陰謀にはまる危うさ

2008-11-20,2008-12-01追記

●唐沢俊一氏が「私の視点」に執筆

2008-11-13朝日に「私の視点」のコーナーで「空幕長論文問題」をテーマに3人の論者が寄稿しています。

論者の一人に唐沢俊一氏がおり、氏の文章のタイトルは「陰謀論にはまる危うさ」となっています。彼の肩書きは、上記記事によれば、「評論家、「と学会」会員」となっています。Wikipediaによれば、「日本のカルト物件評論家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。朝日新聞書評委員」となっています。

●前提省略は詐欺師の論法

唐沢氏は、次のように書いています。

いま日本でも、「9.11米国自作自演説」などがもてはやされるようになっている。それは、国民の間に、社会状況や経済状況、生活についての不安やフラストレーションが高まり、余裕がなくなってきていることの表れではないか。グローバル化で複雑になりすぎた社会に人間がついていけなくなり、陰謀論という悲鳴を上げている。

多くの人が「9.11米国自作自演説」に分があると考えるのは、アメリカや日本の政府の説明が理論的でも科学的でもないからではないでしょうか。「国民の間に、社会状況や経済状況、生活についての不安やフラストレーションが高まり、余裕がなくなってきていることの表れ」は、スピリチュアルブームの説明としては適当かもしれませんが、9.11疑惑の説明としてはピント外れだと思います。

唐沢氏は、「9.11米国自作自演説」がインチキだとは、直接的には書いていませんが、言外には9.11はアルカイダ犯行説で決着がついており、「9.11米国自作自演説」が「トンデモ陰謀論」にすぎない、ということを前提として立論しています。この前提がないと、彼の文章は意味をなさなくなります。

彼は作文を次のように締めくくっています。

田母神論文を、陳腐で幼稚だと笑い飛ばすのは簡単だが、こうした陰謀論に空幕長という要職にある人間がはまってしまうという現状の危うさにこそ、気づかなければならない。

このことからも、唐沢氏が、「9.11米国自作自演説」を、田母神俊雄・前航空幕僚長が"論文"に書いたとされる「張作霖列車爆破事件はコミンテルンの仕業」「盧溝橋事件の仕掛人は中国共産党」と同列に扱っていることは明らかです。

しかし、9.11がアルカイダごときに起こせない事件であるという証拠は山ほどあるにもかかわらず、「9.11米国自作自演説」がインチキであることを彼は全く論証していません。

もちろん新聞記事は論文ではありませんから、感想を述べるだけになってしまうのは分かりますが、論証不要として扱うなら、だれかがどこかで論証している必要があります。張作霖爆殺事件は、関東軍参謀の河本大作によるものだという説は、だれかが論証しているようであり、揺らいでいないようです(北岡伸一東京大学教授。2008-11-13朝日)。

「9.11米国自作自演説」がインチキであることをだれか論証したのでしょうか。少なくとも唐沢氏は、論証していないと思います。唐沢氏のホームページを見ても、「9.11米国自作自演説」がインチキであることを論証する記述を私は見つけることができませんでした。

物事には当然の前提としてよいことと悪いことがあると思います。世の中には論証の不要なことは確かにありますが、9.11の犯人については、だれも刑事訴追されておらず、論証不要というわけにはいきません。

唐沢氏は、朝日の読者に「9.11米国自作自演説」なんてインチキに決まっている、と思わせています。「本当にそうなのか」という疑いを持たせないことを目的として、物事の前提を省略して論を進める論法は詭弁であり、詐欺師の論法です。

●陰謀は存在する

過去記事9.11に触れると言論弾圧を受ける(その2)の"False Flag"の歴史に学べに書いたように、自分がやったことを他人の仕業に見せかける作戦は、アメリカの戦争史そのものであり、世界中でも繰り返されてきたわけです。

唐沢氏が「張作霖列車爆破事件はコミンテルンの仕業」「盧溝橋事件の仕掛人は中国共産党」という説を田母神氏に「都合のよい俗説」と書いていることは、それらはトンデモ陰謀論だと言っていることになります。

このことは、唐沢氏が「張作霖列車爆破事件」も「盧溝橋事件」も日本軍の謀略あるいは陰謀だったという説に与していることを意味します。彼は国家権力による陰謀の存在を認めているのです。

日本軍が自作自演などの陰謀を企むのに、トンキン湾事件で自作自演をやったアメリカ政府が9.11で自作自演をやらないとなぜ断言できるのでしょうか。

アメリカではCIAという陰謀を実行するための組織がありますし、イスラエルにはモサドという機関があり対外諜報活動と特務工作を担当しています。どこの国にもあるのでしょう。歴史を見ても、現実を見ても、何か事件があったときに、選択肢として関係国の自作自演を疑うのは当然でしょう。

●唐沢俊一氏の批判は自己批判か

上記のように、「張作霖列車爆破事件」も「盧溝橋事件」も陰謀であることを認めながら、9.11は陰謀ではあり得ないと言うのは矛盾していると思います。

唐沢氏は、田母神空幕長をトンデモ陰謀論者と批判した挙げ句に、9.11自作自演説もトンデモ陰謀論だと批判しているわけですが、彼の批判はだれに向けられたものだろうかという疑問がわきます。

彼は田母神空幕長を次のように批判します。

都合のいい俗説を検証もせずに取り出し、整合性も考えずにつぎはぎにしている。自説の正当性を証明するプロセスをすっ飛ばす。一次史料を参照せず、「誰々の本に書いてある」という二次史料の引用しかしない。(略)これはすべてトンデモ陰謀論者の特徴だ。

