栃木県は思川開発事業から撤退するしかない(その2)

2012年7月17日

●ダムに参画した責任は福田富一氏だけにあるのではない

水没予定地等の住民の移転が完了しても、水道事業の認可が具体化しないくらいに水需要がないなら、最初から栃木県は思川開発事業計画に参画しなければよかったのに、と思います。

2001年に栃木県の思川開発事業への参画を決めたのは当時の福田昭夫・知事だったのです。

2000年11月に当選した福田氏は、ダム事業の見直しを公約に掲げ、私たちは2001年4月に4万3000筆もの東大芦川ダム・南摩ダム反対の署名を福田知事と鹿沼市長に届けたのですが、福田氏の決断は東大芦川ダムの中止、思川開発事業の縮小継続でした。

2001年6月19日付け下野新聞によると、都賀町は同年3月に思川開発事業への不参加を表明しました。

「ところが、県が国に対し同ダムへの参画を表明した後の今月(6月)1日、県の担当者と青木町長ら町幹部の話し合いが持たれ。町は参加の意向を県に示した。」のです。

なぜなら、県職員が「使った水量分だけ払えばいい」と説明したからだというのです。

「県の説明はウソだった」(青木隆尚町長)ことが分かり、再度6月18日までに不参加を正式に表明したのです。

栃木県の思川開発事業参画のカラクリ に書いたように、「鹿沼市は、2001年2月の調査では、[東大芦川ダムに参画するから、思川開発事業には参画しない]と報告していましたが、2001年4月23日に福田昭夫知事自ら鹿沼市に乗り込み、阿部和夫鹿沼市長(当時)と直談判した結果、鹿沼市は同年4月26日に「表流水の需要量は0.423m3/秒」とする内容の報告書を提出しました。」。

当時から栃木県に新規水需要がないことは分かっていたのに、なぜ福田昭夫氏が参画を渋っている自治体に働きかけてまで架空の水需要をつくり出し、思川開発事業に参画したのか、未だに私は分かりません。

●市街地開発、第3子対策事業と思川開発事業との関係が分からない

資料1の利水参画者の必要な開発量の確認結果(案)のp2には、「鹿沼市、古河市、埼玉県及ひ_北千葉広域水道企業団において、次表の地域計画の施策を考慮していることを確認した。」と書かれています。

「鹿沼市で見込んでいる開発事業等」として「市街地開発、第3子対策事業」が挙げられています。

「市街地開発」とは何を指すのか、それが思川開発事業とどう関係するのかも分かりません。

鹿沼市で「第3子対策事業」を実施するから新規水源が必要になり、思川開発事業に参画する必要があるということでしょうか。

しかし、鹿沼市のホームページには、2010年2月作成の次のような記事があります。

第3子対策事業の見直しについて(2010.2)

本市は、平成18年度から"つながりのある総合的な少子化対策"として「第3子対策事業」を実施してきました。 これまでの4年間の事業効果を検証するために、本市の出生数の推移をみますと、平成12年度から毎年減少が続いていた出生数が、18、19年度と若干の増加はみられましたが、20年度は前年度を下回り、また、今年度においても20年度と同じ様な状況で推移しています。

このような状況の中、昨年10月に開催された政策評価委員会において、「本市の子育て支援については、第1子からの支援が受けられるよう見直しを進めるべき」との答申をいただきました。 これは、一人目からの手厚い支援策を望む多くの市民の声とも合致するもので、また、国においても「子ども手当の支給」や「高校授業料の無償化」など、子育て支援策が創出されたことに伴う市民の子育て環境の変化などもあることから、今年度「第3子対策事業」について、見直しを図ってきました。

見直しの内訳ですが、不妊治療支援事業や妊婦健康診査助成事業などの6事業については、現行制度をそのまま継続します。 また、保育園保育料の見直しや永住希望者等住宅取得支援補助事業などの5事業については、現行制度を見直して継続します。

なお、幼稚園第3子以降子育て支援事業や新婚家庭家賃補助事業などの11事業については、廃止しますが、1年間の周知期間を設けますので、原則、22年度は事業を継続します。


ただし、第3子以降子育て家庭支援給付金事業のうち、小学校2年生から6年生までの「第3子家庭給付金」については、平成22年度から「子ども手当」が支給されることを踏まえ、今年度で廃止します。

要するに22事業のうち11事業は、廃止するということです。

廃止する理由は、効果がないということです。

鹿沼市第3子以降子育て家庭支援給付金の支給に関する規則には、「出生率の向上」が事業の目的の一つだったことが書かれています。

出生率の推移は検証できませんが、出生数の推移は、下記のとおり、第3子対策事業が始まった2006年度以降も増えていません。

2002年  921人
2003年  934人
2004年  855人
2005年  856人
2006年  865人
2007年  906人
2008年  845人
2009年  858人
2010年  778人
(出典:鹿沼市統計書)

鹿沼市は第3子対策事業を実施しています。それが思川開発事業の「必要な(水源)開発量」とどう関係するのでしょうか。だれか教えてください。

鹿沼市では、市街地開発とか第3子対策事業なんて「終わった話」ではないでしょうか。

国は、思川開発事業で水源を開発する根拠として、鹿沼市の市街地開発計画や第3子対策事業を挙げたつもりなのでしょうが、人口が増える、水需要が増えるというイメージづくりであり、こんな根拠が挙げられていること自体が、思川開発事業が無駄であることを証明していると思います。

