「ダムを造れば人口が増え、産業も発展する」などと言っている人がいるのかというと、います。例えば小林幹夫・栃木県議会議員です。
直接的には言っていませんが、「水道水を伏流水に100%頼っている現状では、将来の人口増も望めず、また企業の誘致もできない」(2000年7月12日鹿沼市議会一般質問)と言っていますので、間接的にはそう言っていることになります。(発言中「伏流水」とあるのは、「地下水」の誤りです。鹿沼市の水道水源は100%地下水です。伏流水なら、河川の水利権が必要になると思われますが、鹿沼市が水利権を保有しているという話は聞いたことがありません。)
小林議員の主張は正しいのでしょうか。
こんなテーマは議論するまでもないと思われるかもしれませんが、公人が言っている以上、はっきりさせておかないと、税金が無駄遣いされることになります。
●人口減少社会の到来は明らか
2月25日に2010年国勢調査結果の速報が発表されました。総務省統計局のホームページの「結果の概要」のページから「人口速報集計」をエクセル等でダウンロードしてみてください。
全国的に見ても、2005年調査と比べ、総人口は横ばいで、「都道府県別では減少が38道府県、増加は東京、神奈川など9都府県だけ。」(26日付け下野)です。
日本の人口は、2005年調査と比べてわずかに増えていますが、「総務省の人口推計は既に2年連続で減少しており、同省は「本格的な人口減少社会に入った」としている。」(26日付け下野)のです。
栃木県は、総人口が200万7,014人で、前回調査から9,617人(0.48%)の減少です。県内の27市町のうち、増加したのは7市町だけでした。
栃木県の人口減少傾向もはっきりしています。
●松田川ダムではどうか
1995年に完成した足利市の松田川ダムに、足利市は上水道用水の水利権を毎秒0.06m3(日量5,184m3)持っていますが、ダムの水を水道には使っていません。今後使うこともないでしょう。
足利市の人口は、2005年が159,756人で、2010年が154,462人です。前回調査より5,294人減っています。
●東荒川ダムではどうか
喜連川町(現・さくら市の一部)、塩谷町、茂木町は、1989年に完成した東荒川ダムの水利権を持っていますが、ダムの水は水道には使われていません。参画量は、塩谷町10,000m3/日、喜連川町7,000m3/日、茂木町2,000m3/日です。
塩谷町の人口は、2005年が13,462人で、2010年が12,561人です。前回調査より901人減っています。
茂木町の人口は、2005年が16,403人で、2010年が15,023人です。前回調査より1,380人減っています。
栃木県内で「最も減少率が大きかったのは茂木町の8・41%(1380人)減だった。」(2月26日付け下野)ようです。
さくら市の人口は、2005年が41,383人で、2010年が44,774人です。前回調査より3,391人増えています。
「前回調査比の増加率をみると、さくら市が8・19%(3391人)増と最も高かった。2007年に刑務所「喜連川社会復帰促進センター」が開庁したことや宅地開発などが要因だ。」(2月26日下野)そうです。
たまたま喜連川に刑務所ができたのが人口増加の要因のようで、ダムと人口増加とは関係ないでしょう。だって、さくら市は、ダムの水を使っていないのですから。
●寺山ダムではどうか
矢板市は、1984年に完成した寺山ダムに8,640m3/日の水利権を保有しています。矢板市は水利権を使用しています。
矢板市の人口は、2005年が35,685人で、2010年が35,358人です。前回調査より327人減っています。
●草木ダムではどうか
佐野市は、1977年に完成した草木ダムに毎秒0.30m3(25,929m3/日)の水利権を保有していますが使っていません。
佐野市の人口は、2005年が121,259人で、2010年が123,926人です。前回調査より2,667人減っています。
●川治ダムではどうか
川治ダムに水利権を持つ宇都宮市の人口は、今なお増え続けています。5年間で8,900人増えています。
