田代八重ダムに学ぶ

2010-01-08

●宮崎市が水利権を返還した

宮崎市が10年間1度も取水せず、水利権を国に返上したニュースを各紙が報じています。

水利権の遊休化は違法な選択肢で書いた主張の正しさが実証されたと思います。

毎日新聞は、次のように報じています。

宮崎・田代八重ダム:10年間1度も取水せず、水利権を国に返上/需要、市予測下回り

 2000年度に完成した宮崎県営「田代八重(ばえ)ダム」(同県小林市)をめぐり、水道事業者として工事費の約18%に当たる約52億円を負担した宮崎市が、完成後約10年間にわたり1度も取水をしていないことが、3日分かった。

 人口増を見込んで事業に参加したが、市は「水需要実績が予測を大きく下回った」(上下水道局)と説明。市は現在も、維持管理費や市債償還費として毎年度1億3000万円を水道事業会計から支出している。

 同ダムは1993年度に治水、発電、利水の多目的用途のため着工した。宮崎市も水道事業者として水利権を取得し、県との間で、分担金として工事費・維持管理費の18%を負担する‐‐との協定を結んだ。

 だが、ダムが完成した00年度、市の水道水需要は日量約14万9000トンと、事業参加を決めた当時の予測の6割に満たない量にとどまった。さらに、他の河川からの取水で市内の水需要が満たされたため、市は完工以来、ダムから1度も取水しない「水利権の遊休化」状態に陥った。

 市は05年度、国と協議した上で、水利権を国に返上した。市内で水不足になった場合に取水できる「貯留権」に切り替えた。市は「いつでも水利権を復活できるための措置」と説明している。しかし、過大な需要予測に基づき、ダム建設で不要な費用負担を余儀なくされたとの見方もできるだけに、今後論議を呼びそうだ。【種市房子】

毎日新聞 2010年1月4日 西部朝刊

「(ダム)完成後約10年間にわたり1度も取水をしていない」と書かれていますが、宮崎市が水利権を国に返還したのは、2005年度のことだったのです。5年前に起きたことが今ごろニュースになっているというのも不思議です。

2010年1月4日付け読売新聞宮崎版は、次のように報じています。

52億円負担 取水ゼロ

田代八重ダム 宮崎市需要を過大に予測

 県営「田代八重(たしろばえ)ダム」(小林市)の整備事業で、宮崎市が工事費約52億円を負担しながら、2000年度の完成以降、一度も取水していないことが分かった。計画時に将来の給水需要を過大に見積もったのが原因。市は水利権を国に返還したが、元利償還金や維持管理費など毎年約1億3000万円の負担を続けており、「結果的に予測を見誤った」と説明している。

 市上下水道局によると、市はダムの完成前に、給水人口が1980年度の約25万5000人から、00年度は約39万5000人に増え、日量約6万トンの水不足が生じると予測。このため、同ダムからの水利権を確保することにして、県との間で、建設費と維持管理費の18%を負担する基本協定を84年に結んだ。

 ところが、00年度実績は約30万1000人だったうえ、水需要実績も予測より日量約10万7000トン少ない約14万9000トンにとどまった。このため、市は05年度に水利権を国土交通省に返した。ダムに水をためる権利「貯留権」は保有しているという。

 市はダムから取水し、浄水する設備を建設するための用地を約4億3000万円で取得したが、「整備は時期尚早」として建設していない。

 市上下水道局の金丸富太郎管理部長は「将来的な取水対策という意味で必要な経費だと思う。市としては貯留権を事実上の水利権とみており、渇水時などには水利権を取り戻せると考えている。国と協議する一方、設備用地の活用策についても検討したい」と話している。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/miyazaki/news/20100103-OYT8T00881.htm

市上下水道局の金丸富太郎管理部長は「将来的な取水対策という意味で必要な経費だと思う。」と言い訳しますが、宮崎市は水で困ったことのない都市だそうですから、田代八重ダムに対する水利権は将来も使われることがないと思われます。こんな言い訳が民間で通るのでしょうか。

