水害はダムで防げない

2008-08-31,2008-09-03追記,2008-09-10追記,2008-09-23追記,2008-12-02追記,2009-07-25追記

●日本をゲリラ豪雨が襲った

2008年8月、日本列島各地で降雨の場所を予測することが困難な、いわゆるゲリラ豪雨に襲われました。「地球温暖化」そのものが不明確な概念なので、それとの関連性を述べる科学者はまだいないようですが、マスコミでは地球温暖化の影響ではないかと言っています。

鹿沼市では、8月16日の大雨で工業団地入り口部の高速道路下の市道に雨水がたまり、通りかかった軽自動車が水没して、運転していた女性が死亡するという事故が発生しました。

「当時、鹿沼市では午後6時までの1時間に60ミリという激しい雨量だった。」(2008-08-26朝日)という報道もありますが、佐藤信鹿沼市長は、「1時間で85ミリを超える雨が降り、想定を超えてしまった」(2008-08-27読売)と話しており、正確な雨量がはっきりしません。

「鹿沼署によると、当日の現場の最高水位は約2メートル。」(2008-08-21下野)だったようです。1972年に東北縦貫自動車道路が開通して以来、事故現場が1メートル程度冠水することはあっても、2メートルも冠水することはなかったそうですから、8月16日の豪雨が未曾有の豪雨だったことは間違いありません。

しかし、「1995年には3台、2001年には2台の水没事故が起きている。」(2008-08-28下野)のだとすれば、抜本的な対策を講じなかった前市長や前々市長が問題を先送りしたツケを今の市長が払わされているという見方も可能ではないでしょうか。

●高速道路の問題点

更に言えば、巷では言われていることですが、高速道路の構造自体にも問題があるのではないでしょうか。盛り土を高くするとか、高架式にするとかすれば、一般道を掘り下げる必要はなかったはずです。東北縦貫道では、なぜそうしなかったのか。カネと時間がかかるからでしょう。高速道路を早く安く造るためには、交差する一般道を深く潜らせればよかったのです。それによって起きたトラブルには、市が市の負担で解決すればいい、という構造になっていると思います。それとも、高速道路アンダー部で問題があれば、高速道路管理者が何かしてくれる体制になっているのでしょうか。

鹿沼市では、「事故現場に排水側溝を整備」(2008-08-30下野)するそうです。いくらかかるのか、だれが負担するのかは知りませんが、高速道路が高い位置にあれば、そんな施設を、少なくとも多額の費用をかけてまで整備する必要はないはずです。

もちろん、高速道路を低く造ったことは、国民が早く、安く高速道路を使うメリットを得たのだから仕方がないのだ、道路公団がそういう構造を採用したから鹿沼市の産業が順調に発展したのだ、という見方もあるでしょう。  

確かに低い盛り土にしたことは、高速道路が早く完成したというメリットがあったことは否定できないように思います。一般道を犠牲にしないで建設した場合に比べて、どれだけ早まったかは分かりませんが。しかし、「安く」はどうでしょうか。確かに建設費は安く上がったでしょう。旧日本道路公団は、本体は赤字でも関連子会社は黒字だったと言いますから、建設費が安く上がった割には、国民が「安く」利用できたことになるとは思えません。  

高速道路の早期完成。それが1960〜70年代の国是だったとすれば、現在の高速道路アンダー部の冠水の問題は、高度経済成長のもたらした弊害という一面もあるのではないでしょうか。  

だからといって、市長や県警も認めているように、消防や県警の対応に問題があったことは否定できません。  

  ●今更ぼやいても仕方ないが(2008-12-02追記)  

今更ぼやいても仕方のないことですが、事故現場となった市道は、アンダー部で約17度折れ曲がっています。道路の状況を非常に把握しづらい構造になっています。  

考えようによっては、運転者は先が読めないので、慎重にならざるを得ず、かえって事故防止につながっていたのかもしれませんが、あまり見かけない高速道路アンダーであるとは言えると思います。  

 ●東日本高速道路(株)は応分の負担をしているのか(2008-09-10追記)  

「高速道路を早く安く造るためには、交差する一般道を深く潜らせればよかったのです。それによって起きたトラブルには、市が市の負担で解決すればいい、という構造になっていると思います。それとも、高速道路アンダー部で問題があれば、高速道路管理者が何かしてくれる体制になっているのでしょうか。」の答が新聞に載っていました。  

2008-09-07下野に「(対策に)応分の負担はしている」という東日本高速道路株式会社関東支社側のコメントを載せています。もっとも、これだけでは何も分かりません。事故現場のバリケードを用意したのは同社でしょうか。バリケードを設置する建設会社への委託料のうち、同社はいくら負担していたのでしょうか。これまで同社がいつ、いくら、何の費用を支払ったのか、証拠を見せていただかないと、「応分の負担はしている」と言われても、「そうですか」という話にはならないと思います。同社は、負担の実績を教えてくれるのでしょうか。株式会社だから、情報公開請求しても公開はしないのでしょうね。  

