正攻法で攻めてほしい(黒川検事長勤務延長問題)

2020-02-23

●ホテル回答の書面要求問題(桜を見る会疑惑)

本題に入る前に。

「桜を見る会前夜祭」について、辻元清美衆議院議員がANAインターコンチネンタルホテル東京から安倍晋三内閣総理大臣の答弁を否定する内容の回答メールを受け取り、総理大臣がこれまでに虚偽答弁を続けたのでは、と2020年2月17日の衆議院予算委員会で追及したことについて、2月19日付け赤旗には、次のように書かれています。

17日の衆院予算委では、野党がANAホテル側の回答を書面で示すよう求めても、安倍首相は「私が話しているのは真実。それを信じてもらえないということになれば、予算委員会が成立しない」「いいかげんだと決めつけるのなら、コミュニケーションはみなさんとは成立しない」などと強い口調で野党を攻撃。ホテルに明細書を再発行してもらえば疑惑は簡単にはらせるのに、そのようなそぶりは一切示してきませんでした。

答弁は議事録に記載されるから重いものだ、ということも首相は言っていたと思います。

しかし、首相が被招待者の推薦について関わったか、についての答弁は、2月20日付け朝日新聞によれば、「とりまとめ等には関与していない」→「事務所から相談を受ければ、意見を言うこともあった」→「私が把握した各界で活躍されている方々についても、推薦するように意見を伝えたことがあった」と変遷しました。

「契約した」が「合意した」に変わったこともありました。

野党は、「総理の話は、国会の議事録に記載されてもされなくても、コロコロ変わる信用できないものだから、書面を出しなさい」と言えばよかったと思います。

●答弁は知らなかったが当時の解釈は認識していた

ここから本題です。

安倍晋三内閣総理大臣が、次のとおり、苦し紛れに意味不明の日本語を使うことは周知のとおりです。

「幅広く募っているという認識でした。募集しているという認識ではなかった。」

「合意はしたが、契約はしていない」(2月6日付け赤旗)

「開示請求の対象とされることと、公開されることは違う」(確かに、一般論としては、開示請求がなければ公開されないのですが、「桜」の事案について質問されていて、名簿は現に請求されているのですから、対象とされている文書は公開しなければならず、両者はイコールです。)(お薦めの参考文献:犬飼淳「桜を見る会内部資料が流出。山添拓議員vs安倍総理の質疑を信号無視話法分析」

こうした安倍話法が閣僚にも浸透しているようで、森雅子法務大臣は、議事録に書かれている政府答弁は知らなかったが、当時の解釈は認識していた、と言いました。

森は、2月10日の山尾志桜里議員の質問(2020年2月10日 衆議院予算委員会(山尾志桜里、天皇後継者・検事長定年延長など))で、国家公務員法が改定された1981年当時の国会の議事録(人事院の局長の答弁)を読んだか、と聞かれて、
「その議事録の詳細は存じ上げませんけれども、人事院の解釈ではなく、検察庁法の解釈の問題であると認識しております。」(35:00)
「議事録については、詳細を存じ上げておりません。」(36:08)
と答弁していました。

ところが、2月19日の山尾の質問(【LIVE】国会中継 2020年2月19日 衆議院 予算委員会)で、当初の政府見解を2月10日に知っていたのか、と聞かれて、森は、「当時の解釈については必要な説明を受けて認識しておりました。ただ、山尾委員のご質問は、議事録についてのご質問でございまして・・・」(3:05:40)と答弁しました。

つまり、議事録を読んだか、と聞かれたので、詳細は知らないと答えたが、当時の政府の答弁(=公権解釈)は、2月10日以前に認識していた、と言いたいのでしょう。

日本語としては成り立ちますが、疑問が生じます。

そうであれば、なぜ「議事録は読んでいないが、政府の解釈は、1月下旬に人事院から教えてもらったので、知っている」と言わなかったのでしょうか。他の質問では、聞かれていないことまで答えるのに。

また、国家公務員法に定める定年制が検察官には適用除外とする1981年当時の政府見解を知っていたなら、何の留保もなく、これに反する「国家公務員法改定当初から検察官の勤務延長は可能だった」という答弁はしないはずです。

森が2020年1月下旬に国家公務員法改定当初の政府見解を知っていたら、そして解釈変更の手続を踏んでいたなら、「当初から検察官の勤務延長は可能だった」と答弁するはずがなく、「当初は勤務延長も含めて検察官に国家公務員法による定年制は適用されないと解釈されてきたが、今般、解釈を変更することとしました」と13日の安倍と同様の答弁をするはずです。