産經新聞は、次のように報じています。

宮崎市、一度も取水せず52億円/ダムの水利権返還

2010.1.4

 宮崎市が水需要予測を誤り、工事費約52億円を負担した平成12年完成の県営田代八重ダム(宮崎県小林市)から一度も取水せず、17年に水利権(1日6万トン)を国に返上していたことが4日、分かった。  市は現在、工事費に充てた市債の元利償還金やダムの維持管理費として年約1億3千万円を水道事業会計から支出。担当者は「予測が甘かった。当面利用しないため水利権は一時的に返上したが、渇水時の保険としての貯留権は維持している」と釈明している。  市によると、ダムは大淀川水系の綾北川上流に水道水確保や発電の目的で造られ、総工費約290億円は同県と宮崎市が負担。市は昭和55年度、完成時の平成12年度には給水人口が約14万人増えて1日約6万トンの水不足が生じると予測。しかし、人口増は約4万5千人にとどまり、水需要も予測を約11万トン下回った。このため、17年に河川法に基づいて国土交通省に水利権を返上した。  
 

水利権を遊休化させることは、河川法上許されないのです。  

西日本新聞は、次のように報じています。  

 宮崎市 /一度も取水せず /水利権返上 /需要 /過大に予測 /52億円負担のダム

2010年1月3日

宮崎市が建設費の一部を負担しながら、一度も取水していない田代八重ダム=宮崎県小林市

 2000年度に完成した宮崎県営「田代八重(たしろばえ)ダム」(小林市)の建設にあたり、宮崎市が水道事業者として工事費の18%にあたる約52億円を負担しながら、一度も取水することなく国に水利権を返上していたことが分かった。現在、市債の元利償還金や維持管理費などとして毎年度、約1億3千万円を市の水道事業会計で負担している。結果的に給水人口を約9万4千人も過大に見積もり、県と費用負担の基本協定を結んだことが原因で、市は「水需要予測が甘かった」と認めている。

 市によると、同ダムは県の要請もあって計画途中で宮崎市の水道水としての利用が加わり、1993年度に本体工事に着手。大淀川水系の綾北川上流に建設された。基本協定では、関連費用は宮崎市が建設費と維持管理費の18%を負担することを取り決めた。

 市によると、事業参加を決めた80年度当時、約25万5千人だった給水人口は、ダム完成時の2000年度には約39万5千人に達し、ダムからの取水がなければ日量で約6万トンの水不足に陥ると予測。しかし、実際の給水人口は約30万人にとどまり、水需要実績も日量約14万9千トンで、需要予測(25万6千トン)を大きく下回った。

 その後も水需要は伸びず、大淀川水系などの従来の水源だけで、水需要を十分賄える状況が続いている。水利権(1日6万トン)については、使っていない水利権をなくす国の方針に沿って、河川法に基づき、ダム完成から5年後の05年度に国土交通省に返上した。

 市上下水道局は「水利権を放棄したわけではない。貯留権として保持している」と説明。渇水などで必要なときには水利権の回復は可能としているが、約4億3千万円かけて取得した取水・浄水場用地での施設整備は進んでおらず、緊急時の即応は容易ではない。

 同局の金丸富太郎管理部長は「ダムから取水できる貯留権は、渇水など緊急時の保険と考えている。今後は、貯留権や取得済みの取水・浄水場用地の有効活用を検討したい」と説明した。

 みやざき・市民オンブズマンの金丸浩成代表は「市民のほとんどが、この実情を知らないのではないか。どうして、こうなったのか、関係機関は説明責任を尽くすべきだ」と強調している。

■田代八重ダム

 宮崎県小林市にある多目的(洪水調節、水道用水、発電)の国が補助金を支出した県営ダム。高さ65メートル、幅216メートル。1973年に事業採択された。工事費は当初、約137億円だったが、地盤強化などで約289億円に膨れ上がった。ダム湖は小林市のほか、宮崎県西米良村や熊本県多良木町にもまたがる。有効貯水量は1427万トン。

=2010/01/03付 西日本新聞朝刊=

「同ダムは県の要請もあって計画途中で宮崎市の水道水としての利用が加わ」ったのです。おつきあいでダム事業に参画してしまったというわけです。

「公共事業は、小さく産んで大きく育てる」の格言どおり、「工事費は当初、約137億円だったが、地盤強化などで約289億円に膨れ上がった」のです。膨張率は、2.1倍です。

次も西日本新聞です。

宮崎市ダム負担 /甘い予測 /市民にツケ /関連支出、毎年1億3000万円

2010年1月3日

 宮崎市の余計な負担が続いている宮崎県営「田代八重(たしろばえ)ダム」の費用問題は、市による甘い需要予測のツケと言える。市関係者によると、これに伴うコスト増で、市民が支払う水道料金は概算で年間850円程度、上乗せされた格好という。県との費用負担の取り決めがある以上、市民がこのツケを払い続けることになる。

