千曲川の堤防決壊箇所に必然性はあった

2019-11-02

●政府は八ッ場ダムの効果を検証しないのは不可解

本題に入る前に、八ッ場ダムの効果について一言。

2019年10月31日の東京新聞に「ダム事業のあり方は」という見出しのインタビュー記事があり、馬淵澄夫・民主党政権時国土交通大臣は、「八ッ場ダムが減災に役だったとの評価もある。」と聞かれて「7500万m3の貯留があった。河川に流れる水量はそれだけ減った。だがその一点をもって、氾濫を食い止めたという話にはならない。国交省も検討できないと言っている」と語りました。

そして、福井照・自民党国土強靭化推進本部事務総長も「八ッ場ダムの効果分析を行うのか。」と聞かれて、「まずは行方不明者の捜索や復旧が第一。ダムは明治時代からやってきたことで間違っていない。今回ことさらにダムの正当性を主張する必要性は感じない。ただ反対する人がいる現実は直視し、意見を変えていただけるよう注力したい」と語りました。

「ダムは明治時代からやってきたことで間違っていない。」とは、あきれるばかりの説得力のなさですが、それはさておき、となると、政府は八ッ場ダムの効果を検証しないことになりそうです。

「検討できない」は理解不能です。効果を検証できない公共事業があってよいものでしょうか。

国土交通省は、鬼怒川大水害のおよそ1月後の2015年10月13日には、鬼怒川上流ダム群(4基)の効果を公表したのですから、一つのダムなら1週間で検証できるはずなのに、検証しないのはご都合主義ではないでしょうか。

ムダの象徴のように言われてきた八ッ場ダムがムダなダムではないかとの疑いを晴らす絶好の機会を政府はなぜみすみす逃すのか、理解しがたいことです。

●千曲川の堤防決壊箇所はどこか

本題です。

2015年に鬼怒川の三坂町地区で堤防が決壊したことには必然性があったと思います。今月、長野市の穂保(ほやす)地区で堤防が決壊したことにも必然性があったように思います。

2019年10月13日未明、台風第19号の影響で長野市内の千曲川の左岸堤防が決壊しました。決壊幅は約70mとされています(18日付け朝日新聞)。

浸水面積は9.5km2に及び、浸水深は最大4.3mにもなり、被害は甚大です。

結論を急げば、この地域では、たとえ想定外の洪水が来て越流しても、堤防を決壊させないことが至上命題だと思います。

国土交通省北陸地方整備局の2019年10月14日の記者発表資料によると、「国管理河川である信濃川水系千曲川左岸58k付近(長野県長野市穂保(ほやす)地先)」で堤防決壊があったということです。(千曲川の距離標は、新潟県境を起点とします。)

しかし、国土地理院が公表している空中写真やドローン映像と治水地形分類図を照らし合わせると、堤防決壊地点は千曲川57.4k(当サイトでは、「k」は「km地点」の略として使います。)付近と言うべきではないでしょうか。

下の写真は、国土地理院が公表する空中写真(撮影日:10月16日)です。一際大きな屋根が見える長沼体育館の南東方向の堤防が決壊しています。(体育館の隣は、長野市役所長沼支所です。長沼支所は、大字大町・大字穂保・大字津野・大字赤沼を管轄します。)

航空写真

下の写真は、国土地理院がYouTubeにアップしたドローン映像からのスクリーンショットです。下流に向けて撮ったもので、長沼体育館の青屋根は、樹木の影になってほとんど見えません。

ドローン写真

下の地図は、Google マップから長野市大字穂保地区を切り出し、決壊地点に赤丸を付けたものです。上のドローン映像と合わせ見ると、体育館の南にあるはずの守田神社は氾濫流の直撃を受けて流失しているようです。

