国土交通省の全面広告のどこが間違っているのか

2007-2-22

●下野新聞が国土交通省の匿名広告を載せた

下野新聞社は、2007-1-29に「知ってください。災害を防ぐ地域での取り組み。」と題する見開き全面広告を掲載しました。広告主は国土交通省ですが、例によって「企画特集」とされており、記事なのか広告なのか見分けがつかない体裁になっています。副題は、「自然の猛威に対応する河川事業ーー河崎和明国土交通相関東地方整備局河川部長に聞く」です。匿名広告の問題点については、新聞は行政を批判できるのかに述べてあります。

広告費は、少なくとも300万円はかかっているものと思われます。

●決まったことだからやるという態度は許されない

河崎部長の発言や広告の記述には問題があります。 「災害を防ぐため、社会資本の整備は、どのように進めるべきでしょうか。」という質問に対して 「現在実施中の事業は早期に完成させて効果を発揮させるとともに、既存ストックについても状況の変化に合わせて有効活用することが重要と考えています。」と答えています。

「現在実施中の事業」である思川開発事業(南摩ダム)、湯西川ダム、八ツ場ダムについて無駄なダムであるとして多くの住民が訴訟を起こしています。そんなことはおかまいなしに住民無視の姿勢であり、自ら決めた改正河川法の趣旨に反します。公共事業には常に公共性が必要です。実施中の計画の問題点にほおかぶりし、決めたからやるという国の態度は許されません。公共性が問われているときに、問われていることを無視して事業を進めるのは許されないことです。説明責任を果たすべきです。

●早期に完成させても効果を発揮できない

「早期に完成させて効果を発揮させる」と言いますが、南摩ダムなんて、集水面積はたったの12.3km2であり、南摩川の年間流量もわずか1,000万m3程度ですから、下流の洪水被害を減らす効果がほとんどないことは明らかです。完成させても効果を発揮させることはできません。

●国は既存施設を有効活用していない

「既存ストックについても状況の変化に合わせて有効活用することが重要」は、治水に関する質問に答えたものですが、利水に関しても同じことが言えるはずです。ところが、例えば、栃木県南部には毎秒1.6トン以上の水利権が未利用のままになっているのに、水利権の転用をして有効活用するという姿勢が国交省にはありません。水が余っているのに次々に上記のような利水目的を含んだ多目的ダムを建設しようとしています。言っていることとやっていることが全然違います。

●八ツ場ダムに関する記述のウソ

「八ツ場ダムの完成により、利根川水系の洪水に対する安全度が大きく向上すると共に、水供給の安定化が図れる。」とか「洪水被害を未然に防ぐ役割を果たすとともに、首都圏の1都4県に水を安定して供給できるようになります。」と書いてありますが、事実に反します。例えば、1947年のキャサリン台風が再来した場合、降雨パターンが八ツ場ダムにとって理想型でないので、同ダムに利根川下流の流量のピークをカットする効果がほとんどないことは、河川局長自身が国会答弁で認めています。

利水についても、東京都、群馬県、埼玉県、千葉県、茨城県、いずれも水余りで新たな水源は不要ですから、同ダムの利水機能も不要です。そもそもダムサイト付近の吾妻川には酸性の水が注ぎ込んでいて水質が極めて悪く、八ツ場ダムに利水機能を持たせることは不適当です。

●水利権行政が不当だからダムの必要性が発生する

八ツ場ダムと湯西川ダムを建設する理由としては、「利根川・荒川水系ではダムなどの水源施設が未完成でありながら取水を行っているなどの不安定取水が水道用水の約4分の1を占めて」いることがあげられています。しかし、多くの水道事業体で暫定水利権による取水のままで本当に困ったことがあったでしょうか。

例えば、小山市では、南摩ダムの完成を前提として思川からの暫定水利権を認められていますが、これまでに暫定水利権であるがために本当に困ったという事態に至ったことがあったのでしょうか。今後も暫定のままでも困らないのではないでしょうか。これまでも渇水を乗り切ったのですから、今後も乗り切れるはずです。今後水需要は確実に減るのですから。さらに言えば、ダムを建設して暫定水利権を安定水利権に変えれば、確実に渇水被害がなくなるという保証もないのですから。ダムがあっても渇水騒ぎを頻繁に繰り返す早明浦ダムを見れば、ダムに頼れないことは明白です。

そもそも南摩ダムの計画利水安全度は、5分の1です。5年に1度起きる小規模な渇水にしか対応できない計画です。巨額の建設負担金を払ってムキになってダムを建設する意義は極めて小さいと思います。

●「説明責任を果たす」は口だけ

河崎部長は、「河川事業の必要性について説明責任を果たすことが、我々河川管理者に求められている」と言いますが、河川管理者は説明責任を果たしているとは言い難い状況にあります。  

例えば、2007-2-14に水源連と公共事業チェック議員の会が国土交通省(河川局)に要請行動を行いました。水源連の嶋津暉之共同代表が「多摩川の基本高水流量は8,700m3/秒とされている。もう多摩川上流にはダムの適地はないのに、治水計画をどのように実現するのか」と質問しても、国交省の課長補佐たちは別の話をして、質問には答えませんでした。これで説明責任を果たしていると言えるでしょうか。ちなみに、なぜ答えられないのかと言えば、多摩川の基本高水流量8,700m3/秒が荒唐無稽だからです。  

国土交通省は、利根川水系でも基本高水流量を22,000m3/秒(群馬県八斗島地点)とし、計画高水流量を16,000m3/秒とするには、八ツ場ダムを完成させた後に、さらに利根川の上流にダムを十数基建設しなければ完成しないような治水計画を未だに堅持し、その治水計画はいつ完成するのかという問いには答えていません。  

山鳥坂ダムの建設が計画されている愛媛県の肱川では、基本高水流量を決める際の戻し流量の計算根拠を住民が国土交通省四国整備局に求めたところ、「情報公開請求をしろ」と言い、挙げ句に出した資料が写真一枚だったそうです。  

「説明責任」は、言葉だけです。  

国土交通省の広告がおかしいと思ったら意見広告を載せてやると下野の部長は言います。「悔しかったらカネもってこい」というわけです。 本来税金で広告を出しているのですから、国土交通省は市民の言い分も広告に入れるべきです。少なくともそれくらいはしなければ、説明責任を果たしたとは言えないでしょう。  

税金を使って言いたい放題の匿名広告は卑怯であり腹立たしいことこの上ないのですが、広告を打つカネのない市民団体としては、今のところブログやホームページで国土交通省のウソを暴くしかありません。  

●治水安全度は向上していない(2007-2-23追記)  

河崎部長は、「河川改修、ダム建設、砂防などの社会資本整備が進み、安全度は確実に向上しています」と述べています。確かに安全になった場所もあるでしょうが、一般論としては事実に反します。「利根川の河道の整備状況はきわめて遅れており、現況河道で対応できる洪水の確率規模は、国交省の回答によれば、未だに利根川1/5、渡良瀬川1/10、思川1/20、巴波川1/5にとどまっている」(2007-2-22開催の利根川水系全体公聴会での嶋津暉之氏の資料)のです。印旛沼周辺では1/4です。流域住民の安全は脅かされたままです。  

河川管理者は、流域住民の安全を守るという名目の下に半世紀以上にわたり莫大な税金を河川に投入してきましたが、有効なカネの使い方をしてこなかったということではないでしょうか。    

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