宇都宮市による湯西川ダム事業の再評価は偽装だった

2008-01-29,2008-06-28修正

●宇都宮市は湯西川ダムの再評価をやったことにならない

宇都宮市は、2004年度に水道水源開発等施設整備事業(要するに湯西川ダム建設事業の利水負担金を支払うこと)について第三者による再評価を実施したことになっています。

しかし、2008-01-16に宇都宮地方裁判所で実施された再評価委員の長谷部正彦氏に対する証人尋問により、宇都宮市は実質的には再評価を行っていないことが明らかとなりました。

この証人尋問は、オンブズパーソン栃木などが原告となって宇都宮市を相手取り、湯西川ダム建設事業の利水負担金を支払うことが宇都宮市にとって無駄遣いであるとして起こしている住民訴訟の中で行われました。

湯西川ダム訴訟の詳細については、八ツ場ダム訴訟のサイトの「訴訟資料」に訴状や準備書面が掲載されていますので、知ることができます。 なお、湯西川ダム建設事業に関する再評価調書と長谷部氏が作成名義人の意見書を次のとおり掲げます。
湯西川ダム建設事業に関する再評価調書
「水道水源開発等施設整備事業の再評価」という題の長谷部氏の意見書

●証人長谷部正彦氏とは

宇都宮市は、湯西川ダム建設事業の再評価に当たり、3人の再評価委員を選び、長谷部正彦氏は、その中の一人というわけです。ほかの2人の委員は、東京都立大学大学院教授小泉明氏と足利工業大学工学部助教授本田善則氏です。

再評価意見書には、「宇都宮大学大学院教授」と書いてありますが、産学プラザというサイトには 宇都宮大学 工学部 建設学科 建設工学講座 教授と書かれています。

宇都宮大学のサイトを見ると、彼の 専門分野は、 水文学 ・ 水資源工学とのことです。

●環境問題にも詳しい

長谷部氏は、環境問題にも詳しいらしく、入試情報サイトには、長谷部氏の写真入りで「私たちの研究室では,環境の問題(特に地球環境)を扱っています」と書いてありますが、長谷部氏は湯西川ダム事業を継続すべきというお立場ですから、湯西川ダムの建設により環境が破壊され、相当数の生物種が絶滅に追い込まれるであろうことにはなぜか関心がないようです。

●長谷部氏は鹿沼市地下水調査の専門委員だった

長谷部氏は、鹿沼市が2001年度から2003年度にかけて実施した鹿沼市地下水調査の専門委員でもありました。

鹿沼市の実施した地下水調査は、1年間の水収支を調査しただけで近年の傾向を結論付ける非科学的な調査で、鹿沼市地下水調査の問題点のページで、私は、「それにしても、佐藤邦明教授(埼玉大学)や長谷部正彦教授(宇都宮大学)がこのような非科学的かつ欺まん的な地下水調査に手を染めることで自らの学者としての名声を汚すとともに、彼らの所属する大学の権威を傷つけることにならないのでしょうか。「あの大学はあの程度か」と言われかねません。」と批判せざるを得ませんでした。

●長谷部氏の経歴

長谷部氏は、証言として自らの経歴を次のように語っています。

私は、昭和45年に北大の大学院を出まして、それからすぐに秋田大学の鉱山学部に1年勤めまして、それから、年数は5年だと思うんですが、秋田工業高等専門学校へ行って、その後に東京工業大学に6年か7年いまして、そして、宇都宮大学に新しく土木工学科ができるということで赴任してきました。
●「審議会行政」にさえなっていない

宇都宮市による湯西川ダム事業の再評価は、再評価委員会によるものではなく、3人の再評価委員に個別に意見を聞いただけのものだったことが明らかになりました。

長谷部氏は、証人尋問で、そもそも都立大学の小泉明教授が再評価委員に選任されていることさえ知らなかったと述べています。

様々な行政施策について、国や自治体が形だけの審議会を開けばいいというものではありませんが、委員の間で意見交換さえしていない再評価では、審議会の形にすらなっておらず、そのような再評価で真に再評価を行ったと言えるのでしょうか。巷間審議会行政が批判されていますが、審議会行政にさえなっていない宇都宮市の再評価のやり方は、ひどすぎないでしょうか。

