栃木市長と佐野市長から回答を回収した

2012年11月16日

● 核発電所事故は起きなかったのか

皆様も11月18日執行の栃木県知事選挙選挙公報を読まれたと思います。

今、栃木県で一番問題なのは放射能被害だと思います。

ところが、福田富一氏(現職)陣営が彼の政策を書いた文の中には、「風評被害対策の推進」と「原子力災害を乗り越え」という語句が見られるだけです。3.11についてたった19文字しか触れていないのです。

goo辞書によると、「風評被害」とは、「根拠のない噂のために受ける被害。特に、事件や事故が発生した際に、不適切な報道がなされたために、本来は無関係であるはずの人々や団体までもが損害を受けること。例えば、ある会社の食品が原因で食中毒が発生した場合に、その食品そのものが危険であるかのような報道のために、他社の売れ行きにも影響が及ぶなど。」とされています。

福田氏によると、栃木県内の放射能被害は、根拠のない噂によるものらしいです。ということは、問題となるような放射能汚染はないのだという認識なのでしょう。

福田氏はまた「原子力災害を乗り越え」と言いますが、具体的に何をするのかについては何も示していません。

福田氏の文を見ると、2011年3月11日に何事も起きなかったかのようです。

しかし、栃木県では、連日のように農産物や林産物が出荷停止になっていますが、福田氏は関心がないようです。

那珂川町の原木ナメコ出荷停止

壬生の原木ナメコなど出荷停止 原子力災害対策本部

露地原木ナメコ、鹿沼も出荷停止 県内6市町目

原木ナメコ、佐野も出荷停止 県内5市町目

矢板市の原木ナメコ出荷停止 原子力災害対策本部

「福田氏は「再生可能エネルギーと代替可能になった時点で原発廃止」としながらも、「安全性の確認結果を踏まえ、地元の合意を得て判断する」として現時点では再稼働を容認。」(11月1日付け下野)という立場です。

「東京電力福島第1原発事故を経た原発稼働の是非について福田氏は「新設はあり得ないが、安全性を担保できた原発から再稼働するというスタンス」と、産業、家庭への影響を最小限にとどめるためには当面の稼働はやむなしとした。」(11月8日付け毎日)。

「福田富一知事は12日の定例記者会見で、停止中の原発の再稼働について「脱原発に向かう過程の中で、安全な原発は動かしていくべきだ」と容認する姿勢を示した。」(6月13日付け下野)。

しかし、人間は絶対に安全な発電所は造れませんから、福田氏の言う「安全」とは、技想定される範囲内での安全性でしかありません。だから、想定外の事故は起きても仕方がないということです。福田氏は、今後も事故が起きることを容認するということです。事故を容認しないなら、再稼働を認めないはずです。

ちなみに、元原子力安全委員会委員長の斑目春樹氏も次のように言っているのですから、「安全な原発」などあり得ません。

非常用ディーゼルが二台同時に壊れて、いろいろな問題が起こるためには、そのほかにもあれも起こる、これも起こる、あれも起こる、これも起こると、仮定の上に何個も重ねて初めて大事故に至るわけです。(中略)何でもかんでも、これも可能性ちょっとある、これはちょっと可能性がある、そういうものを全部組み合わせていったら、ものなんて絶対造れません。だからどっかでは割り切るんです」「原子力発電に対して、安心する日なんて来ませんよ。

「あんな不気味なの」…斑目原子力安全委員長。 週刊文春4月7日号から。(文明のターンテーブル)


● 福田氏は事故に懲りていない

下野新聞社が実施したアンケートの「県が抱える最大の課題は」という問いに両候補者は次のように答えています(11月13日付け下野)。

野村節子氏

福島第1原発事故から子どもの健康を守り、農業、観光などへの影響を最小限に抑えること。東海第2原発などすべての原発の再稼働反対と、即時原発ゼロの実現
福田富一氏

県民自身がとちぎの良さや持てる力を十分に評価していないことで、県の実力が出し切れていない部分がある。県民がとちぎを再発見、再評価することで、人や地域に元気が生まれ、潜在力が引き出されるのではないか

やはり福田氏は核発電所事故には関心がないようです。

福島第一原発10月も毎時1000万ベクレルの放射性セシウム垂れ流し!9か月間状況変わらずという記事が示すように、放射能汚染は現在進行中です。

福田氏の回答は、ピント外れだと思います。

「国内原発の在り方について、今後どのようにすべきだと考えるか」についての回答は以下のとおりです(11月14日付け下野)。

野村節子氏

福島第1原発の事故は、抑える手段が存在しない原発事故の“異質の危険性”を明らかにした。国は原発再稼働方針を撤回し、全ての原発から直ちに撤退する誠 政治決断を行い、「即時原発ゼロ」を実現すべきだ
福田富一氏

