南摩ダム推進の回答は7人

2011年4月2日

●ダム問題アンケート実施

4月10日に執行される栃木県議会議員選挙に立候補が予定されている人に対して、ムダなダムをストップさせる栃木の会がダム問題に関するアンケートを実施しました。

アンケート用紙は、3月1日までに発送し10日必着で回答を求めました。

栃木県議会議員の定数は50人で、立候補予定者は77人と報道されましたが、住所が確認できた76人の方に用紙を発送しました。

質問文と回答のまとめは、「八ツ場(やんば)あしたの会」のホームページ事務局だより:栃木県議選候補者へのアンケート結果にPDFファイルで掲載されていますので、是非ご参照ください。

●回答率は低かった

3月20日までに回答のあった人は21人で、回答率は27.6%でした。

三つのダムの建設費は、起債の利息を含めれば総額1兆94億円にもなります。内訳は、八ツ場ダム5846億円、湯西川ダム2147億円、南摩ダム2101億円です。

栃木県の負担額だけでも740億円になります。

栃木県では7割以上の県議立候補予定者は、栃木県が740億円を負担する事業に関心がないという解釈しかできません。

●南摩ダム推進派は7人

3月29日付け下野は、「県議選候補者にダムアンケート」「市民団体、回答21人」の見出しで記事を載せています。以下一部を引用します。

回答者の党派別(推薦を含む)内訳は自民党8、民主党6、公明党2、みんなの党1、共産党1、無所属3人。

南摩ダムの建設について、11人が「中止すべき」と回答。11人の党派別内訳は民主6、自民1、みんな1、共産1、無所属2人だった。一方「推進すべき」は6人で、内訳は自民4、公明2人だった。

このまとめ方は、「栃木の会」のまとめに従ったものですが、「推進すべき」と答えた自民党系を4人とするのは疑問です。

斉藤具秀氏(足利市)が「推進すべきと思いますか」に無回答としていますが、「中止すべきと思いますか」に「いいえ」と回答しているのですから、「推進すべき」となります。したがって、思川開発事業(南摩ダム)を推進すべきだと考えている候補者は、次の7人です。

斉藤具秀、亀田清、島田文男、栗田城、阿部寿一(以上自民)、野澤和一、山口恒夫(以上公明)

これに増渕賢一氏を加えれば8人となります。この点については後述します。

後に、島田文男氏は立候補しないことが判明しましたので、これを引くと南摩ダム推進派は7人ということになります。

仮にこの7人が当選したとしても、定数50人の県議のうち7人しか支持しない思川開発促進を県の政策とするのは民主主義に反すると思います。

もっとも議会で採決となれば賛成者は増えるということでしょう。議員になる前に考え方を表明しないのはフェアじゃないと思います。

●南摩ダム中止派は10人

南摩ダムの中止を支持するのが次の11人とまとめられています。

金井亨、佐藤栄、山田美也子、加藤正一、松井正一、船山幸雄(以上民主)、増渕賢一(自民)、野村節子(共産)、高橋修司(みんな)、西弘次(無所属)、本澤節子(無所属)

ただし、増渕氏を「南摩ダム中止」に分類するのは問題があります。

増渕氏は、県議のダム推進論に説得力はあるかでも彼の持論を紹介したように、自由記述欄に「基本的にダム建設には賛成。理由は21世紀は水が戦略物資となるから。南摩ダムの現計画には賛成できないが、当初(計画)に戻せば賛成」と書いています。

増渕氏は、大谷川取水、行川ダム、東大芦川ダムの復活を望んでいるのですから、「南摩ダム中止」でくくるのは問題です。

増渕氏は、ブログの南摩ダム問題を考えるで次のように書いています。

この様な経緯から憶測すれば、水量の乏しい思川水系だけで計画された南摩ダムは完成時に期待される水量を貯水できるのか?疑問符の付くダムなのである。

つまり、今の南摩ダム計画では水がたまらないだろうから賛成できないというのです。水がたまれば賛成というわけです。ただし、水の使い道については、具体的に示されていません。貯水量1億トンのダムを造る「理由は21世紀は水が戦略物資となるから。」なのだそうです。

