思川開発事業に関する赤上尚課長談話への反論

2013年8月16日

●砂防水資源課課長のコメントが新聞に掲載された

いささか旧聞に属しますが、2013年5月30日付け読売新聞に「「凍結」解けるか南摩ダム」という見出しの記事が掲載されました。そこに、栃木県県土整備部砂防水資源課の赤上尚課長の次のような談話が掲載されています。

県が事業に加わっているのは、治水と利水の両面でメリットがあるからだ。近年、地球温暖化の進展などで、県内でもいつ集中豪雨が起きるか分からない。思川流域で起こりうる洪水を未然に防ぎ、住民の安全を確保する必要がある。

また、県南の2市2町の水道水を全て地下水に依存する状態は危機管理上も好ましくない。地下水は一度汚染されると水質が回復するまで、短くても2〜3年かかる。川を流れる水よりも汚染が長期に渡る。しかも、地下水のくみ上げを続ければ、県南の地盤沈下が再び進む心配もある。将来のことを考え、人の命に直結する水道水源を複数持つことは重要だ。

ダム用地の提供などで、地元の住民には多くの協力をいただいた。その人たちのためにも、「検討の場」には早く方向性を出してもらい、必要な事業を進めてもらいたい。
●南摩ダムはメリットがない

赤上課長は、南摩ダムは栃木県にとって「治水と利水の両面でメリットがある」と言いますが、メリットはほとんど考えられず、環境破壊と財政負担というデメリットこそ考慮すべきです。南摩ダムは、単に無益というだけでなく、有害です。

何度も書いて恐縮ですが、南摩ダムの集水面積は12.4km2で、栃木県内の治水基準地点である小山市乙女地点の流域面積は760km2ですから、南摩ダムの集水面積は思川(小山市乙女地点)の流域面積の1.6%しかありません。したがって、南摩ダムの洪水調節効果がほとんどないことは明らかです。

赤上課長は、「たとえどんなにわずかでも治水上のメリットはある」と言い張るのかもしれませんが、費用対効果を考慮せずに130億円もの治水負担金を支出することは違法です。

水資源機構による費用対効果計算のどこが間違っているのかに書いたように、水資源機構による費用対効果分析では、南摩ダムにより思川における洪水被害の軽減が期待できる額は、年平均で8.9億円としていますが、1991年から2001年までの年平均の被害実績は3億円に満たないのですから、水資源機構による費用対効果分析は全くの虚構です。

利水については、栃木県は、県南2市3町(栃木市、下野市、壬生町、野木町、岩舟町)の水需要は減少すると予測しました。「2市2町の水道水を全て地下水に依存する状態は危機管理上も好ましくない。」とする理由もすべてでっち上げで、地下水源をダム水に転換する必要はありません。

栃木県は、思川開発事業による弊害を全く考慮していません。

思川開発事業により鹿沼市内の生態系が破壊されます。また、導水事業により黒川及び大芦川流域の地下水利用と農業用水並びに上水道井戸に障害が出ることが予想されます。

今後、人口と給水人口が減るので、料金収入は値上げをしない限り、確実に減少します。他方、水道施設のほとんどは耐用年数を超えて老朽化しており、耐震化した施設への更新が急務です。水道事業体にとっては、ダム事業に参画しない場合でも、事業を維持すること自体が困難になってきます。

万一の事態に備えるという大義名分の下に使われることのないダムや広域水道に投資すれば、料金の大幅値上げは必至となりますが、水道利用者は負担に耐えられないでしょう。かといって値上げをしなければ水道企業会計が破綻します。そこで結局わずかな値上げをして、足りない分は一般会計から税金などで補填するという違法状態を招くことになると思います。

南摩ダムが必要であれば、参画している団体がそれによる開発水を使いたいはずです。ところが、「南摩ダムの水は使わない」に書いたように、鹿沼市長はダムの水は使わないと明言しています。

