八ツ場ダム事業基本計画の第4回変更計画に関する知事意見への議決はだまし取られた

2015年5月9日

●栃木県議会は八ツ場ダム事業基本計画の第4回変更計画を承認した

国土交通省は、2013年8月6日に八ツ場ダム事業に関する基本計画の第4回計画変更案を関係都県に示し、栃木県議会は、同年9月議会において、同変更案についての栃木県知事の意見に関する議案を承認しました。

知事の意見とは、単純に、何の留保もなく、計画変更案に「同意する」というものです。

この議案について議会がどのような審議をしたのかを常任委員会会議記録で調べてみると、意味のある審議がなされていないどころか、議員が錯誤に基づいて可決したと言えます。

同議案を審議した栃木県議会県土整備委員会の会議記録を、同議案に関係する部分にしぼって、以下に抜粋します(一部、修正・追記しています。)。

2013年9月栃木県議会県土整備委員会会議記録(抜粋)

1 開会日時  2013年9月30日(月)午前10時00分〜午前10時53分
2 場所  第5委員会室
3 委員氏名
委員長     山 形 修 治(自民党)
副委員長    亀 田   清(自民党)
委 員     神 林 秀 治(みんなを離党)
野 澤 和 一(公明党)
          相 馬 憲 一(みんな)
                     一 木 弘 司(県民第一)
                     高 橋 文 吉(自民党)
                     渡 辺   渡(自民党)
          
          
◎赤上 尚 砂防水資源課長 第19号議案八ッ場ダムの建設に関する基本計画の変更に対する意見についてご説明申し上げます。お手元の資料No.4をごらん願います。
          
まず、八ッ場ダムの位置でございますが、資料の2ページの位置図で赤く示した箇所がダムの建設場所でございます。国土交通省が群馬県長野原町に計画しております八ッ場ダムは、群馬県と長野県との境を源としている吾妻川の中流に建設される多目的ダムで、利根川水系の上流ダム群と相まって、下流部の洪水被害を軽減するためのものでございます。今回、国土交通大臣より、八ッ場ダムの建設に関する基本計画の変更につきまして意見を求められました。その内容について説明させていただきます。資料の1ページにお戻りください。
          
基本計画の変更につきましては、特定多目的ダム法第4条第4項に基づき関係都道府県知事の意見を聞くこととされており、知事が意見を述べようとするときは議会の議決を経なければならないとされております。
          

           2の事業経過についてご説明いたします。八ッ場ダムは、昭和42年に事業計画調査に着手し、昭和61年に基本計画が決定され、以降3回の基本計画変更がなされております。事業の進捗状況につきましては、平成24年度末時点で約3,700億円が執行済みで、進捗率は81%となっております。

           次に、3の変更理由についてでございますが、(1)として、現時点で工程を精査した結果、おおむね4年おくれている状況であるため、事業期間を平成27年度から平成31年度に変更すること。(2)として、洪水調節について、八ッ場ダム建設事業の検証に当たりダム計画地点のピーク流量でございます計画高水流量を再計算した結果、毎秒3,900立方メートルが3,000立方メートルに変わり、また最大2,800立方メートル毎秒の洪水調整を行い、利根川下流への洪水被害を軽減するための変更が必要になったためでございます。なお、総事業費4,600億円及び各都県の負担割合は変更ございません。

           4の主な変更内容についてでは、現計画との変更点を記載しております。
          
5の本県が負担する理由につきましては、渡良瀬川右岸の足利市、佐野市、栃木市の各一部が利根川の想定氾濫区域に含まれていることから、河川法第63条第1項の規定に基づき直轄事業負担金を負担することとしております。八ッ場ダムは、栃木県において渡良瀬川右岸の治水上の安全を図る上で必要不可欠な事業であり、ダム本体工事着工のための基本計画の変更が前提となることから、今回の国からの意見照会に対して、3ページの議案書57ページのとおり、同意する旨回答しようとするものでございます。  説明は以上でございます。
 
 ◆一木弘司 委員 八ッ場ダムの建設に関して、5番で本県が負担する理由が述べられておりますが、その中で利根川の氾濫区域に含まれておりということで、これが想定氾濫区域だということになっているわけですが、この想定というのはいつの段階で策定したものなのですか。
 