●しかも再評価意見書は職員の作文だった

長谷部氏は、2005年1月12日付けで「水道水源開発等整備事業の再評価」という題の意見書を宇都宮市上下水道事業管理者で上下水道局長の今井利男氏あてに提出しています。

この意見書は、長谷部氏が自ら書いたものではなく、市の職員が書いたものに押印しただけだと長谷部氏は証言しました。ということは、ほかの2人の委員の意見書も職員の作文だった可能性があります。

証人調書には、次のように書かれています。

(原告代理人)
この書面(「水道水源開発等整備事業の再評価」を指す。)自体は、証人御自身で作られた書面ですか。
(長谷部氏)
いや、これは、市の方で、こういうことで再評価されましたということで、私はこれを頂いて、先ほどの資料との整合性を見ながらチェックしたという。チェックというか。ということですね。
(原告代理人)
今、頂いて、とおっしゃったのは、この書面自体を先に頂いて、ということですか。
(長谷部氏)
頂いてというか、この書面については、頂くというよりは、むしろ原案としてこういう形で出てきまして、それについて、私と相談しまして、そして、こういう文案になったということです。
(原告代理人)
結局、上下水道局が持ってきた案を、そう書いてあるからそうなんだろうなと思って、それを是認しただけというふうにも取れるんですけれども、そのとおりと思っていいですか。
(長谷部氏)
まあ、そのとおりと言われてみたらそのとおりかもしれませんけれども、一応、この数値が妥当であるかどうかというのは、私の方でそこまではチェックしていないことは確かです。

結局、長谷部氏の意見は、彼が作ったのではなく、最初からできていたということです。

●「資料は読んだ上で判断した」

長谷部氏は、宇都宮市の水道事業拡張計画に関する資料を裁判の証拠として提出されたもの以外にも読んだ上で、湯西川ダム事業を継続すべきであると判断したと述べました。証人尋問では、次のように述べています。

(原告側代理人)
(甲第14号証を示し)「これは「宇都宮市水道水源開発等施設整備事業再評価審議資料」となっていまして、資料としては「水道水源開発等施設整備事業の再評価(案)」というのがあって、その後に資料1 から資料7という資料が添付されているものですけれども、そのときに資料として示されたのはこれだということでよろしいですか。
(長谷部氏)
はい。これと、平成16年度の違う資料ももちろんあります。これも、もちろんありますけれども。
(原告側代理人)
これ以外にも資料があるということですけれども、資料の一覧をもう一回見ていただいて、これ以外に資料あったということで記憶にあるものはございますか。
(長谷部氏)
現在持ってきていますけれども、宇都宮市の水道史の歴史からずうっとあって、それからこれは第6期でしょう。第1期から第2期、第3期、第5期、第6期ですか、その時系列的に流れていくという資料です。その結果で、先ほどの四つの再評価という形だと思います。
(原告側代理人)
一番最初に計画ができてから変更されたりしてきた資料が全部証人のところに差し出されて、それを全部御覧になった上で評価をされたということなんですか。
(長谷部氏)
まあそうですね。
(原告側代理人)
証人は、このときより前に湯西川ダムの問題について何らかの形でかかわられたことはありましたか。
(長谷部氏)
いえ、ありません。
(原告側代理人)
そうすると、資料的なものを見るのはそのときが初めてだったということですか。
(長谷部氏)
湯西川ダムについては、ですね。

相当の量の資料が長谷部氏の元に持ち込まれていたようです。そして、長谷部氏には宇都宮市の水道や湯西川ダムについて予備知識もなかったということです。

●再評価に使った時間はせいぜい2時間だった

長谷部氏は、再評価に使った日数を原告代理人に聞かれて、二日ぐらいと答えました。しかし、その二日というのは、2004年12月2日に宇都宮市の職員が再評価を頼みに来た時と、2005年1月12日に宇都宮市の職員が持ってきた意見書に押印した時の二日だとのことです。

更にその二日のうち何時間を再評価に使ったのかを聞かれると、長谷部氏は、それぞれ1時間程度であることを認めました。

合計2時間程度の時間で宇都宮市の水道事業の拡張計画に関する資料を全部読んだ上で、湯西川ダム事業にゴーサインを出したというわけです。たった2時間で宇都宮市の水道事業の問題点と湯西川ダム事業の問題点を理解した上で判断を下す長谷部氏の能力は驚異的ですが、こうした天才が科学的な議論もせずに独断で下した結論に宇都宮市民が従わなければならないというのは、市民にとって不幸でしょう。

