思川開発事業の関係地方公共団体からなる検討の場は茶番だった(その2)〜栃木市長発言を分析してみた〜

2016-08-03

2016年6月21日に開催された思川開発事業の関係地方公共団体からなる検討の場の議事録が公表されました。前回の記事の一部に誤りがありましたので、お詫びして下記のように修正します。

●栃木市長は「協力します」と言った(前回記事の再掲)

鈴木俊美・栃木市長は、「(思川開発事業に)協力します」と発言しました。本音が出た発言だと思います。

栃木市が南摩ダムの水を必要としているなら、「協力します」という発言はしないと思います。「早く建設してください」と言うのが普通だと思います。

栃木市長が「協力します」と言うのは、栃木市が南摩ダムの水を必要としてない証拠だと思います。

佐藤信・鹿沼市長も「早く決めてほしい」とは言いますが、「早く建設してほしい」とは言いません。ダム水を使う予定がないからです。

利水参画団体が「早く建設してほしい」と言わないダムを建設することは、水資源開発促進法の定める緊急性の要件を欠き、違法だと思います。 (以下のように補足して修正します。)

●栃木市長の発言

栃木市長の発言は次のとおりです。

栃木市の市長の鈴木でございます。
私どもは、先ほどから加須市さんなどからのお話もございますとおり、治水という点でこの思川開発に期待するところがまず一番でございます。
昨年の関東・東北豪雨災害におきまして、栃木市は、お隣の小山市さん同様大きな被害を受けたところであります。また、思川と渡良瀬川が合流する渡良瀬遊水地を抱えているところでもありまして、余計に治水事業の大切さについては痛感しているところであります。その点から本事業を推進していただけるということについては期待をしております。
また、利水の面におきましては、栃木市は現在、飲料水などの水需要の全量を地下水に依存しておりまして、現時点では表流水は使用しておりませんが、その地下水の枯渇、汚染あるいは地盤沈下等がないとは限らない。現に、地盤沈下等については生じているわけでありまして、そういうことを踏まえれば、代替水源の確保は将来に向けてはぜひ必要ではないかと考えているところであります。
なお、その場合、本市はこの事業への直接参加ということではなくて、栃木県さんを通して協力・理解をさせていただき、これからも協力をさせていただきたいという立場でございますので、その点はご理解をいただきたいと思いますが、いずれにいたしましても、本事業が再び進行を始めることについては、栃木市としても期待しているところでございます。以上です。


●建設促進の理由は治水だった

要するに、「その点(治水)から本事業を推進していただけるということについては期待をしております。」と言っており、確かに「南摩ダムを早く建設してほしい」という意味にとれることは言ってはいるのですが、その理由は治水の観点からであり、「南摩ダムの水が必要だから」ではありません。

利水については、「将来に向けてはぜひ必要ではないかと考えている」という程度の認識しかありません。「将来に向けては」です。先行投資という認識です。今すぐ必要という認識ではありません。

国は、来年(2017年)にも本体着工を目論んでいるというのに、栃木市長は、未だに要望水量や単価については、「(県が経営する広域水道への)合意形成や受水量、要望の時期等は、今後、協議会構成市町の水源状況を踏まえながら、検討を続けることになります。」(「思川開発事業と栃木市の水道水を考える会」からの質問への回答書(2016年7月1日))という考えを示すだけで、要望水量すら明らかにしません。

本体着工後の利水撤退は、現実的に極めて困難であることを考えれば、実に無責任な姿勢です。

いずれにせよ栃木市長は、「水が必要だからダムを早く造ってほしい」とは言っていないことを確認しておくべきだと思います。

●利水が主目的のダムに治水効果を一番に期待することは本末転倒だ

南摩ダムは多目的ダムですが、水資源機構が水資源開発促進法に基づいて建設するダムです。同法の目的(第1条)に「治水」なんて書いてありません。「河川の水系における水資源の総合的な開発及び利用の合理化の促進」が水資源開発促進法の目的です。

水資源機構が治水専用ダムを建設することはできないのです。

南摩ダムの有効貯水容量5000万m3の内訳は次のとおりです。
水道用水  1675万m3
流水の正常な機能の維持  2825万m3
洪水調節  500万m3

つまり、治水容量は、有効貯水容量の1割でしかありません。(これとは別の問題として、本来利水ダムなのに、「流水の正常な機能の維持」のための容量が56.5%と最大の割合を占め、利水容量の占める割合は33.5%にすぎないという異常性があります。)

また、流域面積で見ても、南摩ダムの流域面積(水を集める面積)は12.4km2であり、治水基準地点の乙女(小山市)の流域面積760km2の1.6%しかなく、治水効果はほとんどありません。