また、2013年3月の栃木市議会一般質問では、内海成和議員が「県は県南地区の水道水源を地下水から表流水にかえようと計画しているようですが、私たちが、栃木市がそうお願いしたのではないのですけれども、県はそういうふうにしましょうと言っているのですけれども、栃木市においてその計画に乗るつもりなのでしょうかお尋ねいたします。」と質問したのに対し、赤羽根正夫・栃木市総合政策部長は、次のように答弁しました。

あくまでも利水参画者は県でありますので、栃木市が直接そこの計画に乗る乗らないということではありません。栃木市はあくまでも県が定める水量確保、県が確保する水量の算出の際に当たって、その対象となる一つの市として、どのくらい必要かというような調べはありましたけれども、計画そのものに参画するということの意思表示はしておりません。

赤上課長は利水上のメリットがあると言いますが、鹿沼市長は、できるだけ地下水でまかない、ダムの水は使わない、だから浄水場も建設しないと言い、栃木市でも、この期に及んで、県が立てた水源転換の方針に従うという意思表示はしていないと言うのですから、必要性もメリットもないということでしょう。

南摩ダムは利水上のメリットがあるどころか、水道事業体を食いつぶす疫病神でしかありません。

●集中豪雨は思川開発事業を正当化する根拠にならない

赤上課長は、「県内でもいつ集中豪雨が起きるか分からない。思川流域で起こりうる洪水を未然に防ぎ、住民の安全を確保する必要がある。」と言います。

「県内でもいつ集中豪雨が起きるか分からない。」

そのことは間違いではないでしょう。しかし、そのことから思川開発事業が必要であることを導き出すことには無理があります。

「ゲリラ豪雨」と呼ばれるような最近の集中豪雨による被害は、市街地に降った雨が河川に流出する前に家屋等の浸水をもたらす内水氾濫であり、ダムで防ぐことはできないからです。

集中豪雨が起きた場合、南摩ダムでは住民の安全は確保されません。赤上課長は、たまたま南摩ダムの上流で集中豪雨があった場合は、ダムの効果は多少はあると言いたいのかもしれませんが、そんなギャブルのような治水対策に130億円も払うことは許されません。

栃木県は、ダムの建設負担金を払うカネがあるなら、内水氾濫対策にカネを使うべきです。

また、利水面では、「ゲリラ的な豪雨は水道施設に物理的な被害をもたらすほか、水源である河川の急激な濁度上昇を引き起こし、浄水処理への負荷や断水等の影響が生じるケースも出ています。」(「新水道ビジョン」p12)という指摘がなされています。

実際、2013年7月18日から山形県を襲った豪雨により、村山広域水道から原水の供給を受けている天童市などで8日間もの断水が起きました。2013年2月27日付け読売新聞は、「豪雨被害による断水、8日ぶりに解消…山形」という見出しで、次のように報道しています。

山形県内で(7月)26日、8日ぶりに断水が解消された。
寒河江市では濁りが残る地域もあるが、27日午前中には復旧する見込みだ。ただ、給水量は通常時の約8割にとどまっており、県は引き続き節水を呼びかけている。
18日の豪雨以降も断続的に大雨に見舞われた県内。ダムや河川の濁りがひどく、浄水場の処理が追いつかなくなり、断水が長期化していた。
県によると、村山広域水道が水を供給している12市町村のうち、半数の上山市、村山市、天童市、寒河江市、河北町、大江町で断水が発生した。最後まで残っていた3市のうち、上山市は26日午前、寒河江市と天童市も同日夕までに給水が再開された。

村山広域水道用水供給事業は、国営の寒河江ダムで開発された表流水を水源としています。表流水を水源とした場合、豪雨に襲われれば川の水が濁り、これを取水しても浄化ができず、断水に至ることがあるということです。

鹿沼市や足利市などの地下水100%の水道において、豪雨で断水したという話は聞いたことがありません。上記6市町でも水源が地下水であったなら断水することはなかったはずです。

