下野市議会議員が広域水道について勉強会を開いた

2017-03-17

●下野市議会議員が県から広域水道の説明を受けた

2017年2月7日に下野市議会議員18人中16人が水資源機構思川開発建設所(鹿沼市口粟野)を訪問し、栃木県職員から県南の広域水道計画について説明を受けました。その後、南摩ダム建設予定地を見学しました。

県の説明は、2013年3月に作成された「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」(以下「報告書」という。)に基づき行われました。

●表流水導入の必要性は「水道ビジョン」が根拠だと言われた

議員らは、2008年7月に厚生労働省が作成した「水道ビジョン」に、「地下水と表流水を適切なバランスで取水する必要がある」と書いてあるから、県南2市1町(栃木市、下野市、壬生町)も地下水100%の水道ではいけないと県職員から説明されたそうです。

今泉判決は崩れた(その3)〜思川開発事業は栃木県の地盤沈下対策としての効果なし〜にも書いたことですが、確かに、「水道ビジョン」には、次のような記述がありました。報告書のp23参照。

古来から生活や産業を支えていた地下水についても引き続き重要な水源であるが、 一部の地域では過剰揚水による地下水位の低下や地盤沈下の発生等の地下水障害が起きてきた。これらに対処するため表流水への転換や地下水揚水の規制によって、近年、地下水位が回復している地域も見られるが、引き続き地盤沈下の進行を注視しなければならない地域も存在する。地盤沈下はひとたび発生するとその復旧は困難であることに加え、地下水位の回復には長期間を要することに留意しつつ、地下水と表流水は適切なバランスで取水する必要がある。


●県は亡霊にすがっている

しかし、「水道ビジョン」は、2013年3月に全面改訂され、現在通用している厚生労働省の方針は、「新水道ビジョン」であり、2004年に策定され、2008年に一部改訂された「水道ビジョン」は、2013年に廃止されたことになります。

栃木県は、廃止されて効力を持たない文書である「水道ビジョン」という亡霊を根拠として、2市1町の水道にダム水の導入を迫っているのです。

栃木県が、厚生労働省が廃止した方針を根拠に県南広域水道の事業を進めることは許されません。

●水道ビジョンは地盤沈下防止の観点から書かれていた

なお、「地盤沈下はひとたび発生するとその復旧は困難であることに加え、地下水位の回復には長期間を要することに留意しつつ、地下水と表流水は適切なバランスで取水する必要がある。」と書かれていることからも明らかなように、「水道ビジョン」は、地盤沈下防止の観点から地下水と表流水のバランス論を説いたものであり、地下水汚染の問題とは絡めていません。

議員への説明会で県がどのように説明したのか、詳細は不明ですが、地下水汚染対策としてもバランス論を説いたとすれば、「水道ビジョン」から逸脱した説明です。

●地盤沈下は沈静化している

2015年度栃木県地盤変動・地下水位調査報告書のp11をご覧ください。

観測開始からの累積で532.52mmという県内最大の地層収縮量を記録した観測地点である「野木(環境)」での2015年の地層収縮量は、わずかに0.23mmです。1994年には66.16mmも収縮していましたので、2015年の収縮量は、その約0.35%まで沈静化しました。前年の2014年には3.90mm地層が膨張しました。「野木(環境)」での観測以来初めてのことです。

栃木県南地域の地盤沈下は、沈静化しています。

●地下水位も上昇傾向にある

地下水位の経年変化を見ても、40本の観測井のうち深度450mの小山1号を除いては、地下水位は上昇傾向にあり、今後地盤沈下が激化することは考えにくい状況になっています。(ちなみに、栃木県環境森林部環境保全課に電話をして小山1号で地下水位が低下傾向にあることの原因をどう分析しているか尋ねましたが、原因の分析はしていないという回答でした。県の環境当局も小山1号の低下傾向を問題にしていないということです。)

ですから、仮に旧「水道ビジョン」が有効だとしても、地盤沈下が進行している場合という前提条件がなくなったのですから、「地下水と表流水は適切なバランス」論は成り立ちません。

「新水道ビジョン」が「地下水と表流水は適切なバランス」論を引き継がなかったのは、全国的に地盤沈下が沈静化してきたという状況を考慮した上での判断だったと思います。

地盤沈下は全国的に1997年以降沈静化していますので、厚生労働省はこの傾向を無視できなかったものと思います。

「水道ビジョン」が廃止されているという形式論から考えても、また、地盤沈下が沈静化しているという実態論から考えても、栃木県の説明は破綻しています。

栃木県は、地盤沈下防止対策として水源転換をしなければならない根拠を何も示していないのです。

●下野市で年間1cmとのデタラメ回答

県の説明後の質疑では「地盤沈下は落ち着いていると聞いているが?」という質問が議員から出ました。

県職員の回答は、下野市本吉田で年に1cm程度の沈下があるということでした。

しかし、この回答はデタラメであり、2015年度栃木県地盤変動・地下水位調査報告書の地盤沈下計による観測結果のp11を見ると、本吉田の地層収縮量は、1989年の観測開始以来、収縮量が年1mmを超えたのは、1994年(わずか1.05mm)だけです。正確に言えば、2011年には2.85mmの収縮量を記録していますが、2011年は大地震のあった特殊な年なので、水源転換の必要性を考える上で考慮すべきではありません。

本吉田の地層収縮量は、27年間で15.88mmです。年平均で約0.59mmです。大地震のあった2011年のデータを除いて26年で割れば、0.5mm/年です。

下野市本吉田では、地盤沈下が沈静化したと言うよりも、最初から政策課題とするような地盤沈下はなかったのです。

関東平野は軟弱な沖積層で覆われていますから、自然現象として地層収縮が起きることが考えられ、わずかな地層収縮が、すべて地下水利用が原因であるとも言い切れないと思います。

いずれにせよ、県職員の回答は事実に反し、意図的に言ったとすれば悪質極まりない話だし、間違って言ったとすれば余りにも無知です。

回答をした県職員は、下野市議会あてに訂正の連絡をしたのでしょうか。(2月25日現在で連絡はありません。)私が説明をした県職員だとしたら、お詫びと訂正の連絡を入れます。

●一般の井戸を含めて地下水汚染を議論するのは論点のすり替えだ

栃木県の職員は、地下水汚染について、2003年から2009年の7年間において、全国で16件の健康被害が出た水質事故があったこと、そのうち表流水の汚染は3件にすぎなかったことを説明(報告書p22)しました。

しかし、水道水源が地下水100%ではなぜダメなのか、を議論しているときに、水道ではなく、一般家庭や飲食店の井戸の水質事故の話を持ち出すのは論点のすり替えです。

水道の水源井戸は、条件の良い場所に掘るものであり、条件の悪い場所に掘らざるを得ないこともある一般家庭の井戸と同列に議論するのは誤りです。

報告書にある事例を見ても、簡易水道と専用水道で合計4件の健康被害の出た水質事故がありましたが、そのうち地下水を水源とする水道は1件(簡易水道)だけです。

表流水を水源とする水道は危険性が高いことを報告書は物語っています。

水道水が放射能に汚染されることは、極めて深刻な問題です。したがって、放射能汚染を考えたら、地下水100%の水道が最善の策です。

栃木県の職員は、議員をだますような説明をしていて、心が痛まないのでしょうか。

(文責:事務局)
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