小西洋之議員が質問した(黒川検事長勤務延長問題)

2020-03-11

●問題の本質を言った議員がいた

私が言いたいのは、「実質判断も重要でしょうが、重大であろうが、それほど重大でなかろうが、法令の解釈には自ずから限界がある、というのが法解釈学の常識でしょう。」(金原徹雄弁護士のブログの東京高等検察庁検事長定年延長問題について(5)〜立憲デモクラシーの会の声明と文理解釈再び)ということです。

「実は「解釈変更」ではなく単なる明文の法律違反が本質だ。」「暴政は本質を突かないと倒せない。」と言った国会議員がいました。

法の支配を根底から揺るがす・検事長定年延長に小西洋之参議院議員の2月16日のTwitterによる上記発言が掲載されています。

2月26日には、次のように発信したようです(今西憲之2020.3.4 08:00週刊朝日「黒川検事長の定年延長 “嘘”がばれても厚顔の森法相」)。

「解釈変更以前に検察官は何法の何条で退職していたのか?」の問いに丸一日経っても回答ができない法務省と内閣法制局。勤務延長は「国家公務員法81条の2で退職する者」しか使えないため、「検察庁法22条」と答えると黒川検事長の閣議決定が違法になってしまう。法治国家が崩壊している


●法務大臣が回答している

「解釈変更以前に検察官は何法の何条で退職していたのか?」の問いに対する回答は、森雅子法務大臣が既に出しています。

森大臣は山尾委員に「検察官の定年自体の根拠は何という法律か」と質問されて、「検察庁法でございます」と答弁しています。(2020年2月10日 衆議院予算委員会の28:02)

何条までは答えていませんが、検察庁法第22条であることは明らかです。公式見解は出ています。

小西議員が山尾質問を見ていないとは思えません。それにもかかわらず、法務省と内閣法制局に2月25日に問い合わせた理由がよく分かりません。

●法務省と内閣法制局の回答

法務省と内閣法制局から小西への回答は、驚くべきものでした。

小西の2月25日のTwitterは次のとおりです。

法務省は今回の「解釈変更」の以前から、検察官を定年で退職させる規範は国家公務員法81条の2であったと主張。

内閣法制局は「解釈変更」の以前は検察庁法22条であり、以後に検察庁法22条と国家公務員法81条の2の両方の規範によると主張。

意見を統一して文書で提出を、と要求しました。

即ち、法務省は、国家公務員法第81条の2が根拠規定であるという見解ですが、この見解は法務大臣の答弁に反します。

内閣法制局は、解釈変更(2020年1月24日?)の前は検察庁法第22条だったが、後は検察庁法第22条と国家公務員法第81条の2の両方だという見解です。

要するに、法務大臣と法務省と内閣法制局が三者三様の見解を述べているわけで、一般市民は理解できず、いい加減にしろと言いたくなります。

それはともかく、法務大臣の回答だけが正解です。

国家公務員法第81条の2第1項には、「法律に別段の定めのある場合を除き」と書かれているのですから、検察庁法第22条が適用される検察官に国家公務員法第81条の2第1項が適用される余地はありません。

六つの観点から検討しても違法だ(黒川検事長勤務延長問題)で引用した前田正道・編「ワークブック法制執務」全訂版のp39を再掲します。この本の最新版は、法制執務研究会「新訂 ワークブック法制執務 第2版」で、出版社「ぎょうせい」のホームページによれば、「『ワークブック法制執務』は法令審査の専門家が問答形式で法制執務の知識、立法技術を解説するもの。入門から実務のプロまで、国・自治体の法制執務担当者の必携書です。」。「本書の編著者である法制執務研究会は、内閣法制局で法令審査を長年担当してきた法制執務のエキスパート。極めて難度の高い法律の起案、審査などを手掛けてきた経験者集団にほかなりません。」とも紹介されています。要するに、執筆者は、内閣法制局の職員です。