2008-09-09朝日には、次のように書かれています。  

 鹿沼市茂呂の市道で軽乗用車が水没し、同市の派遣社員高橋博子さんが死亡した事故を巡り、佐藤信市長は8日、事故現場に電光掲示板を新設するなど、予算規模2億数千万円の再発防止策を明らかにした。  
 佐藤市長によると、予算の55%は国が補助する見込み。冠水状況と連動して注意を呼びかける電光掲示板の設置費が8割を占める。ほかに道路照明を増やすほか、雨水の放出先の拡張工事を国などへ要望していくという。  
 

この記事を読むと、市と国で再発防止策にかかる費用を負担するように見えます。2億数千万円の費用のうち、東日本高速道路(株)は、いくら負担するのでしょうか。記事からは見えてきません。  

鹿沼市内の高速道路アンダー部には、市が設置し、市と自治会が電気料を負担している防犯灯があるようですが、日が暮れる前から暗くなるような場所をつくったのは旧日本道路公団なのですから、アンダー部の防犯灯は、高速道路管理者側が設置して維持管理するのが筋ではないでしょうか。  

問題の本質は、高速道路と市道の交差の仕方がまずいことにあると思われるのに、道路管理者の片方は料金をとって利益を上げ、もう一方は無料で通行させた挙げ句、雨で事故が起きるのは市道上であるため、その課題解決のために多額の出費を強いられるというのは、理不尽ではないでしょうか。  

 ●やっぱり税金で負担(2008-12-02追記)  

2008-11-22下野の一面トップは、「鹿沼の車水没死亡事故現場」「国が緊急安全対策」「電光掲示板や照明施設」の見出しで、上記再発防止対策の内容や費用を報道しています。  

対策の内容については、「対策では高架下に照明八基を配置し、夜間でも冠水状況が確認できるようにする。また高架下の進入口に走行注意を促す電光掲示板を設置する。」と書かれています。  

「総事業費は2億7500万円で国が2分の1を補助する。」と書かれています。補助率は55%ではなかったようです。鹿沼市が1億3750万円の負担をすることになります。「(対策に)応分の負担はしている」(2008-09-07下野)と言っていた東日本高速道路株式会社ですが、今回は、応分の負担をしないようです。  

 ●再発防止策  

再発防止策としては、下野の投書にもあり、自治医科大学の河野龍太郎教授も述べている(2008-08-30下野)ことですが、水位計と連動した遮断機が決定版ではないでしょうか。  

今回、消防でも警察でも場所の特定で問題があったようです。だとしたら、冠水多発箇所に通し番号を表示するという方法もあると思います。水没した本人には見えないこともあるでしょうが、他人が通報する場合に場所が容易に特定されるはずです。  

ハザードマップなどでの危険個所の市民への周知も必要だと思います。  

また、「車内が浸水して水圧が和らいでから息を止めてドアを開ける方法がある」(2008-08-26下野)ということが消防や警察の職員に分かっているのだとしたら、場所の特定よりも脱出の方法を教えることを優先させることを検討してもよいのではないでしょうか。通話時間が限られた状況なのですから。

 ●道路アンダー部に名称(2008-09-23追記)  

「日光市は事故現場と同じ道路アンダー部に名称を付け、早急にネームプレートを設置する方針を決めた。」(2008-09-13下野)そうです。「冠水が起きた場所が確認しやすくなるよう対策を講じることにした。」そうです。「本町アンダー」などの名称を考えているそうです。  

鹿沼市でも必要な対策だと思います。道路アンダー部に番号や名称を付けることについて、9月議会一般質問で議論されたのかもしれませんが、少なくとも報道はされていないと思います。下野が記事に取り上げるということは、日光市が県内初ということではないでしょうか。  

と思っていたら、宇都宮中央書や宇都宮市消防本部などは、9月20日、豪雨による冠水で車両水没を想定して、国道119号の日光街道と宇都宮環状道路(宮環)が立体交差する「宮環ミレニアムアンダーパス」で合同救助訓練を実施しました(2008-09-21下野)。宇都宮市は既に、アンダーパスに名称を付けていました。ただし、緊急事態のときに場所を特定するのに、あまり長い名称は問題だと思います。名称を言っている間にクルマが沈んでしまいます。  

日光市が考えている「本町アンダー」なんかは短くて良いようにも思えますが、漢字を使うのは考えものです。地元の人なら「ほんちょう」と読んでくれるでしょうが、初めて通る人は「もとちょう」、「もとまち」、「ほんまち」などと読んでしまうかもしれず、行き違いの生ずる原因になるかもしれません。難しい漢字は読めない人もいますから、漢字を使う場合にはふりがなが必要になりますが、夜間小さい字を読むのは無理です。  

