹿沼市の水事情などについて説明を申し上げ、そして推進する方向で考えているのだというお話を申し上げてきたわけであります。

その際に水事情についての話に触れられまして、鹿沼市の水の利用というのはどのような方向で考えていられるのかということでありました。それにつきましては、やはり鹿沼市の0.2tについては、第4次水道拡張計画の中に位置づけをして、表流水ということでお願いをするということになっております。

しかも、それは東大芦川ダムからの取水で、負担金が15億8,100万円ということになっているわけでありますが、そのほかの水事情につきましては、鹿沼市が第5次拡張計画を進行する際、あるいは鹿沼市の将来を見ていく中にありまして、地下水に頼る部分が非常に地域とのコンセンサスを図ることができ得ない状況が生まれていること、11万1,100t(南押原地区から取水を予定していた地下水源1万1,100m3/秒の誤り)という数字があるわけです。それを含め、これからの人口増を考え、あるいは未整備地域の水の利用、あるいは各宅造などによる水の利用の増加などを勘案した結果、鹿沼市の水事情については、地下水に頼る部分も表流水に換算するならば0.223tでありますよと、このようなことになり、行政としてやはり地下水に頼ろうという部分も含めながらも、それが取水でき得ないということにはなりますと、市民に安全で安定した水の供給ができ得ないこともあるわけでありますから、そのようなことを考えながら、その0.223tについて提出をさせていただいた。

しかるに、その水事情でありますから、それがどのダムから、表流水から取ろうということについては、鹿沼市が決定することではなく、ダムを決定する県知事の裁量であると、このような判断に立った数字でありますので、ご理解を願いたいと思います。

阿部市長は、鹿沼市がどの表流水を水源とするかは、知事の裁量であると言っていますが、阿部市長は、南摩ダムから取水することを前提としていないと言っているのですから、矛盾します。

新聞には鹿沼市が追加分として0.223m3/秒を思川開発事業に参画要望したと載っていたのに、市長は南摩ダムからの取水を前提としない数量だったと答えており、小野口議員の疑問は解消されないまま質疑は終了しました。

●芳田利雄議員の質問

翌日の6月14日、芳田利雄議員は、次のように発言しています。

(芳田利雄議員)
(福田昭夫)知事が(南摩)ダム中止を打ち出せなかったのは、県議会の圧力に負けたとか補償問題があったからだとか言われておりますが、正式には下流県と県内の水需要を検討した結果となっております。

県内の水需要は、鬼怒川の水でまかなうというのが南摩ダム中止の有力な代案でもありましたが、鹿沼市が南摩ダムの水を0.42tもらいたいと申し出たために、鬼怒川の水では足りず、結局南摩ダム推進の結論になったと新聞が報道をしております。南摩ダム推進の知事の結論には、鹿沼市が極めて重要な役割を担ったことになると思います。

しかし、これは大変おかしなことです。市長は、これまで「南摩ダムは国の問題」、このように議会で答弁をしてきました。南摩ダムに要求した0.42tの水については、市民も議会もまさに寝耳に水です。0.42tは、東大芦川ダムが中止になった場合の0.2tと、新たな水需要0.22tを足したものだそうですが、新たな水需要についてはこれまで議会に何の説明もない。

水需要がいきなり2倍になり、鹿沼市が南摩ダムの事業にいきなり参入することになり、市民はあっけにとられております。余りにも唐突であり、こんなことでは市政に対する市民の信頼が失われ、阿部市長への信頼も失われることになると思います。(中略)

そして、4点目は、南摩ダムの水をもらう場合、負担金が83億円と言われております。大芦川ダムの負担金の5倍以上であり、水道水を南摩ダムに頼るとすれば、水道料金が物すごく高くなります。私の試算でも、今の水道料金の3倍、4人家族で1万2,800円近くにはね上がる。栃木県で一番高くなるのではないか、このように思います。

市の方では、これについて計算をしていないということですが、そんなはずないと思います。市の方の計算した内容を示していただきたい。そして、その高い水道料金に対して市民の同意が得られると考えているのかどうかも答えていただきたい。(中略)

そして、3点目は鹿沼市の水需要について、要求量0.42tの根拠も示していただきたい。鹿沼市は人口の見直しをして、人口はそんなに増えないということになりました。こういう点について、根拠も示していただきたい。

