鬼怒川若宮戸溢水は6時前から、しかも越流する前に起きていた(鬼怒川大水害)

2019-02-18

●5:48に土のうの1段目が完全に水没していた

2015年9月10日の鬼怒川左岸の若宮戸地区での溢水の状況を写した、たった22枚の写真を若宮戸溢水は6時前から始まっていた(鬼怒川大水害)で公表しました。

ざっと見、分かることは、そこに書きましたが、ここでは、もう少し詳しく見たいと思います。

写真は全て、全体で約200mの土のう積みの半分より下流寄りを撮ったものです。

写真(1)は、5:48撮影で、越流は見えません。キュービクルの裏では、土のうの1段目が半分くらい(約40cm)水没しています。

ところが、4人の人物の背景では、土のうの1段目が全部水没しています。

つまり、土のう積みは、ほぼ水平に積まれていました(高低差約27cm)が、5:48の時点で既に約40cmの不陸が生じていたということです。

なぜ不陸が生じたのかと言えば、土のう積みの川表側にあった崖ないしは段差から落ちることによって位置エネルギーを得た洪水流で土のうの底部の砂が洗掘されたから、という理由以外の理由が考えられるでしょうか。

そして、5:48の時点で土のうの1段目が約40cmも水没するということから、最初の1滴が漏れたのは、日の出(5:18)前だったと考えてもおかしくないと思います。

土のうは最初から水平に積まれていなかったのではないか、と疑う向きもあるかと思います。土のうがほぼ水平に積まれていたことを示す写真(全て逆井正夫氏撮影)は、次のとおりです。

土のう上流側上流側土のう(2014-07-10撮影)

土のう下流側下流側土のう(2014-07-10撮影)

土のう広角広角で撮った土のう(2014-07-06撮影)


土のう広角俯瞰で撮った土のう(2014-06-26撮影)


●越流する前に土のうの底又は隙間から漏れている

写真(2)5:48は、写真(1)に写ったキュービクルの右側に見える土のうの大写しです。越流前です。1段目165、2段目172の番号が見えます。ただし、写真(6)を見れば分かるように、165の上に172が乗っているわけではありません。172は、165の右隣の上の段です。

それらの土のうの前の水は、波形から、それらの土のうの下から又は隙間から漏れ出たものだと思われます。上流側から流れてきた水ではないと思います。

●下流端での漏水は上流へ向かっている

写真(3)5:49では、土のう積みの下流端近くでは越流がないのに、これだけ大量の溢水があるということが分かります。

漏水の流れは、南から北へと、土のう積みの中央部(上流側)へ向かっているように見えます。

●写真(4)と(5)から分かること

写真(4)と(5)からは、5:53になっても、下流端付近では越流は起きていないこと、また、それなのに大量の水が漏れていることが分かります。

●写真(6)5:53から分かること

写真(6)からは、土のう165における水位が(2)5:48より約10cm上がった(5分間で)ように見えます。

●写真(7)から分かること

写真(7)5:53からは、下流端付近で土のうの下や隙間から溢れた水は、上流側に向かって流れていることが分かります。

●写真(8)から分かること

写真(8)5:53からは、土のうの間から水がわき上がっているのが確認できます。

●写真(9)から分かること

写真(9)5:54は、土のう積みの下流端(一番南側)を撮ったものと思います。

土のう積みの川表側に鶏舎の敷地を乗り越えた洪水流が押し寄せている様子を撮ろうとしたのだと思います。

また、大型土のうの2段目の天端は、隣地の金網フェンスの基礎の高さとよりやや高い程度であることが分かります。つまり、土のうの高さ(2段で約1.6m)は、たとえシートで土のうを包んでいたとしても、ほとんど意味がないということが分かります。

●写真(10)〜(12)から分かること

写真(10)5:54〜(12)5:55の3枚からは、5:55までには土のう積みに相当の不陸が生じていること、また、沈み込んだ土のうから越流が起き始めていることが分かります。

●写真(13)〜(15)から分かること

写真(13)6:05〜(15)6:09では、6:05には、完全に越流していることが分かります。

(15)は、国土交通省が公表している唯一の写真(下の写真)の元の写真です。

溢水状況公表公式公表写真

溢水状況イメージ溢水イメージ図

多くの人は、この写真とイメージ図を見て、ここから越流するまでは溢水はなかった、とか、溢水開始時刻は6時過ぎだった、とか、洪水の高さが土のう積みの平均の高さY.P.21.3mに達するまでは溢水していなかった、などと思い込み、見事にだまされていたわけです。

