湯西川ダム訴訟判決は不当

2009-02-05

●湯西川ダム訴訟の判決が出た

2004年11月9日に市民オンブズパーソン栃木のメンバーらが国直轄のダム事業湯西川ダムに利水参加している宇都宮市を相手に負担金の支出差止めなどを求めた訴訟の判決を2009年1月28日に宇都宮地方裁判所(柴田秀裁判長)が下しました。

柴田裁判長らは、原告の請求を全面的に退けました。佐藤栄一宇都宮市長が「妥当な判決」(29日読売)と喜んでいることからも明らかなように、被告の言い分を丸呑みした判決、いわゆる行政追認判決でした。原告は控訴します。

せめてもの救いは、被告はすべての論点で原告の訴えは訴訟の要件を満たさないから門前払いしろとの判断(却下)を求めていましたが、裁判所が却下したのは、市長がダム使用権設定申請を取り下げる権利の行使を怠る違法確認の部分だけで、公金支出の差止めと損害賠償請求については、原告の主張を受け入れ、却下はしませんでした。

判決文(PDF911KB)は、八ツ場ダム訴訟のサイトで見られます。訴訟資料、栃木、回数を選択して下さい、第20回湯西川ダム判決の順にクリックしてください。

裁判所の判断は、p30以下に書かれています。

●期待は裏切られた

過去記事湯西川ダム訴訟で宇都宮市は科学的主張をあきらめたに次のように書きました。

住民が行政の裁量権を尊重し、水道のプロたちに任せた結果、財政破たんと自然破壊をもたらしたという現実を直視するならば、水道行政のプロたちは、適切な判断能力を欠いていると極言してもいいのではないでしょうか。裁判所に判断してもらわないと、「余裕」と「過剰」の区別ができないのが水道行政の実情ではないでしょうか。

しかし、裁判所も余裕と過剰の区別がつかなかったようです。

●ポイントは宝井水源の放棄にある

宇都宮市は、2003年3月に水源構成の見直しを下表のように行いました。判決文からの引用です。

1日最大給水量(単位=立方メートル)
              
水源今市白沢宝井川治湯西川県受水合計
前計画14,00077,00041,000100,00050,00028,000310,000
見直し案14,00060,0000100,00024,00028,000226,000

前計画の数値を見れば分かるように、宇都宮市は、湯西川ダムがなくとも、26万トンの水源を保有しているのです。

一方宇都宮市の1日最大給水量は減少傾向にあり、2007年度でも20万トンです。水需要は減少傾向にあるのですから、今後余裕は増えていくことになります。

それでも湯西川ダムの水を買わなければならない。そこで宝井水源の41,000トンを丸々放棄した。ついでに白沢水源も17,000トン放棄した。表をながめていると、そういう辻褄合わせをやったことが見て取れます。

●宝井水源を放棄する理由

宇都宮市が辻褄合わせのために宝井水源を放棄したとなぜ言えるのか。

被告の主張を見てみましょう。

宝井水源は、クリプトスポリジウム指標菌(大腸菌)が平成13年度に3回、平成15年度に4回及び平成16年度に1回検出されるなど水質汚染のおそれが認められたため、水質事故の未然防止という観点から、平成16年11月に利用を休止した。

宝井水源からクリプトスポリジウム原虫そのものが出てきたわけではありません。指標菌である大腸菌が4年間で8回検出されただけです。しかもどの程度の量の大腸菌が出たのか不明です。宇都宮市はそれだけの理由で41,000トン(10万人以上分)の地下水源を捨ててしまったのです。「ダムありき」の発想でなければ、そんなことはしないでしょう。

●疑わしきは行政の利益に

周防正行監督の映画「それでもボクはやってない」では、「疑わしきは検察の利益に」という論理で判決が書かれていました。真犯人が名乗り出るなど、被告人が無罪であるということについてよほど明らかな事実が出てこない限り、有罪とされてしまうのが日本の刑事司法です。

柴田裁判長の判決も「疑わしきは行政の利益に」で書かれていると思います。「宇都宮市にとって湯西川ダム建設事業に参画する必要がないことが明らかであるなど被告管理者がした支出負担行為に重大な瑕疵が存するためこれが無効と評価される場合に限られるというべきである。」という具合に、瑕疵の明白性や重大性を求めています。要するに、行政はよほどひどいことをやらなければ訴訟で負けませんよと言っているわけです。

●水需要予測がデタラメでもOK

柴田判決は、「その後の実績が予測と異なる結果になったことのみから直ちに予測が不合理であったというべきものではない。」と言います。確かにそのとおりです。ちょっとぐらい予測がずれることを問題にするべきではないでしょう。水需要が伸びると予測したが、それほど大きくは伸びなかったということはあるでしょう。しかし、伸び方が大幅にずれれば問題です。ましてや、伸びると予測したのに現実は予測と正反対に減ったのですから、予測が不合理であったと言うべきでしょう。

宇都宮市は、こうした不合理な水需要予測で湯西川ダムに参画したのですから、柴田判決の論理から言っても、被告の行為には重大な瑕疵があると言えると思います。

●長期的な視点に立っていないのは被告だ

柴田判決は、「ダム建設事業に参画するか否かは、短期的な経済変動や水需給動向等のみによって判断されるべきではなく、長期的な視点に立って判断されるべきである。」ことを前提に判断したとします。

しかし、被告が「原告は1日最大給水量は1992年度以降は着実に減少していると述べているが、2000年度及び2001年度はむしろ増加している。」(2006年8月28日付け被告準備書面(4)p3)と述べていることからも明らかなように、原告は10年以上のスパンで水需要の傾向を述べているのに、被告の方こそ1年や2年の短期的な揺り戻しを指摘することによって、水需要の増加を強弁したのです。柴田裁判長は、当事者の応酬をちゃんと聞いていなかったようです。

需要が減っているのにハコモノを造れるというお墨付きを裁判所が与えたら、ダムでも空港でも道路でも港湾でも、どんな無駄な"公共"事業でもできてしまいます。その意味でもひどい判決です。

それにしても、被告側弁護士はもうかって笑いが止まらなかったと思います。裁判所は、ほとんど原告の提出した証拠で事実を認定し、原告完全敗訴の判決を下したのですから。

被告の弁論は、「宇都宮市の水需要は、長期的には緩やかに増加するものと見込まれ」、「開発水量を加算することに問題はない」などと理由も説明せず結論を主張するだけの説得力のない議論が多かったのですが、それでも勝訴ですから、被告側弁護士にとって楽な裁判でした。

日本の裁判所は、国と地方の財政破綻に手を貸している自覚もないのか、いつまで行政追認を続けるのでしょうか。

(文責:事務局)
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