再評価に使った時間に関するやりとりを証人調書で確認してください。

(原告側代理人)
証人は、これ(再評価意見書)は事務局の方で作成されて案として示されて、そしてそのとおり回答したと。そうすると、ほかの委員についても同じようなことが行われたんだろうと推測できますよね。もし、そうでなくて、ほかの人はそういう案を示されずに(自分で)書いて、あなただけが示されたということは、あなたはすごい評価を受けたということになりますよね。ああ、あの人はこう書いて持っていけばいいんだと。ですから、当然これは事務局で全部作るわけです。それについてオーケーして判を押していると。
(長谷部氏)
はい。
(原告側代理人)
ということは、先ほど来いろいろ質問に答えられていますけれども、実際問題、再評価に値するような評価はしていたんでしょうか。そこら辺が大変疑問なんですけれども。
(長谷部氏)
今のご質問に対して、先ほど私が言っていますように、その文面が来たときに、今の湯西川ダムで何トンから何トンまで再評価を行いますと、それは文面だけ来たわけじゃなくて、いろんな資料を頂いて、ただ、もう少し詳しい資料というのは見なかったかもしれませんけれども、そういう資料を頂きながら、こういうことでよろしいですか、という提案でありましたもんですから、私の方も、全然見ないわけじゃなくて、それで一応検討しまして、こういう形でもよろしいでしょう、という答え方です。
(原告側代理人)
この評価に、どの程度の時間をかけましたでしょうか。
(長谷部氏)
・・・2日ぐらいですかね。説明がありまして、こういうことですと、じゃ、ここへ置いておきますから、と言って、その後2日くらいには回答しました。
(原告側代理人)
ということは、1期から6期までの過去の計画についても、その程度で一応頭に入れて、という評価になりますか。
(長谷部氏)
はい。
(原告側代理人)
先ほど、あなたが再評価に当たって費やした時間は2日だということをおっしゃっいましたね。
(長谷部氏)
はい。
(原告側代理人)
これは市の方から出された資料なんですけれども、12月2日、これは平成16年でしょうね、午後2時から、場所は宇大の方に行ったんでしょうね。
(谷田部氏)
はい。
(原告側代理人)
それで説明をしましたよと。
(長谷部氏)
はい。
(原告側代理人)
それで、1月12日に案についての意見聴取。これは、案を事務局が示して、あなたがこれでいいと言ったと。この2日ですよね。
(長谷部氏)
そうですね。この間ですね。
(原告側代理人)
結局、この2日を言うんですか。
(長谷部氏)
まあ、2日というか、具体的に私がこれについて考えたという期間といいますかね。
(原告側代理人)
この2日のほかに、考えた時間はあるんですか。
(長谷部氏)
いや、それはありません。
(原告側代理人)
要するにこのときですよね。
(長谷部氏)
はい。
(原告側代理人)
この間に、資料を渡されて説明を受けて考えましたし、1月12日にはもう事務局が用意した先ほどの結論で意見を交換して、それでいいというふうになったと。
(長谷部氏)
はい。
(原告側代理人)
そしたら、2日あっても、時間としては合計1時間とか2時間とか、そういうオーダーですよね。
(長谷部氏)
・・・まあ、そう言われてみれば、そうかもしれません。

長谷部氏は、宇都宮市から2004年12月2日に再評価の案を持ってこられて、2005年1月12日に案に了承したかと聞かれて、そうだと答えていますが、自らは、「2日ぐらいですかね。説明がありまして、こういうことですと、じゃ、ここへ置いておきますから、と言って、その後2日くらいには回答しました。」と証言しており、食い違いがあります。どちらかの証言が間違っていることになります。

いずれにせよ、再評価にかけた時間が1、2時間ということですから、 「一番最初に計画ができてから変更されたりしてきた資料が全部証人のところに差し出されて、それを全部御覧になった上で評価をされた」、「 まあそうですね。」というやりとりの真実性には疑問を感じます。

