連合が核発電推進を凍結

2011年5月29日、2011年6月2日追記、2011年6月5日追記

●2か月かけて凍結ですか

大震災で何が分かるか で、私は、「連合は原発推進を見直すのか」、「連合が今回の事故で不明を恥じるのかが注目されます。」と書きました。

5月26日付け朝日は、次のように報じています。

http://www.asahi.com/politics/update/0526/TKY201105260289.html
連合、原発推進方針を凍結 昨夏決めたばかりですが

 連合(古賀伸明会長)は東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて原発推進政策を凍結し、新規立地・増設を「着実に進める」としてきた方針を見直す。26日午後の中央執行委員会で決定する。民主党の有力な支持団体だけに、民主党政権のエネルギー政策に影響するのは必至だ。
 
   連合は中央執行委に提出する文書で、原子力エネルギー政策について「より高度な安全確保体制の確立、地域住民の理解・合意という前提条件が確保され難い状況に鑑み、凍結する」と明記し、原発政策の総点検・見直しに着手する方針を打ち出す。新増設推進の姿勢を改め、当面は政府のエネルギー政策見直しの行方を見守る姿勢に転じる。
 
   連合は昨年8月、傘下の労組間で意見が割れていた原発政策について、初めて「推進」を明確に打ち出したばかりだった。  

事故から2か月たって、連合はようやく核発電推進の方針を凍結することにしました。2か月たって凍結では情けないと思います。

今回連合が決めたことは、「当面は政府のエネルギー政策見直しの行方を見守る姿勢に転じる。」ということです。

5月26日のNHKニュースから引用します。

連合 原発推進方針を当面凍結

連合は、中央執行委員会で、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、原子力発電所の建設計画を着実に進めるとしていたこれまでの方針を、当面の間、凍結することを決めました。

民主党の支援組織である労働組合の連合は、去年8月にまとめた見解で、原子力発電所について、安全の確保と地域住民の理解を前提に建設計画を着実に進めるべきだとしていましたが、今回の東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、構成組織の中から見解の見直しを求める意見も出されたことから、26日の中央執行委員会で対応を協議しました。その結果「事故の検証結果などを見極め、改めて方針を議論すべきだ」という認識で一致し、現在の見解を当面、凍結することを決めました。これについて古賀会長は「安全の確保などの前提条件が確保されにくい状況であり、事故の収束向けた道筋や事故の検証の進捗(しんちょく)状況などを踏まえ、今後改めて議論していきたい」と述べました。

なぜ「事故の検証結果などを見極め」る必要があるのでしょうか。

悲惨な結果は既に出ています。

「安全の確保などの前提条件が確保されにくい状況であり、事故の収束向けた道筋や事故の検証の進捗(しんちょく)状況などを踏まえ、今後改めて議論していきたい」という古賀伸明会長の発言は、「事故のほとぼりが冷めるまでは、核発電推進というわけにはいかない」という意味でしかないと思います。

「不明を恥じる」とか「反省する」とは別の次元の話です。

1年も経たないで方針を凍結せざるを得ない事態に至ったのは、先見の明がなかったことの証左ですが、連合は反省しません。

頭を低くして嵐が通り過ぎるの待つという姿勢です。

●もっともな批判があった

五十嵐仁の転成仁語というブログに「連合は原発推進政策を凍結するだけでは不十分だ」というページがあります。

以下に一部を引用します。

原発推進政策の「凍結」は当然です。しかし、それだけでは不十分です。
 更に歩を進める必要があります。原子力発電に依存する社会のあり方やエネルギー政策からの転換を明確に打ち出し、連合もそのためにイニシアチブを発揮すべきでしょう。
 
   連合の傘下には電力総連があり、そこには電力会社で働く人々が沢山います。だから、電力総連は職場を守るためとして原発推進政策を掲げてきたわけです。  しかし、原子力発電所ばかりが電力労働者の働く場ではありません。再生可能な自然エネルギーによる発電が拡大していけば、そこもまた電力会社の職場となることでしょう。
   それに、原発の職場は、常に放射能による被曝の危険と隣り合わせです。そのような危険に満ちた労働から働く人々を守ることも、労働組合としての当然の役割ではないでしょうか。

実にもっともな意見です。

●連合はなぜ方針を変えないのか(2011年6月2日追記)

連合がなぜ核発電に決別しないのかと言えば、連合の方針が命よりもカネを大事にしているからとしか説明のしようがないと思います。

労組交流センター自治体労働者部会事務局のブログの連合「原発推進を明記」2010年8月19日が引用する2010年8月20日付け朝日によれば、「現在計画中の原子力発電所の新増設を「着実に進める」」と決めた理由は、
(1)地球温暖化防止に向けて温室効果ガスの排出量削減が迫られる
(2)新興国の発展など世界的なエネルギー需要の増加で、資源の獲得競争がますます激しくなってくる
(3)原発の利用向上をはじめ、石油・石炭といった化石燃料によるエネルギーや、再生可能エネルギーとの最適な組み合わせが欠かせない ということでした。