ところが、栃木市長は、「私どもは、先ほどから加須市さんなどからのお話もございますとおり、治水という点でこの思川開発に期待するところがまず一番でございます。」と言いました。

治水効果がほとんどない南摩ダムに「治水という点で・・・期待するところがまず一番」と言うのですから、正に本末転倒しています。

「検討の場」でこんな本末転倒な発言が出ているのに、何も問題にならずに「事業継続」の結論を出すのですから、異常としか言いようがありません。

南摩ダムに治水目的を加えたことが、事業を進めやすくするための方便にすぎなかったことがよく分かります。

南摩ダムは本質的に利水ダムであるにもかかわらず、利水参画団体の栃木市の市長が南摩ダム建設の一番の大義を治水に求めていることからも、この事業の異常さが理解できると思います。

●栃木市長は問題をすり替えている

次に栃木市長は、「昨年の関東・東北豪雨災害におきまして、栃木市は、お隣の小山市さん同様大きな被害を受けたところであります。また、思川と渡良瀬川が合流する渡良瀬遊水地を抱えているところでもありまして、余計に治水事業の大切さについては痛感しているところであります。その点から本事業を推進していただけるということについては期待をしております。」と言います。

「昨年の関東・東北豪雨災害におきまして、栃木市は、お隣の小山市さん同様大きな被害を受けたところ」と言いますが、栃木市民の話では、昨年9月の豪雨で栃木市が大きな被害が出たのは、巴波川の西側であって、思川流域で大きな被害はなかったと言っています。

巴波川の水害を南摩川に建設予定の南摩ダムで防ぐことはできません。栃木市長は、巴波川の被害と思川の被害をすり替えていると思います。

栃木市長がそうではないと反論するなら、栃木市内を流れる思川のどこでいくらの損害があって、南摩ダムができれば、どれだけその損害を軽減できるのかを説明すべきです。自分で計算できないなら、水資源機構にやらせるべきです。検証作業中にその説明をしないで、いつやるのでしょうか。今でしょう。

今回の検討の場で構成員は口々に「昨年の豪雨で大きな被害があったから、思川開発事業を推進すべきだ」と言いますが、南摩ダムでどれだけその被害を軽減できるのかを誰も説明しません。科学的に政策を決定しようと考える首長がいないのです。

栃木市長は、「また、(栃木市は)思川と渡良瀬川が合流する渡良瀬遊水地を抱えているところでもありまして、余計に治水事業の大切さについては痛感している」と言いますが、こんな一般論は南摩ダムが必要であることの理由になりません。これもすり替えの論理です。

「治水事業が大切だから南摩ダムを建設すべきだ」という理論が成り立つのなら、「治水事業が大切」なのは当然ですから、どんな治水ダムでも建設するべきことになってしまいます。

「検討の場」で議論すべきなのは、南摩ダムが必要かということであって、治水事業一般の是非ではありません。

ダム推進派とはこういう論理を使うものです。過去記事「水が必要ならダムが必要か」にも書いたことですが、水資源開発公団の組合の書記長も「水が必要でしょう。だからダムが必要なんです。」という説得の仕方をしていました。

弁護士出身の鈴木市長が「治水事業が大切だから南摩ダムが必要だ」というような詭弁を使って恥ずかしくないのでしょうか。

●「協力をさせていただきたい」というのもおかしな話だ

栃木市長は、「栃木県さんを通して協力・理解をさせていただき、これからも協力をさせていただきたいという立場でございます」と言います。

確かに栃木市は事業主体ではないのだから、国の事業に協力する立場だと言ったのかもしれませんが、余りにも主体性が感じられません。

南摩ダムは水資源開発促進法を根拠として建設されるのであり、同法には「産業の開発又は発展及び都市人口の増加に伴い用水を必要とする地域に対する水の供給を確保する」(第1条)、「広域的な用水対策を緊急に実施する必要がある」(第3条第1項)と書かれているのですから、まずは人口の増加に伴う水需要の増加があって、そのための用水対策が緊急に必要だからダムを建設するというのが筋です。

したがって、「栃木市は需要が増加し緊急に水を必要とするから国は協力してほしい」と言うのが筋だと思います。自治体の要請があってダムを造るのが筋です。

ところが実態は、国が南摩ダムを建設し、開発した水を自治体に割り当てて、割り当てられてしまった自治体が渋々ながら協力して供給を受けるという構図になっており、栃木市長の発言には、この構図がよく現れていると思います。

栃木市長の「これからも協力をさせていただきたい」という発言は、県を通して割り当てられた水量は、とにかく買いますと言っているとしか思えません。

栃木市長は、栃木市民のために国の押し売りを拒むという考え方はできないのでしょうか。

(文責:事務局)
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