後法たる一般法と前法たる特別法との関係については、後法たる一般法自体が、その中で前法たる特別法を改廃し、又はその効力を否定する旨を明文をもって規定している場合、あるいは後法たる一般法の全体の立法趣旨から判断して、これに矛盾する従前の特別法の効力を否定する趣旨であることが明らかである場合には、後法優先の原理により、後法たる一般法と矛盾する従前の特別法が、当該一般法の規定によって改廃され、又はその効力を否定されることはいうまでもない。

即ち、後法たる一般法が前法たる特別法に優先する場合は、次の二つの場合に限られるということです。

  1. 後法たる一般法自体が、その中で前法たる特別法を改廃し、又はその効力を否定する旨を明文をもって規定している場合
  2. 後法たる一般法の全体の立法趣旨から判断して、これに矛盾する従前の特別法の効力を否定する趣旨であることが明らかである場合

この基準を検察官の勤務延長問題に当てはめることができるかを検討します。

まず、1981年の改定国家公務員法では、明文で検察庁法を改定していませんから、1の場合には該当しません。

次に、国家公務員法第81条の2あるいは国家公務員法全体の立法趣旨から判断して、これに矛盾する検察庁法の規定の効力を否定する趣旨であることが明らかである場合とは言えませんし、それどころか、想定問答集(「1980年10月に旧総理府人事局が作成したとみられる。」2020年2月25日付け中日新聞)では、検察官には勤務延長制度を適用しないことを明記していたのですから、2の場合にも該当しません。

したがって、検察官の勤務延長問題に後法(本件では1981年改定の国家公務員法)優先の原則は適用されません。

加えて、幸いなことに、国家公務員法第81条の2第1項は、定年に達した日以後の最初の3月31日に退職する職員(任命権者が指定する日に退職する職員は存在しないので無視してよい。)について規定するものであるところ、検察官は誕生日の前日限りで退職するという明確な違いがあるので、検察官に同項を適用する余地はありません。

したがって、検察官が国家公務員法第81条の2に基づいて退職する余地があるという法務省と内閣法制局の見解は、明らかに誤りです。

海渡雄一弁護士が言っていたことですが、この観点から質問した議員はこれまでいません。後藤祐一衆議院議員の質問がかすりましたが、検察官には国家公務員法でいう「定年退職日」がないから、勤務延長期間の起算日が定まらないではないか、という込み入った話になってしまいました。もっと単純な見方ができないものでしょうか。

いずれにせよ、検察官の退職が国家公務員法第81条の2に基づく余地があるという法務省と内閣法制局の解釈は、検察庁法との優先関係からも、同条の文理解釈からも、明らかに誤りです。

●森答弁は誤りだ

2020年3月9日の参議院予算委員会で小西洋之(立憲民主党)議員が黒川検事長勤務延長問題で質問しました。 小西洋之VS森まさこ壊れたレコーダー TVの前で虚偽答弁!突きつけられた真っ黒クロスケの証拠に 森「コニタン想像たくましい(笑)」「理由・検討経過が書いていない法律は政府解釈で自由に変更できます!」

想定問答集で明確に勤務延長を否定しているのに、なぜ安倍内閣で可能になるのかと聞かれた森は、「(条文には)勤務延長をするとも、勤務延長しないとも書いていません。その中でどのように解釈するかということを今般解釈をいたしました。」(3:20〜)と答弁しました。

要するに、条文に明記されていないから、政府に都合の良い解釈をすることが可能だと言っているわけですが、上記のとおり、明文の規定がない場合は、「後法たる一般法の全体の立法趣旨から判断して、これに矛盾する従前の特別法の効力を否定する趣旨であることが明らかである場合」に限って、後法である改定国家公務員法の規定が優先適用されます。

しかし、1981年に国家公務員法が改定されてからも、検察官の勤務延長は認められてこなかったという39年間の運用実績があるのですから、「従前の特別法の効力を否定する趣旨であることが明らかである場合」に該当しないことは明らかです。

