民主党には投票できない

2011年12月25日

●政権が官僚に飲み込まれた

国土交通省は、12月22日に「八ッ場ダム建設事業に関する対応方針について」というタイトルで記者発表をしました。このことに関する前田武志・国交大臣からの発言は、大臣発言にリンクしました(大臣は取り乱しているようで、意味不明です。)。

12月23日付け下野新聞は、「民主党が無駄な公共工事の象徴として中止を掲げてきた八ツ場ダム(群馬県)の建設再開が決まった。」と報じています。

震災復興のためのカネはないが、ダムにつぎ込む予算はあるというわけです。

民主党政権がものの見事に官僚機構に飲み込まれてしまいました。

2009年の衆議院選挙のときの民主党のマニフェストには、「川辺川ダム、八ツ場ダムは中止。時代に合わない国の大型直轄事業は全面的に見直す。」と明確に書かれていました。「八ツ場ダム中止」は、政権公約の「1丁目1番地」でした。

公約の内容自体がおかしなものであれば、公約を果たせなくても問題ないでしょう。

しかし、川辺川ダムと八ツ場ダムの中止、大型事業の全面的な見直しは、公約として極めてまともなものでした。

●すべてが茶番劇だった

まともな公約でも、諸般の事情により政権公約実現のための努力が実を結ばなかった場合は、国民は許すでしょう。

しかし、八ツ場ダム建設の是非を巡る検討の過程は、何から何まで茶番でした。

「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」(2009年12月3日設置)について、国土交通省の2009年11月20日付けの報道発表資料には、これを設置した趣旨は、「「できるだけダムにたよらない治水」への政策転換を進めるとの考えに基づき、今後の治水対策について検討を行う際に必要となる、幅広い治水対策案の立案手法、新たな評価軸及び総合的な評価の考え方等を検討するとともに、さらにこれらを踏まえて今後の治水理念を構築し、提言する。」ことだと書いてあります。

再度引用しますが、「「できるだけダムにたよらない治水」への政策転換を進めるとの考えに基づき」設置されたのが、有識者会議だったのです。

2010年9月の「中間とりまとめ」にも次のように書かれています。

我が国は、現在、人口減少、少子高齢化、莫大な財政赤字という、 三つの大きな不安要因に直面しており、このような我が国の現状を踏 まえれば、税金の使い道を大きく変えていかなければならないという 認識のもと、「できるだけダムにたよらない治水」への政策転換を進 めるとの考えに基づき今後の治水対策について検討を行う際に必要 となる、幅広い治水対策案の立案手法、新たな評価軸、総合的な評価 の考え方等を検討するとともに、さらにこれらを踏まえて今後の治水 理念を構築していくこととなった。

その結果が「八ツ場ダム建設再開」となったわけです。

有識者会議の主な検討事項は、(1)幅広い治水対策案の立案手法 、 (2)新たな評価軸の検討 、 (3)総合的な評価の考え方の整理 、 (4)今後の治水理念の構築、だったはずです。

ところが、「中間とりまとめ」では、なぜか「個別ダム検証の進め方」というスキームを作るという検討事項が加わりました。

有識者会議は、中川博次京都大学名誉教授らの御用学者ばかりを集め、非公開で審議されました。「会議については傍聴不可、カメラ撮りは冒頭のみとします。」とされていました。

非公開でないと審議できないような学者を「有識者」と呼ぶことはできないと思います。この1点だけでも茶番であり、全ての審議は無効であると思います。

ダム推進派による見直しで危惧したとおりの結果となったわけです。

そして、有識者会議が決めたダム検証スキームが茶番です。

国土交通省の地方整備局、水資源機構、都道府県知事が検討主体となり、関係自治体の首長が検討の場の構成員となれば、「ダムを造れ」の大合唱になることは分かり切っていました。

パブリックコメントが署名形式だったに書いたように、「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書(素案)」に対するパブリックコメント5,963件のうち96%に当たる5,739件が埼玉県の議連が仕組んだヤラセでした。(県議が署名文の原案を作成し、埼玉県議会事務局の職員がその職務として署名簿の「体裁や言い回しなどを確認した」(12月6日付け東京新聞)というのです。同事務局の担当者はパブリックコメントの原案作成に関わっても問題ないと居直っています。)茶番です。

案の定、八ツ場ダムの検討内容も、利水においては、利水参画者の過大な水需要予測をすべて妥当なものとして受け入れ、治水においては、八ツ場ダムの効果を過大に評価しています。

●だれに責任があるのか

この茶番劇の責任はだれにあるのでしょうか。

田中康夫氏から「口先番長」と呼ばれている前原誠司・民主党政調会長が八ツ場ダム建設再開に対して抵抗したのはご存知と思います。これに対して東京都と埼玉県の知事から「2年前に有識者会議の委員選任に関わったのは前原氏だろう。」と批判されています。

