公金を使う者が水道水源が地下水100%ではいけない理由を説明すべきだ

2016-05-02

●栃木市で市民集会が開催された

2016年4月30日(土)に栃木市栃木文化会館において「緊急!市民集会 思川開発事業と栃木市の水道水」が開催されました。主催は、思川開発事業と栃木市の水道水を考える会です。

第1部で運動団体の4人からの報告があり、第2部は質疑応答でした。

●大武真一市議から表流水も必要という意見が出た

質疑応答の中で栃木市の大武真一議員(民進党)から「栃木市の水道水源は全部地下水だが、地下水は涸れるかもしれないし、汚染されるおそれもある。費用対効果の問題もあると思うが、(表流水の取得や利用に)カネがかからなければ、表流水があった方がいい。」という趣旨の意見が出ました。

「地下水だけで大丈夫なんだという理由を説明してほしい。」とも言いました。

栃木県や栃木市を代弁するような意見です。

泉判決は崩れた(その2)〜地下水位低下も地下水汚染も水源転換の理由にならない〜の繰り返しになってしまうところも多いのですが、コメントしたいと思います。

●説明責任があるのは現状を変更して公金を使う側だ

大武真一議員は、私たちダム反対運動団体に説明責任を求めていますが、倒錯していると思います。

栃木県は、思川開発事業に利水参画するために63億6400万円の建設負担金を支払うことになっています。

そして、県南2市1町(栃木市、下野市、壬生町)に水道用水を供給するための施設の建設費が約207億円(栃木県南広域的水道整備事業検討部会資料から)かかるといいます。

最終的には、県南2市1町が水道料金からそれらの費用を負担することになります。

そうであれば、大武真一議員は、地下水100%という現状を変更するために公金を支出する栃木県や栃木市に対して、現状を変更するために公金を支出する理由の説明を求めるのが筋です。

普通は、今のままではだめだ、現状を変えるべきだと主張する者が立証責任を負うものではないでしょうか。

まして行政は大量の情報を持っているのですから、まずは行政が立証責任を果たすべきです。

おそらくは、大武議員は、栃木市の職員に対してなぜダムの水を買うのかという質問を非公式にはしているのだと思います。質問したら、「地下水が涸れるかもしれないし、汚染のおそれもある」と答えられて、すんなり納得したのかもしれません。

2016年2月8日に栃木市民が栃木市の総合政策課の職員に話を聞きに行ったら、職員が「危機管理対策としてダムの水が必要」と言ったという話も聞きますので、全く根拠のない推測ではないと思います。

●公営企業は経済性の原則を守らなければならない

大武議員は、「カネがかからなければ」と言います。つまり、コストの問題はさておいて議論しようじゃないか、ということです。

そんな議論がまかり通るのでしょうか。

水道事業は、法的には包括的な民間委託が可能ですが、現実は、自治体が公営企業として実施しています。

そして、地方公営企業法第3条には次のように規定されています。

(経営の基本原則)
第三条  地方公営企業は、常に企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならない。

つまり、経済性を発揮することが法的に求められています。

ネット検索すると、政策評価(4) 経済性・効率性と有効性・有用性という論文が見つかり、「経済性とは産出を固定化し一定の産出をより少ない投入で実現すること、効率性とはより多くの産出を一定の投入で実現することを意味する。」と書かれています。

要するに、経済性とは、水道事業で言えば、製品として1m3の水をつくるのにどういう方法でつくった方が経費がかからないかを考えろということです。

したがって、コストの問題はさておいて、ダムの水を買った方がいいという議論は法的に成り立たないと思います。

念のため書き添えますと、何でもかんでも法律を守ればいいという意味ではありません。

現実には、憲法違反の法律や立法事実を失った法律もあるのですから、そうした法律はむしろ適用してはいけないことになります。

しかし、費用対効果を考えて水道事業を経営しろという法律の規定には合理性がありますから、この規定は守るべきです。

●地下水100%の水道は危機管理ができていないのか

いくら浄水コストを考慮することが大事だといっても、水道事業には、簡単に断水という事態が起きないような安定性が求められます。

したがって、危機管理も重要です。

で、大武議員の発言を善意に解釈すれば、「たとえ多額のコストがかかっても、危機管理対策としてダムの水も使った方がいい」ということかもしれません。

確かに、厚生労働省は、2013年3月に公表した「新水道ビジョン」p27において、危機管理対策のうちの「水源事故対策」の中に「複数水源の利用」という手段を挙げています。

