栃木県知事が公開質問状に回答した

2013年9月5日

●公開質問状回答が届いた

当協議会が2013年7月29日に栃木県知事あてに公開質問状を送付したところ、同年8月15日付け砂水第125号により回答書(PDFファイル128KB)が届きました。

質問事項は2点のみです。

●利水代替案の検討を要請されたかについて正面から答えず

第1の質問は、「2010年以降、栃木県は、栃木県が思川開発事業に利水参画している問題について、国及び独立行政法人水資源機構から代替案を検討するよう要請されていたのですか。」というものです。

知事の回答は、次のとおりです。

県は、平成23年2月1日付け「国関整河環第1012号」及び「22ダ事第128号」には国土交通省関東地方整備局長及び独立行政法人水資源機構理事長から「思川開発事業の利水参画者の水需給計画の点検・確認、参画継続の意思確認及び利水の代替案の検討について(要請)」という文書を受けています。(この文書の記載事項については、思川開発事業利水問題証人尋問(その1)〜栃木県は代替案を検討していなかった〜の「国は栃木県に利水代替案の検討を要請した(2013年8月31日追記部分あり)」をご参照ください。)

質問は「代替案を検討するよう要請されていたのですか」でした。回答は、「要請されていた」又は「要請されていなかった」のどちらかしかあり得ません。ところが、回答は「「思川開発事業の利水参画者の水需給計画の点検・確認、参画継続の意思確認及び利水の代替案の検討について(要請)」という文書を受けています。」というものでした。

要請されたか否かについては答えず、「文書を受け取った」と回答しました。

住民からのごく普通の質問にまともに回答できないところに、栃木県の思川開発事業への参画が正当な理由に支えられていないことがうかがえます。

「要請する旨の文書を受け取った」ということは、「要請されていた」ことにほかなりません。

ではなぜ知事は、素直に「要請されていた」と回答しなかったのでしょうか。

その理由は、そのように答えてしまっては、元砂防水資源課長の証言と矛盾するからです。

2013年7月17日に行われた栃木県3ダム訴訟の証人尋問で印南洋之・元砂防水資源課長は、控訴人から、「先ほどの証言の中で、国から思川開発事業の代替案の検討を求められなかったとおっしゃった気がしたんですが、求められたということですよね。」と尋問され、「求められなかったというのは、その検討ではなくて、利水代替案がありますかというのは、文章だけ書いてますよ。検討しなさいとまでは求められていません、そういう意味でございます。」(証人調書p51)と証言しました。

印南証人は、国から利水代替案があるかを質問されたが、その検討を「要請されてはいなかった」と証言しました。

そんなわけで、栃木県としては、後日の公開質問状で利水代替案の検討を「要請されていた」と回答したのでは、印南証人が偽証をしたことがあまりにもあからさまになってしまうので、そうなることを避けるために、「文書を受けています」という、はぐらかしの回答をしたものと思われます。

そして、印南証人が裁判所で虚偽の陳述をしてまで利水代替案の検討を要請されたことを否定したのは、検討をすれば、栃木県の参画が不要であることが明らかになってしまうからだと思います。

国土交通省の決めたダム検証のルールでは、第1次的には利水参画者が利水代替案を検討することになっている(ダム事業の検証に係る検討に関する再評価実施要領細目p20)のに、栃木県はそのルールに従うことを、なぜかかたくなに拒否しているのです。

思川開発事業への参画という結論から考えている栃木県としては、代替案の検討はしたくないということなのでしょう。

いずれにせよ、栃木県は質問に正面から答えていません。その理由は、正面から答えると、印南証人が偽証をしたことになるからだと思います。

ちなみに印南証人が利水代替案を検討するよう要請されていたことを忘れていたことは考えられません。なぜなら、彼は、2011年度と2012年度においてダム事業の検証に関する事務の所管課長だったのですから、ダム事業の検証に係る検討に関する再評価実施要領細目を熟読していたはずですし、国からの要請書も熟読していたはずだからです。

●将来が見通せない者に税金を預かる資格はない

第2の質問は、「将来の地下水の利用状況は想定できると思われるにもかかわらず、「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」において将来の地下水の状態を把握することが困難と考えた理由は何ですか。」というものでした。「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」に「地盤沈下や地下水汚染など、将来の地下水を巡る状況を現時点で把握することが困難である」(p25)と書かれていることについての質問です。

栃木県の回答は、次のとおりです。

地下水利用状況の前提となる地下水量の水位や地下水汚染等の状況は、気象条件や社会経済情勢など様々な要因に左右されるため、将来にわたって予測することは困難と考えています。

理解できない回答です。

まず、「地下水量の水位」という表現が理解できません。「地下水の水位」とは言いますが、「地下水量の水位」とは普通言わないでしょう。

「地下水量の推移」の誤変換なのかもしれません。

いずれにせよ栃木県は、将来の地下水の量や汚染の状況は、予測することが困難である、その理由は、それらが気象条件や社会経済情勢など様々な要因に左右されるからだと言います。つまり、気象条件や社会経済情勢を見通すことが困難だから将来の地下水の量や汚染の状況を予測することもできないと言っていることになります。

