栃木県南地域における水道水源確保に関する検討(案)に対するパブリックコメントのワナを見抜け(2)

2013年1月3日

● 水道事業認可と地下水依存率削減計画とのすり替え

「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討(案)」(以下「案」という。)には、少なくとも三つのすり替えがあります。

第1のすり替えは、水道事業認可と地下水依存率削減計画とのすり替えです。

栃木県は検討資料の提出を求められた で紹介したように、国は現在、思川開発事業に関する検証作業を進めており、2012年6月29日に開かれた「思川開発事業の関係地方公共団体からなる検討の場 第3回幹事会」で、栃木県は国から思川開発事業に係る水道事業認可について確認したいと言われ、「関係機関と協議し調整する」と書いてお茶を濁そうとしましたが、国(関東地方整備局広域水管理官)は以外に真面目で、それには納得せず、「我々、今、思川開発事業についての検証というものをやっているところでございますので、全体のお話に加えまして、思川開発事業に関する部分についての資料について、追加して提出いただきたい」と言われてしまいました。

しかし、水道事業認可を急に得ることはできません。そこで栃木県が国に提出した資料が地下水依存率を削減する計画の案なのです。

検証作業の本来のルールに従えば、水道事業の認可を得ていることを確認すべきなのですが、栃木県ではそれができないので、地下水依存率を下げる計画をつくって、それを事業認可に相当するものとして提出しようとするものです。

以上が一つ目のすり替えです。

● 地下水依存率の低下の是非と思川開発事業への参画の是非とのすり替え

第2のすり替えは、地下水依存率の問題と思川開発事業への参画の問題とをすり替えていることです。

案のp1には、「(2012年6月29日に)国から今回の検証に要するため、栃木県の思川開発事業に係わる利水参画根拠について、水需給計画の妥当性の観点から再度確認し追加資料を提出するよう要請があった。」ことを契機として案を作成したと正直に書かれていますが、p24の基本方針には、「地下水から表流水への一部転換を促進し、地下水と表流水のバランスを確保する。」と書かれており、思川開発事業に参画するということは一言も書かれていません。

しかし、思川開発事業のほかに表流水を確保する方法があるのかというと、3ダム訴訟で栃木県知事は、2007年4月16日提出の被告第7準備書面p7において、県内に大量にある未利用水源は県南地域のために使えないと主張しているのですから、地下水と表流水のバランスを確保するために表流水を確保する方法は思川開発事業に参画する以外にないということになるはずです。

したがって、バランスをとることが必要だという方針に県民がいったん賛成すると、表流水を確保することが必要になり、思川開発事業への参画に賛成したことになるという構造になたています。

このトリックは、八ツ場ダムの治水問題でも使われています。

国は、利根川・江戸川において今後20〜30年間で目指す安全の水準に対するパブリックコメントを2012年5月25日から実施しました。国の示す案は、「利根川・江戸川河川整備計画」について目標流量を八斗島で17,000m3/秒とする案について意見を募集するものであり、八ツ場ダムの建設の是非を問うものではありませんでした。

しかし、目標流量を17,000m3/秒にすることに国民が賛成してしまうと、これに対応するには八ツ場ダム案が最も有利であるとして同ダムの建設に賛成したことにされてしまうことが見え見えのパブコメでした。(ちなみに国は、「利根川・江戸川河川整備計画」を藤村修・官房長官(当時)の八ツ場ダム事業実施に係る条件に関する裁定にある利根川全体の河川整備計画に置き換えてしまおうという、もう一つのすり替えを図っていたと思われます。)

つまり、県は、思川開発事業への参画という全体的な計画を地下水依存率の削減計画にすり替えています。

この第2のすり替えによる効果は、地下水削減問題を切り離して意見を募集することで、全体計画である思川開発事業によるデメリット(環境破壊、巨額の費用による財政悪化と料金値上げ等)を示さなくてよくなることです。実に狡猾です。