赤上課長は、思川開発事業を正当化する理由として集中豪雨を挙げますが、南摩ダムは、治水面では水害の防止に効果がないだけでなく、内水氾濫対策にかける予算を不足させ、利水面では水道料金の値上げと断水をも招きかねない疫病神です。

●地下水100%で問題ない

赤上課長は、「2市2町の水道水を全て地下水に依存する状態は危機管理上も好ましくない。」と言いますが、世界では通用しない考え方です。

地下水は、「清浄にして豊富低廉」という水道法の要請を満たし、渇水にも強い優れた水源であり、地盤沈下の原因となる等の欠点に配慮しつつ、原則として優先的に使い続けるべき水源です。

地下水100%の熊本県熊本市や東京都昭島市の危機管理対策が劣悪とは言えないでしょう。

熊本県では、県内の80%の市町村の水道水源が地下水100%ですが、リスクの分散のために表流水を導入するよう助言も指導もしていません。

水道水源が地下水100%であること自体に問題があるわけではありません。

●地下水汚染は確率的に想定すべきだ

赤上課長は、「地下水は一度汚染されると水質が回復するまで、短くても2〜3年かかる。川を流れる水よりも汚染が長期に渡る。」と言います。

水道水源が地下水100%である県南2市2町は、60年近くの間、汚染事故なしに水道事業を経営してきた実績があることを考慮すべきです。

2011年3月、水道水の放射能汚染は現実に起きました。県内では表流水を利用している宇都宮市と野木町の水道水だけが汚染されたことで、地下水の優位性が証明されたことを県は重く受け止めるべきです。

当時、「県生活衛生課の担当者は、2008年度の県内の取水量2億6762万トンのうち、1億5536万トンが地下水だったことを挙げ、「栃木は鬼怒川、那珂川、渡良瀬川から取水しているが、水源は大半が地下水なので安全性は高い」と話してい」(2011年3月25日付け朝日新聞)ました。

今後断水事故を招く原因は、水道施設の老朽化による故障や地震による破壊であり、有限な予算は発生確率の高い課題に投入すべきです。

地下水100%を守るために水環境を守るのが筋であり、汚染を絶対に不可避のものと考え、表流水を確保する発想は本末転倒です。

栃木県は、「栃木県水環境保全計画」(計画期間2004年度〜2013年度)により、水環境を保全するための施策を講じてきました。今後も水環境の保全のための政策は続けるべきです。その効果もあるはずです。

ダムと広域水道に払うカネがあったら、水質汚染防止対策に使うべきです。

なお、万一水源井戸が汚染された場合は、汚染物質によっては、その除去装置が開発されており、井戸の使用を継続することが可能です。

赤上課長は、地下水汚染防止にどんなに努力しても、ある日突然水道水源の地下水がどんな物質に全部汚染されてしまうか分からないので、そのような危機に備えなければならないと言いたいのかもしれません。

しかし、水道水源である地下水汚染があるとすれば、人為的な原因によるものでしょう。人口が減少すれば、生活域や産業活動も縮小し、汚染源の数が減ると考えるべきではないでしょうか。地下水汚染事故が起きるかどうかは確率的に考えるべきだと思います。(このように書くと、核発電所が巨大な地震や津波に襲われることは確率的に考えてあり得ないと言って対策を怠ってきた電力会社の姿勢と同じではないかと思われる方もいるかもしれませんが、核発電はあらゆる意味で特別です。絶対に起こしてはならない事故については、その発生を確率的に考えてはいけないと思います。核による被害は、保険の免責事項になっていることからも、それがいかに特殊かが分かります。太陽光・風力発電トラストというサイトの原発と保険(1) という頁を参照。)

「南摩ダムの水は使わない」で紹介したように、「野村総合研究所の報告書によると、2040年の日本の水道使用量は現在の4分の3から半分に減る見通し」(2008年2月16日付け読売)なのです。水需要が将来減るということは、保有水源の余裕が大きくなるということです。