緑の点線は、自転車用の道路です。Google マップの凡例参照。

結論を急げば、この自転車レーンが途切れて、堤防がくびれたように見える箇所から決壊したのではないでしょうか。私のような素人が見ても、このくびれは危険に見えます。

地図

●決壊箇所の堤防は狭かった

下の写真は、Google マップの衛星写真です。撮影時期は不明ですが。

被災前

下の写真は、上の写真を最大限に拡大したものです。

決壊地点と思しきくびれた箇所では、堤防敷幅も堤防天端幅も周囲よりも狭いように見えます。

私のいい加減な計測では、上流側の自転車レーンがある部分とくびれた部分を比べると、天端幅は、くびれた部分は約14mで自転車レーンがある部分は約21m(くびれた部分が約33%狭い。)、堤防敷幅は、くびれた部分は約43mで自転車レーンがある部分は約33m(くびれた部分が約23%狭い。)となりました。

ただし、千曲川は中野市立ケ花地点で計画高水流量が9000m3/秒なので、天端幅の基準は6m(河川管理施設等構造令第21条)ですから、くびれた箇所の天端幅は基準の倍以上確保されていることになると思います。(ちなみに、天端幅14mで越水後わずか1時間あまりで決壊したのなら、6mという基準の見直しは必要ないのでしょうか。必要ないとすれば、堤防のくびれは重大な欠陥ではないでしょうか。)

盛り土による堤防の法勾配は原則50%以下と決まっている(河川管理施設等構造令第22条)ので、堤防敷幅が十分に確保できなければ、天端幅も確保できないことになります。

単純に考えて、決壊箇所は、その厚みから見て、その上・下流の堤防よりも2〜3割は弱かったと言えないでしょうか。

そうだとすると、この箇所から決壊した理由の一つは、越流した洪水が上流側からも下流側からもこの箇所の川裏の法尻に集まり、その分だけ周囲よりも大きな洗掘する力が働いたということだと思います。

堤防がくびれた地点の裏法尻の脇には人家があり、ここを避けるために堤防をくびれさせたのかもしれません。

被災前拡大

●決壊箇所はライブカメラの設置場所だった

上の写真の真ん中にポールと石柱が見えます。

Googleストリートビュー(2014年10月撮影)から切り出したものが、下の3枚です。1枚目の背景には、長沼体育館が写っています。

結論を急げば、ここから決壊したのであれば、立派な石柱を立てたり、ライブカメラを設置するよりも、まずは堤防の補強をすべきだったのではないでしょうか。結果論という批判もあるでしょうが、国はこの地点で堤防がくびれていたことを知っていたはずです。国が設計したのですから。

距離標

花崗岩の石柱は、「県境から57.2km(左岸)」という中途半端な距離標でした。しかし、なぜ「57.2」なのか分かりません。

立派な石柱を立てるくらいですから、正確に測量した数値なのかもしれませんが、国土地理院が作成した治水地形分類図と矛盾します。

どちらが正しいのか知る由もありませんが、本稿では、治水地形分類図の距離表示が正しいものとして話を進めます。

距離標拡大

下の写真は金属柱の先端部で千曲川のライブ映像(長沼地区)を撮るカメラ(実はビデオカメラ)がついています。

ビデオカメラ

千曲川河川事務所のサイトで長沼地区のライブ映像を見ようとしても、下の画像のとおり「ただいま調整中です」となってしまうのは、堤防が決壊してカメラが流失したからだと思います。

注意すべきは、そのウインドウには「千曲川(左岸57k)」と表示されていることです。10月13日に57kに近い箇所に設置されたカメラが堤防ごと流されたのに、17日に仮堤防が完成してもなお「左岸58k」と言い続ける理由が分かりません。

ライブ映像調整中

●長野市洪水ハザードマップではカメラ設置場所は57.4k

下図は、2019年3月に長野市が作成した長野市洪水ハザードマップです。

左岸57.4kでライブカメラを設置し、水位観測もしていることが示されています。

国土交通省は、後記のとおり、ここで堤防が決壊することを想定したシミュレーションをしていました。そして、そのとおりになったのです。

ただし、2019/10/22にYouYubeにアップされたNBSみんなの信州 報道特番 検証“千曲川氾濫”〜被災地からの報告 復旧・生活再建の道筋は〜で出演者が示したフリップによれば、長野市は、左岸57.4kではなく、おおよそ左岸58kで決壊する想定でシミュレーションをしたようです。