問題は設問の解釈です。

設問を「現行の思川開発事業計画を推進すべきか」と狭く解釈すれば、増渕氏としては、「いいえ」となるでしょうが、「思川水系の水問題を導水ダムで解決する方向性が正しいと思うか」と広く解釈すれば、彼の回答は「はい」となります。

増渕氏の考え方は、思川開発事業の規模を大きくしろというもので、そうなれば環境破壊も財政負担も増えるのですから、現行の計画に反対する彼の意見を「中止すべき」でまとめるのは、設問の趣旨に反すると思います。

ですから、南摩ダム中止派は、10人となります。推進派は7人です。

●党派別に見ると

民主党は、回答者6人がすべて南摩ダム中止ですから分かりやすいと言えます。

公明党は三つのダムに賛成しており、ダム推進の党と言えます。

自民党もダム推進の党のはずですが、中島宏氏(新人)は、湯西川ダムについては必要であるとしながら、南摩ダムと八ツ場ダムについては「答は差し控えたい」という回答です。回答できない理由は何なのでしょうか。

横松盛人氏(自民新人)も、湯西川ダムについては賛成ですが、南摩と八ツ場については無回答です。

阿部寿一氏(無所属現・自推)は、三つのダムに賛成です。理由の中に「景気対策」が含まれているのが特徴です。ただし増渕氏も八ツ場ダムについては賛成の理由として「景気対策」を挙げています。

野村節子氏(共産)、西弘次氏(無所属)、本澤節子氏(無所属)は、全く同じ回答で、三つのダムに反対する「栃木の会」と同じ意見です。

●民主党議員はサラリーマンか

湯西川ダムについて民主党候補者の意見は一致しませんでした。

山田美也子氏以外の5人は、「ダム本体工事が進んでいるので中止できない」と答えています。山田氏はこの問に無回答です。

民主党系のほとんどが「中止できない」と回答したのは、民主党政権の方針なので逆らえないということでしょう。政権の決定を否定すれば倒閣運動になってしまうということでしょう。しかし、昔の自民党の方が自由に個人の意見を言えたと思います。「政党とは何か」について考えさせられます。

公共事業は、必要がないことが判明したら、直ちにやめるべきです。「ここまでやったのだから最後まで行っちゃいましょう」では、大日本帝国の軍隊と同じです。

佐藤栄氏が湯西川ダムは「水道水源確保のために必要」と回答しているのが特徴的です。

●鹿沼市・西方町地区ではどうか

鹿沼市・西方町地区では回答があったのが松井正一氏のみでした。

内容は、南摩ダム、八ツ場ダムについては「中止すべき」ですが、湯西川ダムについては「本体工事まで進んでいるので中止できない」でした。

小林幹夫、神谷幸伸、小松英夫の3氏からは回答がありませんでした。

3月20日に栃木の会会員から3氏に電話連絡したところ、神谷氏は、県が決めていることなのでアンケートに答える必要はないと考えているという話が秘書らしい人からありました。

県がどのように政策決定をしたとしても、また、それを支持するにせよ、反対するにせよ、県議は県民に自分の立場を説明する責任があると思います。

小林氏と小松氏については、2月26日に簡易書留でアンケート用紙を郵送しており、返戻されていません。用紙は神谷氏に届いているのですから、両氏にも届いているはずです。3月20日に電話連絡したところ、ファックスで送信してくれれば回答するということなので、送信しましたが未だに「栃木の会」の事務局長あてに回答はありません。

●現職県議に手紙が届かない

足利市の木村好文氏と佐野市の青木務氏には、2011年2月26日と3月12日の2度にわたって簡易書留で郵送しましたが、2度とも差出人に戻ってしまい、用紙を届けることができませんでした。

