下野新聞も八ツ場ダム「検討の場」を批判

2011年9月18日

●八ツ場ダム検討の場への批判記事を掲載

マスコミというものは、役所の発表を無批判に報道して終わることが多いものですが、八ツ場ダムの「検討の場」による検証結果については、下野新聞も捨て置けませんでした。

9月15日付け下野は、「「八ツ場」検討の場 ダム建設に有利な基準/「結論ありき」の批判も」という見出しで、 13日に公表された国土交通省関東地方整備局による八ツ場ダムの検証結果について「市民団体からは「ダムありきの茶番劇」との批判が上がった。」と報じています。加藤覚記者の署名記事です。

検討主体がダム事業主体の同整備局であること、「検討の場」の構成メンバーもダムの参画都県であることについて「ダム推進者自らが検証する仕組みに、当初から客観性が疑問視されていた」と指摘しています。

「静岡県の富士川から約200km離れた利根川への導水、中禅寺湖岸堤のかさ上げ、本件の鬼怒川と思川を水路で結んだ水の移動・・・」を荒唐無稽な代替案だとしています。

水源連の嶋津輝暉共同代表の「各利水予定者の水需要の過大な予測が容認されたのが問題。八ツ場ダムの開発水量毎秒22.2トンをそのまま確保する代替案を探したため、(富士川からの導水、地下水取水、藤原ダム再開発がセットの利水代替案が)1兆3千億といったばかげた比較になった。」(括弧書きは引用者)、「八ツ場ダムの治水効果を大きく見込んでいるため、それに替わる治水対策案の費用が膨れあがった」という意見を紹介しています。

記事には,次のように書かれています。

人口減少や節水機器の普及で水需要が伸び悩む中、本当にこれ以上水が必要なのか、治水対策はどこまですればいいのか、根本的な疑問に応える議論は見えなかった。

そして、「ダム建設に反対する側も納得できるプロセスを踏んだのか、検証方法そのものが問われそうだ。」と結んでいます。

●栃木県知事発言の矛盾も指摘

同じく9月15日付け下野の「ウオッチ」という欄では、宗像信如記者が「下流自治体の水需要/知事の持論、論議されず」という見出しで書いています。

福田富一・栃木県知事が14日の記者会見で、検証結果について「想定の範囲内。速やかに予算措置すべきだ」と発言したことを紹介し、知事が「利根川・荒川水系の水需要を再度精査すべきだ」との考えを重ねて示してきたこととの矛盾を突きます。

記事は、福田知事の持論にもかかわらず、「水需要については、同ダムで開発される新規利水ありきで議論が進んだ。本県も参加していた八ツ場ダムを検証する「検討の場」で議論された形跡はない。」と指摘します。

また、「福田知事は14日の記者会見で下流自治体の水需要を確認する意向を示した。」そうです。

福田知事は、14日の記者会見で、検証結果について「想定の範囲内。速やかに予算措置すべきだ」と発言したのに、その舌の根も乾かぬうちに「下流自治体の水需要を確認する意向を示した。」のです。

「速やかに予算措置すべきだ」ということは、毎秒22.2トンの新規水需要があるということが前提の発言です。だったら、「下流自治体の水需要を確認する」必要などありません。

逆に「下流自治体の水需要を確認する」必要があるなら、「速やかに予算措置すべきだ」ということにはなりません。

それにしてもダム有利の中間報告が出てから、「下流自治体の水需要を確認する意向を示」されてもねえ、という気がします。

●どれが福田知事の発言か

福田知事は、「 検討作業が先行している群馬県の八ツ場ダムと南摩ダムが「(水需要の面で)一体不可分」として、来秋にも対応が決定する八ツ場ダム次第で、南摩ダムの検討結果が左右されるとの認識を示した。」(2010年12月22日付け下野)と報道されています。

過去記事南摩ダムのこのごろ(その3)などで紹介してきたところですが、福田知事は、両ダムについてどのような発言をしてきたでしょうか。

○南摩ダムについて「下流県の水需要を確認した上で、もう一度推進か中止かを含めて検証するべきだ」(2009年8月25日記者会見)

○南摩ダムについて「埼玉県では水が必要だと言っている。本県だけで(ダム建設の是非を)決められないことなので、流域圏全体で判断する必要がある」(2009年10月16日付け下野)

○「治水、利水の面から南摩ダムは必要」(2009年10月16日付け下野)

○南摩ダムについて「国の事業なので県は受け身の立場。国の判断を待ちたい」(2009年11月28日「とちぎ元気フォーラムin鹿沼」)

○「個別のダムごとの議論にとどまらず、国は流域全体の水需給を見直すべきだ。その中で本県の治水利水についても検証が必要」(2009年12月2日栃木県議会代表質問答弁)

○「思川開発(南摩ダム)は事業継続の方針が示されると考えていたので、大変残念。洪水防止、水道用水確保の観点からも必要な施設と認識している。」(2009年12月26日付け下野)

○南摩ダムについて「県としては『いる(必要)』という判断だが、下流域の人がどう考えているかが問題だ」(2010年12月21日記者会見)

○八ツ場ダムについて「早急に工事を再開し、1日も早い完成を目指してほしい」(2011年9月13日八ツ場ダム「検討の場」)

○八ツ場ダムについて「速やかに予算措置すべきだ」(2011年9月14日記者会見)

○八ツ場ダムについて「下流自治体の水需要を確認する」(2011年9月14日記者会見)