長野市ハザードマップ

●堤防の線形は自然堤防上の集落を避けていたのか

下図は、治水地形分類図です。決壊箇所は、赤丸で囲った部分です。

三日月形の氾濫平野(薄緑色。リンゴ畑)の北(下流)の自然堤防の部分で決壊したことになります。

決壊箇所は、長野市洪水ハザードマップと符合する左岸57.4k付近と見るのが妥当だと考えます。

冒頭の写真を見ると、決壊箇所の堤防の形が変にくねって、川に向かって張り出して(水圧を受けやすくなって)いることに気づきますが、その疑問は治水地形分類図を見ると氷解するのではないでしょうか。

即ち、微高地である自然堤防の上に古くから人家や寺院や神社が張り付き、墓地も含めてそれらを移転させて堤防を建設することは極めて困難だったので、自然堤防を迂回して堤防線形を決めたと想像できます。(そうだとすれば、対岸の堤防を居住地側に凹ませて(東にずらして)川幅を確保することはできなかったのでしょうか。対岸の北相之島地区の宅地開発と左岸築堤の時期の先後関係が不明ですが。)

三日月形の氾濫平野部分は、自然堤防の部分と比べてさほど(50cm以上も)低いわけではありませんが、なぜか人家はほとんどありません。

右岸が直線的で、左岸の決壊箇所の下流で堤防が川側に張り出している(川側から見れば凹んでいる。)ため、川幅が狭くなっています。

三日月形の氾濫平野の中心部分の川幅は約978mもありますが、360mほど下流で狭くなっている部分(妙笑寺付近)は約862mであり、その差は116m(約12%狭まるということ)です。

ここまで検討しただけでも、穂保地区で決壊した理由は、当該箇所の堤防が川に張り出していて、川幅が狭くなって水圧が強くなり、水位も上がりやすくなっていた上に、上記のとおり堤防がくびれており、周囲の部分よりも脆弱だったという、少なくとも二つの要因があったと思います。

治水地形分類図

下図は、決壊箇所の地形を確認するために、治水地形分類図と冒頭の空中写真を半透明にしたものを重ね合わせたものです。赤丸で決壊箇所を示します。

自然堤防の部分で決壊していることが確認できます。

重ね合わせ

●対策は堤防強化か

下図は、治水地形分類図をつなぎ合わせたものです。赤丸で決壊箇所を示します。

決壊箇所から5kmほど下流の52.5k付近では、上流の広いところで1000mほどあった川幅が200mほどに絞られる立ケ花狭窄部(中野市)があることが根本的な問題であることは誰に目にも明らかですが、そこを広げれば下流で問題が起きるでしょうから、対策としては、これ以上の堤防の嵩上げは危険でしょうから、堤防のアーマー化、引き堤、河道の掘削、遊水池の確保が必要ではないでしょうか。

ただし、このあたり一帯は、河川区域内の土地利用が活発で、堤外民有地が多いのかもしれませんので、堤防強化以外の対策は困難かもしれません。

ちなみに、「妙笑寺住職の妻、笹井妙音さん(69)も「河床の掘削で流れが急激になり、一部の堤防には(補強する)矢板が施されていなかった。ちゃんと工事していれば被害は抑えられたのではないか」と疑問を呈した。」(10月23日付け時事ドットコムニュース)とのことなので、河床掘削はある程度はやっているようです。「一部の堤防には(補強する)矢板が施されていなかった。」ということは、一部には鋼矢板が打たれていたということになりますが、真偽の程は分かりません。

分類つなぎ

●決壊箇所の堤防高は下流よりも低かった

下の写真は、国土地理院地図の断面図作成機能を縦断的に使って決壊箇所付近の堤防の標高の推移を見たものです。

決壊箇所(左岸57.4k付近。57.2kの距離標のある所)の堤防高は337.9mとなります。

グラフの上端をドラッグすると、ほとんどの箇所は338m以上なのですが、337.9mという数値が断続的に現れます。

堤防がくねっているので、この作業を何度も繰り返し、400mほど下流の左岸57.0k付近まで続けると、338m未満の数値はほとんど現れず、57.0k付近は338.2mという数値が多くなります。