●「1日平均給水量は減らないだろう」

長谷部氏は、宇都宮市の1人1日平均給水量は減らないであろうと証言しました。証人調書で確認しましょう。

(原告側代理人)
仮に1人当たりの平均の給水量ということで考えたとしたときに、今後は増えていくと思いますか、減っていくと思いますか。
(長谷部氏)
人口形態が増えていくと、当然増えていくとは思います。
(原告側代理人)
これは1人当たりですからね。
(長谷部氏)
ああ、ごめんなさい。1人当たりですから、1人のこれからの水の使い方そのものによって、今の我々の生活として、今まで1人1日平均給水量を使っていたのを減らすというわけには多分いかないと思います。その意味では、今までのトータル、使った量から減るということは、まず考えられないし、水資源の確保としても当然増えた形になっていくと思います。
(原告側代理人)
しかし、最近は節水が叫ばれていて、いろいろな機器についても節水をうたっている機器がたくさん出ていますね。
(長谷部氏)
はい。
(原告側代理人)
そうすると、1人当たりが使う量は減っていくと見るのが当然じゃないですか。
(長谷部氏)
いや、節水ということは、それはまた違いまして、自分の基準で今使っている量について、そこまで水が与えられていない、だから節水すると。だから、平均給水量を減らすというのは、私は全然考え方が違うと思っています。

長谷部氏は、「自分の基準で今使っている量について、そこまで水が与えられていない、だから節水する」と証言します。意味が分かりません。おそらくは、水道利用者は、給水量が不足すれば仕方なく節水する、そうでなければ節水しない、と言いたいのかもしれません。しかし、利用者は水不足でなくても節水します。水道料金を安く上げたいからです。

この点を最後に確認された長谷部氏はどのように答えたのでしょうか。

(原告側代理人)
節水の問題ですが、先ほど裁判官からの質問で、節水があるから減るんじゃないかと言われたときに、そのちょっと前ですかね、いや、節水というのは供給の問題、つまり、それしか供給がないから、言わば減らさざるを得なくて節水するんだというようなお答えのように思ったんですが。
(長谷部氏)
はい。
(原告側代理人)
これは、皆さんご存知のように、水道料金が非常に高いんですね。特に宇都宮市は水道料金が高いですね。供給がそれしかないからじゃなくて、みんなお金を減らしたくて必死で減らしているんじゃないですか。
(長谷部氏)
・・・その辺のところは、ちょっと答えられないかなと。

長谷部氏は、水道利用者が節水する理由が分からないと言うのです。節水して水道料金を節約したいという庶民の気持ちが分からないようです。

●1人1日平均給水量は「減る可能性はある」

長谷部氏の証言が分かりにくいためか、裁判長も次のように質問しました。

(裁判長)
今の質問は、例えばトイレにしても、節水型トイレとかといって、1日同じ回数トイレに入ったとしても、トイレの構造自体が節水型になっていれば、使われる水の量は減るでしょう。洗濯機にしても、節水型の洗濯機ができて、それを使用されている方が増えれば、水を使う量は減るでしょう。そういうことを基準にしていったときに、証人が言われる1人が平均に使う水の量を考えていったときに、減る要因はあるけれども、増える要因というのはよく分からないので、減る方向にあるんじゃないですか、という質問なんです。質問の趣旨は分かりますか。
(長谷部氏)
はい、分かります。現実的に、今おっしゃったように、洗濯水とかそういうものを節水というか、使い方をうまく利用して節水していけば、そうですね。その大小は別として、減る可能性はありますね。

さっきまで、「今まで1人1日平均給水量を使っていたのを減らすというわけには多分いかないと思います。」と言っていたのに、裁判長から質問されると、「その大小は別として、減る可能性はありますね。」とあっさり前言を翻しています。

●事実に基づかないで判断した

1人1日平均給水量に関する質問が続きます。

(原告側代理人)
予測の数値として1人当たりの使用量が増えていくというような数値を基に判断をするというのでは正しい判断はできないんじゃないかと思うんですけど、どうですか。
(長谷部氏)
確かに、今おっしゃるとおり減っていく可能性はありますけれども、これは私の方で予測をやるときに、いろんな、例えば先ほど言ったように水資源の河川の流量、雨量とか、一応水資源確保のために予測をやらなければいけないわけですけれども、そのときに、減る方向というのは、現状で今これだけ使っていいますから、それに対してこれからどれだけ確保していかなければいけないのかというようなことで、一般的に予測というのは、もちろん減る方向にあるという予測もありますけれども、一般的には、これだけの1日平均の水量を使っていれば、このままの状態で、非定常状態でどんどん上がっていくと、どんどん増えるというように。

