公共事業を主観で決めていいのか

2010年12月6日

●芳田利雄市議が南摩ダムの付け替え県道について質問した

2010年9月10日の鹿沼市議会一般質問において、芳田利雄議員が南摩ダムの付け替え県道について質問しました。芳田議員は、南摩ダムの付け替え県道工事は凍結すべきだ(その4)で紹介したように、前議会、つまり今年の6月議会でも付け替え県道について質問しています。

佐藤信・鹿沼市長とのやりとりは次のとおりです。

(芳田議員)
次は、南摩ダムの問題についてお尋ねをいたします。

 付け替え県道の凍結を求めたいと思います。この問題についてはこれまでの議会でも何回も取り上げてまいりました。市長のお答えは、考えは推進するとの答弁でした。市長の考えはどうも理解できませんので、もう一度この点について伺いたいと思います。

 ダムをつくった場合はこの県道はダム湖に沈んでしまうものですから、山の上に付け替えをするというものです。だから付け替え県道と言っております。この付け替え県道はダムの入り口から一番奥まで全長6.2キロメートル、そこにトンネルが4本、橋が8本、道路築造も含めて約130億円から150億円かかると言われております。  

来年の夏ごろまでにはこの南摩ダムそのものの是非について有識者会議において検証されるということでありますから、もしもダムが中止になったらば、この付け替え県道はこのように大金をかけてつくる必要ない。無駄になってしまうのではないかと思います。私はそのように認識をしております。  

市長は有効な道路だと言っていますが、ダムを造らないことになれば、結果としてダムは中止だということになった場合には、既存の道路を拡幅・改良すれば済むものであります。現在、ダム本体工事は凍結ですから、少なくとも付け替え県道も凍結するのが常識的なといいますか、普通の判断になるのではないかと思うのです。なぜ、凍結の判断ができないのか、ここのところが理解できません。市長の答弁を求めます。  

 (佐藤市長)   南摩ダム問題についての質問の付け替え県道についてお答えをいたします。

 まず、国への要望についてでありますが、付け替え県道工事は、新たな段階には入らないという国の指示事項には該当しない現段階の工事であり、現在も継続されているものであります。

 本市といたしましても、関係地域の生活再建の事業ととらえており、また、地元住民、関係者から強い要望も出ていることから国への要望の1つとして加えたものであります。

 次に、建設続行を導き出すことについてでありますが、検証対象となった南摩ダムについては、地方整備局及び水資源機構等が検証作業を行いますが、あくまでも継続・中止等の最終的な判断は国が行うことになりますので、付け替え県道工事が、ダム建設工事の継続を導き出すことにはならないと考えております。

 次に、今からでも凍結を求めるべきについてでありますが、本市といたしましては、市及び関係地域が不利益をこうむらないようにとの考えから、生活再建や生活関連事業などの生活基盤等の整備について、遅滞なく円滑、確実な実施を求めて国に要望してまいりました。

 この付け替え県道についても同様の考えであり、将来的には大変有効な道路になると思っておりますので、本市といたしましては工事凍結の要望は考えておりません。

 以上で答弁を終わります。  

 (芳田議員)   ただいま市長のほうから答弁がありました。私はこのダムの是非を判断するときに、湯西川ダムの場合をよく考えるのですが、湯西川ダムの場合には、ダム本体工事は、既に本体工事に取りかかってしまった、工事が進んでしまったからダムの事業は継続になったものであります。

 私が心配するのは、南摩ダムは来年の夏ごろまでに検証することになっております。そのときダム関連事業がここまで進んでいるなら、ダム事業は、やはり南摩ダムも継続事業になりはしないかと、その点を心配をします。

 市長からの答弁ではそういう心配はいらないということですが、そうは言われても、湯西川のあの経験を見ると、そういう心配を持たざるを得ません。湯西川ダムもそうでしたので、南摩ダムだって分かりません。  

転流工もできる。付け替え県道も、あと1年、来年の夏ごろ、もし検証結果が出るとしましたらば、それまで1年間この工事を進めますと、かなり進んだことになります。あとは何が残るかと言ったらば、板荷からの導水路の建設と本体工事のダムサイトの建設のみであります。

 このまま事業を進めると、本当に南摩ダムの継続を導き出す結果になりかねないのではないかと、このように思いますので、どうも先ほどの答弁では納得するわけにはいきませんので、もう一度この点を答えていただきたい。  

 (佐藤市長)   再質問にお答えをいたします。

 付け替え県道の工事が進んでいくと、ダム本体の検証にも影響してくるのではないかという再質問でございます。

 先ほど答弁いたしましたように、そうならないのではないかというふうな答弁をいたしましたので、なかなかこれについて再質問の答弁というのはちょっと、なかなかいい答えが浮かばないわけでありますけれども、いずれにしても、関連事業については、前々から、ダム本体については検証作業が進んでいくということで、そちらの判断に委ねるということでありますけれども、関連する事業については、鹿沼市としては一貫して推進をしてほしい、推進してもらわなければ困るということで、国に対しても、水資源に対しても申し上げてきたいきさつもございます。