地下水100%を水源とする水道事業体は、複数の水源井戸を利用しているものですから、「複数水源の利用」をしていることになると思います。また、予備水源としての井戸を保有しているかどうかは、水道事業認可の際にチェックされるはずです。

地下水100%の水道事業体は、危機管理ができていないという意見を持つ人がもしいるとすれば、では、74万人もの市民に地下水100%の水道水を供給している熊本市は危機管理ができていないとでもいうのでしょうか、と聞きたくなります。

2013年5月に熊本県の環境保全課に電話して「熊本市のような地下水100%の水道を経営する市町村に対して、県として「望ましくないから水源を転換しろ」という勧告をしないのか」と質問したところ、「地下水100%をやめなさいという勧告をするつもりはない」との回答を得ました。

ちなみに熊本市では、2016年4月14日以降に起きた熊本地震によって断水が起きたようですが、水源が地下水100%だったからだ、とか、表流水を混ぜていれば、断水は起きなかった、又は小規模だったと言う人はいないと思います。

●漠然とした不安は設備投資の理由にならない

上記のとおり、地方公営企業には経済性の発揮が求められる以上、漠然とした不安を理由に設備投資をすることは許されないと思います。

鹿沼市長は、いつ使うのか分からないので浄水場をすぐ造るわけではないが、地下水では足りなくなったら困るからダムの水は買っておく、と言っていますが、経済性の原理を無視しており、鹿沼市の思川開発参画は法律上許されない水源確保だと思います。

仮に民間企業において、設備投資部門が「使用時期は不明だが危機管理対策として必要だと何とはなしに思うので、設備投資の資金16億円の予算を認めてほしい」と言い出したときに、経理部門や株主はこれを認めるのでしょうか。そんな漠然とした理由での支出は認めないと思います。

公営企業でも同じはずです。

水は市民の生活に必要不可欠のものであることは事実ですが、だからといって、水道事業の経費の支出が野放図になっていいはずがないことは、法律に規定するまでもないほど当然なことです。

●「水は人の生活に不可欠」は設備投資の理由にならない

仮に「水は市民の生活に必要不可欠のものだから、水源井戸の事故への危機管理対策としてダムの水が必要」と言う人がいるとすれば、「水は市民の生活に必要不可欠のもの」だけでは、「ダムの水が必要」の根拠になっていないということを認識してほしいと思います。

確かにダムの水を確保することも危機管理対策の一つになり得るかもしれませんが、それだけが危機管理対策ではないからです。

仮定の意見に反論するな、と言われそうですが、上記のような詭弁は結構あります。

「水が必要ならダムが必要か」で紹介したように、佐藤信・鹿沼市長は、「市民の命にかかわる問題なので(ダムによる)水源の確保はしなければならず」(2009年6月25日付け下野新聞)と言います。

また、旧水資源開発公団の労働組合の書記長の徳永氏も、水は貴重で大切なものです、だからダムは必要です、と説いていました。電気が必要だから核発電所が必要だと言ったテレビキャスターもいます。

水が必要なこととダムが必要なことは、関連性はありますが、論理的な関係はありません。

現実にあるのです、こういう詭弁。そして、結構だまされる人も多いと思います。

●地下水が涸れるかどうかは科学的に分かる

大武議員は、地下水が涸れる心配をしています。

地殻変動で地下水が涸れる場合もあるでしょうが、そういう心配をするなら、川の水が涸れることも心配しなければならないのではないでしょうか。

現実的に起こり得る地下水枯渇とは、地下水の過剰な採取により計画どおりに採取できなくなってしまうことだと思います。

しかし、採取が過剰かどうかは科学的に判定できると思います。

要するに、井戸に補充される水量よりも多く採取するから水位が下がってしまうのですから、補充される範囲内で使う分には問題ないわけです。

水道事業では、水源井戸を設置するときには、限界揚水量というものを設定し、その8がけくらいの数値を適正揚水量としているようです(日本地下水学会のホームページの限界揚水量に学術的根拠はあるのでしょうか?を参照)。

そして、水源井戸を利用するときには、水位を観測しながら利用するのでしょうから、通常は過剰採取にはならないはずです。

栃木市が地下水を過剰に採取しているかどうかは、数字で判断できる問題ですから、科学的根拠もなしに水源井戸が涸れるかもしれないという議論をしても意味がないと思います。