 ◎赤上 砂防水資源課長 この想定氾濫区域につきましては、このダムの計画ができたときに、ほかの上流ダム群とも一緒になって洪水を抑えるわけでございますけれども、その中で、昭和61年に基本計画が策定された際には、この3市約25平方キロメートルでございますが、その部分について氾濫のおそれがあると、そういう区域であるということが明確にされたところでございます。
 
 ◆一木弘司 委員 今このゲリラ豪雨とか、集中豪雨が非常に気候変更によって変わっているので、その辺の想定の見直しというのはあるのでしょうか、ないのでしょうか。
 
 ◎赤上 砂防水資源課長 こちら八ッ場ダムにつきましては、ダムの検証の中で、基本高水流量あるいは洪水流量の見直しというのを国交省で行ってまいりまして、その雨の降り方についても、最新のデータをもとに再検討しました。その中で、今回計画高水流量は一部変更がございましたが、それによってもこの想定氾濫区域については、特に変更がないということでなっております。
 
 ◆高橋文吉 委員 八ッ場ダムの5番なのですが、氾濫区域ということで3市、足利市、佐野市、栃木市ということで説明されておりますが、この3市の市民は大体ご存じなのですか。そういうPRは今までどうしているのですか。
 
 ◎赤上 砂防水資源課長 こちら想定氾濫区域については、国のほうで策定してあるものでございますが、国の八ッ場ダムのホームページとか、そういうところには載っておりますが、今後その住民の方々にも、こういう地域であるということはしっかりと知らせて、このダムの必要性とかについてもさらにPRを図っていきたいと思っております。(「これが一番大事なことだから。以上です」の声あり)
 
 ◆野澤和一 (前略)
 それと、八ッ場ダムにつきましては、4年間工期がおくれるということでありますが、4,600億円の予算は据え置きですということなのですが、基本的に納期がおくれれば、それだけ経費はかかるのではないかなと単純に考えるのですが、そのあたりはどう考えられているのでしょうか。
 
 ◎赤上 砂防水資源課長 工期は4年間おくれるということでございますが、今後実施される工事の内容につきまして、さらなるコスト縮減を国に求めてまいりまして、この4,600億円の中で必ず終わるように、あらゆる機会を通じて求めていきたいと考えておりますし、国もそのようにおさめるという計画づくりをしておるところでございます。(「わかりました」の声あり)
 
 ○山形修治 委員長 それでは、付託議案の質疑を終了いたします。  これより付託議案の採決を行います。  第13号議案、第14号議案及び第19号議案について一括して採決することにご異議ありませんか。
 
 (「異議なし」の声あり)
 ○山形修治 委員長 ご異議がありませんので、一括して採決をいたします。  本案は、それぞれ原案のとおり決定することにご賛成の委員の挙手を求めます。
 
 (賛成者挙手)
 ○山形修治 委員長 挙手全員であります。
 したがって本案は、それぞれ原案のとおり可決されました。  
 ●総事業費に変更なしという前提で可決した  

執行部は総事業費について、「総事業費4,600億円及び各都県の負担割合は変更ございません。」「今後実施される工事の内容につきまして、さらなるコスト縮減を国に求めてまいりまして、この4,600億円の中で必ず終わるように、あらゆる機会を通じて求めていきたいと考えておりますし、国もそのようにおさめるという計画づくりをしておるところでございます。」(赤上尚・砂防水資源課長)と説明しています。  

しかし、総事業費4600億円のうち、2012年度末で約3700億円が執行済みです。残りは約900億円です。  

国は、2004年に本体工事費を613億円から429億円に変更しました。(根拠は、毎日新聞 2008年4月18日 群馬版。2014年8月7日に決定した本体工事落札額は342.5億円(税抜き)でしたが、2018年度に残り86.5億円の契約を締結する必要があるはずです。)  

そのほか、増加要因が以下のとおり控えています。詳しくは、八ツ場あしたの会のホームページのダム計画の迷走のページをご覧ください。

o 代替地整備費用  80億円
o 東京電力への減電補償   130〜200億円
o 工事中断及び地滑り対策   183億円
合計   最大463億円

そして、2014年10月1日時点での事業進捗率は、次のとおりです。

o 用地取得  93%
o 家屋移転  98%
o 付替鉄道  100%
o 付替県道・国道  96%

つまり、本体工事費で429億円、追加の費用で463億円、合計で892億円が必要である上に、用地取得、家屋移転及び付替道路も完了していないのですから、残事業費900億円で完成できるとは思えません。