標高計測機能は、あまりあてにしてはいけないもののようですが、決壊箇所から400mほど下流に行くと、堤防高は逆に少なくとも20cmほど高くなるように思います。

過去記事決壊地点は「局所的に堤防が低い状況ではなかった。」は事実に反する(鬼怒川大水害)において、鬼怒川の決壊箇所の三坂町地先の堤防は、上流よりも下流よりも低かったのですが、千曲川でも同じような状況だったのではないでしょうか。

なお、大熊孝・新潟大学名誉教授(河川工学)は、「長野の千曲川が決壊した箇所は、70メートルにわたって堤防が低くなっていました。」(週刊朝日2019/10/27)と語っていますので、国土地理院地図の標高表示機能が不正確だったということではなく、「決壊地点の堤防は低かった」は専門家の間では知れ渡った情報なのかもしれません。

堤防高

●堤防が痩せている箇所は下流にもあった

下のGoogle マップは、左岸57.0k付近の衛星写真です。

ここも建物群を避けるかのように、堤防が細くなっており、決壊箇所と似た状況にあります。

狭い部分では、堤防天端幅は11mほど、堤防敷幅は34mほどしかありません。(「しか」と書きましたが、計画高水流量9000m3/秒の場合の天端幅の基準は6mですから、天端幅は基準の倍くらいはあります。)

私のいい加減な計測によれば、57.0k付近と57.4k付近の川幅は、ともに884mくらいです。

にもかかわらず、57.0k付近で決壊しなかったのは、上記のとおり、堤防高が決壊箇所より20cmほど高かったことのほかに、堤防の線形が影響していると思います。

両地点の間の57.3k付近の川幅は852mくらいなので、両地点より30m以上狭くなっています。

したがって、周辺の河床高がほぼ同じだとすれば、57.3kよりも100m上流の57.4kでは、多少は水位が上がりやすいはずですし、おまけに左岸57.4kは堤防が右カーブの後半ですから、遠心力も働き、余計に水位は上がるはずです。また、洪水が直接当たるので、物理的に強い力で堤防が押されるはずです。

下流くびれ

●決壊箇所は浸透破壊の心配はなかった

下図は、「千曲川浸透に対する堤防詳細点検結果」(2008年3月現在)です。

赤丸で決壊箇所を示します。

右下が上流です。

決壊箇所の点検結果は、「安全性照査基準値を満足する」となっていました。

浸透破壊やパイピング破壊の心配はない箇所でした。

浸透強さ

●国土交通省は、そのものズバリの氾濫想定をしていた

下の二つの画像は、千曲川河川事務所のサイトからで、想定破堤地点の図左岸57.5kの浸水状況図です。

両岸とも57.5kを破堤地点として想定しており、57.3k付近で川幅が狭まることは危険であるという認識は河川管理者にあったのだと思います。

実際の破堤地点は想定破堤地点と100mほど下流にずれますが、国土交通省は、そのものズバリの氾濫想定をしていたと言えると思います。

想定破堤地点

浸水状況図

●なぜ決壊箇所を「左岸58k付近」というのか

下の画像は、10月13日8:00の北陸地方整備局の記者発表資料です。

記者発表

その別紙には、10月13日6:20ごろの生々しいドローン映像を載せています。

ドローン

下図は、上の写真の上に添えられた国土地理院地図です。

不思議なのは、決壊幅が約70mということが分かっているのに、そして写真には長沼体育館が写っているのに、13日8時の時点では決壊地点の場所を把握できていないようなのです。

赤の楕円は確かに左岸58kを含みますが、上の小さい赤丸が本当の決壊地点です。

まさかの決壊直後で事務所も整備局も混乱はしていたでしょうが、場所が明確に分からないのに、記者発表してしまうのはいい加減すぎないでしょうか。場所が分らなければ、対策の立てようがありません。

上記のとおり、国土交通省は、左岸57.5kで堤防決壊が起きる氾濫シミュレーションをしており、57.4kの定点カメラも流失して、ほぼ想定のとおりになったのですから、なぜ位置を間違うのか不思議です。