ちょっと待った。1人1日平均給水量が「どんどん上がっていく」状況なら、「どんどん増える」という予測をするのも仕方ないでしょう。しかし、2004年に宇都宮市職員が長谷部氏に渡した水需要予測に関する資料にも「生活用水の1人当たり使用水量は横ばい傾向にあり、計画値を下回っている。」と書かれています。現状が横ばい傾向なのに、「どんどん上がっていく」ときの話をしてもしょうがないでしょう。

●「1人当たりの使用水量は増える」

結局、長谷部氏は、1人1日当たりの平均給水量をどう予測したのでしょうか。

(裁判長)
人口のことを要素にされたとすると、人口は増えていくと予測をされたんですか、減っていく予測をされたんですか。どっちだったの。
(長谷部氏)
いや、減っていく予測はしていないと思います。
(裁判長)
増えていくと予測されたの。
(長谷部氏)
はい。
(裁判長)
それで、1人当たりの水の平均使用量も増えていくと予測されたんですか。
(長谷部氏)
当然、だから、そういう形でいくと。

裁判長は「使用量」と言っています。「給水量」とは厳密には違いますが、宇都宮市では同様の傾向を示していますので、違いを問題にする必要はないでしょう。長谷部氏は、再度1人当たりの使用水量は増えると予測したと言います。

●「1人当たり平均給水量は減る」

さらに裁判長の尋問は続きます。

(裁判長)
(1人当たり使用水量が)どうして増えていくのかがよく分からないんだけれども。先ほど言ったように、本人の意識にかかわらず、節水機器が普及することによって、個人が使う水の量というのは減るわけですよ。個人の意識にかかわらず、機器自体がそういう構造のものになってくれば、それが普及することによって、1人が使う水の絶対量は減りますよね。
(長谷部氏)
減ります。
(裁判長)
それは、減る方向の要因ですよね。
(長谷部氏)
(うなずく)
(裁判長)
人口も、栃木県は増えていっているんですか。
(長谷部氏)
栃木県は、多分、減っているというより、ある程度、定常状態といいますか、それでいっていると私は思いますけれども。
(裁判長)
全国的に少子化と言われていて。
(長谷部氏)
まあ、おっしゃるとおり、これから減る傾向ということを考慮して、節水というものを考慮していくと、平均給水量そのものは減る方向にはあるかもしれません。

長谷部先生。勘弁してください。1人1日平均給水量は増えるのですか、減るのですか。

●給水量が減っていることの原因が分かっていなかった

長谷部氏が再評価をした2005年の時点では、既に宇都宮市の水需要は減少傾向に入っていました。しかし、長谷部氏は、なぜ減少しているのか分からなかったと証言しました。

長谷部氏は、宇都宮市の水需要は増えると予測したと言いますが、近年の減少傾向の理由が分からない人に、将来の増加を予測する資格があるのでしょうか。

証言調書でご確認ください。

(原告側代理人)
先ほど裁判長から言われたように、(1人当たり給水量が)全体としては減る方向にあったという認識は、当時もあったわけでしょう。
(長谷部氏)
はい、あります。
(原告側代理人)
その要因については、先ほども質問されたわけだけれども、例えば節水機器の普及等にあるということは、その当時も分かっていましたか。
(長谷部氏)
いや、それは分かっていません。
(原告側代理人)
そうすると、なんで減っているかということは、その当時は証人は考慮されなかったんですか。
(長谷部氏)
そうですね。


●湯西川ダムからの取水量を減らす理由は何か

長谷部氏は、再評価意見書で宇都宮市が湯西川ダムからの取水量を0.61m3/秒から0.3m3/秒に減らすべきだと書いていることについて、次のように答えています。

(原告側代理人)
湯西川ダムからの取水量を減らすという方向にはなっていたわけですよね。
(長谷部氏)
はい。
(原告側代理人)
それはなぜそうすべきだとお考えなんですか。
(長谷部氏)
これは私個人の考えですけれども、その当時ダムの在り方とかいろんな問題になりまして、湯西川ダムの場合には、本当にできるのかできないのかといういろんな考慮も考えて、結局、湯西川ダムというのができまして、そうしますと、宇都宮市で今まで多く取水を予想していたんですけれども、それを考慮した形で、少し再評価したというふうに考えてよろしいんじゃないですかね。これこそ、本当にいろんな、社会の経済状況とか、水資源の確保の在り方とか、いろんなことを考えた形で再評価というように私は認識していますけれども。