とにかく、森は、2月10日の山尾質問では、解釈を変更したとは言っていませんでした。

「今般」「解釈することとしました。」という言い方で、渋々解釈の変更を認めたのは、2月13日の首相の衆議院本会議答弁が初めてです。

2月10日に森が「解釈を変更した」と言わなかったのは、当初の公式解釈を知らなかったのであれば当然のことです。

「人事院の解釈ではなく、検察庁法の解釈の問題であると認識しております。」という山尾への答弁も、人事院の答弁など調べる必要がないという意味になるので、森は人事院の答弁を知らなかったと見るべきでしょう。

●政府答弁を読んでいなかったのは失格

上記のとおり、2月19日に、山尾から、法改正当初の政府見解を2月10日に知っていたのか、と聞かれて、森は、「当時の解釈については必要な説明を受けて認識しておりました。」と答弁しましたが、2月10日の山尾質問では、「議事録は詳細には存じ上げません」と答弁しており、議事録を読んでいなかったのですから、法務大臣失格だと思います。職員から説明を受けていたという話はウソでしょう。説明を受けていたら、そう言うでしょう。「議事録は詳細には存じ上げません」は、説明も受けておらず、知らなかったという意味です。

検察官の勤務延長は、検察庁法制定以来73年間されたことがないのですから、解釈を変更するからには、議事録を読んで立法者意思を確認するのは当然だと思います。

森が通常の法解釈の変更手法を取らないことは想像の範囲内ですが、職員が大臣を補佐した形跡がないのは不可解です。

●協議の順序が逆ではないか

2月19日の山尾の質問で、森は、解釈の変更に当たって、内閣法制局及び人事院と協議したと答弁しました。

内閣法制局との協議は1月17〜21日に行い、人事院との協議は1月22〜24日に行ったといいます。

内閣法制局は、政府における法律問題の元締めです。内閣法制局がお墨付きを与えた事案に対して人事院がダメ出しをする余地があるというのはおかしくないのでしょうか。

解釈変更のために協議の場を設定したのではないことが裏付けられると思います。

●協議文書に日付がない

2月20日付け時事通信記事は、法務省と内閣法制局及び人事院との協議文書に日付がないことを次のとおり報じています。

事院、決裁経ず解釈変更 協議文書は日付不記載―検事長定年延長

2020年02月20日19時44分

人事院の松尾恵美子給与局長は20日の衆院予算委員会で、黒川弘務東京高検検事長の定年延長をめぐり、国家公務員法の定年延長規定を検察官にも適用可能とした法務省の法解釈の変更を認める際、部内で決裁を取らずに了承したと述べた。関連する法務省と人事院の協議文書には作成した日付が記載されていないことも明らかになった。

法務省と人事院は20日の予算委理事会に、定年延長規定の検察官への適用をめぐり協議したことを記した文書を提出。この中で法務省は、定年延長制度について検察官にも「適用があると解される」との見解を示し、人事院は「特に異論は申し上げない」と応じている。

ただ、どちらの文書にも作成日が明記されていない。委員会の質疑で、野党共同会派の小川淳也氏が理由をただすと、森雅子法相は明確に答えず、松尾氏は「法務省に直接書面を渡しており、記載する必要がなかった」と語った。

小川氏はさらに、これらの文書に関し、それぞれ部内で決裁手続きを済ませたかを質問。森氏は「必要な決裁を取っている」と答えたが、松尾氏は「取っていない」と述べた。小川氏は「決裁を取らずに法令解釈をしたなんて聞いたことがない」と厳しく批判した。

人事院は、決裁をとらずに解釈変更に異論なしとしたことを最初から認めました。

しかし、法務省では「必要な決裁を取っている」と森が答弁していましたが、次のとおり、21日付け時事通信によれば、「法務省は21日の衆院予算委員会理事会で、検察官の定年延長を可能とした法解釈変更に関する人事院との協議文書に関し、正式な決裁手続きは取っていないと説明した。」のです。

森の答弁はウソだったのです。

検察官の定年延長、正式決裁なし 解釈変更の協議文書―法務省

2020年02月21日19時11分

法務省は21日の衆院予算委員会理事会で、検察官の定年延長を可能とした法解釈変更に関する人事院との協議文書に関し、正式な決裁手続きは取っていないと説明した。森雅子法相は20日の同委で「必要な決裁は取っている」と答弁していたが、修正した。

21日の同委理事会で、法務省の担当者は協議文書について「正式な決裁は取っていない」と述べた上で、口頭での決裁だったと釈明した。

森は、どう見ても、解釈変更の手続をとっていなかったと思います。

●口頭決裁は訓令違反だ

自由民主党と公明党を支持している人たちは、法律の解釈変更の意思決定は、口頭でもいいんじゃないか、と思っているかもしれませんが、それはダメです。

法務省行政文書管理規則(公文書管理法を法務省において具現化するための大臣訓令)の第11条には次のように文書主義の原則が規定されています。

(文書主義の原則)
第11条 職員は,主任文書管理者及び文書管理者の指示に従い,法第4条の規定に基づき,法第1条の目的の達成に資するため,法務省における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに法務省の事務及び事業の実績を合理的に跡付け,又は検証することができるよう,処理に係る事案が軽微なものである場合を除 き,文書を作成しなければならない。