国土交通省は、上記石柱の距離標を左岸57.2kとしたのですから、決壊地点を整数で言うなら、「左岸57k」でなければならないと思います。

58k

●定点カメラは5分おきに撮影するのか

10月14日付けNHKWEBNEWS「カメラは捉えた “決壊”の千曲川 このように増水した」によると、「河川事務所の定点カメラは5分おきに1枚ずつ川の画像を撮影し、穂保を含む地域を示す「長沼」と表示しています。」、「午前2時15分の画像は傾いています。堤防が崩れ始めてカメラが傾いたとみられ、これを最後に画像は途絶えました。」とのことです。ただし、上記記事中の動画に撮影時刻の記載のないコマ送り画像があります(YouTubeで見た方が操作しやすい)が、傾いた画像はありません。

「午前2時15分の画像は傾いています。」と言う以上は、NHKの記者は、その傾いた画像を見ているのだと思います。

しかし、ちょうど午前2時15分にタイミングよくカメラのついたポールが倒れることなどあるのでしょうか。

ポールが倒れたのが中途半端な時刻、例えば午前2時17分だったとしたら、記者は傾いた画像を見られないはずです。

したがって、「5分おきに1枚ずつ撮影」は疑問です。

千曲川河川事務所のサイトで千曲川・犀川ライブ映像を見ると、「映像は約10分間隔で、自動的に更新されます。」と書かれています。「5分おきに1枚ずつ撮影」するなら、わざわざ10分おきに更新せず、5分おきに更新すればいいはずです。

また、記事では「13日午前2時15分の画像」があると言っていますが、下記のとおり13日午前2時12分の画像もあります。3分おきに撮っていることになってしまい、上記N H K記事には矛盾があります。

下の写真は、Liptonという人のTwitterからの引用です。

上記千曲川・犀川ライブ映像を当時見ていて、13日02:12の画像を保存していたのだと思います。

千曲川・犀川の公開画像は、02:10のようなキリのいい時刻に更新されますが、静止画像は32分→42分→52分→02分→22分という10分間隔で更新されます(ただし、下一桁が3分の箇所もある。)。

なので02:12の次の更新は02:22にされるはずでしたが、N H Kの記事によれば02:15(先回りして言えば、正確には02:15:27直後)にカメラを積載したポールが倒れた(堤防が決壊して流失したことを意味すると考えるべきでしょう。)ので下の02:12現在の写真が最後の公開映像となったわけです。

この画像は、左岸57.4kの堤防天端に設置した定点カメラで上流に向かって撮影したもので、「58k左岸」の文字が見えますが、58kはカメラの設置箇所から遥か彼方600m上流ですから、画角を変えれば写りますが、下の写真の画面中央付近は、カメラの上流50mくらいではないでしょうか。

13日02:12には画面下のビデオカメラに近い箇所では、堤体の裏法面の崩壊がかなり進んでいることが分かります。堤防が大きく湾曲していることも注目点です。

いまさら左岸57.4kのライブ静止画像は見られないのですが、画面ウインドウの上の方には「左岸57」とあるのに、写真にかぶって「58k左岸」の文字があるのが混乱の原因かもしれません。

Lipton

●5分おきのコマ送り動画があった

下の写真は、朝日新聞社がYouTube にアップした動画堤防決壊の千曲川 河川監視カメラが捉えた増水の様子からのスクリーンショットです。

確かに12日20:00から13日02:15まで、5分おきの静止画像がつながっています。12日11:35までは川を写していますが、途中飛んで、13日01:00からは上流の堤防を写しており、02:15の画像もあり、02:20に「カメラ調整中」で終わります。

「5分おきに1枚ずつ川の画像を撮影し」たという点はN H K記事と符合しますが、上記Twitterの02:12の画像の存在と矛盾します。

また、「午前2時15分の画像は傾いています。」というNHK記事とも矛盾します。

越流は場所が転換した13日01:00には既に起きているように見えます。

11月1日付け東京新聞によると、国土交通省北陸地方整備局は、千曲川について、10月13日01:15に「水防法に基づく氾濫発生情報を出した。」そうですから、国も私と同様の認識でしょう。