全く意味が分かりません。「結局、湯西川ダムというのができまして」と言いますけど、湯西川ダムはできていません。「いろんなことを考えた」では、答になっていません。

再評価にかけた時間は、1、2時間程度。そんなにいろいろ考える時間はなかったはずです。

●ダムを造るべきだって言っているじゃありませんか

続いて次のようなやりとりがありました。

(原告側代理人)
そういうこと(湯西川ダムを造ること)はしないでも済むんじゃないかというような方向からは検討されましたか。
(長谷部氏)
今の質問なんですけれども、湯西川ダムの是非については、私は私見を持っていますけれども、ダムは造るべきでないか造るべきかという意見はここでは差し控えたいと思っていますけれども、ただ、湯西川ダムで、従来、前計画で1日5万トン取ったのを、再評価して2万4000トンに再評価。とすると、そのほかの水源地から考えても、川治ダムは動かせない、今市、それから県からの受水も動かせない、白沢は多分地下水の影響等をいろいろ考えて、こういう形になったんじゃないかなと。ここでは直結に湯西川ダムの必要性を言っているわけではないです。
(原告側代理人)
そうすると、この宝井とか白沢の数字も変えてという、ここで現計画としえ掲げられていること自体について、証人としての意見は特にお持ちではなかった。
(長谷部氏)
いや、ここに述べてあるとおりに、水源の規模とか、環境変化とか、取水能力の低下とか、そういうことはやっぱり考慮されているので、そのことも含めて、湯西川ダムが2万4000トン、白沢が6万トン、宝井は水質的に取れないということで、川の流れというのは、水質というものは年々変わりますので、その辺のところは考慮されていると思っています。
(原告側代理人)
考慮しているというようなことはいろいろ書かれてあるんだけれども、それは本当にそれでいいのかどうかということを検討するのが再評価委員じゃないのかと思うんですけれども、そういう検討はされていないということでいいですか。
(長谷部氏)
いやいや、それは違いまして、そういうことを考慮しながら再評価したと私は考えていますけれども。
(原告側代理人)
中止をするとかという方向での検討は、全く考えていらっしゃらなかった。
(長谷部氏)
湯西川ダムですか。
(原告側代理人)
そう。
(長谷部氏)
いや、それはまた別な問題であって、私の問題ではないと。

再評価の対象となる事業は、「湯西川ダム建設事業(負担金)」です。宇都宮市が湯西川ダムの建設負担金を支払い続けることが妥当かが再評価委員に問われています。

長谷部氏が、湯西川ダム建設の是非について、「ダムは造るべきでないか造るべきかという意見はここでは差し控えたい」とか「それはまた別な問題であって、私の問題ではないと。」と言うのは、彼が上下水道事業管理者から諮問された意味が分かっていなかったということにならないでしょうか。

長谷部氏の書いた再評価意見書には、「湯西川ダム建設事業による整備は、適切であり事業を継続すべきであると判断いたします。」と書かれています。つまり、湯西川ダムを建設すべきであるという前提で判断しているのですから、後になって建設の是非についてコメントできないと言うのは不可解です。

しかし、長谷部氏は、最後になって次のように裁判長から聞かれて、湯西川ダムは必要と考えていると言いました。

(裁判長)
湯西川ダムについて必要と考えているのか必要ないと考えているのか、私見があるなら述べてください。手短にお願いします。
(長谷部氏)
私は、必要と考えています。


●もっと地下水を使える

長谷部氏は、もっと地下水を利用した方がいいと言いながら、他方では、宇都宮市が地下水減を放棄して湯西川ダムから取水することについては、放棄した地下水を使えるようにする方策を考えなかったと言っており、私は長谷部氏の論理を理解できませんでした。