法律の解釈変更に関する意思決定が口頭決裁で行われたのでは、「法務省における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに法務省の事務及び事業の実績を合理的に跡付け,又は検証すること」は不可能です。

法律の解釈変更という事案が「軽微」だと言う人はいないでしょう。したがって、法務省が口頭決裁で法律の解釈変更を行ったことは、法務省行政文書管理規則第11条に定める文書主義の原則に違反します。

なお、公文書管理法(正確には「公文書等の管理に関する法律」)第5条第1項には、「行政機関の職員が行政文書を作成し、又は取得したときは、当該行政機関の長は、政令で定めるところにより、当該行政文書について分類し、名称を付するとともに、保存期間及び保存期間の満了する日を設定しなければならない。」と規定されており、これを受けた公文書等の管理に関する法律施行令の第8条と別表には、行政文書の分類に応じた保存期間が定められています。

別表の「法令の制定又は改廃及びその経緯」に関する一の項チには、「解釈又は運用の基準の設定のための決裁文書及び調査研究文書」の保存期間は30年とされています。これを受けて、法務省行政文書管理規則の別表第1にも具体例を挙げて、同様の規定をしています。

口頭決裁では、30年保存は不可能ですから、法律の解釈変更の決裁文書は、作成しておく必要があります。

それでも、へ理屈をこねたがる森雅子が今後「法律の解釈変更の事案は「軽微なものである場合」に該当すると理解したので、決裁文書は作成しませんでした。」と言うのかが注目されます。

●総理大臣の総合調整機能が検察官の勤務延長が可能であることの根拠となるという森大臣の説明が錯乱している

2020年2月20日衆議院予算委員会で藤野保史衆議院議員が森大臣は国家公務員法81条の6とか18条の2の話をするが、あれがどうして検察官に(国家公務員法による)定年制を認める根拠になるのか、と聞かれ、次のように答弁しました。【暫定字幕表示】藤野保史(日本共産党)VS森まさこ法務大臣「巨悪を眠らせるな、被害者と共に泣け、国民に嘘をつくな」2020年2月20日衆議院予算委員会31:18

当時の議事録の中に法制度が羅列してあるところのご指摘だと思いますけれども、それを全てパッケージとして検察官に定年制の適用がないというふうに、これまた別の5日前の議事録でございますが、そちらから読み込んだということをご指摘を受けましたので、それに対する答弁として、それをもしパッケージであるとするならば、(藤野議員の「なんで根拠になる」の声)今それをご説明しているんですけれども、それがもし定年制という意味がですね、それが全てを指すということであれば、内閣総理大臣の総合調整機能がですね、検察官に及んでいるということの説明がつきませんので、それでは、定年制の意味とはなんだろうか、定年制については特例が設けられているというその特例が何だろうかということを解釈をさせていただいた、今回その解釈をさせていただいたということでございます。

全く意味が分かりません。本人さえ分らないでしょう。錯乱してます。

●森の答弁は理解不能

2020年2月21日付け東京新聞は、次のように報じています。

検事長定年延長 政府の説明破綻状態 「前から制度、適用せず」

(阿修羅では、http://www.asyura2.com/20/senkyo269/msg/805.html

森雅子法相は二十日の衆院予算委員会で、東京高検の黒川弘務検事長の定年延長を可能にした法解釈変更を巡り「前から制度はあったが、適用されなかった。今回適用されるように解釈した」と語った。十日前には、延長が可能になった時期を一九八五年からと答弁しており、野党に矛盾を追及された。十九日の審議でも、人事院の局長が一週間前の答弁を修正。定年延長に関する政府の説明は破綻状態に陥っている。 (清水俊介)

森氏は二十日の衆院予算委で、検察官の定年延長が可能になった時期について「政府見解として一月二十四日と統一的に確認した」と強調した。十日の審議では「改正国家公務員法が一九八五年に施行された時」と明言していた。

国民民主党の後藤祐一氏は「矛盾している」とし、答弁の修正・撤回を求めた。森氏は応じず「八五年当時は、制度はあっても適用されないという解釈だった。今回、制度があり、それを適用できると解釈した」との答弁を繰り返した。後藤氏は「何を言っているか分からない」と批判した。

どういうことかというと、2020年2月10日 衆議院予算委員会で山尾志桜里委員は、「検察官の定年延長が認められるようになったのはいつからか」と質問しました。2020年2月10日 衆議院予算委員会(山尾志桜里、天皇後継者・検事長定年延長など)