 宮崎市のダム負担は、全体の18%の工事負担金とは別に、維持管理費(約690万円)や施設建設を凍結した取水・浄水場用地の草刈り代(約250万円)などで年間約1100万円に上る。

 市上下水道局によると、工事負担金約52億円のうち約18億9千万円は起債が財源。元利償還(返済)金は約32億円に上り、完済予定は2030年度という。年間1億円を超える償還金やダムの維持管理費など計1億3千万円は市の水道事業会計から支出されており、市民は水道料金として、こうした費用を余計に負担していることになる。

 国の補助金を受けた補助ダムをめぐっては、国土交通省の有識者会議が10年度、検証基準を示す予定だ。だが、本体未着工の事業が対象で、田代八重ダムのように既に完成しているものは検討対象にすらならない。

 公共事業に詳しい五十嵐敬喜・法政大教授は「水道用水目的でつくっておいて、全く取水していないダムは聞いたことがない」とした上で、「完成したダムでも費用対効果を検証すべきだ」と指摘している。

=2010/01/03付 西日本新聞朝刊=

五十嵐敬喜・法政大教授は「水道用水目的でつくっておいて、全く取水していないダムは聞いたことがない」と言いますが、そんなダムは、どこにでもあります。栃木県では、東荒川ダムだって、松田川ダムだって、草木ダムだってそうです。

次は、宮崎日日新聞です。

 52億円負担も宮崎市取水実績なし /田代八重ダム

2010年01月04日

 2000年に完成した田代八重ダム(小林市須木)で、水道事業者として52億2千万円を負担した宮崎市がこれまで一度も取水していないことが3日、分かった。

 同市上下水道局は「市が参画を決定した1980(昭和55)年当時の予測と比べ、実際の水需要が減った。当面、取水はしない」と説明している。

 同ダムは93年に本体工事に着手し、2000年に完成。治水を県河川課、発電を県企業局、同市が水道事業を担う多目的ダムで、総工費約298億円の負担割合については1984年に3者で協定を結んでいる。  
 

地元紙の記事にしては、余りにも素っ気ないではありませんか。  

 ●鹿沼市は宮崎市を嗤えるか  

宮崎市は、使わない水利権のために52億円も建設費を負担し、その後も維持管理費や市債償還費として毎年度1億3000万円を水道事業会計から支出しているのです。本当にひどい話ですが、他人事とは思えません。  

執行部は「結果的に予測を見誤った」と言い訳をしますが、本当に見誤ったのでしょうか。給水人口で1.3倍、水需要で1.7倍も過大に予測したのですから、市長も水道部門の職員も水需要予測が過大であることは、分かっていたはずです。分かっていてもダム事業から撤退しないのですから、無責任極まりない話です。  

そして、監査委員も議会も職員組合も全くチェック機能を果たしていなかったということです。議員定数削減に、あえて異を唱えてみるという意見があります。私も議員定数の削減には基本的に反対なのですが、チェック機能を果たさない議員が圧倒的に多い現実を前にすると、削減すべきだと考える市民が多いのもこれまた当然の話で、悩ましいところです。  

そんな宮崎市を鹿沼市民は、嗤うことができないと思います。鹿沼市も使わない水利権を買う立場だからです。  

2008年9月11日の鹿沼市議会一般質問で、佐藤信市長は、「毎年給水区域の拡張を図っている中、予期せぬ異常渇水や災害、地下水汚染など、地下水のみでは対応できなくなり、市民生活に支障が出た場合には、水源を南摩ダムからの表流水と地下水の2系統により確保することも選択肢の一つとして持っておく必要があると考えております。」と答弁しています。  

しかし、同時に「取水のための設備投資をするという考えはございません」と答弁しています。取水設備も造らずに水利権を遊休化したまま抱え込んでおくことは、河川法に違反し、国への返還を迫られることになります。  

ダムの水利権を確保しておくが使わないという政策はあり得ないのです。  

それにしても、佐藤信・鹿沼市長は、口を開けば、「将来の世代につけを残さない」「(政策の)選択と集中」「政策評価」「政策の効率性、有効性」「花と緑と清流のまち」と言います。これらのスローガンと「使わない水利権の確保」「南摩ダム建設の容認」「黒川と大芦川の水質悪化と水がれ及び周辺地区の井戸がれ、沢水がれを招く導水管の容認」がどう整合するのか理解できません。

(文責:事務局)
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