(原告側代理人)
証人としては、もっと地下水を利用すべきだと、利用できるんだというふうに考えられるんでしょうか。その辺は、どうでしょうか。
(長谷部氏)
今おっしゃるとおりです。私も、井戸水になっていますけれども、もう少し川の地下水を利用した方がよろしいんじゃないかという考えは、これは私の私見で持っています。
(中略)
(原告側代理人)
証人が言われたのは、地下に流れている河川と言われたんですが、その水は豊富だからもっと利用すべきだということですね。
(長谷部氏)
まあ、豊富とは言いませんけれども、使える、非常に使った方がいいだろうと。
(原告側代理人)
本件については、それが宝井水源であったり白沢水源であったりするわけですよね。
(長谷部氏)
はい。
(原告側代理人)
それは、証人が言われた取水能力の低下等があるかもしれないですけれども、減らすのではなくて、原因を探って対策を講じて取水できるようにするという方向での検討はされたんでしょうか、されなかったんでしょうか。
(長谷部氏)
いや、その場合は、私はやっていませんですけれども。
(原告側代理人)
むしろ、そういうふうにすべきだったと思いませんか。今でも言えるのだったら、そういうふうに。
(長谷部氏)
はい、感じますね。


●人口は増えると予測した

上記のように長谷部氏は、宇都宮市の水需要について、「人口は多分増えていくだろうという形で予測をしています。」と言いました。いつまで増えるのか、あと何人増えるのかは聞けませんでしたが、人口問題研究所や宇都宮市の認識と違うと思います。宇都宮市は、2002年度の水需要予測で、2011年に人口がピークに達し、その後は減少していくと予測しています。長谷部氏は、人口問題について科学的な考察をした上で判断したようには思えません。

●コストは度外視した

原告代理人が水源を多く確保すれば出費も多くなると言ったところ、長谷部氏は出費のことは分からないと言いました。長谷部氏は、費用対効果を度外視して再評価を行ったと言いたいようです。しかし、再評価意見書には、「コスト」という言葉が三つも出てきます。彼は湯西川ダム事業に投資した方が得か損かを聞かれていると思うのですが。

長谷部証人の発言を証人調書でご確認ください。

(原告側代理人)
水需要予測を行った上で、確保等について不確定な状況があるから、確保は多めにしておいた方がいいという政策的な意見ですね。
(長谷部氏)
はい。
(原告側代理人)
ただ、それについても、水需要予測はきちんとしなければいけないですよね。それが前提となりますよね。
(長谷部氏)
はい。
(原告側代理人)
それが過大で、それプラス、政策的なことでまた過大な確保になったら、相当な出費もしますものね。
(長谷部氏)
出費の方は、ちょっと私は分かりませんけれども。


●「地球が温暖化するからダムが必要だ」

長谷部氏は、湯西川ダムは必要だ、これから地球温暖化により、「(雨が)全然降らないところも出てきます。」と言いました。

しかし、長谷部氏は、再評価意見書には地球温暖化のことには一言も触れていません。ダムが必要な理由について、再評価意見書に書いていない理由を訴訟の場で持ち出すのは奇異です。なぜ地球温暖化のことを最初から意見書に盛り込まなかったのでしょうか。ダムを必要とする理由がその場その場でころころ変わってよいものでしょうか。

この点に関するやりとりを証人調書でご確認ください。

(原告側代理人)
最後にあなたが言われた、(水需要予測には)不確定要素があると。その中の温暖化というのは、あなたが通常持っている意見であって、この再評価の意見には、そのことは全然入っていませんよね。
(長谷部氏)
入っていません。
(原告側代理人)
そもそも、市から出された評価案には、そのことは載っていないし、反映されていませんからね。
(長谷部氏)
はい。

国土交通省からの入れ知恵だと思いますが、地球温暖化による渇水というのは、ニセ科学の類いであるということは、別ページで検討したいと思いますが、一言だけ言えば、長谷部氏が「(雨が)全然降らないところも出てきます。」、だから、それに備えてダムを建設して水をためておくべきだと言いたいのであれば、その主張は、ダムの上流は「(雨が)全然降らないところ」には絶対にならないだろうという、非科学的な推測が前提となっています。

●市民の利益はだれが考えるのか

宇都宮市長は、湯西川ダムの水を買うという結論に合わせて、余った地下水源を廃棄することを考えているとしか思えません。再評価は市当局の自作自演であり、偽装だったのですから、再評価委員の先生方も宇都宮市民の利益を真剣に考えたとは思えません。

そうだとすると、一体だれが市民の利益を考えるのでしょうか。

宇都宮市民は怒った方がいいと思います。

(文責:事務局)
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