いずれも同一人物の発言です。

どれが福田知事の真意でしょうか。

福田知事は、一見矛盾する発言の整合性について説明する責任があると思います。

●確認の仕方が問題

万一、福田知事が本当に「下流自治体の水需要を確認する」意向だとしても、だれがどうやるのかが問題です。

栃木県がやるのか、国にやらせるのか。後者の場合、国がやらなかったらどうするのかという問題があります。

確認の仕方についても、単に「水源が不足していますか」と聞くだけなのか、数量的な根拠まで求めるのかが問題です。

で、栃木県が自ら下流自治体の水需要を調査するかというと、福田知事は「国は流域全体の水需給を見直すべきだ。」(2009年12月2日栃木県議会代表質問答弁)と議会で発言しているのですから、栃木県としては調査しないでしょう。

では、国は水需要を調査するかと言えば、まともに調査すればダムを建設する理由がなくなりますから、調査はやらないか、やるとしてもまともな調査はしないということになるでしょう。

福田知事が国に対して流域全体の水需給を見直すべきだと要請する可能性はゼロに近いでしょうし、仮に要請したとしても国が応じる可能性もゼロに近いと思います。

絶望的ですね。

下野が紹介した知事の発言を改めて栃木県議会議事録で確認しましょう。

福田知事は、2009年12月2日の栃木県議会において神谷幸伸議員の代表質問に対し次のように答弁しています。

このような状況の中、国土交通大臣は、就任以来ダム事業について抜本的な見直しの方針を表明しており、治水・利水の両面からの検証を行うとしております。特に水利用につきましては、水利権の制度を含めて見直しに取り組むとしており、その結果次第では、今後の水需給計画に対し大きな影響があるものと考えております。

そこで、私は今般のダム見直しに当たりましては、個別ダムごとの議論にとどまらず、国は流域全体の水需給を見直すべきと考えており、その中で本県の治水・利水についても検証が必要になるものと考えております。今後の水需給の見直しにつきましては、国の動向も見きわめながら、本県の発展と県民の安全・安心な生活を確保するという長期的な視点に立って対応してまいります。

「国は流域全体の水需給を見直すべき」とか「本県の治水・利水についても検証が必要になる」と正論を言いながら、結局は、「今後の水需給の見直しにつきましては、国の動向も見きわめながら」ということですから、国に見直しの動きがなければ何もしないという竜頭蛇尾です。

●そのときの神谷議員の発言は意外

ちなみに、意外なことに、神谷議員は、上記代表質問において次のように述べています。

 水需要の見通しを精査しておくことは、今後においても、必ずよい結果がついてくると私は思っています。

水需要を精査すればダムは要らないということになりますが、それでもいいという立場のようです。しかし、次の発言と矛盾します。

また、次のようにも述べています。

例えば南摩ダム建設によって、鹿沼市民の水道水の三分の一が確保できるということで、前知事の福田昭夫さんは東大芦川ダムを中止にしました。そして、今度は国が南摩ダムを見直し、中止にするとなりますと、また鹿沼市民はすべて地下水から水道水を確保することになります。地下水の汚染、地震などの災害によっての渇水というリスクを、また背負わされるわけであります。

「鹿沼市民はすべて地下水から水道水を確保することになります。」のどこがいけないのでしょうか。理想ではないですか。「水道の思想ー都市と水の文化誌 (中公新書) 鯖田 豊之 (著) 」を読んでも、地下水の方が優れた水源であることが明らかです。(山ノ中ニ有リblogの鯖田豊之「水道の思想 都市と水の文化誌」のページを参照。)

地下水を水道水源とすれば地下水の汚染というリスクを背負うと神谷議員は言いますが、ダム水を水源とすればダム水の汚染というリスクを背負うことになります。現に今年の3月と4月には、栃木県内の水道水から放射性物質が検出されました。

神谷議員の論法は、ダム水は汚染されないという前提で立論されていますが、そのような前提は成り立たないのです。

また、地下水を水道水源とすると地震で渇水になるとのことですが、2011年3月11日にM9という大地震が東日本を襲い、鹿沼市も相当揺れましたが、渇水が起きたという報道はされていません。

仮に、報道されてはいないが渇水が起きていたとしても、その渇水は水源がダム水なら防げたのでしょうか。

水道管の破損により断水が起きたとしたら、水源に関係なく断水します。

神谷議員は、地震によって水源井戸が枯渇したり、強い濁りが生じて水源に適さなくなるような場合を想定しているのかもしれません。

そうなる可能性を全否定できませんが、M9が起きても鹿沼市上水道の水源井戸の水質に異状は起きませんでした。

ダム水を水源とした場合、大地震によってダムが決壊して断水どころか洪水被害が起きるかもしれません。現に、農業用水用のアースダムですが、福島県須賀川市にあった藤沼ダムは、3.11により決壊し、死者7名、行方不明1名の人身被害を出しました(Wikipedia「藤沼ダム」参照)。

「東日本大震災の影響で、那須塩原市の多目的ダム「深山ダム」の堤体表面に亀裂が生じていたことが16日までに分かり」(9月16日付け下野「深山ダム大震災で被害」)ました。深山ダムは、アスファルトフェイシングフィルダムで、厚く舗装したアスファルト(アスファルトコンクリート)で上流部表面を覆い、遮水する型式です。「アスファルト表面遮水壁型ロックフィルダム」とも呼ばれるロックフィルダムの一型式です(Wikipedia「ロックフィルダム」)。ダムは地震で決壊し重大な被害をもたらす可能性があります。

神谷議員は、地震が起きてもダム水が水源なら安全だが、地下水が水源の場合は給水に支障が生じるという前提で発言しているとしか考えられませんが、そのような前提は成り立ちません。

(文責:事務局)
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