● 「県南地域」と「県南関係市町」とのすり替え

第3のすり替えは、「県南地域」と「県南関係市町」とのすり替えです。

案のp1には、次のように用語を定義しています。

この報告書における「県南地域」とは、県南関係市町と小山市に係る地域である。

案のp24には、「第4章栃木県南地域における水道水源確保に関する基本的考え方」が示されていますが、1の「基本方針」については「県南地域」について記載しているのに、2の「検討の対象区域及び目標年度」になると対象区域は「県南関係市町(2市3町)」にすり替わってしまいます。

2以降は県南関係市町(2市3町)の話になるかと思いきや、3の地下水と表流水のバランス確保のための目標設定になると、「(2)隣接県の状況」で「県南地域は地下水依存率が高く」と書かれており、2市3町に小山市を含めた議論にすり替わっています。

また、案のp25の「(3)基本目標の設定」では、「県南地域と同様の環境にある隣接県の対策要綱対象地域で約20%〜60%(中間の値40%)」と書かれており、「県南地域」(小山市を含む。)について記述していますが、「(4)中間目標の設定」になると、「現時点の地下水依存率約90%」と書かれ、県南関係市町の話にすり替わっています。

●県南地域の地下水依存率は高くない

ところで、案のp24の6行目と下から9行目に「県南地域は地下水依存率が高く」と書かれていますが、誤りです。

「県南地域」とは、p1の定義によれば、小山市を含みます。

小山市を含んだ県南の地域の地下水依存率は、次項に示すように、65.7%であり、高くありません。

したがって、「県南地域は地下水依存率が高く」は、誤りです。

つまり、「県南関係市町は地下水依存率が高く」と書くべきところ、「県南関係市町」を「県南地域」にすり替えられてしまっています。

なお、「高い」は不確定概念ですので、何らかの基準がないと高いか高くないかの議論は水掛け論になっていしまいます。県は、基準を設けずに「高い」を使っていることをいいことにして、県南地域の地下水依存率65.7%は「高い」と言うかもしれません。

しかし、「県南地域と同様の環境にある隣接県の対策要綱対象地域で約20%〜60%」であり、隣接県と同等の水準を確保することを目標としているのですから、文脈からは90%台は高いが60%台は高くない水準であるという認識を県が示していると見るべきでしょう。

したがって、「(小山市を含む)県南地域は地下水依存率が高く」は、やはり誤りです。

● 県南地域の地下水依存率は65.7%

県南地域の2010年度における上水道の実績1日平均取水量は以下のとおりです。出典は、「栃木の水道」(2010年度版)です。
栃木市(栃木) 25,288m3/日
栃木市(大平) 10,293
栃木市(藤岡) 6,649
栃木市(西方) 2,759
下野市     18,945
壬生町     10,797
野木町      7,022
岩舟町      7,255
小山市     45,386
合計     134,394

以上のうち、小山市で39,235m3/日、野木町で6,921m3/日、合計46,156m3/日が表流水です。

したがって、県南地域の表流水依存率は、46,156m3/日÷134,394m3/日=34.3%です。

したがって、県南地域の地下水依存率は、100%−34.3%=65.7%となります。

前回紹介したムダなダムをストップさせる栃木の会の意見書にもあるように、小山市の地下水依存率は13.6%と低く、水道事業の規模が大きいので、小山市を含んだ県南地域の地下水依存率は大きく下がるということです。

● 栃木県が科学を放棄した

案で注目すべきことは、栃木県が政策選択に当たり科学を放棄したということです。

県は3ダム訴訟で、新規水需要が発生する可能性があるから思川開発事業に参画する必要があると主張してきましたが、科学的な論証が不可能となり、ついに政策の根拠を科学で説明することをあきらめました。