●栃木県全体(利根川水系)の資料でごまかしている

次に別添資料「各利水参画者の基礎資料集」のインチキを見ましょう。  

p1には、「(栃木県:水道用水供給事業)」なんて書いてありますが、既に書いたように、思川開発事業に係る水道用水供給事業の計画は存在しません。  

「基礎データの確認・推計手法の確認の欄には、「栃木県全体(利根川水系)」と書かれており、思川開発事業に係る水道用水供給事業の計画がないことをごまかそうとしています。
 
 ●給水人口は減っている  

p2には、栃木県(利根川水系)の給水人口(実績及ひ_計画)が書かれていますが、給水人口の計画値が過大です。  

グラフからは、計画値は2009年度と同程度に描かれていますが、栃木県生活衛生課が発行している「栃木の水道」(2010年度版)p55によれば、那珂川水系も含む栃木県全体の上水道、簡易水道及び専用水道における給水人口は、2008年度をピークに減少を始めているからです。  

給水人口が減少傾向に入り、節水型のトイレや洗濯機が普及していくのですから、今後、水需要が増えるはずがないのです。
 
 ●計画1日最大給水量が過大だ  

p3の栃木県(利根川水系)の水需給状況では、計画1日最大給水量がインチキです。  

実績1日最大給水量は、減少傾向にあり、2009年度には600,000m3/日を若干超える程度ですが、6年後の2015年度には約700,000m3/日になるという計画値は過大です。  
 
 ●所有水源=実績最大取水量?  

次に、保有地下水源の過小評価がなされています。  

所有水源(地下水)のグラフがおかしいことに気づきます。  

グラフでは、所有水源(地下水)が毎年、変わっています。  

なぜ毎年変わるのかというと、国は所有水源(地下水)を「実績取水量に負荷率を考慮して算定」しているからです。  

どういうことかというと、地下水の年間取水量を年間日数で割り、1日平均取水量を算出します。これを負荷率(1日平均給水量/1日最大給水量)で割ると、地下水における1日最大取水量が算出できます。だから、所有水源(地下水)が実績1日最大給水量と比例して年度ごとに変化するということです。  

国は、これを所有水源(地下水)と呼んでいますが、ごまかしです。  「所有水源」の法律上の定義はなく、国の造語だと思いますが、この言葉を普通に聞いたら、どれだけ取水や給水を行う能力があるかという問題だと思います。  

1日当たりの取水能力は、1日最大給水量よりも大きいのが普通です。  

鹿沼市を例に言えば、最近の1日最大給水量が約3万m3/日でも、取水能力(地下水の場合、イコール給水能力)は、鹿沼市の言い分によっても、約3万6000m3/日あります。  

ところが、別添資料の操作にかかると、鹿沼市の取水能力が3万m3/日しかないことになってしまうのです。  

国は、栃木県内の水道事業隊が確保してある地下水源量を過小に見せかけようとしているのです。  

国は、2015年度の所有水源(地下水)を約40万m3/日としているようにグラフから読み取れますが、「栃木の水道」(2010年度版)によれば、鬼怒川水系及び渡良瀬川水系の上水道が確保している地下水源は下記のとおりです。

鬼怒川水系
浅井戸 117,397m3/日
深井戸  67,100m3/日

渡良瀬川水系
伏流水 2,000m3/日
浅井戸 147,950m3/日
深井戸 207,663m3/日
合計  542,110m3/日
 

したがって、国は、栃木県(利根川水系)の地下水保有状況について約14万m3/日も過小評価しています。  

地下水源を正当に評価し、1日最大給水量を適正に推計したら、水源が不足していないことは明らかです。  

たとえ検討するメンバーが第三者であっても、こんなインチキな資料でまともな判断ができるわけがありません。
 
 ● 地盤沈下は沈静化している

国や県の言い訳は、徒に地下水源を過小評価しているのではない。「地下水は、供給を予定している地域が「関東平野北部地盤沈下防止等対策要綱」の保全地域に指定されていること、また、地下水汚染、地下水位の低下などが懸念されていることを考慮し、400,896m3/日と見込んでいる。」(p1)のだ、ということです。

しかし、地盤沈下は沈静化しています。

今後水需要は減少していくのですから、地下水源を使い続けたとしても、地盤沈下が悪化するはずがありません。

● 地下水の汚染が懸念されるか

また、県は、地下水汚染が懸念されるから地下水を使うべきでないと言いますが、汚染の可能性が高いのは表流水です。

昨年3月には福島の核発電所事故で鬼怒川水系の浄水場で放射能汚染があり、今年5月には塩素と反応してホルムアルデヒドを生成する化学物質ヘキサメチレンテトラミンで利根川水系の浄水場が汚染されたのを忘れたのでしょうか。

地下水をやめて表流水に切り替えたら、水汚染の危険性が高まることは、よけいに高まることは素人でも分かります。

● 工業用水の転用が考慮されていない

栃木県全体(利根川水系)の水需要を検討するなら、川治ダムを水源とする鬼怒工業用水の利用を検討するのが筋です。

鬼怒工業用水の計画取水量は158,000m3/日です。

利用料率を考慮しても147,100m3/日は供給できるというのが県企業局の説明です。

ところが実際に使っている水量は、2010年度で6,729,700m3/年です(「2010年度栃木県工業用水道事業報告書」p77)。365日で割ると、1日平均給水量が18,438m3/日となります。

鬼怒工業用水は、12.5%しか使われていないのです。

12万m3/日以上余っています。

新規水源を確保するためにダムを造ると言うなら、その前に水利権の転用を図るべきです。

栃木県には、新規水需要なんてないのですから、さっさと撤退すればいいのです。むしろ撤退するしか選択肢はないのです。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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