したがって、明文の規定がないからどうとでも解釈できるという森の考えは誤りです。

森は、『ワークブック法制執務』にも書かれている法解釈の大原則に違反していますし、森の解釈を支持する内閣法制局が自ら執筆した法制執務の教科書で解説した法解釈の大原則を否定するという矛盾を犯しています。自分で決めたルールを守らないのです。

集団的自衛権問題以降、政府内の法の番人と言われる内閣法制局がダメなものはダメと言えなくなってしまったのですから、この国は終わっています。

●法務省メモを検討する

法務省が2020年1月16日に作成したことになっているメモの一部を検討します。事務次官にも報告されていて、2月26日に衆議院予算委員会理事会に提出したようです。(安倍マジックでは、あるはずの文書が消えるのが普通ですが、ないはずの文書が出てくることもあります。)

出典は宮本徹議員の2月26日のTwitterです。

3 検察官の定年年齢
国公法附則第13条は、職務と責任の特殊性に基づく国公法の特例を要する場合に、法律又は人事院規則による規定を許容しているところ、検察庁法第32条の2において、検察官の定年に関する同法第22条の規定については、国公法の特例を定めたものと規定されている。

このように、検察官の定年年齢は、国公法第81条の2第1項の「法律に別段の定めのある場合」の特例として、検察庁法第22条のとおり、検事総長については65歳、その他の検察官については63歳となっている。

検察官の定年に関する規定については、昭和60年の国公法改正により一般の国家公務員に関する定年制度が導入される以前に存在していたことから、定年年齢に差異がある点については、職務と責任の特殊性に由来するというほかはないが(伊藤栄樹「新版逐条検察庁法解説」140頁参照)、検察官の定年制度そのものの趣旨としては、検察庁法のいわば前身である裁判所構成法(明治23年法律第6号)の審議においても、「後進の為めに進路を開いて新進の者をして其地位(ママ)を進めして(ママ)、以て司法事務の改善を図るということの目的のために」などと説明されていたところであって(第44回帝国議会衆議院裁判所構成法中改正法律(ママ)外1件委員会議録(第1回)における政府委員発言)、適正な新陳代謝の促進等により能率的な公務の運営を図るといった国公法の定年制度の趣旨と差異はないと考えられる。

まず誤りを指摘すると、「其地位を進めして」ではなく、原文は「地位」は「位地」であり、「進めして」は「進めしめ」です。「地位」と「位地」は同じ意味ですが、「進めして」では意味が通じません。 第44回帝国議会 衆議院 裁判所構成法中改正法律案外一件委員会 第1号 1921年3月23日

「改正法律外1件委員会」も「案」が抜けており、正しくは、「改正法律案外1件委員会」です。

上記メモが本当に1月16日に作成されていたとしたら、26日までに誰かがチェックしていてもよさそうなものです。後日作成したメモなので、間違いがチェックされていないのでしょう。

一読して分かりにくいのは、前提として裁判所構成法には検察官の勤務延長が規定されていたということが書かれていないからだと思います。

1890年の制定当初の裁判所構成法(wikisourceから)には、定年の規定も勤務延長の規定もありませんでしたが、同法は1921年と1937年に改定され、追加された裁判所構成法第80条の2には、検察官の定年年齢と勤務延長が規定されました。(1937年改定のものはhttps://togetter.com/li/1474279で見られます。1921年改定の条文は法想回向で見られます。)

勤務延長については、「ただし、司法大臣は、3年以内の期間を定め、なお在職せしむることを得。」(現代語風に表記しました。)と規定されていました。

法務省は、1921年からは検察官の勤務延長の規定が適用されていたのであるから、2020年に、規定がなくても、解釈によって勤務延長を認めても構わないと言っているわけですが、誤りです。

