県議のダム推進論に説得力はあるか

2011年2月16日

●小林県議のダム推進論は非論理的

栃木県議会には、ダム推進に熱心な議員がいます。

ダムを造る理由は正しいかでも紹介したように、小林幹夫議員は東大芦川ダム事業を進めるべきであるという立場から、鹿沼市議だった2000年7月12日に鹿沼市議会本会議で次のように発言しています。ざっとおさらいします。

現在水道水を伏流水に100%頼っている現状では、将来の人口増も望めず、また企業の誘致もできないのが現状で、もし降雨量が減少した場合は、市民に水の不安を与えることは必須(ママ)であります。

東大芦川ダムは、表流水を使用するための施設として水不足の解消をするためには何としても必要な施設であり(以下略)

鹿沼市上水道の水源は、伏流水ではありません。地下水です。伏流水の意味については、yahoo!知恵袋のhttp://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1317985743を参照してください。

小林議員は、「水道水を伏流水に100%頼っている現状では、将来の人口増も望めず、また企業の誘致もできない」と言います。

なぜこのような発言をするのかというと、「東大芦川ダムは、表流水を使用するための施設として水不足の解消をするためには何としても必要な施設」であると言うためですから、その意味は、「ダムから流れてくる表流水を水源とすれば、将来の人口増も望めるし、企業の誘致も容易になる」という意味になりますが、論理的でないと言わざるを得ません。

昔から「ダムで栄えたムラはなし」と言われており、ダムのおかげで人口が増えたまちを私は知りません。

鹿沼市の人口は2000年12月をピークに減少中で、増加を見込める状況にありませんが、その原因は、上水道の水源が地下水であるためではありません。女性が生涯に生む子供の数があまり変わらない状況の中で、出産可能年齢の女性の数が年々減っていることが原因です。日本のどこの都市もそういう状況であり、鹿沼市も例外ではないということです。

上水道の水源を地下水から表流水に切り替えたところでどうなるものではありません。

日本は、約3,000基ものダムを抱えています。ダムがあれば人口が増加し、企業が誘致できるのなら、日本の人口も事業所数も増え続けてもよさそうなものですが、そうはなっていないことを小林議員はどう説明するのでしょうか。

水源と人口増加を結び付ける小林議員の論理には無理があります。

もちろん、ある都市が10万人分の水源しか保有していないのに、その都市に15万人が住めるはずがありません。その意味では、水源の量と人口は関係があります。

しかし、15万人分の水源を確保したから人口が15万人になるという保証はありません。

水源量は、人口増加の必要条件ではあっても十分条件ではないという言い方ができると思います。

理論的な分析はともかく、ダムを建設すれば人口が増えるという論理にどれだけの市民が説得力を感じるか疑問です。

「東大芦川ダムは、表流水を使用するための施設として水不足の解消をするためには何としても必要な施設」だとすれば、同ダムは2003年に中止になったきりなのですから、今ごろ大変な水不足が起きていなければならないと思いますが、鹿沼市で水不足の話は聞きません。

「何としても必要な施設」がないのに、どうして鹿沼市に水不足が起きていないのかを小林議員はどう説明するのでしょうか。

小林議員は、鹿沼市に水不足が起きるという前提で提言していますが、漠然とした不安感を根拠にするのではなく、いつどの程度の水不足が起きるのか、定量的な根拠で提言してくれないと、小林議員の提言が正しいのかどうか判断できません。

●増渕県議の主張を検証する

増渕賢一(としかず)・栃木県議会議員は、そのブログの中で思川開発事業について推進論を唱えています。タイトルは、南摩ダム問題を考えるです。2010年3月14日付けの記事です。

以下の増渕議員の説は論理的に正しいのでしょうか。

去る3月5日県議会予算委員会でダム問題を取り上げて質問をしたので、その内容を詳しく説明してみよう。南摩ダムは当初計画では、思川総合開発事業の中の一つのダムとして計画された。

増渕議員がこのような質問をしたとは今まで知りませんでした。

思川開発事業は、47年も前に構想が発表された事業なので、資料が乏しく、当初の計画の内容は詳しく分かりません。

「思川総合開発事業」という言葉をgoogle検索しても、読売記事「(7)"水没の悲劇"今も」くらいしかヒットしません。

思川総合開発とは、吉野川総合開発事業をモデルにして計画された。 水量の豊富な吉野川の水を高知県の早明浦ダムで堰き止め、下流の池田ダムを経て、弘法大師の時代から水資源の乏しい香川県を始めとして四国四県に配水する、総合事業の名に値する壮大な計画である。

