南摩ダム凍結

2010-01-01

●国交省がダム事業への対応方針を決めた

2009-12-26下野は、次のように報じています。

湯西川ダム「継続」 /南摩、霞ケ浦は来夏結論 /国交相発表

 前原誠司国土交通相は25日、2010年度に全国で行われる136ダム事業の対応を発表し、本県関係では本体工事が進んでいる日光市の湯西川ダムが継続となった。本体着工前の鹿沼市の思川開発(南摩ダム)と栃木、茨城両県の漁協が建設に反対している霞ケ浦導水事業、八ツ場ダム(群馬県)は、事業を継続するか検証する対象となった。

 全国で検証対象となったのは89事業。来年夏ごろには、中止するかどうか判断される。民主党がマニフェスト(政権公約)で「コンクリートから人へ」を掲げた脱公共事業の一環。ただ検証ダムの選定では自治体から意見を聴取しておらず、反発が強まるのは必至だ。

 「できるだけダムに頼らない治水」への政策転換に向けて設置された国交省の「有識者会議」が来年夏ごろに基準を提示。これに沿って今回検証対象に選ばれた事業の継続の是非を決める。

 湯西川ダムをめぐっては、民主党県連が党に対し「中止を含む全面見直し」を求めたが、「11月までにダム本体工事を行っている事業は継続」との基準に沿って続行されることになった。(中略)

 福田富一知事の話
 湯西川ダムが「継続」の判断が示されたことに安堵している。思川開発(南摩ダム)は事業継続の方針が示されると考えていたので、大変残念。洪水防止、水道用水確保の観点からも必要な施設と認識している。検証期間中においても生活関連事業が円滑に進められるよう強く望む。八ツ場ダムについては中止の方針が撤回されなかったことは残念。国は有識者会議で予断なく検証すべきだ。

思川開発(南摩ダム)と霞ケ浦導水事業、八ツ場ダムが事業凍結になったのは、とりあえずめでたいことです。しかし、あくまでも「事業を継続するか検証する対象となった」だけの話であって、中止と決まったわけではないのですから、油断はできません。湯西川ダムの継続は、残念至極です。

●利水の観点から検証すべき

政府はどうやって検証するのかというと、「「できるだけダムに頼らない治水」への政策転換に向けて設置された国交省の「有識者会議」が来年夏ごろに基準を提示。これに沿って今回検証対象に選ばれた事業の継続の是非を決める。」そうです。

これもおかしな話です。上記3事業は、利水も目的とした事業です。少なくとも南摩ダムは、実質は利水ダムです。「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」は、「治水対策のあり方」を検討する組織です。治水の観点だけから上記3事業を検証してもまともな検証にはならないと思います。

もっとも、「利水事業への影響」も検討することになっていますが、あくまでも「影響」を検討するのであって、利水事業そのものを本格的に検証するつもりはないという意味でしょう。

そもそも89のダム事業を検証すると言いながら、有識者会議で主に治水の側面から検証すること自体がおかしいと思います。利水は、本来厚生労働省や農林水産省の管轄であり、国土交通省の所管は治水だという考え方から「治水対策のあり方」を検証するのだと思いますが、利水を含めて検証すべきです。多目的ダムを建設するときは、国交省や水機構がまとめてやるくせに、検証は縦割りでやるというのはおかしな発想です。上記3事業を検証するなら、むしろ利水が中心でなければいけないと思います。

●政府の判断基準は間違っている

全国的には多くのダムで民主党の国会議員はまともなことを言っても、地方議員がダムに賛成していてどうしようもないというケースが相場でした。栃木県では、小林守元衆議院議員が国会でいいことを言っても、民主党の地方議員の考え方は違っていました。

ところが今回は、民主党県連は党に対し「中止を含む見直し」を求めたにもかかわらず、「「11月までにダム本体工事を行っている事業は継続」との基準に沿って続行されることになった。」のです。

政府の判断基準は、完全に間違っていると思います。多目的ダムは、治水や利水や発電に役に立つかどうか、治水上・利水上無駄か(ないしは効果ががどの程度あるか)、で判断すべきです。本来の目的を脇に置いて、「11月までにダム本体工事を行っている」かどうかを判断基準とするのは、筋が通らない話です。

要するに、「やりかけたからやっちゃいます」という話です。役に立たないダムなら、やりかけでも中止して、元に戻すべきです。役に立たないものを公共事業と呼ぶとすれば、何でも公共事業になってしまいますい。そこらへんに穴掘って埋め戻しても、雇用の創出にはなりますから、それも公共事業と呼ぶべきだということになります。