(3)は理由になっていません。最初から「原発の利用向上」という結論が前提となっています。なぜ「原発の利用向上」でなければならないのか説明されていません。

(1)はどうでしょう。私が再三書いているように、核発電所がCO2を出さないという話はウソです。日本の核発電所は、発電中も熱を海水に逃がし、海水中のCO2を大気に放出させています。

電力会社は、「原子力発電は『発電中に』CO2を排出しません」とテレビで宣伝していますが、ウソです。

核発電効率が悪く、発熱量の3割しか電気エネルギーに変えることができません。火力発電では発熱量の4割を電気に変えています。核発電は、直接的にも大気を暖めています。

(2)の理由は、意味が分かりません。

ダム問題と同じく、核発電のデメリットを考慮せずに連合は推進を決めたのです。

連合は、理由にならない理由で「現在計画中の原子力発電所の新増設を「着実に進める」」と決めたわけです。組合員は納得しているのでしょうか。

今回の事故で福島の町という自治体がそっくり消滅してしまうかもしれないのですから、連合傘下の自治労は核発電に反対すべきだと思うのですが、電力関係労組の言いなりになっているのでしょうか、反対を唱えず、核発電問題をタブーとしてきたように見えます。少なくとも事故後2か月間は、核発電の是非について沈黙を守ってきたように見えます。

さすがに最近になって、ようやく核発電に関する学習会を始めたようですが、自治労が昔のように核発電反対を唱えるようになるかどうか分かりませんし、唱えるとしても、それが何年先になるか分かりません。

連合が分裂を避けるためには、自治労が電力関係労組の言いなりになるしかないのかもしれません。

団結を守るために言論の自由を自己抑制する、事故が起きれば自治体が消える、自治労や電力関係労組と関係ない市民も巻き添えを食う。事故が起きないとしても、廃棄物の処分方法がないので、子孫にツケを回す。それでいいのでしょうか。

電力関係労組は、なぜ核発電推進なのかと言えば、その方がもうかるからなのでしょう。

コストの高い電力を使えば、消費者から高い電気料金を徴収でき、パイが大きくなれば労働者の取り分も増えるというわけでしょう。

核発電は危険ですが、本当に危険な仕事は下請にやらせればよいのですから、正社員で組織する組合は、命の危険など考えなくていいわけです。今回のような事故が起きれば、一部の組合員の命も危険にさらされますが、組合は、そもそも事故は起きないという前提で物事を考えているのでしょう。

連合の内部事情は推測するしかありませんが、電力関係労組が命よりも目先の利益を大事にして核発電にこだわり、本来核発電に反対しなければならない自治労も、なぜか電力関係労組の意向を尊重するという構図なのかもしれません。

組合の使命が命と健康を守ることにあるなら、ダメなものはダメと言えなきゃダメだと思うのですが、いかがでしょうか。

●電力労組は核発電推進(2011年6月5日追記)

電力会社の労働者というものは、会社の命令で仕方なく核発電の仕事をしているのかと思っている人もいるでしょうが、「仕方なく」ではないようです。

藤原正司という民主党の参議院議員がおり、「災害の原因を一民間企業に押しつけ何千年に一度といわれる地震と津波が今次災害の最大の原因(犯人)であることを忘れてはいけない。 」と自身のホームページの平成23年 3月31日 今次災害最大の原因はというページに書いて批判を浴びています(例えばhttp://gold.ap.teacup.com/multitud0/637.html)。

同じく、小林正夫という民主党の参議院議員がいます。

彼のホームページによると、「2011年5月31日(火)午後、東京都大田区の大田区民ホール・アプリコ大ホールで、東京電力労働組合第56回定時大会が開催され、激励の挨拶を行いました。」。そのあいさつの中で「原子力政策は国策である。電力の安定供給がいかに大事か。民主党は雇用を守る政党。この思いを持って国会議員として全力で取り組んでいきたい。電力の技術、東電労組の底力で難局を乗り切ろう!」と発言しています。

東電労組と一緒になって核発電という国策に手を貸してきたことに何の反省もないようです。

6月5日付け赤旗日曜版によれば、「藤原議員は、東京電力労働組合が加盟する電力総連(全国電力関連労働組合総連合)の組織内議員。自身は関西電力労組元委員長です。」(記事の見出しは、「懲りない民主議員、背景に東電労組」)。

小林議員も東電出身の組織内議員です。

2009年の総選挙後に発行された東電労組の機関紙「同志の礎」には、「民主党圧勝308議席を確保」、「我々の一票で政治が動く」、「東電労組推薦候補者112名が当選」の文字が踊ります。

