南摩ダムのこのごろ

2009-10-20,2009-10-21追記,2009-10-23追記,2009-10-28追記

●県内首長アンケートの意味するもの

2009-10-11下野に同社が行った県内首長アンケートの記事が載っています。このアンケートは良い企画だと思います。

南摩ダムに参画する栃木県内の市町は、栃木市、鹿沼市、小山市、下野市、西方町、壬生町、野木町、大平町、藤岡町、岩舟町の4市6町です。このうち南摩ダムの事業中止に反対している首長、つまり、南摩ダムに賛成している首長は、小山市、壬生町、野木町、藤岡町、岩舟町の1市4町です。

栃木市、鹿沼市、下野市、西方町、大平町の3市2町は、南摩ダムの事業中止について「どちらともいえない」と回答しています。「どちらともいえない」とは、一体どういう意味でしょうか。南摩ダムに参画した市町は、南摩ダムの水が必要だから参画したのですから、事業中止には当然反対でなければならないはずです。

ところが、南摩ダムに参画しておきながら、事業中止に賛成か反対かと聞かれて「どちらともいえない」ということは、「中止してほしい」というメッセージではないでしょうか。

鹿沼市長だけが、議会や記者会見で「ダムの水を使うつもりはない」と宣言していますが、栃木市、下野市、西方町、大平町も本音は一緒ということです。

南摩ダムに参画する4市6町のうち、半数の3市2町が促進の立場をとらないのですから、栃木県が南摩ダムに参画する根拠を失っています。このことを福田富一栃木県知事は、どうとらえるのでしょうか。

●南摩ダムに参画していない市町の反応(2009-10-21修正)

興味深いのは、南摩ダムに参画していない市町の反応です。南摩ダム中止の是非について無回答だったり、「どちらともいえない」だったりして判断を避けているのが、宇都宮市、足利市、日光市、真岡市、大田原市、矢板市、さくら市、那須烏山市、上三川町、益子町、茂木町、市貝町、芳賀町、塩谷町、高根沢町、那珂川町です。普通の反応でしょう。

南摩ダムに参画していないのに南摩ダムを建設すべきだという立場をとるのが、佐野市(岡部正英市長)、那須塩原市(栗川 仁市長)、都賀町(青木 冨士夫町長)、那須町(佐藤正洋町長)の2市2町です。ダム建設には国税が使われるのですから、直接関係のない首長が意見を持つことがいけないとは思いません。栃木県の首長が川辺川ダムに反対するのは大いに結構です。無駄なダム事業を中止すれば、国民全体の福祉や教育が向上する可能性があるのですから。

しかし、これらの首長は、南摩ダムを建設することによって、だれにどのような利益があると考えているのでしょうか。「税金を使え」と言うからには、使う理由が明確になっていなければなりません。参画している鹿沼市が「ダムの水を使うつもりはない」と言っているのに、よその首長がダムを造れとは奇妙な話です。参画していないのに南摩ダム促進なのですから、南摩ダムについてよほど詳しく事情を知っているのでしょう。

都賀町は、一旦は南摩ダムに参画していたのに、途中から脱退しました。自分の町はダムの水は要らないから撤退しておいて、南摩ダムを造れとは、青木町長はどういうつもりでしょうか。そんなに南摩ダムを造ってほしいなら、今からでも参画したらどうでしょうか。

ちなみに、霞ヶ浦導水事業の中止に賛成しているのは、足利市、鹿沼市、野木町、高根沢町の首長です。はっきりものが言えない首長が多いなかで、これらの首長は大したものなのかもしれません。

●藤岡町長と岩舟町長は優等生(2009-10-21追記)

霞ヶ浦導水事業の中止に反対しているのは、藤岡町と岩舟町の町長です。この2町は最悪ですね。福田富一知事と小山市長でさえ、霞ヶ浦導水事業の必要性については、「どちらともいえない」と答えているのに、藤岡町の永島源作町長と岩舟町の茂呂幸司町長は、霞ヶ浦導水事業だけでなく、八ツ場ダム、湯西川ダム、南摩ダムの中止にも反対しています。国土交通省や建設業者から見れば、優等生の模範解答ということになりましょう。水需要が確実に減少していく時代に、こうした先見性のないハコモノ大好き首長を輩出してしまう住民にも問題があると思います。

我々無駄なダムに反対する立場からランキングすれば、八ツ場ダムと霞ヶ浦導水事業の中止に賛成する足利市長が最もまともです。

次にまともなのが、霞ヶ浦導水事業の中止に賛成し、県内3ダムの中止に反対しない鹿沼市長と高根沢町長です。

●小山市長の妄言を憂う(2009-10-21追記)

2009-10-20毎日が次のように書いています。

南摩ダム:国交相凍結表明 「どうしても必要」小山市長が強調 /栃木

 小山市の大久保寿夫市長は19日の定例会見で、前原誠司国土交通相が一時凍結を表明した48のダム事業の中に南摩ダム(思川開発事業)が含まれることについて、「(小山市の)人口は増加し、どうしても必要だと考えているので、他のダムのように無駄だとかということはない」と述べ、南摩ダム建設の必要性を強調した。