(吉高神勇水道課長)
次に、ダム問題についてのうち、南摩ダムの水を使うと水道料金はどのくらいになるかについてですが、先日18番、小野口議員の質問に市長が答弁しましたとおり、新規地下水を取水できない場合として、県の求めに応じ報告したものであり、費用負担については触れておりませんので、水道料金にどのように与えるか試算できない状況であります。

 次に、鹿沼市の水需要について、要求量の0.42tの根拠についてでありますが、先日18番、小野口議員の質問に市長が答弁したとおり、東大芦川ダムからの毎秒0.2tを含め、新規地下水分や第5次拡張事業区域外で未普及地域となっております板荷などの分、将来市へ移管される可能性の高い民間開発による住宅団地分など、将来人口11万に対応するため、地下水で取水できないことを想定し、県の求めに応じ算出した数字であります。  

 (芳田議員)
 そういう意味では南摩ダムというのは、一口で言えば大谷川からの取水でなり立つダムだったのだと。これが、先ほど言ったような経過をたどって昨年の7月、大谷川からの取水を断念した。この時点で、やはり大谷川からの取水がないから、南摩ダムは中止にすべきだったのだと。

 ところが、大谷川からの取水がなくても事業は成立するのだという建設省の見解が発表されて、それにあわせて数字合わせをしたかのように、それでは小さなダムをつくって下流にいろいろ利水計画を立てようという形でやっているわけです。  

 だから、こういう点では黒川、大芦川からの南摩ダムへの導水、取水は鹿沼の自然環境を大きく破壊する大もとになるのだということで、私は、こういう事業には鹿沼市の行政としては参画しない、やっぱりはっきりした態度を示すことが重要だろうと思います。  

 二つ目には、負担の問題です。まだ計算をしていないとか、具体的にならないとかで答弁がありましたけれども、そんなことはないと思うのです。私が計算して83億、正確には83億4,500万円鹿沼市の負担分が出るのです。これは、助役、そんな顔して言っているけれども、あんた東大芦ダムの検討委員会に出て資料持っているでしょう。私もそこへ出ましたから、その中に、県で出した代替案に載っているのだから、これ。   

 代替案第3案の中で、もし東大芦ダムをつくらないで南摩ダムから補給した場合にはこうなりますよと。導水施設に20億円かかると。南摩ダムの負担金として0.2tで30億円です。0.42tですから、83億4,500万円になるわけです。今までの浄水場の施設と導水管の施設の計算をしたのが166億円ですから、そこに83億4,500万円を足せば、今の水道料金のちょうど3倍です。   

 ちょうど今提案されている水道料金の4人家族での、1世帯当たり4人家族での料金で逆算すれば、3倍で1万2,600円です。そこまで水道料金は上がることになっている。鹿沼市が栃木県で一番高い、水道料金になるのも、このダムをつくってダムから水を取れば夢ではない。近々そういう方向だって生まれかねない。そういうことですから、この点で料金が計算できないなんていうのは、都合の悪いのは計算できなくて、都合のいいのだけどんどん数字を出してくるなんていうのは困ります。しっかりこれについても答弁をしていただきたい。   

 そして、この問題では市長もです、こういう高い料金になるのだという情報を出さないで、それを議会にも余りわからないで、市民の同意を得られないことを知っていて、「県の方が最終的には決めることですから県の判断に任せます」と、「私は決められません」と、こういう形の逃げ方は余りよくない、このように思います。    

 最後です。新たに0.223tを南摩ダムに取水を求めるということで、その根拠はということで答弁がありました。その答弁の中では、一つは南押原の地下水、取水可能な1万1,100tが使えないときを想定して、あるいは人口11万人を想定して、さらには新しくこれから住宅団地ができることを想定して、まだできていないのにできることを想定して、こういう理由を挙げました。     

 私は、南押原の地下水の利用については1万1,100t、これはやはり大きな水量ですから、押原地区に浄水場をつくって、皆さんの水は皆さんの地域に配りますと、こういう訴えをして、協力は得られるのではないかと思います。そういう努力を重ねてやってほしい。     

 あるいは、人口11万人を想定してといっても、ついこの間の3月議会で11万人の人口目標を見直したのです。2005年までに10万3,000人の人口計画目標だったものを、9万6,000人に下方修正しているのではないですか。それを11万人にまた置きかえて、最大の水需要量がこれなのだと0.223t出した。0.223tの根拠は、まだまだ不十分です。答えていただきたい。     