しかし、国であれ地方であれ、行政主体が、ある行政課題に対応する場合には、将来の社会経済情勢を見通して対策を講じるのではないでしょうか。将来の社会経済情勢を見通す能力がない者に税金を使う資格はないと思います。

栃木県は、「将来どうなるか分からないが、ダム事業に多額の投資をする」と言っていることになり、支離滅裂です。要するに栃木県は、ダム事業に参画する理由を合理的に説明できないということです。

●栃木県は気象の変動を予測している

栃木県の上記理由付けは、矛盾しています。

「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」のp6には、「日本の年降水量の経年変化を見ると、年々少雨化が進行しており、加えて多雨年と少雨年の変動幅も大きくなってきており、1960 年代以降、各地で異常渇水が発生している(図表 3-2)。一方、宇都宮観測地点においても、日本の年降水量の経年変化と同様の傾向が見られ(図表 3-3)、少雨による異常渇水の懸念が増大してきている。」と書かれています。要するに栃木県は、気象の変動を予測しているのです。

●栃木県は水需要を予測している

「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」の図表4−1(p27)には、県南2市3町(栃木市、下野市、壬生町、野木町、岩舟町)の水需要(1日最大給水量)が103,305m3/日(2010年度)から96,200m3/日(2030年度)に減少すると書かれています。要するに栃木県は、県南2市3町では水の使用量が減るという社会現象を予測しているのです。

●栃木県は地下水の状況を予測している

「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」のp24には、県南地域においては、地盤沈下が危惧されているから、水道水源を地下水のみに依存することは望ましくないと書かれています。

この理屈は、県南地域において、水道水源を地下水から表流水に転換すれば、転換した分だけ地下水の利用量が減り、その分地下に存在する水の量が増え、その分地層から水が抜ける現象が緩和され、地盤の沈下量が減るだろうということです。要するに栃木県は、将来の地下水の利用状況を予測しているのです。

気象条件や社会経済情勢が予測できないから地下水の状況も予測できないという県の回答は破綻しています。

●栃木県が地下水の状況を予測しない理由

栃木県は、地下水の利用状況を予測できるにもかかわらず、また、予測しているにもかかわらず、なぜ「予測することは困難」であると言うのでしょうか。

地下水の利用状況を予測してしまうと、思川開発事業に参画する理由がなくなってしまうからであると考えられます。

地殻変動等自然由来の地盤沈下によるものは別として、栃木県内の地下水の過剰な採取による地盤沈下による被害は、今後も発生しないと考えられます。

なぜなら、栃木県を代表する観測地点である野木(環境)における地盤沈下量(地層収縮量)は、1998年から2011年までの14年間で3年は10mmを超えましたが、あとの11年は10mmを超えなかったのですから、明らかに沈静化しており、今後の水需要の減少を考慮すると、再び地盤沈下が激化することは想定できません。

○日本の水道用水の需要は2060年には4割減る

「新水道ビジョン」(2013年3月厚生労働省作成)には、次のように書かれています。

日本の人口の推移は、少子化傾向から減少の方向を辿り、2060年には8600万人程度と推計され、3割程度減るものと見込まれています。また、水需要動向も減少傾向と見込まれ、2060年には現在よりも4割程度減少すると推計されています。(11頁)

根拠は、「日本の水資源」(2008年8月国土交通省国土交通省 土地・水資源局水資源部発行)の5頁と思われます。

「現在」がいつを指すのかはっきりしませんが、おそらく2006年度を指すと思います。

○2040年の日本の水道使用量は現在の4分の3から半分に減る

「野村総合研究所の報告書によると、2040年の日本の水道使用量は現在の4分の3から半分に減る見通し。報告をまとめた宇都正哲(うとまさあき)さんは「2040年は高度成長期に建設され、2000年前後に更新された水道施設の再更新の時期。右肩上がりの水需要を前提にした水道事業は危うい」と指摘。コスト削減の一つとして、地下水利用を提案する。過剰なくみ上げによる水位低下も回復基調。土壌がフィルターの役目を果たすため、一般に河川水より水質がよく、浄水費を圧縮できるのが、その理由だ。」(2008年2月16日付け読売新聞)という記事もあります。

「現在」がいつを指すのかはっきりしませんが、おそらく2006年度を指すと思います。

○自然に地下水採取量は減少する

以上により全国的な人口の減少に伴い、水道用水の需要が減ることは間違いないと思われますが、人口が減少すれば、農業用水も工業用水も需要が減少することが見込まれます。

県南地域の水需要についてだけ別の要因が働くとは考えられません。そうだとすれば、地下水の採取量も自ずと減少していきます。

渇水年における農業用の過剰な地下水採取を抑制する方策を講じることは必要でしょうが、地盤沈下が再び激化することはないと考えるべきです。

○地下水の汚染源も減る

人口が減れば、生産者も消費者も減るのですから、産業活動も停滞し、地下水の汚染源も減ると考えるべきです。

以上のように地下水の利用状況や汚染の状況を予測すると、栃木県が思川開発事業に参画する理由がなくなってしまうのです。

これが、栃木県が地下水の利用状況や汚染の状況を予測することが困難であると言い張る理由であると考えられます。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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