この記述が正しいのかどうかは、分かりません。吉野川総合開発事業を詳しく詮索する必要はないでしょう。

●増渕議員の言う「当初計画」は「当初計画」ではない

思川総合開発事業は、水量の豊富な鬼怒水系の大谷川から取水し、行川ダムに揚水し東大芦ダム〜黒川からの取水を併せて水量の乏しい思川水系の南摩ダムに注ぐ、大谷川からは毎秒30トン・大芦川からは毎秒6トン黒川からも毎秒6トンの取水計画であった。
この様な当初計画であったから事業の名称も思川総合開発であったのである。

増渕議員は、「当初計画」として事業内容を説明していますが、議員が説明している事業の内容は、当初計画のものではなく、1994年5月の見直し後の計画のものです。

しかも見直し後の計画の事業内容を間違って説明しています。

●取水量と取水制限流量は違う

議員は、「大谷川からは毎秒30トン・大芦川からは毎秒6トン黒川からも毎秒6トンの取水計画であった。」と書きますが、これらの数字は、取水量ではなく、かんがい期における取水制限流量です。根拠は、「思川開発事業」(1998年2月、建設省関東地方建設局・水資源開発公団発行)p7−3です。ちなみに当初計画の取水制限流量は、大谷川では毎秒2.44m3、思川支川では取水地点自然流量の60%を残す、という極めて過酷なものです。根拠は同ページです。

思川開発事業における「かんがい期」とは、大谷川においては3月16日から9月20日まで、黒川と大芦川については4月1日から9月30日までをいいます。根拠は、前掲書p3−8です。

「取水制限流量」とは、これ以上は水を取らないと決めた流量のことです。

例えば、大谷川の取水制限流量が毎秒30m3ということは、大谷川に毎秒31m3の流量があった場合に、毎秒30m3を超える流量、つまり毎秒1m3を取水するということです。

毎秒30m3を取水するのと毎秒1m3を取水するのでは、全く話が違います。

「大谷川からは毎秒30トン・大芦川からは毎秒6トン黒川からも毎秒6トン」も取水したら、三つの河川は完全に干上がってしまいます。

増渕議員は、取水の仕方を理解していなかったということは、取水される河川の流域がどのような影響を受けるかということを考えたこともないということになると思います。

●増渕議員は東大芦川ダムの復活を目論んでいる

増渕議員は、思川開発事業では、東大芦川ダムから取水すると書いていますが、水資源開発公団の公式見解からは間違いということになります。

水資源開発公団が発行した「思川開発事業〜寄せられた疑問・質問に答えて〜」(1999年10月発行)には、「東大芦川ダムに貯水された水が南摩ダムに導水される計画にはなっていません。」(p51)と書かれているからです。

後記のように思川開発事業の「当初計画」を復活させようとする増渕議員は、水資源開発公団がウソを書いたと主張されるのでしょうか。そうだとしたら、増渕議員は、ウソつきが事業主体の事業を支持していることになります。しかし、ウソをつくような事業主体の実施する公共事業を県議が支持してはいけないと思います。

「思川開発事業は、東大芦川ダムの水を南摩ダムに導水する計画なのか」について、増渕議員は肯定し、公団(現・水資源機構)は否定しているのですから、どちらかがウソことを書いていることになります。

私は増渕議員の説に賛成です。つまり、思川開発事業は、東大芦川ダムに依存した事業だと思います。そして、公団(現・水資源機構)は、ウソを書いていると思います。

東大芦川ダムが中止になったら思川開発事業は成り立たないということです。(東大芦川ダムと南摩ダムの関係については、東大芦川ダムの「東大芦川ダムは南摩ダムの補完ダムである」以下をご参照ください。)

大谷川取水が2000年に中止となり、2003年に東大芦川ダムが中止となり、思川開発事業は、二重の意味で破たんしているのです。(正確には、94年に取水制限流量を引き上げた時点で水収支が成り立たなくなっています。)