(阿部市長)
 先ほどの答弁にもありましたとおりに、水資源開発公団では、今大谷川からの取水も含めて、シミュレーションがあり、また取水がない場合のシミュレーションもあるということでして、やはりダムとして成立はすると、こういうふうな見解になっているわけでありまして、私としては再三申し上げておりますが、生活再建の問題、あるいは鹿沼の水事情、そういうことを数々をかんがみた上で、その推進という決意をさせていただいたわけですので、ご理解をいただきたいと思います。     

 また、ダムからの取水による水道料金が算出できないというのは問題だと、こういうことでありますが、南摩ダムからの取水ということを行政として今考えていることではなくて、東大芦川ダムからの取水を考えているわけでありますから、試算については我々は検討をしていない、そういうことであります。       

 いずれにしましても、先ほどの検討委員会の資料の中には、1t当たり150億円の水だと、そのようなことは出ておりますが、あくまでも東大芦川ダム側の負担金が10億8,100万円(15億8,100万円の誤り)ということであり、隔たりが非常に大きいこともありまして、どうしても東大芦川ダムから鹿沼の水需要を協力をいただくと、このような考えでいるわけでおりますので、料金の算定などする必要はないと、考えております。       

 また、0.223tに触れたものと理解はしておりますが、0.423tを、市から県に水需要として提出をした経緯でありますが、その算出根拠の11万人の人口が、先ほど計画の中で9万6,000人という想定があったにもかかわらず、最近またそのような数字が出てきたということを踏まえての質問だと思います。        

 いずれにしましても、この0.223tの根拠につきましては、先ほど来南押原地域の水道の普及を図りながら、1万1,100tの取水をさせてくださいと申し上げておるわけでありますが、なかなかその了解が得られない状況があります。その1万1,100t、あるいは新たな団地が、あるいは宅地造成がないという、あるいは仮想であるのではないかという感じで今聞いておったわけですが、現に2団地の造成開発に関する協議が今出されている状況もありまして、そのようなことも踏まえた人口増などもかんがみ、あるいは未普及地域があります。板荷、あるいは久我などを含めたそういうところへ、22年度までに全市民が安全で安心した水が飲めるような方策を考えていきたいということですから、どうしても水の需要というものはさらにふえることと予想され、そして、水需要を、どこから取水するということではなくて、鹿沼の水需要はこのような状況にありますよと県に報告をさせていただいたわけでありますので、ご理解をいただきたいと思います。        

(芳田議員)
 ダムの問題は、こういう事態になりましたからは、これから大変なことになるのではないかなと思うのですが、そもそも福田知事の場合には、鬼怒工水、鬼怒川を流れる工業用水、毎秒1tの水が未利用水として流れております。思川、南摩ダムの水を利用する県南自治体の水需要量がもし1tを超えなければ、この鬼怒川の工業用水で補う、こういう考えであったのではないかと思うのです。        

 実態を調べたらば、県南の水需要量は0.66tでした。1tに満たなかった。これは、南摩ダムはもうできないのだろうと、そういう判断を私はしました。ところが、突然鹿沼市がそこに0.42tの手を挙げた。足して1.08tになって、工業用水ではもう補い切れないということで、南摩ダムの規模縮小をしてゴーサインを決断したというのがこれまでの経過であろうと思うのです。        

 そういう点では、その決断に至った鹿沼市の手を挙げた態度表明というのは、非常に大きな決定的な、ある意味では要因を示しただろうと思うのです。ところが、この0.223tについての根拠が、今ほども答弁ありましたけれども、ちょっとまだまだ理解できない。今説明を受けた中では、これまで東大芦ダムの0.2tの利水根拠、これと大体同じような理由を述べている、このように思います。そういう点では、そこら辺でもし水を使わなかったらば、ではこの83億4,500万円の負担あるいは費用額に対してどういう責任をとるのかと、こういう責任問題も出てきます。そういう点で、もう一度理解できるような、0.223tに対する説明をお願いして、私のお尋ねを終わります。        

(阿部市長)
 0.223tプラス0.2tで0.423tでありますが、この件について知事の判断というのは、私ははかり知れぬものがありますが、鬼怒工水が1tあるが、鹿沼の0.423tが乗ると1tを超すからダムの事業に参加すると、こういうことになったのではないかということでありますが、この件につきましては知事に聞かなければわからないことでありまして、私自身、0.2tの話は東大芦ダム側からの取水でありまして、0.223tにつきましては鹿沼市のこれからの水需要についてはこのような数字になりますよということで提示をさせていただいたということです。        

 合わせて0.423tという数字になると、こういうことでして、知事がどのような判断をされたかについては、私にははかり知れないところでありますので、ご理解を願いたいと思います。        
       

