東京地裁が無駄な公共事業にお墨付きを与えた

2009-05-12,2009-05-13追記

●最低最悪の判決が出た

11日の共同通信は「八ツ場ダム訴訟、住民敗訴 / 都の負担金差し止め認めず」の見出しで次のように報じています。

国が多目的ダムとして建設を進める八ツ場ダム(群馬県長野原町)は不要で、事業費の一部を東京都が負担するのは違法だとして、都民約40人が都知事らに支出差し止めなどを求めた住民訴訟の判決で、東京地裁は11日、「支出は違法とはいえない」として、都民側の請求を退けた。
都民側は控訴する方針。
判決理由で定塚誠裁判長は「都の将来の水道需要予測や、ダム完成後の保有水源量の評価に不合理な点は認められない」と指摘。その上で「都が利水、治水上の利益を受けないと認める証拠はない」として、支出は適法と結論付けた。

最低最悪の判決です。八ツ場ダム建設計画が合法である理由は、「都が利水、治水上の利益を受けないと認める証拠はない」からだと言うのです。

●判断の基準がおかしい

地方自治法第2条第14項には、「地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と書かれています。原告らは、八ツ場ダム建設計画がこの法律に違反すると主張していました。費用に見合った効果が得られないから違法だと主張してきたのです。

ところが記事によれば、東京地裁は、費用と効果のバランスなんてどうだっていい、というのです。少しでも利益が得られれば、どのような公共事業でもやっていいですよ、という趣旨の判決です。地方自治法第2条第14項とは、別の基準を勝手に持ち出して判断しています。法律を無視した違法な判決です。

しかも、挙証責任を原告らに負わせています。公共事業が適法であることの説明責任は、カネも権限もデータも持っている行政側にあるはずですが、定塚誠裁判長は、市民が行政を違法だと訴えるなら、市民が違法を明確に証明しろと言っているのです。裁判所は、行政訴訟と原則的に対等とされる民事訴訟との差を理解していないと思います。

とにかくこれで、税金の無駄遣いをすることに痛みを感じない役人と政治家は万々歳でしょう。だれがどう見ても100%無駄と言えるような事業でない限り、やっていいですよ、という判決が出たのですから。

●原告らが抗議声明を発表

原告らはこの不当判決に対して直ちに次のような抗議声明を発表しました。

 八ッ場ダム東京裁判判決に対する抗議声明
                                 2009年5月11日
1 本日, 東京地方裁判所は八ッ場ダムに関する公金支出差止等請求住 民訴訟に対する判決を下した。判決は, 原告の主張をまったく理解する ことなく, 不当にも以下述べるように原告らの主張を退けた。

           記
(1) まず, 本件判決は, 口頭弁論終結以前の支払差し止めを求める部 分のほか, 被告東京都水道局長が国土交通大臣に対し八ツ場ダム使 用権設定申請を取り下げる権利の行使を違法に怠るとの主張, 及び, 被告東京都知事らに八ツ場ダムに関し負担金等の支出命令をさせる ことの差し止めを求めた部分は地方自治法242条の2第1項所定の 住民訴訟に該当しないとして却下した。

(2) 次に, 本件判決は, @ 八ツ場ダムの利水については東京都の行つ た将来の水道需要予測及び水源評価に不合理な点は認められない, A 治水については東京都が治水上の利益を受けることはまったくない とは認められない, B 貯水池周辺の地滑り等の危険性については, 危険性が放置されたままの建設事業であるという事実は認められな いとし. 国土交通大臣の納付通知に著しく合理性を欠くとは認められ ないので, 本件支出命令が違法であるとは言えないとして請求を棄却 した。

2 こうした本件判決の判断は, 原告らの主張をまともに受け止めようとし ないもので, 行政がすすめる公共事業の無駄遣いを司法の立場でチェッ クしようとせず. むしろ無駄な公共事業を積極的に奨励するものにほか ならない。

3 本件判決は司法の役割を放棄した不当な内容であるから, 原告らは 東京高等裁判所へ控訴手続を行うとともに, 他県の住民訴訟の原告らと も手を携え, 引き続きたたかい続けることを表明する。今後とも, みなさ まのご支援をお願いしたい。

八ッ場ダムをストップさせる東京の会原告団
八ッ場ダムをストップさせる東京の会弁護団
●なんでこんな最低の判決が出たのか

原告らの弁論を聞いて八ツ場ダムが無駄であることが理解できないほど裁判官たちは頭悪くないでしょう。だとしたら、原告勝訴の判決を書いたら出世できるかできないかというような打算が働いたとしか思えません。どっちにせよ情けない。

●裁判長は役人だった(2009-05-13追記)

この判決を下した定塚誠(じょうづかまこと)裁判長は今年4月1日に最高裁の情報政策課長に異動しています。だから5月11日の判決言渡しは、八木一洋裁判長の代読でした。

定塚裁判長は、東京地裁に来る前も最高裁の行政局第一課長だった人で、裁判官というよりも司法官僚です。

裁判官は、行政に対してどんなデタラメな需要予測に基づいて公共事業をやっても問題ないと言わんばかりの判決をどうして書けるのでしょうか。税金がどんなに無駄遣いされても、クマタカやオオタカが絶滅しても、自分の給料には影響がない、それどころか給料が増えると考えているからではないでしょうか。

役人や裁判官がそういうレベルで仕事をしているとすれば、日本という国が一流になるのは相当先のようです。

ちなみに、今年1月湯西川ダム訴訟で不当判決を出した宇都宮地裁の柴田秀裁判長(湯西川ダム訴訟判決は不当参照)は、4月1日から東京高等裁判所に異動しています。ダム訴訟で原告を敗訴させることが出世の条件になっているのではないでしょうか。

(文責:事務局)
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