問題なのは、思川開発事業の「当初計画」の復活を目論む増渕議員が東大芦川ダムと行川ダムの復活まで望んでいるということです。

東大芦川ダムは2003年に中止になり、終わった話と思われていますが、ダムを造りたい人たちは、復活の機会を虎視眈々とねらっています。

●事業の名称と大谷川取水中止は関係ない

現在は思川開発と言う事業名に変更されている。
其の経緯は、本事業の最大の要件である、大谷が取水が当時の今市市長で県知事を経て、現在の衆議院議員福田昭夫氏の反対で実現不可能になり、大芦川・黒川つまり元々水量の少ない思川水系のみの取水計画に変更されたためである。

これも誤りです。

思川開発事業は、大谷川取水が中止になる前からこの事業名でした。上記のように、国は、1998年2月に「思川開発事業」という冊子を発行しているからです。大谷川取水が中止となったのは、2000年のことです。それ以前に「思川開発事業」という名称が使われているのですから、大谷川取水が中止になったから名称を変更したということではありません。

●大谷川取水の中止によって計画は破たんした

この様な経緯から憶測すれば、水量の乏しい思川水系だけで計画された南摩ダムは完成時に期待される水量を貯水できるのか?疑問符の付くダムなのである。しかもこの不完全な計画に知事として同意したのも福田昭夫氏である。

この記述は正しいと思います。

思川開発事業は、大谷川取水が中止になった時点で破たんしています。増渕議員は、だから中止にしろと言わないところが問題です。

●大谷川取水の復活が増渕議員の持論

このたび民主党のマニフェストでこの事業が中止され、見直しの対象にされた事は当然と思うが、せっかく見直しをするのであれば、当初計画に戻して意義ある事業にする事がもっとも正しい結論と言える。

大谷川取水が中止になって南摩ダムに水がたまらないだろうと言いながら、だから中止すべきだというのではなく、「当初計画」(おそらく、1994年5月に告示された建設大臣の実施方針を指していると思われます。)に戻せと増渕議員は主張しています。

●復活論の根拠に合理性はあるのか

論拠を読んでみましょう。

其の論拠は
1)我が国の食料自給率やく40%を欧米先進国並みの60%に引き上げるとしよう。
そのために必要なのは現在の食糧生産に必要な水量590億トンの1.5倍885億トンが必要となる。都市用水は既に充足しているとしても、食糧自給率を上げようとすればまだまだ需要量に対して不足と言えるからである。


●そもそも南摩ダムの効果は小さい

三つの理由に共通しますが、増渕議員は、南摩ダムの水収支が成り立つ、つまり南摩ダムに水がたまるという前提で立論していますが、私たちは水がたまらないことを証明しています。

仮に水収支が成り立つとしても、思川開発事業は、5年に1度程度の渇水にしか対応できません。根拠は、建設省が「南摩ダムの計画策定にあたっては、利水基準年を昭和35年とし、おおむね5年に1回程度発生する渇水に対処する計画として策定しています。」(前掲の「思川開発事業」p3−8)と書いているからです。南摩ダムの効果は、治水はもちろん、利水の効果も小さいのです。水資源機構は、10年に1回程度の渇水が起きたら、計画を超える渇水だから対応できないと開き直ることになります。

●食料自給率はトリックか

次に、食料自給率を出発点とする議論にどれほどの意味があるのか疑問です。

Wikipediaで「食料自給率」を引くと、「経済学者の野口悠紀雄は、食料自給率の向上と言う政策は経済学的には無意味である上、そもそも現代日本農業 では原油 が絶対的に必要であり、エネルギー自給率が4%しかないのに、カロリーベースの自給率に政策的な意味など持ち得ないとする。そしてこの政策は高い関税率を正当化するための詭弁であり、それにまんまと乗せられている人は、「誠に愚か」と酷評している。」と書かれています。