●議会答弁から分かったこと        

ここでは、鹿沼市の主張を整理しておきます。        

 阿部市長は、小野口議員への答弁の中で、0.423m3/秒は、「南摩ダムから取水することを前提として県に提出した数量ではありません」と明言しています。思川開発事業とは関係のない数字だと言っています。

また、鹿沼市の将来人口を11万人と想定した水需要だと言っています。

そして0.423m3/秒の根拠は、
新規地下水源が確保できなかった場合に備えて
地下水汚染に備えて
水位低下に備えて
地盤沈下を防止するため
上水道未普及地域への給水のため
簡易水道地区の水源のため
民間開発などにおける簡易水道のため
久我や板荷に給水するため
だと言っています。        

●0.423m3/秒を栃木県は要望と解釈した

阿部市長が「南摩ダムから取水することを前提として県に提出した数量ではありません」と明言していることについては、思川開発事業を考える流域の会会員が2001-10-15に県に次のような質問をしています。回答者は、栃木県環境衛生課の岡本氏です。        

 0.423m3/秒について鹿沼市が要望していないとしていることをどう理解しているのかについては、「鹿沼市からは文書で要望が出ていると理解しています。」でした。  

0.423m3/秒について鹿沼市が最大値にすぎないとしていることをどう解釈するのかについては、「計画水量は通常の場合、最大水量を元にしております。将来の予測水量であるため、将来減少する可能性は否定しません。」というものでした。        

 というわけで、将来鹿沼市が需要量を減らすことは織り込み済みだったというわけです。以上の経過により、鹿沼市の報告した0.423m3/秒は、栃木県が思川開発事業に参画するための"増量材"、文字通りの"水増し"として使われたのでした。        

●表流水需要の根拠はデタラメ

阿部市長は、0.423m3/秒について小野口議員の質問に「市の将来人口を11万人とした場合に、普及されていない上水道の区域や、板荷、西大芦などの簡易水道の区域、及び新たな民間開発などによる簡易水道の区域などの水源利用を総合的に勘案して算出した(表流水の)最大値であります。」と答弁しました。この数値を基に栃木県は思川開発事業に参画しました。

まず、旧鹿沼市の人口が11万人になるという想定が根拠のないものであるということが明らかですから、この点だけを見ても、阿部市長の答弁は合理性を欠きます。        

また、板荷や西大芦の簡易水道に南摩ダムでためた水を使うことなどおよそ考えられません。南摩ダムから遠く離れているし、標高差もあるので電力を使ってのポンプアップが必要です。技術的に可能だとしても超高額な水道料金となってしまうからです。        

とにもかくにも、栃木県は鹿沼市と一緒になってでっち上げた水需要で県全体の水需要を膨らませ、思川開発事業に参画したのです。        

●責任逃れのための仕掛け

架空の水需要に基づいてダム事業に参画した責任を福田昭夫知事と阿部和夫市長は負うべきであるということになってしまいそうですが、実は、鹿沼市から県への報告には追及されても逃げを打てるような仕掛けが施されていました。        

仕掛けその1

鹿沼市は、南摩ダムの水を要望するとは言っていません。鹿沼市は、2001年3月5日付けで思川開発事業に係る水需要調査について県に回答していますが、「東大芦川ダム建設事業に係る毎秒0.2m3については、県と協定済であるので、これを再確認したい。」と書いており、「要望する」とは書いてありません。        

同年4月23日に阿部市長と福田昭夫知事が会談した後の4月26日付けで鹿沼市は「知事懇談の際の鹿沼市の水需要について」という標題で県に報告していますが、「表流水の需要量 0.423m3/s」と書いており、ここでも「要望する」とは書いていません。        

仕掛けその2
上記のとおり2001年3月5日付けの回答では、「鹿沼市長阿部和夫」が発信者でした。ところが4月26日付けで鹿沼市は県に「表流水の需要量 0.423m3/s」と報告しましたが、この文書の発信者は「鹿沼市企画部部長鈴木義夫」でした。ちなみに、他の市町は、すべて市長又は町長の名義で報告書を提出しています。

       

要するに、阿部市長は、「板荷や西大芦の簡易水道という、南摩ダムとは無関係の水需要に基づいて鹿沼市が思川開発事業に参画したのは背任行為である」という批判に対しては、「要望するとは一言も言っていない。それに 0.423m3/秒と報告したのは、企画部長の裁量でやったことであり、自分の判断ではない」という言い訳が用意されていたのです。        

