がれきの広域処理はビジネスである

2012年5月24日

●自民党が脱原発をやめた

本題に入る前に23日のニュースから。

「自民党の総合エネルギー政策特命委員会(山本一太委員長)は22日、党本部で会合を開き、東京電力福島第1原発事故を受けたエネルギー政策見直し関し、5月の中間報告に盛り込んだ「脱原発は不可避」との表現を(ママ)削除を決めた。原発容認論に配慮した。」(5月23日付け下野新聞)そうです。

一時は国民のウケをねらって「脱原発」と言ってみたものの、やはり自民党が脱原発に向かうことはあり得ないということですね。馬脚を現したということでしょう。

山本一太氏は、八ツ場ダムの利権には染まっています(2008年に受注10社から130万円の政治献金を受領。八ツ場ダムのウソ(その3))が、核発電利権には染まっていないと見られていたために上記委員会の委員長を務めていたようですが、やはり核利権に染まった自民党議員の圧力にはかなわなかったようです。

●復興のためと言うならボランティアでやるのが筋

チダイズム〜毎日セシウムを検査するブログ〜というサイトがあります。

そこになぜ瓦礫の受け入れに、反対するのか。というページがあります。

そこには、次のように書かれています。

もし、本気で「復興のため」と言うなら、お金をもらって処理するべきではありません。(北九州市が受け入れるというなら)むしろ、市民の善意で、市民の税金を使って、ボランティアとして取り組んであげるべき。
助けるために、巨額のお金をもらうゲスな行為を普通の人は「助け合い」とは呼びません。
これはビジネスです。

本質を突いた意見だと思います。

広域処理は、利権とは言い切れないとしても、ビジネスであることには間違いありません。

下野新聞に投書する高校生や77歳の高齢者たちは、その本質を見ないで絆だの助け合いだのから醸し出される感情論で受け入れに疑問を持つ人たちを批判します。

投書者たちが広域処理の利権の関係者とは思えないのに広域処理を支持するのは、問題の本質を見ないからでしょう。

高校生は仕方ないです。自分も17歳の時に世の中の本質が見えたかと言えば、全然見えていませんでしたから。

でも新聞社や高齢者が本質を見ないで、将来のある若い世代を危険にさらす可能性のある言動に走ることが許されるのでしょうか。

特に下野新聞は、広告料のために社説で広域処理を支持したのですから。そうではない、政府の広告と社説の論旨が一致したのは偶然にすぎない、という反論もあるでしょうが、広告料をもらっている以上、そう見られても仕方ないでしょう。

復興予算は被災地で使うのが筋ではないでしょうか。

復興予算を被災地だけで使うのでは自分の利益にならないから面白くないと考えている人たちが考えたビジネスががれきの広域処理なのでしょう。

広域処理はビジネスだからこそ、密室で決めたのでしょう。助け合いという美しい精神が目的の事業なら堂々と決定過程を明らかにできるはずです。

●がれきの広域処理は民主主義を壊す

5月19日に宇都宮大学工学部アカデミアホールで開催された「災害廃棄物の広域処理に意義あり!」という講演会に行きました。

講師は、環境総合研究所顧問の池田こみち氏です。

池田氏は、広域処理は中央集権機構の秘密主義による官僚独裁国家化の強化であると言います。

どういうことかというと、がれきの広域処理は環境省の役人だけで決めたのではなく、例によって検討機関のお墨付きをもらって決めたようです。

その検討機関とは、災害廃棄物安全評価検討会だといいます。

この検討会は、福島県内の浜通り・中通り地方(避難区域及び計画的避難区域を除く。)の災害廃棄物の処理の安全評価を行うことが目的だったようです。

その第5回の会議で「災害廃棄物の広域処理の推進」が議題となったといいます。

そこで決まったことが宮城県と岩手県のがれきの広域処理です。福島県内の浜通り・中通り地方(避難区域及び計画的避難区域を除く。)の災害廃棄物の処理の安全評価という目的とどう関係するのか理解できません。

そもそも委員の選定は行政の裁量で決めたそうです。

会議は非公開で、情報公開請求をしても、第1回から第4回までの議事録は公開されたようですが、第5回から第7回までは議事録は不存在で録音は存在するが非開示、第8回から第11回までは議事録も録音も不存在だそうです。

ただし、環境省は、5月1日になって、第5回から第7回までをこっそりホームページに掲載しました。しかし、第8回以降は議事録ではなく、議事要旨となり、発言した委員の特定ができなくなっています。

興味のある方は環境省のホームページの東日本大災害への対応についてをご覧ください。

録音の非開示の理由は、「委員の率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあること、発言内容が過大に、広く訴えられること等により、処理方針に基づく市町村等による災害廃棄物の処理事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあること」だそうです。訳が分かりません。

関係自治体の参加はなく(福島県の部長はオブザーバー参加しているが、岩手県と宮城県からの参加はない。)、市民参加もなし。代替案の検討もしていないそうです。

広域処理が必要かという議論をしたのではなく、単にやることにお墨付きを与えただけのようです。

こんな茶番劇に出演した御用学者は、井出哲夫(名古屋大学)、大垣眞一郎(独立行政法人国立環境研究所)、大迫政浩(同)、大塚直(早稲田大学)、酒井伸一(京都大学)、杉浦紳之(近畿大学)、新美育文(明治大学)、森澤眞輔(京都大学)の各氏です。