水需要予測では、県は白旗を揚げたということです。

3ダム訴訟において、控訴審の段階に入り、県南関係市町に新規水需要がないことが当事者間に争いのない事実となったということです。

そしてダムに参画する理由は、1)地盤沈下、2)地下水汚染、3)異常気象による渇水という三つの発生する「おそれ」となりました。

しかし、それらの危険性に対する表流水の必要量を科学的に算定することはできないため、地下水依存率の目標を「政策的に定める」と宣言しました。

科学的な根拠など要らないというわけです。

原則論としては、政策の根拠を科学的に説明できないということは、その政策を選択すべきでないという意味になるはずです。

政策に関する科学的根拠不要説がまかり通るなら、検証作業も不要になります。これはむちゃくちゃな話です。

●科学的根拠がない政策は違法だ

案のp25の(4)で県は、「地盤沈下や地下水汚染など、将来の地下水を巡る状況を現時点で把握することが困難である」と正直に書いています。

将来どうなるか分からない状況なのに、あえて数百億円(利息を含めないダム建設負担金だけで64億円プラス水道用水供給施設建設費用(2百億円?))を投ずる政策を実施することは、最少費用最大効果の原則(地方自治法第2条第14項、地方財政法第4条第1項)に違反します。また、企業の経済性を発揮して運営されなければならないという企業会計の原則(地方公営企業法第3条)にも違反します。

行政の裁量権の範囲に関する判例理論(日光太郎杉事件判決、小田急事件判決等)から言っても、地盤沈下や地下水汚染、異常渇水は、知事が裁量権を考慮すべき事項ではあっても、地盤沈下は沈静化し、県南関係市町の水道水源井戸の汚染の事実もないのですから、両者を過重に評価することは裁量権を逸脱して行使することになり、違法です。

表流水に転換すれば異常渇水に対応できるという理由づけも事実誤認に基づく政策判断ですので、裁量権の逸脱であり違法です。

● 水需要が減ることを県が認めた

県は、3ダム訴訟では、「将来の水道普及率の増に伴う新規水需要」(被告第7準備書面p5)を考慮すべきだと主張していました。

ところが、案では悪あがきを止め、水道普及率は過大に推計するものの、1日最大給水量は、2010年度の103,305m3/日から2030年度の96,200m3/日に減少するという、今後水需要は増えないという推計をしました。

つまり、人口減少社会の到来が明らかとなり、県は水需要が増えるというウソはつけなくなったのです。

したがって、栃木県が思川開発事業に参画する理由は、水源転換しかなくなったのです。

このことは、3ダム訴訟の宇都宮地裁判決(2011年3月24日、今泉秀和裁判長)の「栃木県及び各市町が水道事業者としての責務を果たすためには、将来にわたり安定的な給水業務を実施するため余裕をもった水需要予測をすることはやむを得ない面もある」という判示が結果的に誤りだったとことの証左です。

● 野木町が参画する理由がなくなった

野木町は、14,500m3/日の水源を保有しています。内訳は、表流水が11,300m3/日、地下水が3,200m3/日ですから、地下水依存率は、22.1%ということになります。

上記水量は、計画1日最大取水量です。しかし、案のp13の図表3−14には、野木町の地下水依存率は、1.4%と書かれています。

おそらくは、2010年度の野木町の実績1日平均取水量が表流水6,921m3/日、地下水101m3/日なので、県は、実績1日最大取水量で地下水依存率を算出していると思います。

いずれにせよ、野木町は表流水への依存率が高いので、地下水を表流水に転換する予定はありません。

野木町が2001年に思川開発事業に参画を要望したのは、新規水需要に充てるためでした。

ところが案では、県は県南関係地域で水需要は減少すると予測し、参画の理由は地下水源を表流水に転換するためであるとしたのですから、新規水需要がなく、水道水源の98.6%は既に表流水であり、水源転換の予定がない野木町が参画している理由はなくなりました。