まず政府が、将来における我が国のエネルギー政策のビジョンや原発活用のあり方などについて、責任ある見解を分かりやすく示し、公の議論を経た上で基本的な政策指針を定める必要がある。その上で判断すべきと思う。

福田氏は、ダム問題と核発電について二通りの答え方をします。

一つは、国に下駄を預けて、自分の考えは言わないという回答。もう一つは、国の政策に賛成するという考えを知事として持っているというものです。

核発電の問題では、「脱原発に向かう過程の中で、安全な原発は動かしていくべきだ」(6月13日付け下野)が福田氏の考え方ですが、他方で、国が決めればいい、自分の考え方は言わないという答え方もします。

政治家は言うことに一貫性がなきゃだめでしょう、と思うのですが、なぜか福田氏の場合は、一貫性がなくてもまかり通ってしまうんですね。

いずれにせよ、福田氏は、核発電所の事故に懲りていないということです。

●栃木市長と佐野市長から回答を得た

ここから本題です。

八ツ場ダムの効果について足利市長、栃木市長、佐野市長に質問したに書いた公開質問状に対する回答を2012年10月12日に栃木市長と佐野市長から回収しました。

足利市長が無回答でその理由も言わないことについては、大豆生田実・足利市長質問に答えずに書いたとおりです。

足利市長に対しては、2011年2月1日付けでも質問したことについては、八ツ場ダム建設再開決定に関する足利市長の不可解に書きましたので、ご参照いただければ幸いです。

要するに足利市長は、八つ場ダムに関する質問には頑に回答を拒否しています。

足利市長が回答すると、だれかにとってよほどまずいことがあるのでしょうか。

足利市長が回答すると、だれにどのような不都合が生ずるのか知る由もありません。

足利市長は、八つ場ダムについて本当のことを言わないように脅迫されている可能性も考えられます。そうだとすると、警察に相談してほしいと思います。

栃木市長と佐野市長からの回答は、栃木市長と佐野市長からの回答のとおりです。

3市長からの回答のまとめは、八ツ場ダムに関する質問に対する関係3市長からの回答のとおりです。

●栃木市長の回答

鈴木俊美・栃木市長の回答を見ていきましょう。

これまで利根川の氾濫水によって栃木市が浸水したことがあるかという質問には、「ない」と答えています。

今後はどうかと聞くと、「ある」と考えると回答しています。

あるとすればどの程度浸水するのかと聞くと、概ね200年に1回程度の大雨が降ると藤岡地区に2〜5mの浸水があると回答しています。

八ツ場ダムでどのような恩恵を受けるのかについては、次のように回答しました。

ダムの建設により下流への雨水の流入量が調節されますので、利根川の治水面の向上が期待でき、その結果として、本市の藤岡地域における大雨時における安全度が向上するものと考えている。


●利根川の氾濫水で栃木市が浸水していないことがはっきりした

栃木市長は、これまで利根川の氾濫水によって栃木市が浸水したことがないと回答しました。栃木市を代表する立場の市長がこのように回答したのですから、これは事実です。

つまり、これまで利根川の氾濫水によって栃木市が浸水したことがないことがはっきりしました。

●未曾有の災害に備えたら税金が足りなくなる

しかし今後は、利根川の氾濫水が栃木市を襲うかもしれないと栃木市長は言うのです。

この考え方は、治水政策として不当です。不当というだけではなく、「最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」(地方自治法第2条第14項)という法律に違反した考え方だと思います。

使える時間も予算も限られているのですから、まずは起きたことのある形態の災害に備えるのが筋です。

未曾有の水害に備えるなどと言い出したら、いくら税金があっても足りません。

栃木県は渡良瀬川の氾濫に苦しんだのですから、まずは渡良瀬川の氾濫に備えるべきであり、起きたことのない利根川からの浸水に備えるのは優先順位を間違っています。渡良瀬川の氾濫に対する備えは万全なのでしょうか。

栃木県が利根川上流に建設が予定されている八ツ場ダムに10置く4000万円も払うのなら、渡良瀬川の改修にそのカネを使う方が有効であることは明らかです。

栃木市では、予算の使い方に優先順位を考えないのでしょうか。

●栃木市長の回答に矛盾あり

「概ね200年に1回程度の大雨が降ると藤岡地区に2〜5mの浸水がある」という話も矛盾しています。

1947年に日本を襲ったカスリーン台風は、国土交通省の計算によれば、概ね200年に1回程度の大雨に匹敵する大雨を降らせたとされています。しかし、そのとき利根川の氾濫水は栃木市に到達していません。

当時利根川は、栃木県とは反対側の右岸が破堤したのですから、氾濫水が栃木県に来るわけがありません。(利根川の決壊個所は、国土交通省のホームページのカスリーン台風決潰場所で確認してください。)