 そういうこともありますし、ちょっと触れられましたけれども、先日西沢バイパスの開通式に出てまいりました。大変すばらしい道路ができたなというふうに思っているのでありますけれども、その西沢バイパスから付け替え道路を通って、さらに久我から今度は引田に行って、引田から板荷というルートが抜ければ、これは我が鹿沼市にとって大変すばらしい、西半分を縦貫するすばらしい道路、鹿沼市が目指す都市との交流という意味でも、首都圏からまず栃木で降りて、まっすぐ来られるような、本当にすばらしい観光道路にもなっていく。地域の振興にも大きく役立っていくというふうに思っておりますので、ぜひともその路線については整備を進めていただきたい。ダム本体とは切り離して進めていただきたいということで、これについては議員の考え方と若干異なって恐縮でありますけれども、推進の方向で、市をあげて取り組まさせていただきたいというふうに申し上げて、再答弁とさせていただきます。  

 (芳田議員)  今答弁ありましたけれども、私も関連事業について、この付け替え県道以外の関連事業は、大いに、住民が望むことですから、やっていただきたいと思うのですね。この付け替え県道については、地元の皆さんもちょっとおかしいよねと、こういう疑問を持っております。  

なぜ、ダムが今凍結なのに、あの県道だけはあのように大金をかけてつくられるのだろうと、せめて中止にしなくても、せめて凍結なのだから、付け替え県道も凍結にしておくのが普通の判断であろうと、私はそのように思うのですね。ですから、ちょっと誤解のないように聞いてほしいのですが、これ以外の関連事業というのは大いに、私は住民が望むものであり、進めてもらってもいいと思うのですね。進めてもらってもというか、進めてもらったほうがいいと思うのですね。

 だから、そういう点では、こういうことがあるのですよ。やっぱり市長の判断というのはこの南摩ダムに私は影響するのではないかなと、南摩ダムをどうするかということに大きく左右するのではないかと思うのです。

 この間、国のほうにも行きました。県のほうにもこの付け替え県道についての中止の申し入れに行ってまいりました。県も水資源機構も開口一番何を言うかというと、「鹿沼の市長さんが要望しているのです」と、「この付け替え県道は。だからそれは皆さんが議会でやってください」と、こういう形で逃げるのですね。

 だから市長さんの判断というのは大きいのです。私はそういう意味では、やはりちょっとこれからのことが心配ですので、仮に国が決めたことだからと言っても、後で私には責任ないなんて言うことはできなくなってしまうのではないかなと思いますので、だれが考えても常識的な判断と思われるような、本体工事凍結なのですから、付け替え県道の建設もやっぱりこの時点で凍結をする。また、それを主張することも、今からでもやっぱり遅くないと思いますので、そういう点で、この点を求めておきたいと思います。答弁はいりません。  
 

 ●問題は「無駄にならないのか」ではなかったのか  

芳田議員は、「もしもダムが中止になったらば、この付け替え県道はこのように大金をかけてつくる必要ない。無駄になってしまうのではないか」と言っていますが、この点について佐藤市長は何も言っていません。何も言ってないことを芳田議員も気にしていないようです。  

「無駄にならないか」が問題の出発点だったのではないでしょうか。  

 ●生活再建事業なのか  

佐藤市長は、付け替え県道工事を「関係地域の生活再建の事業ととらえて」いるから、促進の立場なのだと言います。  

「生活再建」のための事業推進に反対する人はいないでしょう。  

問題は、県道の付け替えが「生活再建」のための事業なのかということです。  

県道の付け替えは、もしもダムが造られると水没してしまう県道を湛水区域よりも高い位置に付け替える工事であり、ダムを建設するために必要な工事です。  

他方、「生活再建」とは何かというと、財団法人日本ダム協会は、ダム事典で「生活再建措置」を次のように解説しています。  

 ダムの建設に伴って水没する地域の住民は大きな影響を受け、家屋、土地、職業といった生活の基盤を失うことになります。このため、通常の損失補償に加えて、この影響を緩和するために様々な措置がとられますが、これを生活再建措置といいます。大規模なダムの場合、他の公共事業とは異なって水没地域が広く、コミュニティそのものが失われることも少なくないため、生活再建措置は特に重要です。
 内容としては、代替地の斡旋・提供、各種の相談、資金の融資、職業の斡旋などですが、ダム事業者が行う通常の用地補償(損失補償)も生活再建措置に含めることもあるようです。  
 

「生活再建事業」とは、通常は、「代替地の斡旋・提供、各種の相談、資金の融資、職業の斡旋など」を指すようです。  

「生活再建」のための事業かどうかを「とらえ方」で決めていいのかという議論があってもいいと思います。  

 ●「推進」だけが民意か  

付け替え県道の促進については、「地元住民、関係者から強い要望も出ている」ことを佐藤市長は理由にしています。  

「地元住民、関係者」とはだれを指すのか明確ではありませんが、それらの人たちの中には、賛成の人もいれば、反対の人もいるはずで、賛成の意見だけを尊重し、反対の意見は尊重するに値しないというのであれば、その理由は何なのかというような議論があってもよいと思います。  

 ●公共事業を主観で決めていいのか  

佐藤市長が付け替え県道工事を促進する理由は、当該工事を生活再建事業ととらえていることと、市民のだれかが要望していることですが、いずれも主観の問題です。  

芳田議員によれば、「約130億円から150億円かかる」事業の行方に関する議論なのですから、科学的な、客観性のある議会論戦を期待することはできないものでしょうか。

(文責:事務局)
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