万一2市2町のどこかの水源井戸の何本かが長期間汚染されたとしても、水源が不足しない確率は高くなるということです。

栃木県は、新規水需要については、将来の人口減少を見込んで、減少するという推計をしたのに、地下水汚染については(地盤沈下についてもそうですが)、将来の人口や産業活動を想定しないのは矛盾しています。人口が減少していくのに、汚染される井戸の数がどんどん増えていくと考えるのは不自然でしょう。

「地下水は一度汚染されると水質が回復するまで、短くても2〜3年かかる。川を流れる水よりも汚染が長期に渡る。」ことは間違いではないでしょうが、水道行政においては将来の社会的、経済的状況を想定して対応するという常道を赤上課長は踏み外していると思います。

地下水汚染の原因物質は、全く見当がつかないというものではなく、VOC(揮発性有機塩素化合物)、重金属等、硝酸性・亜硝酸性窒素の三つに大別できるようです。「土壌・地下水汚染対策の基礎」によれば、ダイオキシンによる地下水汚染もないわけではありませんが、非常にまれだそうです。

鉛、ヒ素、フッ素、六価クロム等の重金属類は表層土壌にとどまるため、特に深井戸を汚染することは少ないと考えます。また、重金属等は、大部分が自然由来であり、水道水源井戸を設置する際には、詳しく調査し重金属等による汚染のおそれのある井戸は避けるため、井戸の設置後に重金属等による汚染が突発生することはあまり考えられません。

VOCは厳重に監視されているため、将来、これによる汚染が1980年代や1990年代のように猛威を振るうことはないと思います。

硝酸性・亜硝酸性窒素による地下水汚染については、硝酸性窒素による地下水汚染対策事例集に掲げる対策が参考になります。

熊本市における硝酸性窒素対策は、次のとおりです。

施策のあり方としては、回復の困難性からして、汚染が進んだ後の後手の回復対策よりも、汚染原因の窒素負荷量削減に重点を置いた先手の未然防止の観点からの取組みが重要であると考えられる。次に、汚染原因としては営農や社会生活に伴う面的な汚染である場合が多いため、それらの原因者である農業者や生活者に対して正しい理解と主体的な取組みを啓発等によって促すことが重要となる。

さらにこの推進にあたっては、環境部局のみならず、農政、水道、試験研究機関等の各部局、市町村、JA 等がパートナーシップのもと連携協力して役割を分担し、総合的な対策を推進していくことが一番重要と考えている。

その他の対策事例には、次のように書かれており、硝酸性窒素で井戸が汚染されたからといって、その井戸を放棄する必要はないようです。

硝酸性窒素の処理技術として、(1)イオン交換法、(2)逆浸透膜法、(3)電気透析法、(4)生物的脱窒法等がある。

繰り返しになりますが、硝酸性窒素による汚染が生活排水や過剰施肥によるものであるとすれば、人口減少により汚染源も減少すると考えるべきではないでしょうか。

●水需要の減少により地盤地下の沈静化が進む

赤上課長は、「地下水のくみ上げを続ければ、県南の地盤沈下が再び進む心配もある。」と言います。

「地下水を多量にくみ上げて地盤沈下の原因をつくっているのはだれか」という問題を無視した対策に意味はありません。

国土交通省のホームページによると、1996年の農業用水の地下水依存率は全国平均で6.1%です。

2011年12月22日付け下野新聞によれば、当時開催されていた栃木県環境審議会地盤沈下部会の会議で「農業用水の地下水依存率が36.8%と全国最高の本県の特性を踏まえ」るべきであるとの意見が委員から出ていたそうです。