 小山市は人口増が続いており、同市の計画では、2025年に人口は16万6878人に増加し、1日7万1632トンの水が必要されている。そのうち、5万4432トンを思川開発事業などで賄う予定で、現段階では1万8948トンが不足している。現在は、不足分を暫定水利権による思川からの取水などで補っている。

 大久保市長は「前原国交相の『新たな段階に入らない』という発言は、今年度の予算執行の考え方を述べたものと理解している」と述べ、来年度以降の事業継続に期待を寄せた。【葛西大博】  
 

大久保市長は、小山市の人口が増えているから南摩ダムが必要だと言っています。  

現在、小山市の人口が増加していることは事実です。2009-10-01現在の小山市の人口は、163,665人です。「同市の計画では、2025年に人口は16万6878人に増加」することになっています。あと3,213人増加するということです。  

仮にこの予測が正しいとしても、2008年度の小山市の1人1日最大給水量は340リットルですから、将来の1人1日最大給水量もこの程度だと仮定すると、3,213人の人口増加に対応するには、3,213人×340L/人・日=1,092m3/日が必要ということになります。  

2008年度の小山市の1日最大給水量は47,471m3/日ですから、3,213人の人口増加に対応するには、47,471m3/日+1,092m3/日=48,563m3/日の水源が必要ということになります。  

ところが小山市は、1997年度に49,075m3/日の1日最大給水量を経験しています。1995年度、2001年度、2002年度、2005年度にも1日最大給水量は48,000m3/日を超えています。小山市上水道は、48,000m3/日以上の給水能力を持っていることが実証されています。  

小山市の人口があと3,213人増えて、水需要が1,092m3/日増えても、現在の水源で対応できます。  

小山市の計画では、2025年度に71,632m3/日の水源が必要とされているとのことですが、2008年度の1人1日最大給水量340リットルで割ると、210,682人分の水です。小山市の給水人口が21万人になるはずがありませんから、2025年度に71,632m3/日の水源が必要という話が荒唐無稽であることが分かっていただけると思います。  

 

上記の検証は、人口増加分しか水需要が増加しないという前提でした。  

小山市の上水道普及率が増加するということを考慮して検証してみます。  

小山市の2007年度の上水道普及率は88%ですが、小山市は2025年度の上水道普及率を94.7%と推計しています。だから、2025年の人口が166,878人になるとしても、そして上水道普及率が計画どおり94.7%になるとしても、給水人口は166,878人×94.7%=158,033人にしかなりません。この給水人口に2008年度の1人1日最大給水量340リットルを掛けると、1日最大給水量は158,033人×340L/人・日=53,731m3/日となります。  

小山市は、53,731m3/日を超える水源を保有しているのでしょうか。小山市上水道の保有水源は、給水量ベースで次のとおりです。  
                               
種別水源(m3/日)備考
渡良瀬遊水地29,333安定水利権
思川自流5,028安定水利権
深井戸18,600
深井戸4,000若木浄水場予備水源
合計56,961
 

小山市は南摩ダムを前提とした暫定水利権を除いても、約57,000m3/日の水源を保有しているのですから、2025年度に53,731m3/日の水需要をまかなえます。3,000m3/日以上の余裕があります。  

小山市は地下水の豊富な都市ですから、実際は、上水道普及率は小山市の予測のようには伸びていかないと思います。また、節水型のトイレや洗濯機の普及により、将来の1人1日最大給水量は340リットルよりも減っていくでしょうから、2025年度の1日最大給水量は5万m3/日に達しないと思われます。だから、南摩ダムに頼らなくても水源にもっと余裕があるはずです。  

小山市の水需要から南摩ダムは絶対に必要だという大久保市長の発言は、妄言としか言えません。「広報おやま」は訂正記事を掲載するのかに書いたように、小山市は、2000-12-15「広報おやま」でも、「今後の水道需要の予測は、平成21年度頃には、現在より小山市の人口や水道水を飲む人が増え、1日当たり75,900トンの水道水量が必要になります。」という妄言を載せています。  

小山市民は、まともな水需要予測をする市長を選んだ方がいいと思います。  

 ●導水路工事入札延期(2009-10-23追記)  

水資源機構は、南摩ダムの導水路建設工事の入札を当面延期することを21日に決めました。23日付け下野記事を引用します。  

 南摩ダム導水路工事入札を延期 水資源機構

 国土交通省が鹿沼市の思川開発(南摩ダム)など全国の6事業を本年度中は凍結したことを受け、独立行政法人水資源機構は22日までに、南摩ダムの導水路建設工事の入札を当面延期することを決めた。工事は5月に公告され、11月24日に開札される予定だった。