電力会社の労組は、組織内の国会議員まで出して核発電という政策を支えてきたのです。

「東電労組推薦候補者112名」の中には、「菅首相、枝野官房長官、海江田経産相ら、現在の政権中枢も含まれています。」(前出赤旗)。

赤旗記事によれば、「東電労組は、民主党の原子力政策に大きな影響を与えてきました。」。

「05年の衆院選公約で、民主党は原子力を「過渡的エネルギー」と位置付けていました。それが、07年の参院選公約には「着実に取り組む」と変わったのです。」。

東電労組は、選挙で政治家を応援するだけでなく、カネも配っているといいます。

赤旗によると、東電労組は「東電労組政治連盟」という政治団体を1976年に設立し、労働者から集めた会費を電力総連の政治組織「電力総連政治活動委員会」に上納し、同委員会が政治家にカネを渡す仕組みだといいます。

渡した額については、「07年から10年までの4年間で、藤原議員に3600万円、小林議員に4650万円渡っています。(判明分、選挙資金含む)」。

4月25日号アエラには、「民主党は東京電力の「電力総連」という労組から合計8740万円もの献金を受けていた。「電力総連」というのは東京電力の原発推進を図る労働組合で、東電の組織的な迂回献金のひとつと言われている。民主党議員への献金額は、小林正夫議員4000万円、藤原正司議員3300万円、中山義活議員700万円、吉田治議員700万円、川端達夫議員30万円、近藤洋介議員10万円に献金をしていた。」と書かれているようです(民主党の電力総連出身&小沢派議員・藤原正司の寝言があまりにひどい)。

他方、東電の役員が自民党に多額の政治献金をしてきたことは周知の事実です。

要するに、東電では、管理職が自民党を応援し、労組は民主党を応援してきたのですから、国会で東電の利益に反する政策が決定されることは考えにくい状況にあります。

今回の事故によって、発電所周辺地域では人が住めなくなり、発電所から離れている地域でも放射性物質により汚染され、食物を安心して食べることができなくなったし、子どもたちが野外で遊ぶこともできなくなってしまいました。

キノコ採りも山菜採りもできなくなってしまいました。

私は、経営者と一体となって核発電を進めてきた東電労組は、組合員と社会を不幸にしていると思います。

会社が利潤を追求するのは資本主義の宿命で仕方がないでしょう。しかし、それを労働組合も命や健康の観点からチェックすることをしない。それでは、どうやって会社の暴走を止めることができるのでしょうか。

労働組合の存在意義はどこにあるのでしょうか。

●核発電廃止を宣言する労働組合もある(2011年6月5日追記)

労働組合というものはすべて核発電推進なのかというと、そうでもありません。

5月1日付け産経ニュースには、次のように書かれています。

原発事故の収束と賠償訴え 全労連がメーデー開催
「東日本大震災の被災地支援」や「福島第1原発事故の早期収束と被害補償(賠償金)」の実現をスローガンに掲げ、全労連系の第82回メーデーが1日、全国で開かれた。
 東京・代々木公園の中央メーデーには2万1千人(主催者発表)が参加。大黒作治全労連議長は、原発事故を受け、東京電力に損害賠償を求めると決意を表明。「原発推進をストップさせ、エネルギー政策の転換を求めていこう」と呼び掛けた。

5月21日付け赤旗には、次のように書かれています。

全労連は19、20の両日開いた幹事会で、原子力発電所にたいする政策提言(案)をまとめました。福島原発の重大事故をふまえ、原子力中心のエネルギー政策を転換し、現存する原発を順次廃止してくことを提起しています。

「全労連」とは、全国労働組合総連合のことで、コトバンクによれば、「労働組合の全国中央組織の一つ。全日本労働総同盟(同盟)や日本労働組合総評議会(総評)などの労働4団体と官公労組が日本労働組合総連合会(連合)を結成した際、労使協調路線に反対する組合によって平成元年(1989)に結成された。単産と呼ばれる産業別全国組織と都道府県組合で構成されている。」そうです。はてなキーワードによれば、「日本共産党との関係が深い。」とされています。

宇野理論研究会では、「 (全労連は)労働者を差別というよりも、共産党の票田というようにとらえているのではないでしょうか?」と書いていますが、それが事実だとしても、連合や自治労も労働者を民主党の票田ととらえているのではないでしょうかという言い方も十分に可能ですから、全労連についてだけ批判するのは偏った議論だと思います。

全労連は、「労使協調路線に反対」なのが特徴のようです。

「労働組合の存在意義はどこにあるのでしょうか。」と書きましたが、「労使強調路線の労働組合の存在意義はどこにあるのでしょうか。」と書くべきだったかもしれません。

核発電に反対する労働組合も存在するということです。

(文責:事務局)
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