また、食料自給率を高めろという議論は、食料の安定供給のためのはずだが、食料自給率が高まれば食料の安定供給につながるという関係はないとも書かれています。

分母を総供給カロリーとしているのもおかしな話です。食料の国内生産量を増やさなくても、食料の輸入量が減れば食料自給率は上がってしまうのです。

「農業経営者」2008年10月号p24-27 株式会社農業技術通信社の「「インチキ食料自給率」に騙されるな!国民と農民を思考停止させ、ニッポン農業を弱体化させる国策の罠」という記事で浅川芳裕氏は、「自給率を厚労省が定める健康に適正な「食事摂取カロリー」を基準に編集部で試算しなおしてみた。年齢別性別の適正基準に対しその人口分布を厳密に当てはめてみると、国民1人1日当たり1805kcal(略)となる。国産供給の1013kcalをそれで割ると、自給率は55%にもなる。実際の「摂取カロリー」(最新05年版の国民健康・栄養調査)をベースにしても同様の結果が出る。摂取1904kcalに対し、自給カロリーは54%を占める。」と書いています。(Wikipediaの上記ページでリンクされていますので、是非参照してください。)

そうだとすれば、日本の食料自給率は、「欧米先進国並みの60%」近くになっているのですから、ダムで農業用水を開発しろということにはなりません。

浅川芳裕氏は、「そもそも、こんな無意味な指標を国策に使っているのは、世界で日本しかない。それ以前に、食料自給率を計算している国も日本だけだ(韓国が日本の真似をして計算しているが、賢明にもその向上を国策にはしていない)。」と書いています。日本独自の制度があってもいいですが、食料自給率を計算することに合理性があるのか疑問です。

食料の供給を輸入に頼るのがいいとは思いませんが、食料自給率については、「農協や天下り団体の利権を温存する生産調整強化のために、自給率向上の美名を悪用していると言ってもいいすぎではないだろう。」(前掲「農業経営者」記事p26)という見方もあることに注意を要すると思います。

●南摩ダムで食料自給率が60%になるのか

「現在の食糧生産に必要な水量590億トン」の算出根拠が書かれていないので、これが正しいのかどうかは分かりません。「現在の食糧」が何を指すのかも分かりません。

仮に農業用水があと年間295億トン必要だとしても、南摩ダムの寄与度はどれくらいになるのでしょうか。南摩ダムで何トンの水がつくり出せるというのでしょうか。食料自給率を60%にするには、あと何基のダムが必要だと増渕議員は主張するのでしょうか。

●農作物の生産地が移動するだけではないのか

南摩ダムは導水ダムです。他の河川から導水しなければ成り立たないダムです。導水する水は、他の河川で余った水、使わない水、無駄に流れている水ではありません。

導水される河川の流域で農業が成り立たなくなる可能性が大です。(井戸水もかれるでしょうが。)そうだとすれば、大谷川、黒川、大芦川から南摩ダムに導水して、その水を小山市付近で農業に使ったとしても、農作物の生産地が北から南に移っただけのことになります。

巨費を投じてダムを建設して、農作物の生産地を北から南に移しても、生産量は同じということにもなりかねません。

諫早湾干拓事業でも同様の現象が見られます。湾を閉め切って広大な農地ができましたが、漁業が壊滅状態になりました。巨費を投じて生態系を破壊し、生産される食料が魚介類から農作物に代わったことに意義があるのでしょうか。

●水を使う作物とは何か

水を必要とする農作物の代表はコメです。コメを原料にしてパンや麺を作る工夫はされていますが、人口が減少していく中で、コメをこれ以上作っても、消費は伸びないと思います。だから政府は減反政策をとっているのでしょう。

大抵の農作物は、雨水で育っています。

増渕議員は、ダムで開発した水でどんな作物を作れと言うのでしょうか。メロンでしょうか。コメを作れというなら、ダムを造る前に減反をやめるのが先でしょう。また、ダム建設費を負担して作った高価な作物が売れるとは思えません。

●農業用水の利用者を明らかにすべきだ

南摩ダムで農業用水の開発が必要だと言うなら、何人の農業経営者がどれだけの水量の農業用水を必要としているのかを明らかにすべきです。農業用水をだれがどう使うかは、ダムを完成させてから考えるという悠長な発想は、財源が乏しい状況では許されないと思います。

現在の思川開発事業でも、栃木県は南摩ダムの水を利用する広域水道事業計画を持っていませんので、仮にダムが完成したとしても、栃木県内ではダムの水が水道に利用されることは当面ありません。参画市町は、水利権を取得して、負担金を払うだけです。

●導水被害が見落とされている

増渕議員は、南摩ダムが導水ダムであること、導水によって導水された河川は影響を受けることを見落としていると思います。

見落としていないとすれば、増渕議員は、国土交通省や水資源機構の「取水によるご迷惑をおかけしません」、「思川開発事業では、各河川の下流の水利用に支障を与えない範囲で取水を行う計画としています。」(いずれも前掲の「思川開発事業〜寄せられた疑問・質問に答えて〜」p24)という言葉を信じているからなのでしょう。