名称もさることながら、表示の方法も問題になると思います。  

こうした対策について専門家に聞くのもいいかもしれませんが、職員や市民にアイデアを募集するのもいいと思います。ただし、佐藤市長によると、市役所では風通し悪い職場風土が出来上がっているようですから、職員からのアイデアは期待できません。それに、担当部門の職員が、部外者や市民からアイデアを募るなんて、プロとしてプライドが許さないかもしれません。

 ●やっぱり番号でしょう(2009-07-25追記)  

上記では、アンダー部に付けるのは、名称ではなく、だれでも読める番号でしょうと言いたかったのですが、私の思いは行政には伝わっていなかったようです。  

2009-07-15下野に次のような記事があります。  

 冠水の恐れあるアンダーに番号
 日光市、通報容易に
 大雨で冠水した日光市木和田島の県道「大沢アンダー」に車が進入した事故を受け、市は14日、市議会全員協議会で、市内15カ所の冠水の恐れがあるアンダーに通し番号を掲示し、事故当事者が位置情報を特定しやすくするなどの対策を講じる方針を示した。

 事故当日、現場特定に混乱があったことを重視。当事者が通報しやすいように、位置を視覚的に表示する。(以下略)  
 

大沢アンダーで事故のあった7月4日に、国道122号「銅庚申アンダー」でも冠水があったようです。「あかがねこうしんアンダー」と正しく読める人は少ないと思います。  

アンダー部に番号を振った場合、固有名詞ではないので、隣接市町村との競合が起きる可能性がありますが、確率的に考えて、固有名詞を付けるよりは混乱は少ないと思います。    

 ●水没車からの脱出方法(2008-09-03追記)  

水没したクルマからの脱出方法については、2008-08-29読売に次のように書かれています。  

 日本自動車連盟(JAF)によると、車内への浸水は床やドアのすき間から始まり、やがてエアコンの送風口から一気に流入する。車体が浮いているうちに窓を開けるか、窓を割ってでもすぐに脱出するのが鉄則。窓は、側面が割れやすい。自動車用品店で売っている専用ハンマーを運転席近くに備えるのも手だ。
 ドアは水圧で開きにくくなっている。しかし、胸や首近くまで浸水すると内外の水圧差が小さくなり、足でければ開けやすいことも覚えておきたい。  
 

日本自動車連盟(JAF)のサイトの「クルマ何でも質問箱」の項目には、クルマが水没したときの対処と脱出方法とは?というページがありますので、万一の事態に備えて是非御覧ください。    

 ●ダムで水害は防げない  

8月のゲリラ豪雨で鹿沼市内では多くの被害があったのですが、東大芦川ダムや南摩ダムで防げるような被害はなかったのではないでしょうか。少なくとも鹿沼市内では、ダムで防げるような被害は報道されていません。  

大芦川や南摩川の近くでも被害があったようですが、堤防が決壊したり、水が堤防を乗り越えたりしたわけではなく、高い所から来た水がたまったための浸水被害のようです。浸水被害は、河川から遠い、東部台地区で多発しています。草久でコミュニティセンターに避難した世帯も「川があふれそうだから」ではなく、「裏山が崩れそうだから」というのが理由でした。こうした水害をダムで防げるはずもありません。  

1999年8月に栃木県が作成した東大芦川ダムのパンフレットには、「大芦川は、永年にわたり出水被害に悩まされてきました。」と書かれています。ところが実際の水害は河川以外の場所で起きています。主として洪水対策のための東大芦川ダム建設のために310億円も使おうとしていた渡辺文雄元栃木県知事以下のダム推進勢力は不明を恥じるべきではないでしょうか。  

最近のゲリラ豪雨だけでダムの無益性を判断するのは早計だという批判もあるでしょうが、ダムがあっても水害は防げないことは、2004年7月13日に起きた新潟県三条市の水害事例などを見ても明らかになりつつあります。熊本県球磨川の市房ダムでは、ダムができてかえって水害がひどくなったと住民は怒っています。    

国土交通省の役人は、地球温暖化による異常気象に備えてダム「も」造りましょうと言っています(国(国土交通省)にだまされてはいけない参照)。しかし、ダムは想定内の雨量が想定内の地域に降ったときのみ、効用を発揮します。想定外の雨量による洪水が起きた場合には、ダムへの流入量=ダムからの放流量となり、ダムがあってもなくても洪水の水量は同じになります。むしろ決壊の危険があるために、ダムがある方が危険です。ダムが未知の活断層の上に建設され、直下型地震に直撃される可能性があります。ごまかされないように注意しましょう。

(文責:事務局)
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