議案は、常識を無視した執行部説明を前提に可決されています。

事業費が増額になることを委員にきちんと説明していれば、可決されなかった可能性があります。

●東京都の同意には附帯意見がある

栃木県は、国の示した八ツ場ダムの基本計画の変更案に無条件で同意しましたが、東京都では結論としては変更案に同意していますが、附帯意見があります。 2013年9月27日の都市整備委員会で、都執行部は、「今回、国から提示された基本計画変更案について、速やかにダム本体工事に着手し、一日も早く完成させること、また、工期延長により事業費が増額しないよう徹底したコスト縮減等に取り組むことという二つの意見を付して、同意することとする議案を提出しております。  今回の議案について、議会のご承認が得られた場合には、附帯意見を確実に履行するよう国に強く申し入れてまいります。」(都市整備委員会速記録)答弁しています。

栃木県がいつも国の言いなりなのは、知事の性格や考え方によるのだと思います。

●想定氾濫区域が再検討されたという誤解に基づいて可決

「気候変動に伴い栃木県の想定氾濫区域に変更はないのか」(要旨)という一木委員からの質問に対して、執行部は、「昭和61年に基本計画が策定された際には、この3市約25平方キロメートルでございますが、その部分について氾濫のおそれがあると、そういう区域であるということが明確にされた」「こちら八ッ場ダムにつきましては、ダムの検証の中で、基本高水流量あるいは洪水流量の見直しというのを国交省で行ってまいりまして、その雨の降り方についても、最新のデータをもとに再検討しました。その中で、今回計画高水流量は一部変更がございましたが、それによってもこの想定氾濫区域については、特に変更がないということでなっております。」(赤上課長)と答弁しました。

しかし、想定氾濫区域は、ダム検証で再検討されていません。そもそも、想定氾濫区域は洪水流量と関係なく設定されました。

栃木3ダム訴訟において、2008年に東京高等裁判所は関東地方整備局に調査嘱託を行いました。調査内容は、八ツ場ダム治水負担金の各都県負担割合の算定根拠についてです。回答は、以下のとおりです。

o 「想定氾濫区域」が河川法施行規則1条の2と1999年河川審議会中間答申に定義されている。
o 「想定氾濫区域」とは、「洪水、津波、高潮その他の天然現象による河川のはん濫により浸水するおそれのある区域」(河川法施行規則1条の2)をいう。
o 具体的には、「洪水時の河川の水位(計画高水位)より地盤の高さが低い沿川の地域等河川からの洪水氾濫によって浸水する可能性が潜在的にある区域」(1999年河川審議会中間答申)という意味である。
o 地盤高で決めれば、様々な洪水パターンにより変化しない。
o 地盤高で決めれば、各都県共通の指標になる。

つまり、都県の負担割合の根拠となる「想定氾濫区域」は、地盤高(標高)で決めたのであり、一定の洪水流量を想定して決めたものではないということです。したがって、都県の負担割合の根拠となる「想定氾濫区域」の問題は、ダム検証過程での基本高水流量の見直しとは、全く関係がないということです。

国土交通省は、「想定氾濫区域」を地盤高で決めれば、様々な洪水パターンにより変化しないというメリットがあることを強調しています。だから、「想定氾濫区域」と将来の洪水の態様がどう変わるかは関係がありません。

そうであるにもかかわらず、赤上課長は、「想定氾濫区域」が1986年当初から洪水流量を想定して設定されたものであり、2010年から始まった八ツ場ダム検証過程において想定される洪水流量の再検討を行い、それに伴う「想定氾濫区域」の見直しをした結果によっても、これに変更はなかった、と言っているとしか思えない答弁をしました。洪水流量の再検討と関連させて答弁したことは確実です。

「想定氾濫区域」は、流量と関係なく決めたのですから、気候変動に伴い「想定氾濫区域」が変更されないのかとの質問に対して、流量の再検討がなされたことと関連づけた答弁は、「想定氾濫区域」が一定の洪水を想定して決められたものではないという真相を覆い隠し、委員を錯誤に陥れる答弁です。

「想定氾濫区域」が単に地盤が低いというだけの理由で決められたものであるという真実を告げられていれば、可決されなかった可能性もあると思います。 執行部は委員会の可決をだまし取ったと言えないでしょうか。