●小山市も併せて検討するのは筋が通らない

案のp2には、「小山市の動向も併せて整理している。」と記載されていますが、小山市は独自の判断で参画しているので県が参画している問題とは切り離すべきです。

この案は、県の参画水量である0.403m3/秒をどう使うのかの確認を迫られて書かれたものです。小山市は、単独で参画しているのですから、別問題です。

栃木県が思川開発事業にどう臨むのかという問題を検討するなら、小山市だけでなく、鹿沼市も含めて議論しなければなりません。

県が人口や地盤沈下の話になると小山市を引き合いに出し、地下水依存率の話になると小山市を除外して計算するのはご都合主義というものです。

●地下水は優れた水源である

案のp1には、「県南地域の地下水依存度が依然として高く、水の安全保障面で課題がある」と記載されていますが、地下水は良質な水道水源であり、地下水依存度が高いことは課題ではありません。むしろ誇るべきことです。

地下水源を表流水に転換するなんて正気の沙汰ではありません。

地下水は、気候変動の影響を受けにくいので、表流水を水源とする場合よりも渇水に強いと言えます。

ヨーロッパ諸国では、地表水を上水道の水源にできるのは、ほかに方法のない場合に限られます。ベルリンやハンブルクでは、水道水源を表流水から地下水へ切り替えたほどです。

表流水が水道水源の王道であるみたいなことを言っているのは、日本の官僚だけではないでしょうか。

●水道普及率は上がらない

案のp3には、「水道普及率については、県南関係市町及び小山市が水道の普及を促進することにより今後も向上するものと見込まれ」と記載されていますが、誤った見込みです。

県南関係市町の水道普及率は、2001年度の88.3%から2010年度の90.4%になり、10年間で2.1ポイントしか伸びていません。

このことは県南の地下水が豊富であることの証拠であり、今後も水道普及率が著しく伸びることはないと想定すべきです。

確かに、十分な地下水に恵まれない地域も存在するでしょうが、水道の未普及地域は、家屋が散在する山間部や過疎地域が多く、水道施設を整備するには多額の費用を必要とします。今後財政状況が好転する見込みもありませんから、未普及地域がそう簡単に解消するとは思えません。

「日本の水資源」(2012年度版)p72のグラフ「現在給水人口と普及率の推移」からも明らかなように、全国の給水人口も普及率も頭打ちであり、県南地域においてのみ向上すると見込むべきではありません。

これまで県南関係市町の水道普及率が上がらなかったのは、それなりの理由があるのです。それなりの理由を無視した裁量権の行使は、裁量権の範囲を逸脱ています。

●世帯人数の減少は増加要因にならない

案のp4には、「東京都の事例によれば、世帯人数が減少するに伴い一人当たりの使用水量が逆に増加するという関係がある」と記載されていますが、なぜ東京都の事例によらなければならいのか分かりません。

まずは、県南関係市町のデータで相関関係を分析すべきでしょう。

「今後、県南関係市町及び小山市においても、世帯構成人数の減少による一人当たりの使用水量の増加が想定される」と記載されていますが、「日本の水資源」(2012年度版)p71のグラフ「生活用水の一人一日使用量の推移」からも明らかなように、今後も全国の1人当たりの使用水量の減少傾向は続くと想定され、県南関係市町においては増加すると想定することは、誤りだと思います。

●トイレの水洗化の普及は使用水量の増加要因とならない

案のp5には、「生活排水処理施設の整備が進むことにより、トイレの水洗化の促進に伴う家庭における水の使用量の増加が想定される」と記載されていますが、トイレの水洗化は県南関係市町でも進んでいるのであり(図表2−9)、それにもかかわらず、1日最大給水量の増加は認められない(p29図表4−3)のですから、トイレの水洗化の促進により水需要が増えると想定すべきではないと思います。