●写真(16)から分かること

写真(16)6:10は、中央部の張り出し舞台のような部分を撮ったものです。6:10になっても、1段目の土のうは全部は水没していないことが分かります。

しかし、土のう番号176辺りは、かなり沈み込んでいます。画面右端の土のうと比べると、約40cmは沈んでいるように見えます。

少し気になったのが、これどうやって撮ったの、ということです。最初は土のう積みの下流端付近から望遠モードで撮ったのかと思いました。

しかし、パネルの間に入っていって撮ったのではないかと思います。

理由は、パネルが大きく写り込んでおり、それまでとは撮影者の立ち位置が大きく異なること、画面左の土のうを見ると相当の水深に見えるが、画面右端辺りの土のうが沈下前だとすると、水深は約30cmにすぎないと思われること、写真(22)6:00を見ると、写真(16)6:10より10分早いとしても、越流地点の前で、というか後ろでというか、人が立てるほどの水深しかないので、6:10になっても撮影者がパネルの間に行くことは可能だったと思われることです。

●写真(18)から分かること

6:39になると上の段の172の土のうが半分水没しています。それより北側(上流側)は、沈み込んだ土のうからの越流が起きています。

●写真(19)から分かること

6:39には、土のうを乗り越えた洪水としみ出した洪水は、画面左から右に(下流側から上流側に)向かって流れていることが分かります。

●写真(20)から分かること

写っている土のうは全て崩れていないことが分かります。しかし、172の土のうは、80の土のうよりかなり(30cmくらい)沈下しています。

画面一番左の土のうと一番右の土のうでは、土のう一つ分(約80cm)高さが違います。

●写真(21)から分かること

写真(21)5:59は、写真(20)までとは別のカメラですので、撮影時刻が5:59に戻ります。

手前のパネルの延長線上付近で越流した洪水は、下流側には流れてきていないことが分かります。

キュービクルの裏手では、越流の前に漏水が始まっているということです。

●写真(22)から分かること

注目すべきは写真(22)6:00です。越流した場所に人がいます。全く恐怖を感じていない様子です。

勘違いしていました。パネルを設置してある部分の標高は低いので、職員が立ち入ることは非常に危険だと思っていました。おそらくは鶏舎の真東辺りの道路に車を置いているので、パネルの間を歩いて土のう積みの上流端近くの写真を撮ることはできないだろうと思い込んでいました。

ましてや、越流が始まったら、水の中を人が歩くことはできないと思っていましたが、大型土のうが一気に消し飛ぶことは考えづらいこと、2段で約1.6mの土のう積みから越流しても、土のう積みがそっくり沈下している場合には、氾濫水の水深はそれほど大きくならないことから、氾濫水の中を人が歩くことは可能なのだと思います。写真(22)を見るまでは、思いつきませんでした。

したがって、私は国土交通省に土のうを撮った写真及び動画を請求したのに、約200mの土のう積みの下流端から約77mまでの間のたった22枚の写真しか出てこないことを不審に思っています。

土のうの積み増しなど、水防活動はやらなかったのですから、写真を撮るくらいしかやることはなかったと思います。

国土交通省が若宮戸溢水を教訓とする気持ちがあるなら、撮った写真を「全て」とは言いませんが、重要と思われるものは、ホームページで公開して何があったのかを国民に知らせるべきです。

それをやらないのは、責任逃れしか考えていないからだと思います。

●土のう積みの下流端近くで土のうの沈下が大きかったように見える

情報公開で出た22枚の写真では分かりませんが、グーグルクライシスリスポンスの写真DSC02813.JPGを拡大してみると、小林畜産の鶏舎の屋根が流され土のう積みの部分に覆い被さっています。その上(東)には、倒されたキュービクルが見えます。その屋根の下(西)には、土のうが見えず、押掘(おっぽり)があるように見えます。土のうがパネル側にも見当たらないのは、押掘の底に沈んでいるからではないでしょうか。パネルの間に大きな押掘が見えるので、そこに流されていったという見方もできますが、その場で深く沈み込んだと見てもおかしくはないと思います。

土のう積みの下流端近くで最も長時間越流したので、土のうの"ダルマ落とし現象"が最も激しく起きたと思います。火事で言えば長時間炎にさらされた"火元"であったのかもしれません。だから職員は火元の写真ばかり撮ったのかもしれません。

そうだとしても、私が写真を撮っていた下館河川事務所の職員だったら、下流端付近の越流前後の写真を撮ると同時に、その時、上流端付近ではどうなっているのだろうかと考え、その状況を示す写真も撮ったと思います。全体の中でどこで最初に漏水したかを示すことは、今後の教訓を得るために必要だからです。