●都市用水の需要はない

ここで重要なのは、増渕議員が「都市用水は既に充足している」と認めていることです。

水資源機構は、思川開発建設所のホームページで「関東地域の水の使用量は核家族化の進行や生活様式の変化などにより、増加傾向を続けています。生活用水の全体使用量は、関東全体で平成6年の実績で年約57億m3と10年前(年約49億m3)の1.16倍となっており、今後も増加するものと予想されています。」(新規利水の開発)と、最近のデータは無視し、1994年度までのデータにすがって水需要が増えると主張しています。

それと比べたら、増渕議員は正直です。水資源機構は、増渕議員のようなダム推進派でも口にできないような理由付けでダム建設を正当化しているということです。

ダム推進派は、都市用水が充足し、ダムを建設するまともな理由が見つからなくなったために、食料自給率に目を付けたということでしょう。

●国交省OBの発言を引用してどうするのか

2)我が国内全部の溜池・ダムの貯水量はアメリカのフーバーダム一つの貯水量より、中国の三峡ダム一つより少ないのであると早稲田大学の大石和弘教授が指摘していたが、我が国は降雨量こそ豊富だが折角の資源をなす術もなく海に捨てている、と言う事なのである。

「早稲田大学の大石和弘教授」とはだれのことでしょうか。

Wikipediaによると、大石久和なら、2004年に早稲田大学大学院公共経営研究科客員教授だったという経歴が確認できます。2001年に国土交通省道路局長だった人です。

Wikipediaによれば、大石久和は、2004年7月30日に財団法人国土技術研究センター理事長に就任しています。

ほかにも、社団法人建設コンサルタンツ協会理事、財団法人先端建設技術センター理事、財団法人河川環境管理財団評議員という役職も持っています。

現役時代は道路畑を歩いてきましたが、天下ってからは、財団法人国土技術研究センターには国土政策研究所河川グループがありますから、河川行政にもかかわっています。

大石久和氏が上記のような指摘をしていたかどうか、出典が明示されていないので分かりません。指摘をしていたとしても、説得力はありません。建設官僚にとっては、道路やダムを造り続けて食べていくことが重要なのであって、必要性があるかとか税金の無駄遣いにならないかということはどうでもいいことなのです。南摩ダムの付け替え県道工事だって、費用対効果の検証なしに進めているではありませんか。もちろんまともな建設官僚もいるでしょうが、主流ではありません。

大石和弘氏が大石久和氏のことだとしたら、国土交通省のOBにダムが必要かと聞いたら、ほとんどは必要だと言うに決まっていますので、発言を引用する意味はありません。国交省の天下りが理事長をやっている法人が「公正・中立な立場」と宣伝する意味が分かりません。

●外国に巨大ダムがあることで何が言いたいのか

上記のような指摘は別に道路官僚OBの発言を引用しなくとも、既に国土交通省のホームページ(よくある質問とその回答(FAQ))に書かれています。

そこには、「わが国ダムの貯水量を全部足し合わせても約300億m3で、アメリカのフーバーダム1つの貯水量よりも小さく、エジプトのアスワンハイダムの 貯水量の2割にも及びません。」と書かれています。

だからなんなのでしょうか。アメリカの真似をする必要があると言いたいのでしょうか。国土面積、人口、気候条件等を無視してダムの総貯水容量を比較することに意味があるとは思えません。

島国では大陸国の真似はできませんし、する必要もありません。

アメリカやエジプトに巨大ダムが成功例と評価できるのか、できるとしても、日本にも当てはまるかどうか、という検証をすることもなく、ただ、外国にはでかいダムがあると言うことにどのような意味があるのでしょうか。特に、そもそも中国が多くの国民を移転させて三峡ダムを建設したことが正しい政策だったとは思えません。

●なす術もなく海に捨てていない

「我が国は降雨量こそ豊富だが折角の資源をなす術もなく海に捨てている」と増渕議員は書きますが、日本には約3,000基ものダムがあって水をためているのですから、「なす術もなく海に捨てている」ということにはならないと思います。