森は、「昭和56年に国家公務員法が改正され、60年に施行され、定年制の制度が入った時に、勤務延長が検察官にも適用されるようになったと理解しております。」(26:33)と答弁しました。(過去記事六つの観点から検討しても違法だ(黒川検事長勤務延長問題)を参照)

つまり、改定国家公務員法が施行された1985年から勤務延長が検察官にも適用されるようになった、と答弁していたのです。

ところが、2月20日の衆議院予算委員会では、検察官の定年延長が可能になった時期について「前から制度はあったが、適用されなかった。今回適用されるように解釈した」と答弁したのです。

「1985年から勤務延長が検察官にも適用されるようになった」と「前から制度はあったが、適用されなかった。今回適用されるように解釈した」は、矛盾するではないか、というのが後藤祐一議員の指摘です。国会中継 2020年2月20日 衆議院予算委員会

上記動画で森は後藤に次のように答弁します。

理念的にいつから(検察官に勤務延長が)適用できたのか、ということであれば、これは、56年の国家公務員法の改正の時に制度としては、適用されるようになったと解釈したものでございます。(30:33)

「制度としては」が何を意味するのか不明ですが、改定国家公務員法が施行された1985年から(検察官に勤務延長が)適用されるようになったと解釈した、と言っています。

だったら、解釈を変更する必要はなかったことになります。

しかし、その次の答弁では、次のように答弁します。

当初は勤務延長が適用されないと、適用除外にされるというふうに解釈をしていた。しかし、今般、法制度的にも趣旨、つまり、勤務延長を導入した国家公務員法の趣旨にも反しないというふうに解釈をして整理をしたものでございます。(31:38)

ここでは、当初は勤務延長が適用されないと解釈をしていた、だから今般解釈を変更した、と言っています。

支離滅裂です。

2月10日の答弁は、国会審議の議事録を知らずにしたのですから、撤回すればいいものを、意地でも撤回したくないのでしょうから、支離滅裂なことを言い続けるしかない、というのが森の立場ですが、それを聞かされる野党や国民はたまりません。

要するに、国会審議とは、勝敗のついた論争であっても、野党の言うことを認めたり、押し黙ったりしたらアウトになるが、意味不明のことを繰り返し言い続けてさえいれば、野党の質問時間がなくなるまで終わらないゲームになっています。自分の生活に忙しい国民は、そんなゲームを観戦しようと思いません。政治離れが進めば政権に好都合という悪魔の循環が続くというわけです。

詭弁術の一つに『小児病型強弁』というのがあるようです。

騙されて悔しい思いをする前に…『強弁・詭弁』5つの論法 基礎知識

相手が理解できるかに関係なく、自分が言いたいことをひたすら言い募ることも一つの詭弁術です。

森の場合は、意図的に詭弁を弄しているというよりも、自分が何を言っているのか分からないほど錯乱しているだけのようにも思えますが。

いずれにせよ、彼女を当選させた福島県民の罪は重いと思います。

●正攻法で攻めるべきではないのか

野党は、今回の解釈変更は、解釈の限界を超えた違法なものであるが、内容の話とは別に、手続的な違法がある、という攻め口に2月19日の山尾質問から変えたように思います。

金原徹雄弁護士は、東京高等検察庁検事長定年延長問題について(3)〜論点は出そろった(渡辺輝人氏、園田寿氏、海渡雄一氏の論考を読んで)と書きましたが、解釈変更に関する決裁を取っていないのではないか、という手続的違法の論点は挙げられていなかったと思います。

議員は、毎日のように大臣や職員と直に対面して様々なやりとりをする中で、「政府側は正式決裁を取っていない」という匂いを嗅ぎとったのだと思います。

野党がポイントを取りやすい(マスコミや市民に勝敗がはっきり分かる)攻め口から攻めるというやり方は、理解できないわけではありませんが、正攻法で攻めるわけにはいかないのでしょうか。

手続論で攻めるのが悪いとは言いませんが、その前に正攻法を十分に使うべきではないかということです。

手続さえ適正なら通していい話ではないし、正攻法だとどうしても攻めにくいという話でもないと思います。

検察官は誕生日の前日限りで退職する職員であるのに対して、国家公務員法第81条の2第1項の規定により退職する職員は、3月31日に退職する職員なのですから、つまり、条文の文言に当てはまらないのですから、正攻法で行っても、分かりやすい話だと思います。

法律相互の優劣関係の原則論から考えても、政府の解釈は誤りです。その詳細は、六つの観点から検討しても違法だ(黒川検事長勤務延長問題)のに「●森雅子と近藤正春の言う一般法と特別法の関係は誤りだ」 に書いたので繰り返しません。

(文責:事務局)
フロントページへ>その他の話題へ>このページのTopへ