東京新聞記事は、次のように続きます。

ただ、川沿いに設置したカメラが午前2時すぎに故障し、状況が把握できない事態に。

口は重宝、ものは言いよう、と昔からいいます。私なら、「ただ、堤防上に設置したカメラが午前2時すぎに堤防ごと流され、状況が把握できない事態に。」と書いてしまいます。
「堤防上に」→「川沿いに」
「堤防ごと流され」→「故障し」

見事な言い換えです。意図的に言い換えているのか、役人の言うままに書いているのか、いつも分らない点です。

朝日02:15

●千曲川堤防調査委員会委員長はビデオカメラの映像があると言っている

インディペンデント・ウェブ・ジャーナル(略称IWJ)の記事横田一著【特別寄稿】千曲川の堤防決壊場所は危険が指摘されていた!リスクが高い場所を優先的に堤防強化するべきだったのではないか!? 千曲川堤防調査委員会による現地調査後の記者会見 2019.10.18で大塚悟・千曲川堤防調査委員会委員長(長岡技術科学大学工学部教授)が次のように話しています。

原因ははっきりしていませんので、『こうだ』ということを申し上げるのは差し控えさせていただきますが、ここビデオカメラも映っていまして、越水は確認しているということはあるのかと思います

したがって、国土交通省がビデオカメラで動画を撮影していたことは明らかです。大塚は、既に動画を見ているのでそう言ったのでしょう。

2015年鬼怒川大水害のときにも、左岸21k付近の決壊の様子は、対岸の篠山水門に設置されたビデオカメラで撮影されていたのですから、日本一長い大河川である信濃川(千曲川)において河川の状況を動画で録画していないことは考えられません。

●やはり決壊状況を写す動画があった

実際、下のスクリーンショットのとおり、朝日新聞系列のテレビ朝日系のANNニュースは13日02:15:20〜27の7秒間の動画を放送しており、YouYubeの決壊した千曲川 過去最高の水位 上流は最多の雨(19/10/16)で見られます。つまり、テレビ朝日は動画を持っています。NHKと朝日新聞の記事と動画は猿芝居だったことがばれてしまいました。国とマスコミが一緒になって一般市民を情報操作しているのではないでしょうか。

ただし、ビデオカメラのついたポールが倒れながら撮影した映像は放送されません。自粛したのか、取得できなかったのかは分かりませんが。

仮に国土交通省が決壊の瞬間の画像をカットして提供していたとしたら、訴訟で負けないための情報隠しと思われ、フェアではありません。

朝日02:15

●なぜ重要水防箇所図が閲覧不能になるのか

下の画像は、千曲川河川事務所のサイトの重要水防箇所のページです。

赤の四角で囲んだ重要水防箇所図へのリンクが飛びません(11月2日現在)。

2015年9月10日の鬼怒川大水害の後も、下館河川事務所のサイトの重要水防箇所のページで閲覧不能の箇所が発生しました。

水害が起きたら重要水防箇所を隠すという掟が国土交通省にあるのでしょうか。

重要水防箇所

●完成堤防なのに重要水防箇所だった

ただし、2019年度重要水防箇所一覧表は見られます。

下表は、中野出張所管内のものです。

千曲川の一覧表は特殊な様式でできており、信濃川の一覧表と違い、起点と終点が示されておらず、場所が明確に分かりませんが、左岸60kの村山橋から下流の新幹線の鉄道橋までは、ほとんどが堤防高(流下能力)のA判定(現況河道に計画としている洪水(1/100確率降雨による洪水)が流れた場合に、水位が堤防を越える箇所)ということだと思います。

後記新聞社説のとおり、決壊箇所付近の堤防は完成堤防だと言われています。

完成堤防でありながら、「計画としている規模の洪水が流れた場合に、水位が堤防を越える」ということは、河床の掘削がなされていない(計画河道断面が確保されていない。)ということになると思います。

重要水防箇所一覧表

●新聞記事と社説を紹介する

参考までに有益な情報が書かれている新聞の社説と記事を紹介します。

10月16日付け信濃毎日新聞社説

千曲川の氾濫 完成堤防の決壊は重い
東北信、中信の雨を集めた千曲川は、その先で川幅が狭くなる。中野市立ケ花の狭窄(きょうさく)部である。決壊地点の川幅が約1050メートルなのに、立ケ花は約210メートルで5分の1程度しかない。