●委員は重要な事実を知らされていない

委員は、おそらく次のような重要な事実を知らされずに議案を可決したと思います。

o 栃木県が八ツ場ダムの負担金を10.4億円も支払うこと。
o 利根川の洪水が栃木県に及んだことは歴史上ないこと(過去記事「栃木市長と佐野市長から回答を回収した」を参照)。
o 栃木市長も佐野市長も八ツ場ダムから受ける著しい利益の内容を説明できないこと(過去記事「栃木市長と佐野市長から回答を回収した」を参照)。
o 「想定氾濫区域」は河川法施行規則から借りてきた概念で、重要水系を決めるための基準であり、受益者負担金の負担割合を決めるための基準でないこと。
o 河川法63条1項は関係都府県が「著しく利益を受ける場合」に「受益の限度」でしか受益者負担金の支払義務を負わないと規定していること。
o 1/200確率雨量を氾濫シミュレーションしたハザードマップでは、栃木県内の浸水区域は旧・藤岡町の一部だけで、その面積は、「想定氾濫区域」の1/10の約2.5平方キロメートルにすぎないこと。
o 八ツ場ダムが完成すれば、被害がゼロになるわけではないこと。

重要な事実を知らずにした判断は有効とは言えないと思います。

●「想定氾濫区域」はホームページに載っているか

高橋委員の「氾濫区域ということで3市、足利市、佐野市、栃木市ということで説明されておりますが、この3市の市民は大体ご存じなのですか。」という質問に対し、赤上課長は、「想定氾濫区域については、国のほうで策定してあるものでございますが、国の八ッ場ダムのホームページとか、そういうところには載っております」と答弁しました。

栃木県のホームページの「国のダム事業について」というページを見ると、「利根川のダムの位置と想定氾濫区域」ということで、国土交通省八ツ場ダム工事事務所ホームページにリンクが貼られています。

確かに「想定氾濫区域図」(下図)は載っていますが、そこで示されている「想定氾濫区域」は、八ツ場ダムの洪水調節効果が及ぶ範囲だけではありません。 想定氾濫区域図
八ツ場ダム工事事務所のホームページから
例えば渡良瀬川の「浸水想定区域」とダブっています。宇都宮市も含まれています。

したがって、八ツ場ダム工事事務所ホームページの図は、八ツ場ダムの治水負担金を算出するために用いられた図ではありません。

どのような「想定」の下に描いたのかの説明も全くないのですから、信用性に欠けますが、その点をさておいても、栃木県民が八ツ場ダムの恩恵を受ける区域を八ツ場ダム工事事務所ホームページの「想定氾濫区域図」から知ることはできません。

赤上課長の答弁は、高橋委員の質問に対する答にはなっていません。

栃木県砂防水資源課のページに書かれているように、「栃木県においては、渡良瀬川右岸の足利市、佐野市、栃木市(旧藤岡町)の一部が利根川の氾濫区域に含まれており、治水上重要な施設となります。」というのであれば、そしてそのために10.4億円を国に払う価値があると栃木県として判断するのであれば、栃木県は、八ツ場ダムによる恩恵を受ける足利市、佐野市、栃木市(旧藤岡町)の一部とはどこなのかを県民に明確に分かるように示すべきだと思います。

●おわりに

栃木県議会はほとんどの議員が自民党系であり、これまでに、「八ツ場ダムの建設推進を求める意見書」(2009年11月30日)及び「八ツ場ダム建設事業の早期完成を求める意見書」(2011年10月14日)を議決しています。

したがって、議員が八ツ場ダムに関する真相を知ったとしても、知事の意見に反対する議決をすることはないのかもしれません。

しかし、栃木県の負担割合をどうやって決めたのかについて、執行部が議員に対し正しい情報を提供しないで、執行部が望む議決をさせるというやり方は、それとして問題です。

栃木県民は、八ツ場ダムのために10.4億円も支払うのに、同ダムの効果が及ぶ地域を当該地域の住民さえ知らず、県議会でもまともな審議が行われていません。

栃木県民が八ツ場ダムのために税金を差し出すことは、どこをどう考えても100%無駄遣いです。利根川の洪水が足利市まで来るはずがありません。

福田富一・栃木県知事と栃木県議会が県民の利益を考えているとは思えません。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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