水洗化が進んでも、節水型トイレの普及が進んでおり、水洗化による水需要の増加は節水効果で打ち消されていると考えられます。

なお、節水型洗濯機への買い替えが今後も進むと想定され、これも水需要の減少要因ですが、県は無視しています。

●南摩ダムで異常渇水に対応できない

p7には、「異常渇水への懸念が益々増大すると想定される」と記載されています。

確かに将来の気象現象がどうなるかは分かりませんが、ダムで問題が解決する保証はありません。

繰り返しになりますが、渇水に弱いのは表流水を水源とする水道なのです。

異常渇水への懸念が増大すると言いながら、水源を地下水から降雨量の影響を受けやすい表流水への転換を図ることは矛盾です。まして南摩ダムには水がたまらないのですから、異常渇水の対策にはなりません。

●ダム事業が激減している理由を考えよう

案のp10には、全国でダム事業が激減していると記載されています。ダムが費用対効果のない不要不急の事業だからであることを県は認識すべきです。

南摩ダムが構想発表から48年間経って完成しなくても住民が困っていないということは、南摩ダムが不要であることの証左です。

県は、この48年間で県南関係市町にどれだけの地下水汚染と渇水被害があったのかさえ挙げることができません。

考えてみれば、思川開発事業の当初の目的は、1960年代の東京砂漠の解消でした。ところが、都は1994年に同事業から撤退しました。栃木県では、中央畑作地帯のかんがい用水も目的でしたが、目的はころころと変わり、今では、水道の地下水源を表流水に転換するためだけとなりました。それでも建設を進める理由があるとすれば、利権しかないでしょう。

●なぜ足利市と佐野市を引き合いに出すのか

案のp13では、思川開発事業の検証をしているのに、なぜ足利、佐野の水田の話を持ち出すのでしょうか。群馬県桐生市も思川開発事業とは関係がありません。よその例ではなく、県南関係市町にどのような被害が出ているのかを示すべきです。

思川開発事業とは関係のない地域の事例を持ち出すということは、思川流域にはさしたる被害がないということでしょう。

●桐生市では断水していない

案のp14の表で「断水等減圧給水」と記載されていますが、減圧給水は断水の上位概念ではありません。意味不明です。

表で1987年に桐生市で断水があったように書かれていますが、誤りです。断水には至っていません。

思川開発事業とは関係のない地域での断水事例をねつ造してまで栃木県民の不安をあおるダム推進勢力のやり方は許されないと思います。

●放射能汚染をどうするのか

案の15以下で、県は、要するに表流水は汚染されやすいが、回復も早いので安全だと言いたいようですが、宇都宮市と野木町の上水道で起きたような放射能汚染事故が容易に起こりうる水源への依存度を高めることは、県民の生命を脅かす政策です。

おそらく県は、「放射能汚染の場合でも収束までの時間は短い」と言うのでしょうが、放射能汚染が公表されたときには汚染された水道水を住民が飲んでしまっているのです。このことについて県は見解を示すべきだと思います。

そもそも枯れ葉の成分と塩素で生成される発ガン物質のトリハロメタンが生成しやすい表流水をわざわざ利用すべきではありません。

●栃木県の地盤沈下対策は大甘

案のp17によれば、他県の地下水採取規制は、事業者に採取を抑制するよう要請・勧告するもので、特に千葉県は採取を規制しています。

これに対し、これまでの栃木県の政策は届出と事前協議のみであり、県環境審議会の地下水規制に関する中間報告によれば、届出義務も2割程度しか履行されず、揚水量の把握さえできていない有様です。

県はこれまで地盤沈下対策に真摯に取り組んでこなかったのに、ダムに参画するときだけ地盤沈下を持ち出すのは矛盾であり、ご都合主義です。

●地下水採取削減目標は達成されている

案のp18の図表3−22のグラフでは関東平野北部の保全地域における年間地下水採取目標量4.8億m3/年は達成されていませんが、「2011年度 全国の地盤沈下地域の概況」(環境省)p13図7によれば、2008年以降達成されています。