流れをせき止められたような形で行き場をなくした水が、今回の決壊地点の周辺で堤防を越え、被害をもたらしてきた歴史がある。

中野市立ケ花の水位は前回の決壊時の11・13メートルを更新し、12・44メートルを記録した。台風19号の猛烈な雨で千曲川が一気に増水し、堤防を越えて外側の斜面を削り、決壊したとみられている。

決壊は約70メートルにわたった。84年に完成して、その後、強度を維持する盛り土工事を行った堤防だ。長野市の加藤久雄市長は記者会見で「工事が終わった堤防で、破堤しないという安心感があった」と述べている。

計画に基づいて完成した堤防が崩れたことを、重く受け止めなければならない。

「決壊地点の川幅が約1050メートル」という話は解せませんが。

10月17日付け毎日新聞

長野・千曲川 堤防決壊、歌で伝承 多くの住民避難 台風19号
台風19号で千曲川の堤防が決壊した長野市穂保(ほやす)を含む長沼地区一帯は江戸時代から繰り返し水害に襲われ、住民は過去の被害を代々語り継いできた。

この地区は昔から水害に見舞われてきた。千曲川で史上最悪とされる「戌(いぬ)の満水」(1742年)では、長沼地区で168人が亡くなり、約300戸の家屋が流失した。善光寺地震(1847年)では、田んぼが水没して米がとれなくなった。

今回の決壊による浸水域は約950ヘクタールに及び、堤防の桜も一部がなぎ倒された。住宅の浸水被害は長沼地区を含む3地区で1874世帯(17日時点)。死者は2人だった。


●まとめ

以上のことから、なぜ左岸57.4kで決壊しなければならなかったのかについては、次の理由が考えられます。

  1. 立ケ花狭窄部の上流なので水位が上がりやすい。
  2. 川全体が緩い右カーブを描いており、遠心力が働き左岸の水位が上がりやすい。
  3. 堤防のくねりにより川幅が狭くなっている部分の直上流にあり水位が上がりやすい。
  4. 堤防の右カーブを抜ける手前にあり、水衝部となり、強い水圧を受けた。
  5. 堤防の底幅も天端幅も狭かった。
  6. 堤防高が上流よりも下流よりも低かった。


ただし、六つの理由のうち1と2は、あのあたり一帯の共通の問題であり、57.4k付近の特有の事情ではありません。

堤防の幅をどうしても広くできないところは、裏法や裏法尻の補強をするという手はなかったのでしょうか。

国土交通省は、左岸57.4k付近で越流するとは考えていなかったのではないでしょうか。2015年鬼怒川大水害と共通する問題があるように思います。

国が責任を問われたら、とにかく想定外の大洪水なので仕方がなかったと言うのでしょうが、遅くとも2011年3月11日以来、政府は想定外と言うのはやめようということになったのではないでしょうか。

計画内の洪水には責任を持つが、計画を超える洪水が来たら天災だから諦めてください、という治水(定量治水)を国はいつまで続けるつもりでしょうか。

ちなみに、総事業費約380億円、外水氾濫の防止のみを目的として2016年に完成した穴あきダムの浅川ダムは、2019年台風19号による豪雨では水がたまらず、それでも外水氾濫は起きませんでした。内水氾濫は起きましたが、もともと内水氾濫に効果がないのは承知で造ったダムなので、当然の結果だったわけです。

内水氾濫が起きることの方が多いのであれば、そのためにカネを使うべきでしょう。

「長野新幹線のための車両基地を赤沼に作る(誘致)ことと引き換えに、車両基地ができたら(その体積の分)浸水した場合の浸水深が深くなるので、浅川ダムを作れという、ますますミスマッチな理由で、止まっていた浅川ダム計画が動き出して、ついにできてしまった。」「そして同地域の長野市赤沼に作った新幹線車両基地も、皮肉なことに、浸水した。」という話(まさのあつこTwitter)もあります。

あの380億円があったら、計画どおりに雨が降ってくれたら機能するダムではなく、有効な治水対策を講じられたのではないでしょうか。浅川ダム建設にこだわった人たちに反省はないのでしょうか。

(文責:事務局)
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