利根川の氾濫水が栃木市に来なかったことは、栃木市長が回答しているとおりです。

つまり、1947年に200年に1回程度の大雨が降っても、利根川の氾濫水で栃木市は浸水しなかったことが実証されています。

それにもかかわらず、栃木市長は、今後「概ね200年に1回程度の大雨が降ると藤岡地区に2〜5mの浸水がある」と回答するのは、矛盾しています。

カスリーン台風のときに、藤岡地区が浸水したのは事実ですが、それは渡良瀬川の氾濫によるものです。

栃木市長は、渡良瀬川の氾濫と利根川の氾濫を混同して、栃木県が八ツ場ダム建設のために10億4000万円も負担することを是認しているのでしょうか。

●八ツ場ダムの恩恵を説明できず

八ツ場ダムの恩恵に関する「ダムの建設により下流への雨水の流入量が調節されますので、利根川の治水面の向上が期待でき、その結果として、本市の藤岡地域における大雨時における安全度が向上するものと考えている。」という回答は理解不能です。

八ツ場ダムがないと藤岡地区に2〜5mの浸水があるのなら、同ダムがあれば浸水は何mで済むのかという定量的な回答ではありません。

「二階から目薬」のような漠然とした効果では、治水負担金を課せないことは河川法第63条第3項が明記しています。栃木県の場合、「著しく利益を受ける」場合にのみ、負担金を払う義務があるのです。

●佐野市長は公文書による回答を避けた]

次に岡部正英・佐野市長の回答を見てみましょう。

佐野市長の回答は、公文書にもなっていません。

内容が意味不明なので、佐野市長は、後日批判されたときに、あの回答書は職員が勝手に書いたもので、自分は関与していないと言い逃れをする魂胆でしょうか。

それでも、佐野市長の対応は、かたくなにノーコメントを貫く足利市長よりもましなのかもしれません。

●利根川の氾濫水が佐野市に浸水したことはないことがはっきりした

佐野市長も、これまで利根川の氾濫水で佐野市が浸水したことがないと答えています。

しかし今後は、「出水時の利根川本川水位の上昇やその長期化に起因する支川氾濫は考えられる。」と回答しています。

具体的な被害の程度については回答していません。回答できないでしょう。そういう実績がないのですから。

佐野市長も八ツ場ダムの建設に賛成の立場ですから、栃木市長同様、およそ今までおきたことのないような未曾有の形態の水害に備えるという違法な考え方をとるということです。

佐野市民を水害から守るというなら、国に対して、八ツ場ダムを造れ、ではなく、渡良瀬川の河川整備をしっかりやれ、と言うべきでしょう。

●八ツ場ダムの恩恵を説明できず

八ツ場ダムでどのような恩恵があるかについては、「佐野市は利根川流域に位置し、利根川の支川である渡良瀬川に接しているとともに、渡良瀬川の支川が佐野市に流れていることから、利根川上流ダム群の一つである八ツ場ダムの利根川に対する効果は佐野市にとっても恩恵があると考えられる。」と回答しました。

これが佐野市長の回答です。意味が分かりません。この文章を書いた人自身も意味が分かっていないと思います。読み手が理解できるはずがありません。

設問は、「八ツ場ダムによって佐野市はどのような恩恵を受けると考えますか」です。

その回答が「恩恵があると考えられる。」です。

回答になっていません。どのような恩恵があるのかを八ツ場ダムの受益地の市長が答えられないのです。

八つ場ダムによる恩恵が佐野市にないことがはっきりしたと言えると思います。

● 浸水予想区域図にも足利市と佐野市の浸水はない

国土交通省が2006年7月6日に作成した【利根川水系 利根川・広瀬川・早川・小山川浸水想定区域図】にも、旧藤岡町の一部が含まれているものの、足利市と佐野市の浸水は想定されていません。

八ツ場ダムの恩恵が足利市と佐野市にあるという栃木県の主張は、国土交通省の作成した証拠によって崩れているのです。

ちなみに、旧藤岡町の一部が利根川の氾濫水で浸水するという想定は、歴史上なかったことであり、科学的根拠はありません。

なお、利根川と栃木県の位置関係を下記の地図で確認してください。

関東河川地図
(国土交通省のホームページから)

栃木県河川地図
(栃木県のホームページから)

● まとめ

栃木県が八ツ場ダム建設負担金として10億4000万円を払うことが適法かどうかは、栃木県が八ツ場ダムによって「著しく利益を受ける」(河川法第63条第3項)かどうかという基準で判断されます。

八ツ場ダムによって著しく利益を受けるはずの足利市と栃木市と佐野市の市長は、上記のように著しく利益を受けることを説明できないことがはっきりしました。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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