前回記事決壊地点の堤防の舗装面の高さは計画高水位以下だった(鬼怒川大水害)において、国は、2011年度時点で、鬼怒川左岸21kの堤防高を実際よりも30cm程度も高くなるような細工をして公表し、世間を欺いたことを書きました。
その小細工とは、L21k付近の堤防の天端に盛り土をして、その頂上の高さをもって堤防高とみなすことです。堤防高とは、堤防の川表法肩で測るのがルールであり、この小細工は違法です(根拠は前回記事記載のとおり)。
前回記事では、鬼怒川左岸21kの盛り土の高さは2011年度時点で31cmだったと書きました。
下図と2011年度定期縦横断測量成果を根拠に計算した結果です。
下図は、「堤防横断図」と呼ばれており、おそらくは2011年度定期測量の時期に作成されたものです(出典は前回記事参照)。
しかし、上記の31cmという数値は、私が計算したものであり、信頼性に欠けるという人もいると思います。
ところが、国は、2011年度定期測量において、各距離表での横断図を作成し、特に堤防の高さを細かく測量していたのです。
下図は、鬼怒川の2011年度定期測量におけるL21kの横断図のうちの左岸側です。
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下図は、その凡例です。
実測年月日は、2012年2月9日です。
縮尺は縦が1/100で、横が1/1000です。
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下図は、L21kの堤防の部分を拡大したものです。
「P H」は、pile height の略だそうです。
つまり、杭の天辺に打ってある鋲の標高のことです。
P H=21.284mは、2012年2月9日に測量したL21kの距離標杭の天辺の標高です。
堤防法尻部のP Hは、測量する際の中継杭の天辺の高さです。
Y.P.5.00mの線も描かれています。
以上のことから、最小の正方形は、高さ0.2m、幅2mを表していることが分かります。
したがって、L21kの堤防の盛り土の頂上とアスファルト舗装面の標高差は、30cm程度はあることが見て取れます。
しかし、こんな推測をするまでもなく、この横断図には測量した標高が記載されています。
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下図は、横断図のうち、測量地点と標高を記載した部分です。
上段が標高、中段が追加距離、下段が区間距離です。
堤防部分の測量地点が多いため、測量地点と数値の位置は垂直には対応していません。数値が右側にずれ込んでいます。
追加距離と区間距離の欄で0.00とあるのは、L21kの距離標杭の位置を示します。
追加距離については、距離標杭の東側(横断図では左側)はマイナスで表示され、西側はプラスで表示されます。
区間距離とは、隣り合う測量地点の間の距離のことです。
下図からは次のことが分かります。
そんなわけで、L21k横断面における盛り土の頂上とそれに隣接する舗装面の高さの差は、2012年2月9日時点で31cmもあったことが詳細に測量されていました。
舗装面の高さ20.73mは、2012年2月9日時点で、21kの計画高水位20.830mよりもちょうど10cm低かったことになります。
ただし、舗装面の高さ20.73mは、正確に言えば、堤防高ではありません。
上記のとおり、堤防高は川表法肩で測るものであるところ、舗装面の高さ20.73mは、堤防の真ん中付近であるからです。
堤防上に盛り土をすることは、雨水の排水を妨げることになり、やってはいけないことのはずです。
だから、L21kの堤防高を測量するには、雨水排水を妨げる盛り土を削り取る必要があります。しかし、現実には、盛り土が存在したので、適法な測量ができませんでした。
なので、2011年度定期測量におけるL21kの堤防高の正しいデータは存在しないのですが、そうであれば、盛り土に隣接する舗装面の実測値である20.73mを堤防高として扱うしかないと思います。(本来の堤防高は何mかを議論すると、盛り土を削り取ったら、という仮定の話になってしまいます。いささかマニアックな議論になってしまい、裁判所で主張するのは難しいように思います。)
盛り土の頂上の高さを堤防高として扱うことはできません。
なぜなら、下図のとおり、L21kの距離標杭のある盛り土部分の延長は10m程度であり、洪水時には、盛り土から越水する前にその両脇から回り込んで越水するので、盛り土は、越水を防止するという、堤防本来の機能を果たさないからです。
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出典:鬼怒川堤防調査委員会報告書3−8
いずれにせよ、2012年の時点で、盛り土の高さは31cmであったこと、これに隣接する舗装面の高さは計画高水位より10cm低かったことを証明する証拠を国が作成していたのです。
つまり、国は、L21kにおける余裕高(堤防高のうち計画高水位を超える部分)は、2011年度において21cmだったと言っているのですが、実際には、マイナス10cmだったのですから、大きな欺瞞です。
鬼怒川大水害訴訟でも、この欺瞞は、最も厳しく追及されるべきだと思います。