自民党政権下の公共事業にはそういうものが多かったのです。そういう事業を続けていたのでは日本は滅びるというのが、民主党の言ってきたことだったはずです。

八ツ場ダム問題でも、前原誠司・国土交通大臣は中止する理由を具体的に言いませんでした。国会で、田中康夫議員に八ツ場ダムを中止する理由を問われて、前原大臣は、コンクリートから人への政策転換だの、ダムに頼らない治水だの、時のアセスだのと答えたそうですが、中止と言うなら、八ツ場ダムは、治水、利水、発電のいずれの目的から見ても役に立たないということをまず言うべきだったと思います。

ちなみに、ダムマニアがつくっている速報ダム日和というサイトの2009-09-25付け長野原町民が八ッ場(やんば)ダム中止問題の矢面に立たされている3つの理由の中でも、9月23日の前原大臣の現地視察後の記者会見について次のような感想が書かれています。

「八ッ場ダムを中止する」という理由として具体的な中止理由が読み取れないわけです。治水・利水上無駄なのか、ダムという手法を問題にしているのか、その全部なのか。漠然としたイメージは語るのですが具体的な話に全然踏み込まないんですね。

やはり、政府は「治水・利水上無駄なのか」を説明すべきです。

「コンクリートから人へ」が中止の理由として説得力に乏しいように、「11月までにダム本体工事を行っている」というのも、継続の判断基準として説得力を持ちません。ダムに関する民主党政権の判断基準は間違っていると思います。

●なぜ「11月までにダム本体工事を行っている」が事業継続の基準なのか

なぜ「11月までにダム本体工事を行っている」が事業継続の基準なのでしょうか。2009-10-19JPニュースの「胆沢ダムの建設凍結は無い」と国交省現場担当者=民主・小沢氏の違法献金事件で揺れる疑惑ダムに次のように書かれています。

新聞報道などによれば、小沢氏側の「陸山会」を巡る政治資金規正法違反事件では、逮捕された公設第1秘書、大久保隆規容疑者は西松建設に対して「胆沢ダムは小沢ダムだ」と言って献金を受け取ったとされる。
2013年度完成予定の胆沢ダムは工事は75%が終わり、最終段階の「本体工事」に入っている。総事業費2440億円のうち、現時点で1618億円がすでに使われた。前原国交相は10月始め、胆沢ダムを含めた国や水資源機構のダム48事業について、今年度内には新たな工事手続きには入らず、来年度以降の工事も今後検討すると宣言した。

胆沢ダム建設を管轄する国交省職員は「胆沢ダムの場合はすでに本体工事に入っており、工事が凍結の対象にあたるという話は今のところ現場サイドでは無い」と話した。そのうえで「ただ、今後どうなるかは分からない。現場では戦々恐々としている」と打ち明けた。また、見学会に参加した地元住民は「ダム建設が中止になれば、小沢一郎を下ろす」と話した。

以上の報道から考えて、「11月までにダム本体工事を行っている」という基準は、胆沢(いさわ)ダムを中止しないためのものだろうと私は見ています。

たしか2009年10月ごろのテレビ朝日のテレビ番組「たけしのTVタックル」で、自民党の議員(河野太郎氏だったか?)から「小沢さんの地元の胆沢ダムの検証をやるのか」と聞かれた民主党議員が「やります」と答えていたのですが、あれは何だったのでしょうか。

●今度は推進派の福田知事

南摩ダムのこのごろ(その3)に書いたように、福田富一・栃木県知事は、2009-08-25の総選挙直前の記者会見で南摩ダムについて「下流県の水需要を確認した上で、もう一度推進か中止かを含めて検証するべきだ」(2009-08-26下野)と言っていました。

2009-11-28に鹿沼市の市民情報センターで南摩ダムに関し、「国の事業なので県は受け身の立場。国の判断を待ちたい」(2009-11-29下野)と言いました。

「埼玉県では水が必要だと言っている。本県だけで(ダム建設の是非を)決められないことなので、流域圏全体で判断する必要がある」(2009-10-16下野)というのもありました。

「(12月)2日の県議会代表質問で、全国のダム事業見直しについて「個別のダムごとの議論にとどまらず、国は流域全体の水需給を見直すべきだ。その中で本県の治水利水についても検証が必要」との考えを示した。」(2009-12-03下野)のですから、今回の民主党の対応について福田知事のコメントは「歓迎すべきこと」のはずです。