それでは、鹿沼市が要望していないのに、勝手に要望したと解釈した県が悪いのか、と知事を追及しようとすると、知事としては、「2001年2月23日付けで実施した水需要調査は、「思川開発事業に係る水需要調査について」だったのだから、鹿沼市が報告した0.423m3/秒は、思川開発事業への要望水量と解釈する」という言い訳を用意していたのです。        

要するに、鹿沼市の報告を巡る栃木県と鹿沼市の"解釈の違い"で住民からの批判をかわそうというねらいだったと思います。茶番です。需要予測は最大限に膨らませ、事業費は少なめに言っておき、始まってしまえばこっちのものとばかりに、需要予測が外れても、事業費が膨らんでもおかまいなし。適当な理屈をつけて市民をごまかして、とにかく税金を使わせてしまおうという、インチキ公共事業の典型を見る思いがします。        

●案の定、鹿沼市の参画水量は減った        

知事としては、鹿沼市に0.423m3/秒という数字を出してもらうことが必要でした。事業が始まってしまえば、鹿沼市の参画水量が0.20m3/秒に減ってもかまわないということです。栃木県環境衛生課の岡本氏が「計画水量は通常の場合、最大水量を元にしております。将来の予測水量であるため、将来減少する可能性は否定しません。」と言うのは、その意味です。        

ですから、私たちは、思川開発事業に係る住民訴訟において、「鹿沼市は、将来における表流水の需要量の上限値を目標年次も決めずに漠然と企画部長名で報告しただけであり、思川開発事業に参加を要望する意思を示していないので、鹿沼市は、東大芦川ダムの代替水源分0.2m3/秒については思川開発事業の建設負担金を支払うであろうが、0.223m3/秒についてはその支払いを拒否するものと思われる。」(2006年10月26日付け原告準備書面10の9頁)と指摘しました。        

2007年12月21日に開催された思川開発事業に関する再評価委員会の資料のp5を見ると、案の定、鹿沼市の参画水量は0.200m3/秒の単独参画となっていました。そして、栃木県の参画水量は、1.04m3/秒から0.822m3/秒へと21%も減少してしまったのです。

●鹿沼市の表流水の需要量はゼロになった        

2008年6月21日に新市長に就任した佐藤信市長は、7月22日の鹿沼市議会において、次のように答弁しました。        

「選挙のときに地下水でいいのだというお話をさせていただきました。」、「当然表流水を使うということになりますと、取水堰、浄水場等々の工事費用を含めると莫大な投資をすることになります。」、「水道料金にも当然大きくはね返ってまいりますから、でき得る限り地下水でしのいでいくほうがベター、ベストであることには間違いなかろうかと思います。」、「地下水でもって賄えるよう精いっぱい努力をしていきたい。」(芳田利雄議員の質問への答弁)         

市長が地下水でしのいでいくと言い出したのです。0.200m3/秒さえも不要だということです。再三書いているように、水利権は使うか使わないか、どちらかです。「取得するが使わない」という選択肢はありません。「使わない」ということは、「取得しない」ということです。そうすると、栃木県の参画水量は、0.622m3/秒だったことになります。県南市町の水需要予測を検討すると、すべて過大でデタラメなのですが、鹿沼市分だけを見ても、栃木県全体の参画水量の4割は確実に偽装だった言えるというわけです。         

思川開発事業は、0.418m3/秒(鹿沼市が創出した0.423m3/秒と微妙に合致しませんが)の水需要をでっち上げて栃木県が参画したダム計画だということです。こんなデタラメな計画を阿部前市長から継承し、支持しているのが、佐藤信市長ということになります。

●今後の注目点

上記のように佐藤市長は、2008年7月議会において、「当然表流水を使うということになりますと、取水堰、浄水場等々の工事費用を含めると莫大な投資をすることになります。」、「水道料金にも当然大きくはね返ってまいりますから、でき得る限り地下水でしのいでいくほうがベター、ベストであることには間違いなかろうかと思います。」、「地下水でもって賄えるよう精いっぱい努力をしていきたい。」と言ったのですから、表流水を取水するための浄水場を建設しないはずです。         

ところが、2009年度の水道予算に第6浄水場を新設するための予算が計上されたという話も聞きます。本当だとしたら、明白な公約違反になってしまいます。この点に関する真偽は3月議会の議案質疑や一般質問で明らかになると思いますので、注目したいと思います。

(文責:事務局)
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