ためる量が少ないと言いたいのでしょうが、これ以上ためる必要があるかを定量的に検討する必要があります。

日本のダムの全貯水量は、フーバーダム1基にも足りないという言い方に意味があるとは思えません。

●環境破壊はどうする

また、自然を改変することによる弊害についても考慮すべきです。

「アラル海はかつて北海道よりやや狭いくらいの面積だったが、アラル海に流入するシル川とアム川から無数の運河を引くという旧ソ連政府の大規模な灌漑事業が行われ、大量の水をコットン畑に引いた結果、コットンの一大生産拠点とはなったものの、アラル海は縮小し、面積はかつての四分の一ほどになってしまった。」(「サインズ・オブ・ザ・タイムズ」2011年2月号p29)そうです。増渕議員は、こうなってよかったと考えているのでしょうか。

●風が吹けば桶屋がもうかる

外国に巨大ダムがあることは、思川開発事業を進める理由になりません。

アメリカにフーバーダムがある、だから思川開発事業は必要だよという議論は、風が吹けば桶屋がもうかる式の飛躍した議論は、論旨不明です。

●中国脅威論は論旨不明

3)世界全体、特にお隣の中国は慢性的な水不足であり、首都北京もそのために遷都しなければならないのではないかと危惧されているそうである。更に深刻なのは、生活のレベルが上がれば生活用水の需要が増える、そのために中国の企業が我が国の水源地地域を買い占めているとの情報があるほどである。

中国脅威論ですか。防衛省が予算要求するときの理論と同じですね。

中国人が日本の水源地域の土地を買い占めているから南摩ダムを造れというのですか。意味が分かりません。

外国人による土地の買い占めをやめさせたければ、国が、外国人が土地を買えないような法律をつくればいいでしょう。外国人の土地の買い占めと思川開発事業とどのような関係があるというのでしょうか。

中国に水を持っていかれるのが心配なら、持っていかれないような措置を講ずればいいのであって、それをしないで南摩ダムを建設してもその心配は解消しません。

中国人は水を欲しがっているので、南摩ダムの水を中国に売れということかもしれませんが、南摩ダムは水収支が成り立ちませんので、中国に水を売るのは無理です。

●まとめ

以上の観点から言えば 『水』 は21世紀の最も重要な戦略資源と言える。
思川開発事業を、一日も早く見直して思川総合開発事業として再開する事が必要である事を県民の皆さん・県当局、議員の諸兄に訴えるべく質問をした次第である。

増渕議員は、現在の思川開発事業ではなく、1994年当時の計画を復活すべきだと主張しています。

その理由は、第1に日本の食料自給率が低いこと、第2にアメリカにはフーバーダムという巨大ダムがあること、第3に中国の企業が水源地の土地を買い占めているという情報が入っていることです。

いずれも思川開発事業との関連が不明です。こんな抽象的な理由でダムを造られては、納税者はたまりません。

●南摩ダムに治水効果なし

増渕議員は、南摩ダムを建設すべき理由として利水のみを挙げていて、治水については全く触れていません。南摩ダムが治水上意味がないことを認めているのだと思います。治水上の意味が大きければ、建設すべき理由として挙げると思います。

●デメリットはどうする

増渕議員の見方は、一面的だと思います。

ダムのような環境を大改変する巨大構造物を建造すれば、いわゆる環境破壊という弊害をもたらします。

希少生物が絶滅するおそれがあります。思川開発事業については、きちんとした環境アセスメントが行われていません。

増渕議員は、性物多様性の問題を無視していると思います。

導水によって、黒川、大芦川の水質が著しく悪化することも考えられます。

財政負担の問題もあります。栃木県は、思川開発事業、八ツ場ダム、湯西川ダムのために、起債の利息を含めると約740億円の負担をすることになるという試算もあります。

増渕議員は、ダムの持つデメリットを一切説明していません。ダムのために税金を使えと言うなら、デメリットについても説明すべきでしょう。不利益事実の不告知は、商売の世界では悪質商法として御法度です。

公正・中立な立場の公益法人の理事長である大石氏なら、ダムや道路の建設に伴うデメリットも十分に説明しているはずです。

県議諸氏のダム推進理由に私は説得力を感じることができませんでした。

県議諸氏のダム推進理由に何人の県民が説得力を感じることができるのでしょうか。

(文責:事務局)
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