木村氏への郵便は「補完期間経過後、再度配達に伺いましたが、ご不在でしたのでお返し致します。」、青木氏への郵便は「保管期間経過後に、再配達を試みましたがご不在でした。保管期間を経過しましたのでお返しいたします。」という付せんがはられ、返戻されました。

両氏の住所は、県議会のホームページで検索しました。

付せんの文字が「あてどころに尋ね当たりません。」ではないので、県議会のホームページに掲載されている両氏の住所の記載は正しく、居住の実態もあるのだと思います。

●低回答率はダムアンケートだけではない

前掲の下野に「「公金支出」回答過去最低の17%」という記事もあります。

市民オンブズパーソン栃木の実施した「公金支出」に関するアンケートにも県議会議員立候補予定者たちはほとんど回答しなかったことが報じられています。

「回答したのは現職が43人中4人、新人が31人中9人。現職の回答者の党派別内訳(推薦を含む)は自民2、民主1、共産1だった。」とあります。

公金支出に関するアンケートの結果は、市民オンブズパーソン栃木のホームページの栃木県議会議員選挙立候補者アンケート回答一覧表はこちらで閲覧できます。

議員へのアンケートが無視される時代になったようです。

市民団体からのアンケートに回答しなかった議員の名前をいちいち新聞が報道するわけではありませんから、無回答は選挙の当落に影響はないでしょう。そう考えたら、下手に回答するよりも無回答の方が得だという損得勘定があるのでしょう。

無投票当選が予定されていた立候補予定者は、どちらのアンケートにも回答していません。

●低回答率は大震災の影響ではない

ダムアンケートは2月中に発送しており、回答期限は3月10日でしたので、立候補予定者には忙しい時期ですが、3.11の大震災の影響で回答が遅れたということはありません。

回答期間は10日くらいですが、基本的に「はい、いいえ、わからない」からの択一の質問ですので、回答の作成に多大な時間を要するということはないはずです。

しかも結果的に3月20日まで回答を待っていましたので、実質20日以上の回答期間をとったことになります。

一方、市民オンブズパーソン栃木による公金支出アンケートは、「3月10日の時点で立候補予定と判断された75人」(前掲下野記事)を対象として、「23日までに回答を求めた」ので、出だしは遅れたと思います。

しかし、いずれのアンケートにもきちんと回答してくれた立候補予定者もいるのですから、回答者側の事情を無視した無理なアンケートだったとは言えないと思います。

●下野新聞社のアンケートの回答率は100%

「下野新聞社は、県議選の立候補者79人を対象に政策アンケートを実施し、全員から回答を得た。調査期間は3月1日から告示前日の同31日まで。」(4月3日付け下野)という記事があります。

下野のアンケートは調査期間も長いし、おそらくは各地区の記者が取材した上で用紙を手渡しているでしょうし、回答の催促も人海戦術でできるでしょう。

しかし、回答率の高さの原因は、アンケート実施者の影響力の大きさでしょう。

下野は、「(4月)5、6日に全候補者のアンケート回答一覧を掲載します」としています。立候補予定者としては、新聞の影響力を考えれば、新聞社のアンケートを無視するわけにはいかないでしょう。

加えて、下野のアンケートの内容は、議員定数、TPP、県政の最重要課題だそうです。ダム問題や公金支出問題よりも答えやすいということもあるのかもしれません。

●議員定数を減らせ?!

自分の考え方を表明しない立候補予定者や議員というものがあってよいのでしょうか。

有権者は、考え方の分からない候補者にどうやって投票できるのでしょうか。

ムダなダムに740億円も支払う栃木県執行部の政策に対してチェック機能の働かない県議会なのですから、議員定数を減らせと言いたいところですが、実際に減らすと、執行部を真面目にチェックしている議員が真っ先に落選する可能性があり、ジレンマに陥っています。

(文責:事務局)
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