しかし、5年以内に増加は止まるでしょう。宇都宮市自身がそう予測しています。
ダムの水利権で人口が増えるなら、止まらないはずなのですが。
●ここまでのまとめ
要するに、当然のことながら、ダムの水利権を持っていても人口は増えないということです。
過大な水需要予測をしてダム事業に参画しても、結局、ダム建設負担金を支払いながらも、水利権を使っていないところがほとんどです。
見通しを誤ったために事業を失敗したということです。民間ならだれかが責任をとらされるはずですが、自治体が公金の無駄遣いをしてもだれも責任を問われません。
本来問われなければいけないのでしょうが、足利市、佐野市等で責任問題になったという話は聞こえてきません。
●これからダムが必要か
南摩ダムに参画している自治体は、栃木市、鹿沼市、小山市、下野市、西方町、壬生町、野木町、岩舟町です。
そのうち5年前より人口が増えているのは、小山市と下野市だけです。その他の自治体では減っています。
下野市の増加数は5年間で332人にすぎません。おそらく南摩ダムに参画していなかった旧・南河内町分でしょうから、南摩ダムとは無関係です。南摩ダムに参画していた旧・国分寺町と旧・石橋町分の人口が増えているとは思えません。
小山市の人口増加も、宇都宮市同様、5年以内にピークを迎えることになるはずです。仮にダムを造ることになったとしても、南摩ダムが完成するころには、減少に転じているはずです。
鹿沼市の人口は、2005年が104,148人で、2010年が102,357人です。前回調査より1,791人減っています。減少率は1.7%です。
普通に考えたら、栃木県にとって、これから南摩ダムの水が必要かといったら、必要ないということになるでしょう。だって、人口が増えなければ、水需要も増えないのが普通ですから。1人当たりの水使用量は減少傾向にありますから、人口減少と相まって、今後ますます水需要は減少すると思われます。
県議のダム推進論に説得力はあるかで紹介したように、増渕賢一(としかず)・栃木県議会議員も都市用水が充足されていることは認めています。それでもダムを造る理由を探すとなると、食料自給率とか、外国に巨大ダムがあるとか、中国人が土地を買いあさっているとか、私には理解しがたい理由を持ち出すしかないのでしょう。
栃木県民は、このような理由で栃木県がダム事業に公金を使うことに納得するのでしょうか。
都市用水が充足されていることがはっきりした時代になったのに、ダム推進派は、別の理由を持ち出してくる。まさに、ああいえばこういう、という状況です。ダム推進派にとっては、理由なんて何でもいいのでしょう。
もしかしたら、いつかは何かの役に立つかもしれないという程度の理由で公金を使うことは違法だというのが私たちの主張です。
それにしても、知事も市長も普段「行政評価」とか「費用対効果」と言いながら、無駄であることがはっきりしたダムを止めようともしない。ほとんどの議員も止めようともしない。どうなっているのでしょう。
●神谷県議のダム推進論
神谷幸伸・栃木県議会議員もダム推進論者です。
南摩ダム中止の基準で紹介したように、神谷議員は、次のように発言しています。
「中止にするというなら地域振興をどうするか、命の水をどう確保してくれるのか国が示せ」(2009年9月27日付け下野)。
ダム事業を地域振興が主目的であるととらえているとしか思えず、筋論から外れています。
「命の水をどう確保してくれるのか」と息巻きますが、増渕議員でさえ、都市用水は充足されていると正しく認識しています。認識不足は明らかです。
事実を正しく認識していない人が正しい政策判断をできるはずがありません。
神谷議員は、「命の水をどう確保してくれるのか」と息巻くのならば、どこの都市にどれだけ水が不足しているのかを論証すべきだと思います。ダムに税金を使えと主張しているのですから、論証する責任があると思います。
ダム事業に参画した都市が行っていた水需要予測は、過大な人口予測に基づいていたことが明らかになったのですから、水不足でないことも明らかになったのです。だれしも、増渕議員のように、水道用水や工業用水は充足されていることを認めざるを得ない状況になったのです。