いずれが正しいのか不明ですが、2002年以降はほぼ達成されており、今後の人口減少等を考慮すると十分に達成されると見込まれ、この観点からも代替水源は不要です。

●地下水依存率の低下は地盤沈下対策にならない

案のp20図表3−26には、野木観測所で地盤沈下が進んでいる図が示されていますが、野木町上水道の地下水依存率は1.4%です。上水道における地下水依存率を低下させても地盤沈下対策にならないことの証左です。

藤岡遊水池観測所でも地下水が上昇傾向にあるのに、地盤沈下が続いていることが示されています。しかし、この観測所での地盤沈下が上水道のための地下水採取によるものであることは証明されていません。

また、旧藤岡町の上水道のための地下水採取量は、同地区の全採取量の3割程度で、そのうち転換予定水量は3割程度ですから、思川開発事業による旧藤岡町における地下水採取量の削減割合は同地区の全地下水採取量の1割程度ですから、思川開発事業は地盤沈下対策になりません。

●地下水汚染は防止するのが本筋だ

案のp21では、表流水の水質事故については、上水道の取水停止を伴うような重大事故の件数を挙げていますが、地下水においては、一般地下水の事故件数を挙げておりフェアではありません。

地下水は一度汚染されると収束まで長期間かかるから危険だと言いたいようですが、ダムに払うカネがあるなら、行政が汚染原因物質を監視すれば、汚染事故は相当防止できるはずです。

水質汚染対策なら水源を守るのが筋であり、代替水源の確保に費用をかけるのは本末転倒です。

●表流水の方が安全とは言えない

案のp22では、要するに地下水の方が危険であると言いたいようですが、厚生労働省の資料「水質汚染事故による水道の被害及び水道の異臭味被害状況について」の表1−2によれば、2008年度における全国の上水道の水質事故は42件であり、水源別では、表流水33件、伏流水7件、地下水2件です。

関東の上水道では、表流水8件、伏流水2件、地下水0件です。伏流水は表流水と同視すべきと考えます。

以上の事実から地下水依存度を下げることが安全性を高めると考えることには無理があると思います。

●バランス論はダムありきの発想だ

案のp23には、厚生労働省の水道ビジョンに「地下水と表流水は適切なバランスで取水する必要がある。」と記載されていることを引用していますが、地下水の過剰揚水を戒めているにすぎないと読むべきです。もし水道ビジョンが、地下水100%がいけないという趣旨なら間違いであり、間違いを引用しても正当化の根拠にはなりません。

地下水と表流水のバランス論は、エネルギーのベストミックス論と同様、前提が成り立たず、ダムありき、原発ありきの利権的発想と見るべきです。

●水源汚染と渇水に対する現在の安全度と数値目標を明らかにせよ

県は、公金を使う以上、政策の根拠を科学的に説明すべきです。

県が提案する地下水依存率40%という基本目標の根拠とは、「現時点における全県下平均的な安全性を確保すること」(案のp25)です。「全県下平均」が県内他地域(鬼怒・小貝川地域、那珂・久慈川地域)を指すことは文脈から明らかです。つまり、県内他地域の地下水依存率の水準が基本目標の根拠です。

そうであるならば、県はまず県南関係市町と県内他地域における水源汚染と渇水に対する安全度を定量的に明らかにすべきです。

そして、県南関係市町の地下水依存率を県内他地域並みにすることで、水源汚染と渇水に対する安全度をどの程度にするのかという数値目標を示すべきです。

つまり、県南関係市町において水源汚染と渇水被害がどれだけあったのかを示し、地下水依存率を県内他地域並みにすることでどれだけ被害を減らせるのかを示すべきです。

ところが県は、県南関係市町における具体的な水源汚染と渇水被害を挙げることすらしません。しない、というよりもできないのです。

県南関係市町が県内他地域と同程度の地下水依存率にしたら、かえって水源汚染と渇水に対する安全度を下げる結果にもなりかねないのですから、県が県南関係市町の地下水依存率を下げるという政策を掲げるからには、県南関係市町と県内他地域の現在と将来の安全度を定量的に明らかにする作業は、是非とも必要です。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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