栃木県の農業用水の地下水依存率は全国最高なのです。

県南の地盤沈下地帯(国の対策要綱に基づく保全地域と観測地域)における地下水採取量の6〜7割は農業用であり、水道用は1〜2割に過ぎません。

上記地帯において思川開発事業で水源転換が予定されている水量は、全採取量の1%未満なので、水源転換は効果がありません。あり得ないことですが、仮に栃木県の参画水量0.403m3/秒のすべてを転換水量に充てても保全地域と観測地域における全採取量の4%程度しか削減できないので、地盤沈下防止の効果はほとんど見込めません。

今後地盤沈下が年に10mm起きると仮定した場合、計算どおりに沈下量を抑制できたとしても、沈下量を9.9mmあるいは9.6mmにしかできません。そのために数百億円をかける意味はないでしょう。

地盤地下対策の名目で大金をかけて水道水源を地下水から表流水に切り替える意味はありません。

栃木県としても、農業用の地下水採取量を減らさなければ、地盤沈下の防止効果がないことは分かっているが、農業者への遠慮があって節水要請くらいしかできないというのが実情でしょう。

「栃木県環境審議会地盤沈下部会報告書」「栃木県環境白書」にも地盤沈下対策として、水道水の水源転換を挙げていないことからも、水源転換に地盤地下対策としての意味がないことは明らかです。

赤上課長は、「地下水のくみ上げを続ければ」と言いますが、今後の人口減少を考えれば、地下水採取量の総量が現在よりも増えることや現在のレベルが続くことも考えられず、採取量は減少することが想定されます。したがって、「県南の地盤沈下が再び進む心配もある。」とは確率的には言いがたいでしょう。

現在でも地盤沈下は沈静化しているので、今後、地下水の採取量が減少することによってますます沈静化すると予想すべきです。

●「何が起こるか分からないから投資する」という考え方は違法だ

赤上課長は、「将来のことを考え、人の命に直結する水道水源を複数持つことは重要だ。」と言います。

一見正しい見解のように見えます。

しかし、もともと持っている水源が地下水源だけの場合と表流水だけの場合では意味が違ってきます。

国土交通省が作成した「今後の地下水利用のあり方に関する懇談会」報告(2007年3月)のp31以下に次のように書かれています。

1 気象変動に伴う利水安全度の低下への対応
近年、少雨年と多雨年の変動幅が次第に増加し、渇水年の年降水量が減少傾向にあるのみならず、年最大連続無降雨日数(降水のない日か_連続する最も長い期間)も長くなる傾向が認められている。こうしたことから、ダム等の水資源開発施設が計画された当時の開 発水量を安定して供給できないなど、水供給の利水安全度(実力)が低下しており、気候変動が国内の水需給バランスに与える影響が顕在化しつつある(図 2-1-4 参照)。

今後も、こうした降水特性の変化や地球温暖化等に起因する気候変動により、水供給の能力低下が一層加速する恐れがあるとともに、これまでの計画規模以上の渇水の危険度も増加している(図 2-1-5 参照)。
(中略)
(3)地下水資源の需給見通し
これまでに述べたわが国の水需給状況と今後の動向を踏まえると、将来の地下水資源の需給見通しは以下のように考えられよう。
* 安全で良質な水供給の要請から地下水資源への需要が高まる可能性がある。
* 気象変動を踏まえた利水安全度の確保や、都市部の住民生活や都市機能の持続・維持の観点から、地下水資源への需要が高まる可能性がある。

何が書いてあるかというと、近年、気象変動により雨の降らない期間が長くなる傾向があり、ダムが計画どおりの利水機能を発揮してくれない。したがって、安定的に水道の原水を確保するために、地下水への需要が高まる可能性があるということです。

もちろん、安全で良質な水源であるという理由でも地下水の需要は高まる可能性があるということです。

つまり、表流水しか水源を持たない水道事業体にとっては、利水安全度を高めるため、また、安全でおいしい水を求める水道利用者の要請に応えるために地下水源という、もう一つの水源を持つことに大きな意味があります。

他方、地下水源だけを水源としている水道事業体にとっては、もう一つの水源としてダムによる開発水を持つことにメリットはありません。利水安全度を下げることになるからです。