唐沢氏も9.11については自分で調べずに、アメリカ政府の言うことを検証もせずに信じて、当然の前提として立論しているのではないでしょうか。

読み物作家などと違い、政治や歴史を研究する人間は、すっきりした解答という誘惑を退けなくてはならない。複雑な状況を、単純化せず根気よく分析していくには、非常な労力と時間が必要だが、田母神氏にはそれが我慢できず、手あかのついた陰謀論に走ったのだろう。

アルカイダ犯行説という「すっきりした解答」に飛びついたのは、唐沢氏ではないでしょうか。

実は、そういう即断即決型の人ほど、トンデモ陰謀論にはまりやすい。「誰々が悪い」という、理解しやすい解答に行ってしまいがちだからだ。

「アルカイダが悪い」という「理解しやすい解答に行ってしま」っているのは、唐沢氏ではないでしょうか。

ネットの世界には、黒か白か、右か左かをはっきりさせたがる人が多い。そうした単純化は陰謀論と親和性が高い。複雑な政治的問題を、一つの「悪」を設定するだけで、すべて片づけようとする。嫌中、嫌韓という風潮も、悪役を手っ取り早く見つけたいという欲求の表れだろう。そうした白か黒かの二元論が社会で急激に広まり、考え方の豊かさや多様性が失われている。

アルカイダという「一つの「悪」を設定するだけで、すべて片づけようと」し、「単純化」し、「考え方の豊かさや多様性」を否定しているのは、唐沢氏ではないでしょうか。

唐沢氏がアルカイダ犯行説をとらないと言うのであれば、ではだれが犯人なのかを明らかにしてから自作自演説を批判すべきでしょう。

●山田和夫氏も米政府見解を支持

2008-11-14赤旗の「山田和夫の映画案内」というコーナーで、映画評論家の山田氏は、「テロへの抵抗を再現した力作」として「ユナイテッド93」(2006年。ポール・グリーングラス監督)を推奨しています。山田氏は、次のように書きます。

9.11同時多発テロのときハイジャックされた4機のうち1機だけ、乗客の抵抗で突入に失敗した。乗客の通信記録や遺族・関係者の取材から、その実際を記録映画さながらに再現した力作。アラブ人テロリストの抑制された描写。

この文章では、9.11が狭義のテロであり自作自演ではないこと、4機がハイジャックされたこと、犯人がアラブ人テロリストであること、乗客の抵抗で突入に失敗したこと、を既定の事実として書いていますが、山田氏は、何を根拠にこのように書くのでしょうか。山田氏は、自分で根拠を調べて事実を書いたのでしょうか。ここでも米政府の見解が当然の前提として扱われているのではないでしょうか。

山田氏が赤旗の読者をだまそうとしているとは思えませんが、米政府の陰謀にはまっている可能性もあるのではないでしょうか。それとも、9.11については"アメリカ言いなり"という赤旗=日本共産党の方針に従ったのでしょうか。

●ツインタワー消滅の理由

著述家の童子丸開氏は、世界貿易センタービルの消滅について、2008-09-19週刊金曜日p22〜24に次のように書いています。

大量の建材がビルから最大で秒速20メートルもの速度で水平方向に吹き飛ばされ、直径400メートルを超す幅広い範囲にまで運ばれたのである。
上空からの写真によって、この周辺(第1ビルから80〜120メートルの場所)に、一辺30メートルほどのおおよそ四角形をした真っ直ぐな外周壁が何枚も折り重なる姿を見ることができる。つまり第1ビルの外周の支柱構造が四角く切り取られ、平面のままそこまでビルから吹き飛ばされた。

これが事実だとすれば、ビル上部の重さで下部が次々と押しつぶされて崩れたという説明は成り立たないと思います。

童子丸氏は、次のように書きます。

鋼材以外のあらゆるものが、見分けがつかないまでの膨大な微粉末になった。その直径は、平均して60ミクロンという細かさだ。(略)いったい何の力が、何のエネルギーが、ここまで徹底して微粉末にまで砕いたというのか。

唐沢氏と山田氏が米政府の見解が正しいと言うなら、これらの疑問に答えてほしいと思います。

●アルカイダ犯行説は歴史的事実か(2008-12-01追記)

2008-09-26週刊金曜日p38に烏賀陽(うがや)弘道氏が「ずぼらブンカ手帳その25」というコラムに「Sex and the City」という連続ドラマのことを書いています。

その中に「(このドラマは)WTCがアルカイーダにぶっ飛ばされようがお構いなしに2004年まで続き」という文章があります。

9.11のアルカイダ犯行説は、もはや歴史的事実になってしまったというのでしょうか。

100年も前のことはなかなか分かりませんが、9.11の真実をめぐっては、インターネットで様々な資料が見られるのですから、現代に生きる私たちは、きちんと判断する必要があるのではないでしょうか。

烏賀陽氏は朝日新聞社にいた人のようですが、自分で調べないで、アルカイダ犯行説を採用しているのでしょうか。金曜日に執筆していながら、成澤宗男氏が書いている9.11に関する一連の記事を読んでいないのでしょうか。上記金曜日の裏表紙には、成澤氏の著書「9.11の謎」の宣伝が出ており、皮肉にも「「アルカイダ」は米国がつくった幻だった」という文字が書かれています。

烏賀陽氏は成澤氏に反論する根拠を持っているのでしょうか。

(文責:事務局)
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