 思川開発は思川支流の南摩川に建設するダムと、並行して流れる大芦川、黒川を地下導水路で結ぶ事業。同機構によると、入札延期となるのは総延長13キロのトンネル、取水口、立て坑など導水路に関係する一切の工事が対象となる。

 思川開発は現在、川の水を迂回させる「転流工」の工事が進行中。導水路建設は本体工事の関連工事に当たる。ダム事業の見直しを掲げる前原誠司国交相は「本年度は新たな段階に入る工事は行わない」としていた。  
 

まずはめでたいことです。民主党政権にはいろいろ問題がありますが、とにかく期待するしかありません。  

佐藤信鹿沼市長は、9月30日の記者会見で「ダムの水を使うつもりはない」と言いました。このことは立派なのですが、「南摩ダムを造るのは結構、導水路も造ってください」というのが市長の考え方です。しかし、市長は、導水路を造られることの意味が分かっていないと思います。分かっていて、造ってくださいという立場だとしたら、意図的に市民の利益を危機にさらすのですから、悪質ということになってしまいます。  

鹿沼市上水道の水源は地下水源ですが、黒川と大芦川の河川水に影響されると考えられています。両河川から導水されたら、両河川の流量が減少し、浄水場の取水井の水位も下がりますから、取水量が減り、市長の「鹿沼市の水道は地下水でまかなう」という方針が成り立たなくなる可能性があります。  

国が鹿沼市民の命も水を奪おうとしているのですから、命を掛けて守るのが市長の使命だと思います。  

佐藤市長には、「ダムの水は使うつもりはない」とは言えても、「ダムも導水路も造るな」と言えない事情があるのでしょう。  

たまたま民主党政権が導水路工事を凍結してくれましたが、所詮延期にすぎませんから、油断はできません。佐藤市長は、国の政権頼みでなく、自ら導水路の反対を唱え、鹿沼市上水道の水源を守ってほしいと思います。  

ちなみに、思川開発事業は、中止されない場合、前田建設工業と熊谷組が受注すると私は予想しています。  

ちなみに、八ツ場ダムは、大成建設と前田建設工業が受注すると予想しています。  

 ●ブログ「鹿沼市政ウオッチング」から(2009-10-28追記)  

ブログ「鹿沼市政ウオッチング」で「「ダムの後」を考えよう」という記事がアップされました。  

福田富一知事が「10月15日の定例記者会見で「治水、利水の面から南摩ダムは必要」と従来の考えをあらためて示すとともに、中止になった場合の対応について「国の責任で代案を出すべきだ」と述べた。」ことが紹介されています。  

福田知事は、「治水、利水の面から南摩ダムは必要」と言いましたが、 「治水、利水の面から南摩ダムは必要」であると主張するならば、ダム訴訟の中でなぜきちんと反論しないのでしょうか。  

原告が「県内の市町は南摩ダムの水を必要としていない」と主張しても、県は、「要望調査をして報告があったから水需要がある」と反論するだけです。  

そもそも福田知事は、2009年8月25日の定例記者会見において、思川開発事業については、「「下流県の水需要を確認した上で、もう一度推進か中止かを含めて検証するべきだ」との考えを示し」(2009-08-26下野)ました。「八ツ場ダムも南摩ダムも水需要を再度確認した上で(ダムの必要性について)国民に説明責任を果たすべきだ」とも発言しています。  

いったい福田知事は、「治水、利水の面から南摩ダムは必要」という立場なのでしょうか、それとも「下流県の水需要を確認した上で、もう一度推進か中止かを含めて検証するべきだ」という立場なのでしょうか。知事がこのような「二枚舌」を使うことが許されるのでしょうか。  

「国の責任で代案を出すべきだ」もおかしな話で、これまでの政権では、水資源機構も県も市も、板荷地区や見野での導水路に関する説明会でダムを造る理由をきちんと説明していないと私は聞いています。ダムを造る理由が説明できないのなら、代替案も必要ないということになります。  

ブログには次のように書かれています。  

 今のところ、マスコミ報道は、中止を表明した民主党政権 VS 地元自治体  といった対立図式をあおることばかりが目立ち、 なぜ今ダム事業見直しなのか?という肝心なところが、二の次にされているような気がします。
ですが、ここは「見直し」という命題を与えられたわけですから、 原点に返って、なぜダムをつくる必要があるのか? その理由は正当なのか?
中止にした場合、何が必要なのか? といったことについて、徹底的に検証することが必要だと思います。
「国の責任で代案を出せ」(福田知事)などという前に、 知事はダム推進の理由をデータを示して説明する責任があると思います。
計画開始から40年も50年も経過しているにもかかわらず 完成していない事業なのですから、「それでも必要」ということを 誰でも理解できるように説明するのは、推進してきた側の責任です。

マスコミ、特にテレビは「絵になるかどうか」でニュースに取り上げますから、本質から離れた報道になりがちです。  

ブロガーのその他の主張も正論だと思います。

(文責:事務局)
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