今回の福田知事のコメントは、「(南摩ダムは)洪水防止、水道用水確保の観点からも必要な施設と認識している。」でした。8月25日の発言と矛盾しています。一貫性のない主張をする政治家は、知事になる資格がないと思います。

●なぜ鹿島建設か

ちなみに、湯西川ダムと言えば気になるのが受注業者です。旧栗山村にあるダムの受注業者は、次のとおりです。                              
ダム名完成年度受注業者
五十里ダム1956鹿島建設
川俣ダム1966鹿島建設
川治ダム1983鹿島建設
三河沢ダム2003鹿島建設・三井住友建設
湯西川ダム2011(予定)鹿島建設・清水建設

偶然なのでしょうか、すべてに鹿島(かじま)建設がからんでいます。

●南摩ダムでの移転者は「必要ないなら中止」

上記下野の3面には、南摩ダムについて「西之入地区対策協議会の駒場勝代表(59)は「削った山はどうするのか。土砂崩れが起きたらどうするんだ」と憤りを隠せない。」と書かれています。しかし、ダムを造れということではなく、「「ダムが必要ないなら中止した方がいい。でも結論の先送りだけはやめてほしい」と話した」そうです。全く同感です。

ちなみに、2009-12-21東京新聞は、駒場代表に取材し、次のような記事を載せています。

<回顧 '09栃木>南摩ダム建設事業 一時凍結

 「ダムを造らないなら、何のために故郷を出たのか分からない。これまでの日々を返してほしい」

 秋も暮れたころ、建設予定地から数キロ離れた鹿沼市上南摩の自宅で駒場勝さん(59)は憤って見せた後、おもむろにこう続けた。「-でも、それは建前。みんな、本音は別だよ」

 前原誠司国土交通相が十月に表明した全国ダム事業の一時凍結。鹿沼市の南摩ダム(思川開発事業)もその一つに挙がり、関係者に激震が走った。予備調査開始からすでに四十五年がたち、現在は本体工事の前段階にある。国が水需要などを再検証し、年度内に中止も含めた結論が下る。

 必要か、不要か?。そうした論議の中で、置き去りになってきたもの。それは、水没予定地から代替地に移転した八十戸の住民たちの思いではなかったか。

 その一人である駒場さんは、祖父、父と三代にわたりダム問題と闘ってきた。当初は建設に猛反発したが、「ずっと反対していても人生は先に進まない」と涙をのむ。補償交渉委員会の役員として周囲に建設の必要性を説いて回り、「裏切り者」と後ろ指を指された。移転後には「補償金で豪邸なんか建てて」と陰口もたたかれた。辛苦の日々が無駄になることに、落胆はなかったのか。

 「あのまま集落にいても、若い世代がいなくなって荒廃するだけ。皮肉にもダムのおかげで抜け出せ、みんな再出発も果たせた。ただ、この先もずっと税金がかかるダムなど、もうなくていい」

 故郷を売るという究極の決断を余儀なくされた、"怨念(おんねん)"にも似た思い。人の一生を翻弄(ほんろう)する国策の重さを垣間見て、安易な言葉を継ぐことはできなかった。(小倉 貞俊)

記事中、「国が水需要などを再検証し、年度内に中止も含めた結論が下る。」は、その時点では正しかったのですが、上記のように結論は来年度に先送りされることになりました。

●建設業はどうなる

上記下野の3面に新政権による公共事業費の大幅削減に、佐野市の建設業者からの「これ以上公共工事が減ったらやっていけない。建設業から撤退しろということか」という怒りの声を紹介しています。

私たちも建設業者が失業することを望んではいませんが、日本には建設労働者が多すぎるという問題があります。公共工事がもうかるということが大きな要因だったと思います。

公共事業費を減らせば失業が増えるぞという理屈は分かりますが、だからといって不要な環境破壊を続けないと国民が食べていけないという構図を早期に変えていかないと、この国に未来はないと思います。

鳩山内閣では、「公共事業削減に伴う建設・土木労働者の農林業などへの転職支援」(2009-10-09朝日の建設労働者の転職を支援 政府の緊急雇用対策)をやるようです。

そううまくいくとは思えませんが、建設業栄えて山河滅ぶ、という事態は避けるためにそれぞれが知恵を出し合っていく必要があると思います。

(文責:事務局)
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