なぜなら、確かに1947年に検察庁法が制定された際には、「本法案の立案につきましては、概ね裁判所構成法による檢察制度を踏襲することといたしました結果、その根本におきましては、重大なる變革はないと申しても差支えないのであります。」(第92回帝国議会 衆議院 本会議 第20号 昭和22年3月18日木村篤太郎国務大臣)という答弁があったものの、裁判所構成法第80条の2ただし書は検察庁法第22条に踏襲されていないので、あえて検察官に勤務延長を認めない趣旨と解されるからです。

裁判官の勤務延長については、裁判所構成法第74条の2ただし書によって認められていましたが、1947年に裁判所法を制定する際に第50条で定年年齢を定めたものの、勤務延長については規定がないということは、裁判官の勤務延長は認めないという趣旨であり、現にそのように運用されていると思います。

裁判官は特別職であり(国家公務員法第2条第3項第13号)、検察官は一般職であるという違いはあるものの、日本国憲法の下では、どちらも勤務延長を認めないということで歩調を合わせたと思います。

「「後進の為めに進路を開いて新進の者をして其地位(ママ)を進めして(ママ)、以て司法事務の改善を図るということの目的のために」などと説明されていた」ことを理由に挙げることもピント外れであり、この説明は、定年制導入の理由です。後進に道を開くなら、勤務延長を認めるべきではないはずです。法務省は自分に不利な理由を挙げており、倒錯しています。

●またしても錯乱答弁が出た

3月9日の小西質問によると、法務省は検察官の定年年齢の引き上げを内容とする検察庁法改定法案を作成し、2019年の10月末か11月の頭には、内閣法制局の木村陽一第2部長の審査を終わっていたそうです。法案は完成したも同然でした。

そして、その法案には、検察官の勤務延長が含まれていなかったというのです。つまり、2019年11月の時点では、法務省は、検察官に勤務延長は必要ないという意思決定をしていたことになるというのです。

ところが、森は12月頃から黒川検事長の勤務延長の検討を始め(3月5日森答弁)、2020年1月になると、法務省は、検察官の勤務延長を盛り込んだ法案を内閣法制局に審査依頼するという「法案を根底から覆す」(刑事局総務課長)ような事態が起きたというのです。(詳しくは、2020年3月9日付け毎日新聞「検察官定年、65歳に延長」改正案 当初案に規定含まれず 野党「つじつま合わせ」を参照)

小西は、その間どのような社会情勢の変化があって、検察官に勤務延長が必要だという判断に至ったのか、と森に質問しました。

刑事局長が関係ない答弁をした後、6分ほど速記が止まり、挙句に出てきた森の答弁が下記の意味不明の錯乱答弁です。ちなみに、ネットの世界では、森は無法大臣と呼ばれています。

(社会情勢の変化とは)例えば、東日本大震災のとき、検察官は福島県いわき市から、国民が、市民が避難していない中で、最初に逃げたわけです。
その時に身柄拘束している十数人の方を理由なく釈放して逃げたわけです。
そういう災害のときも大変な混乱が生じると思います。
また、国際間を含めた交通事情は飛躍的に進歩し、人やモノの移動は容易になっている上、インターネットの普及に伴い、捜査についてもですね、様々な多様化複雑化をしているということを申し上げておきたいと思います。

検察官の勤務延長を認めれば、災害発生時に検察官が職場から逃げ出すことがなくなると言いたいようですが、合理性があるとは思えません。

また、ネットがらみの犯罪が増えているなら、勤務延長するよりも、若い検察官を新規採用した方がよいと思います。

結局、森は、11月と12月に何があったので検察官の勤務延長が必要になったのかを答えられないわけです。

11月8日の田村智子衆議院議員の質問から桜を見る会疑惑が深まり、12月に入ってからは、7日には東京地検が秋元司衆議院議員の秘書自宅から資料押収、19日には東京地検特捜部が秋元司事務所などを家宅捜索するなど、検察が動き出し、その間、河井夫妻への内偵も進んでいたでしょうから、「官邸の守護神」黒川を検事総長にしないと危ないと安倍が感じたと思います。

(文責:事務局)
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