メリットがあるとすれば、地下水源が汚染されている場合と水道水の地下水源が地盤地下の原因となっている場合ですが、県南2市2町ではどちらもあてはまりません。

上記のように地下水100%で問題はありません。

県南2市2町(栃木市、下野市、壬生町、岩舟町)のほかには、那須烏山市、さくら市、茂木町、那珂川町、上三川町、足利市、佐野市、鹿沼市の5市3町の水道水源が地下水100%です。栃木県内の26市町のうちの12市町の水道が地下水のみを水源としています。

水源を複数持つことがそれほど重要なのであれば、県南2市2町以外の5市3町についても表流水を水源としなければなりませんが、そのための具体的な計画はないままです。

足利市と佐野市は、既に水道用のダム使用権を持っていますが、ダムの水を浄化するための浄水場を建設する計画はありません。

鹿沼市では思川開発事業に参画し水源転換をする計画を持っていますが、市長が「ダムの水はできるだけ使わない」という方針を打ち出しており、浄水場も建設しないと宣言しているのですから、複数の水源を持つことにはなりません。

赤上課長は、「将来のことを考え、人の命に直結する水道水源を複数持つことは重要だ。」と言いますが、複数の水源を持つことがそれほど重要なのであれば、地下水のみを水源とする水道事業体はとっくに行き詰まっていなければならないはずです。

赤上課長は、「将来のことを考え」と言いますが、将来何が起こるか分からないという理由で設備投資をしたら、いくらカネがあっても足りません。何が起こるのかを想定して投資するのが企業の経営者であり、収支合い償うことを求める地方公営企業法の趣旨です。

「何が起こるか分からないから投資する」という考え方は違法です。

なお、赤上課長は、「人の命に直結する水道水源」という言葉を持ち出しますが、人の命を考えるのであれば、最悪の水質汚染である放射能汚染の起きやすい表流水の導入を勧めることは矛盾しています。今も福島第一原子力発電所から毎時1000万bqの放射性物質が飛散しています。韓国や台湾の核発電所が事故を起こせば放射能の雨が降るでしょう。命を考えるなら表流水の利用はできるだけ避けるという原則を持つべきです。

●ダムは感情論で造るものではない

赤上課長は、「ダム用地の提供などで、地元の住民には多くの協力をいただいた。その人たちのためにも、「検討の場」には早く方向性を出してもらい、必要な事業を進めてもらいたい。」と言います。

ダム建設は公共事業であり、治水上、利水上のメリットがあるから実施するものです。移転対象者のために建設するものではありません。

●栃木県は検証のルールに従うべきだ

赤上課長は、「「検討の場」には早く方向性を出してもらい、必要な事業を進めてもらいたい。」と言います。

国が実施している検討作業にブレーキをかけているのは栃木県です。

「検討の場」では、他の都県が「早く検証作業を終えて事業を進めてほしい。」と発言しているのに、栃木県だけが県南の水需給計画と水道用水供給事業の計画が存在しないために、「早く事業を進めてほしい。」と発言できなかったのが実情です。

栃木県は、国から利水代替案の検討を要請されても検討しません。

水道用水供給事業計画の存在は、ダム事業参画の要件ではありませんが、参画の後、相当の期間内に策定すべきものです。そうでなければ、ダム完成後にダムを利用しないことになる確率が高くなるからです。ところが、栃木県は、2001年6月に思川開発事業への参画を表明してから12年を経ても未だに水道用水供給事業計画を策定していません。

栃木県がダム事業検証のルールを守って、利水代替案を検討したり、水道用水供給事業の認可申請をしたりしなければ、検証作業がスムーズに進むはずがありません。

赤上課長が「必要な事業を進めてもらいたい。」と言うのであれば、当協議会等からの公開質問に答えたり、利水代替案の検討要請に応えたり、水道用水供給事業計画の認可申請をしたりして、事業の必要性を証明すべきです。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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