ダム問題を審議する無識者会議と全く同じ構図です。

ダム問題の会議では、記者には傍聴を認めますので、環境省は国土交通省よりさらにひどいことをやっているようです。

がれきの広域処理は、ダム問題同様、民主的正当性のない政策なのです。

日本は、いつまでもこんな政治を続けてよいのでしょうか。

●広域処理の対象となるがれきの量が4割減った

5月22日付け下野によると、震災がれきのうち広域処理が必要とされた量は、岩手県で57万トン、宮城県で354万トン、合計で411万トンだったが、見直しにより、岩手県が120万トンに増え、宮城県が127万トンに減り、合計247万トンとなり、見直し前と比べて164万トン(4割)減ったといいます。

発生したがれきの推計量は、岩手県で525万トン(一般廃棄物の約12年分)、宮城県で1154万トン(一般廃棄物の約14年分)、合計で1679万トンです。

広域処理の割合は、247万トン÷1679万トン=14.7%となります。

広域処理しないと十数年かかるはずの処理作業が、14.7%を広域処理に回せば3年で終わるという計算がよく分かりません。

●NHKが中学生に洗脳教育

ちかごろNHKニュースウオッチ9の大越健介キャスターが東京都杉並区の和田中学校に行って、生徒に洗脳教育をしたらしいです。

大本営(NHK)の中学生への出張洗脳教育が正に戦中というサイトをご覧ください。

NHKのサイトの5月10日の記事"がれき受け入れ"中学生が討論に詳しく書いてあります。

いきなり「あなたが自治体の責任者だったら、がれきを受け入れるか」を3年生150人に聞いたら、9割が賛成したといいます。

その後大越キャスターが和田中と釜石市は、福島原発から見ると同じ距離にあると発言し、釜石市より遠い宮古市の人たちが、汚染されたがれきは受け入れたくないという意見を聞くと、ものすごく傷つくと思うんです、と言います。

グループ討議をした結果、受け入れ賛成のグループが20、反対が16だったそうです。討議前より反対が増えたのは、討議の成果でしょう。

NHKはそこまでやるのかい、という印象です。

武田邦彦氏は、"NHKの中学校教育報道・・・2重の犯罪性と善良な習慣への挑戦"において、この行事は、「NHKと環境省が組んで」催されたと書きます。谷津龍太郎・環境大臣官房長が同行したらしいです。

武田氏は、「国民全部から受信料をとっている放送局が、国内で激しく意見が分かれているものを片方(環境省)だけを学校に呼んだ中学校の放送をするのは、何ということだろう。」と書きます。

こんな放送に協力した学校にも責任はあると思います。

ハイヒール女の痛快日記によれば、和田中学校は、株式会社リクルート出身の民間校長を入れ、ユニークな教育方針で話題となった学校のようです。

ハイヒール女さんは、「リスクには一切触れず、感情論で生徒を誘導。」と憤ります。

八ツ場ダムと同じです。ダムが必要か、危険か、ではなく、地元の住民がダムを造ってほしいと思うかという感情論を拠り所として、政策が進められています。

ハイヒール女さんは、「所詮、NHKは御用放送局だ。その社員である大越はナチスドイツの宣伝大臣のゲッペルスと何も変わらない。産廃業者とつるんでいる政治家たちを始め、既得権益の片棒を担ぎ自分たちもその権益に乗っかっているだけなのだ。このニュース、核心は洗脳だ。大越よ恥を知れ!」と批判します。

●がれきの広域処理に反対する理由

神戸大学教授の山内知也氏が瓦礫の受け入れに反対する理由を書かれています。

放射能を拡散・移動させないことが重要である、復旧・復興のための予算は被災地が使う、などが書かれています。

徳島県のホームページに目安箱というページがあり、60歳男性からの「ただ放射能が怖いという無知から来る身勝手な言い分で、マスコミの垂れ流した風評を真に受けて、自分から勉強もせず大きな声で醜い感情を露にして反対している人々よ、恥を知れ!!」という知事への提言(怒りの抗議)に対して県の環境整備課が回答していますので、お読みください。

それにしても、がれき受け入れ派はどうしてこうも思考停止なのでしょう。

放射能が怖くないという無知からの思い込みで批判しています。自分から勉強もしないのはどっちなのでしょう。

マスコミの垂れ流し報道を真に受けているのはどっちなのでしょう。

絆とか助け合いという感情を露にしているのはどっちなのでしょう。

とにかく、受け入れ派は、廃棄物は発生地で処理する、核汚染は封じ込める、拡散しないという大原則があるのに無視しています。廃棄物の運搬に使うカネは無駄であるということも無視します。がれきが復興の妨げになっているかということも冷静に考えようともしません。広域処理がビジネスであるという本質も見ていません。言うことは、「正義」とか「東北がんばれ」。感情論です。

汚染を分かち合うことが助け合いになっているのでしょうか。汚染の少ない地域は、妊婦や子どもが安心して食べられる食料を生産することが大事でしょう。

 

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
フロントページへ>その他の話題へ>このページのTopへ