当該職員から「土のう積みの全体像を示すことなど思いつかなかった」と言われればそれまでの話ですが、5:48に下流端近くでは土のう1段目が沈下する前に洪水は土のうの隙間から漏れているはずであり、その写真を撮っているはずなので、国土交通省は、仮に上流側で撮った写真を隠していないとしても、早い時間帯に撮った写真を隠していると見てよいと思います。

つまり、「場所的隠ぺい」はないとしても「時間的隠ぺい」は必ずあると思います。

●なぜ下流端付近で土のうの沈下が激しかったのか

上記のとおり、航空写真を見ると、下流端近くで土のうの沈下が激しかったように見えます。なぜでしょうか。段差が大きかったからだと思います。

naturalrightのサイトは、若宮戸の河畔砂丘 6 崖の下の土嚢のページで、土のうの川表側にあった段差の大きさを、目測ですが、工事報告書の写真から次のとおり定量的に示しています。詳しくは上記ページを見てください。区画番号は、naturalrightが便宜的に付けたもので、区画1が上流端、区画7が下流端です。

区画1 0.8〜1.6m
区画2 [0.4]〜1.5m
区画3 0.4〜1.0m
区画4 0.8〜1.6m
区画5 0.8〜1.8m
区画6 0.8〜1.8m
区画7 1.6〜1.9m

これで何が分かるかというと、おしなべて下流側の方が段差が大きいということです。そうであれば、高い堤防からの越流水は強い洗掘力を持つという現象が起きます。

だから下流端に近い部分の土のうの沈下が激しいのだと思います。

なぜ下流側の段差が大きかったのかと言えば、元々下流側の方が標高が高めだったからだと思います。根拠は、naturalrightの上記ページに示された標高図を見れば分かると思います。

参考までに土のう積みを川表側から撮った写真(2014-06-26逆井正夫氏撮影)を示します。

土のう川表側川表側土のう271.JPG

土のう川表側川表側土のう272.JPG

2枚とも半分より上流寄りの土のうを撮ったものです。上記区分で区画2の部分です。これらを見ると、区画2では、ほとんど段差がないではないか、と思う人もいると思います。

しかし、写真271で言うと、画面右端に見えるフェンスの向こう側に見える土のうの1段目の下半分は地面に隠れています。

紛らわしいのは、フェンスが切れている所の左側に最低でも7個見える1段置きの土のうの存在です。ここを見ると、土のうと川表側地盤の間に段差はないように見えます。

しかし、これらの土のうは、フェンスの手前(川側。国土交通省のいう事業者Aの敷地内)に置かれているので、仮置きされたものと思われます。また、その高さは、フェンスの向こう側の2段積みの土のうの1段目の高さと一致しません。高くなっています。

言い方を変えれば、フェンス手前の1段の土のうがフェンス向こうの2段積みの土のうの2段目の底部付近を(30cm程度は)隠しています。

したがって、フェンスが切れている部分の地面は、一見したところ平ですが、実際は坂道になっているということです。

要は、土のう積みの中央部から上流寄りでは段差がないように見えても、実際は、少なくとも40cm程度の段差はあるということです。

そして、国土交通省は、段差の下に土のうを積んだということです。

●国土交通省の目論見は崩れた

国土交通省は、若宮戸溢水の写真は写真(15)しか公表してきませんでした。

そのねらいは何だったかというと、土のう積みが洪水防御策として十分機能した、だから国はやるべきことを最大限やったので責任はない、と国民に思わせたかったことだと思います。

つまり、関東・東北豪雨で鬼怒川の洪水水位は25.25kでY.P.約22mとなったが、21.3mまでは土のう積みのおかげで、1滴も堤内側に漏らさなかったことにしたかったのだと思います。

だから、越流前に土のうの隙間や底から水が漏れている写真は公表しなかったのだと思います。世間は土のうから越流している様子が写ったたった1枚の写真を見せられて、溢水開始時刻を6時過ぎと思い込むようになったと思います。

しかし、今回の22枚の写真の公開で、若宮戸溢水は、6時前から起きていたこと、越流を待つまでもなく、段差の下の砂の上に置いただけの土のうは役に立たず、洪水はだだ漏れになっていたことが明らかになり、土のうは越流するまでは洪水を食い止めていたことにしたい国土交通省の目論見は崩れ去りました。

情報公開制度がなかったら、真相は永遠の闇の中に葬られたかもしれません。

真相を知りたかったら、情報公開制度を駆使するしかありません。権力者が自らに都合の悪い情報を進んで公開することはないのですから。

(文責:事務局)
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