●地下水の使用量は減っていく

地下水の過剰採取が起きないかという問題について考えなければいけないのは、今後の水需要の動向です。

今後しばらくは水需要が減少していくことは誰も否定できない状況にありますから、そして1人当たりの使用水量も減っていきますから、栃木市が地下水を過剰に摂取する事態は確率的に起こらないと考えるべきです。

通常のリスク管理は確率で考えるべきです。

●表流水は放射能汚染に弱い

大武議員の「地下水が汚染されるかもしれない」という心配について考えてみます。

確かに地下水が汚染される可能性はあります。

そして、汚染されれば汚染が長期に及ぶ場合があるのも事実です。

しかし、表流水も汚染されますし、特に容易に放射能で汚染されることが2011年に証明されており、放射能で汚染された水を、特に幼児が飲んだ場合には、深刻な健康被害が想定されます。2011年の核発電所事故の際に栃木県内で水道水から放射性物質が検出されたのは、宇都宮市と野木町の水道だけです。どちらも全部ではありませんが表流水を水源としています。

「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」(栃木県、2013年)が説くように、県南の水源を地下水:表流水=4:6にした方が、10:0の場合よりも汚染に強くなるかは相当疑問です。少なくとも、同報告書には、地下水依存率を下げれば、どのくらい汚染に強くなるのかという点に関する分析はなされていません。

地下水は水より重い有機塩素化合物に汚染されることが表流水より多くなるのは当然ですが、他方、空から降ってくる放射性物質により汚染されやすいことも当然ですから、一長一短であり、一概に地下水と表流水を混ぜた方が安全だとは言えないと思います。

●地下水汚染防止体制は整っている

法律をつくれば、その目的が達成されるわけではありませんが、地下水汚染を防止するための法制度は整っており、「水質汚濁防止法」、「土壌汚染対策法」、「大気汚染防止法」、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」等の法律を適切に運用することで地下水汚染の発生を未然に防止することが相当程度まで可能です。

水道水源の保護のための法律としては、特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する特別措置法や水道原水水質保全事業の実施の促進に関する法律があり、森林法も水源を保護する機能があります。

現に近年、大きな地下水汚染事故が起きたという報道は聞かなくなっており、上記法律の効果は発揮されていると思います。

地下水が汚染されるかもしれないから川の水を買うというのではなく、汚染されないように努力するという発想を持てないものでしょうか。

以上の法規制でも足りないと栃木市の議員や市長が考えるのであれば、栃木市は水源保全条例を制定して、水源保護に務めるのが筋です。

既存の水源の保護をおろそかにしたままでダムの水の確保に投資するのは誤った選択だと思います。

●汚染=使用不可ではない

上記法律の規制をくぐり抜けて地下水が有害物質に汚染されたとしても、即使用不可になるわけではありません。

有害物質を除去しながら、地下水を使うことも可能な場合もあります。

表流水に転換するのとどちらが安上がりかを検討もせずに表流水を確保することには合理性がありません。

●優先順位を考えてほしい

栃木市水道が安泰で、何も課題を抱えていないというのならまだしも、人口は減る、料金収入も減る、施設の更新需要には備えなければならない、耐震化を進める必要もあるなどの課題が目前に迫っている中で、地下水が枯渇するかもしれないとか汚染されて使用不能になるかもしれないという抽象的な可能性のレベルの不安を解消したいために20年間で194億円も払う政策に優先順位を与えて水道財政が破たんしないのかをよくよく考えるべきだと思います。

巨額の投資をして課題が解決するならいいですが、栃木市が県の言うとおり、地下水依存率を40%又は65%に下げれば、少雨の年には渇水で苦しむことは確実です。そんな事態にはならないということを、表流水の導入を求める大武議員には証明してほしいと思います。

●最後に

ともかくも、市長や議員には、地方公営企業は、企業性(経済性)の発揮と公共の福祉の増進を経営の基本原則とするもの(地方公営企業法第3条)であり、その経営に要する経費は経営に伴う収入(料金)をもって充てる独立採算制が原則とされる(同法第17条の2第2項)ということを認識してほしいと思います。合理性のある法律の規定を守ってほしいと思います。

(文責:事務局)
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