そのとおりだと思います。

あんな委員を選べば、ダム推進の結果になることは分かっていました。今更結果が気に入らないと言うのは、子どもじみていると批判されても仕方がありません。

委員名簿を作成したのは、国交省の役人でしょうが、前原大臣は「こんな名簿ではダメだ。」と拒否する権限がありました。拒否しなかった前原氏の責任が一番大きいと思います。

前田武志・国土交通大臣は、元々建設省の官僚であり、後に外務省に出向し、政治家になる前は、シドニー駐在領事だったようです。1986年の総選挙で自民党議員として政界入りを果たしました。

建設省による全面的な支援によって政界入りしたわけではないという話もあり、改革に期待する意見もありましたが、所詮建設官僚OBでしかなかったようです。

国交省の走狗だったと思います。

2011年9月2日、野田内閣において国土交通大臣に就任したわけですが、前田氏を国交大臣に任命した野田佳彦・首相の腹は、八ツ場ダム再開だったということでしょう。

前田大臣の前任者は大畠章宏氏です。

2011年1月に行われた菅第2次改造内閣の組閣で経済産業大臣から国土交通大臣へ補職変更となりました。

大畠前大臣は、八ツ場ダム問題については無関心だったようです。

●民主党には投票できない

愛媛新聞社が次のような社説を書いています。

特集社説2011年12月25日(日)

八ツ場ダム再開 政権交代の意義は失われた

 コンクリートから人へ―のスローガンは魅力満点。新鮮なマニフェスト(政権公約)に期待も大きかった。しかし現実は、迷走する素人芝居の政治でしかなかった。
 
   そんな民主党政権の末路を見ているかのようだ。
   政府はきのう、2012年度予算案に群馬県の八ツ場ダム本体工事建設費など56億円を計上した。国土交通省関東地方整備局の検証結果や、地元自治体の要望などに押されての工事再開決定である。
 
   子ども手当や高速道路無料化などに続き、またしてもマニフェストの撤回だ。最後のとりでともいえる八ツ場ダムの再開で、もはや政権交代の意義は完全に失われた。
 
   政治主導による大型公共事業見直しの放棄でもある。一体、何をしてきたのか。猛省を促すと同時に、再開に至る経緯の説明を求めたい。
   民主党は、ダム建設の中止を09年の衆院選でマニフェストに掲げて、政権交代。9月に、当時の前原誠司国土交通相が中止を表明した。
   しかしその後がいけない。地元との地域振興に向けた協議や、コンクリートに頼らない国土づくりの具体化など、実行しなければならない政策を軒並み先送りにした。
 
   結局、6都県が負担金の支払いを保留するなど、地域の混乱を呼んだだけだ。  こうした迷走で堤防整備などが遅れれば、全国各地の流域住民の命にかかわる。ダム建設をめぐってはなお混迷が予想されよう。国にはまず、ダムを切り離した安全最優先の河川整備を促したい。
 
   そもそもダム中止は、地方を置き去りに巨大公共事業を押しつける国の手法を見直す契機となるはずだった。加えて、国と地方の関係を見直すための、政治主導の真価が問われる局面でもあった。
 
   しかし、全国で凍結されたダムについて是非を検証する「検討の場」の運営主体は、推進側の国交省や自治体。その結果を判断する有識者会議も、国交省の主催だ。
 
   とうてい民主的とは言えない、官僚支配の典型的な手法である。民主党に、真剣に巨大公共事業のあり方をチェックするという理念があったのか、はなはだ疑問である。
 
   政府・民主三役会議では、ダム事業中止の場合、地元の生活再建支援法案を次期通常国会に提出することを確認した。しかし順番が逆だ。ダム中止を言う前に、関連法の整備を行うべきであった。
 
   ダム再開決定は、国と地方の関係はどんな政権下でも是正されないという現実を、国民の前にさらけ出した。その意味で二重に罪深い。
 
   政権交代の意義を、民主党自らが否定している。もう一度、政治主導を示し、公共事業のあり方を直視せずして、政権の継続は許されない。

極めてまともな論説です。

私たちは、民主党が税金の無駄遣いの仕組みを変えてくれるのではないかと期待して政権を託したわけですが、八ツ場ダムについて従来の審議会行政を完全に受け入れたのです。

最早民主党が政権の座に就いている意味はありません。

個人的な意見ですが、鹿沼市民としては、これからは福田昭夫・衆議院議員や松井正一・栃木県議会議員に投票することはできません。

両議員からは、「オレたちは大臣じゃないんだから、八ツ場ダムを止める権限はなかった。中止の公約を貫徹するよう中央に働きかける努力もしてきた。八つ当たりはやめてくれ。」と言いたいかもしれません。

確かにこれまではそうかもしれませんが、こういう結果を見た以上、これから離党して筋を通すことはできます。

12月24日付け産経新聞が「民主党の中島政希衆院議員=比例北関東選出=が、野田政権の八ツ場ダム(群馬県)建設再開方針を批判し離党の意向を固めたことが23日夜、分かった。」と報じています。

中島議員は、「「建設継続は政党政治の歴史に汚点を残す歴史的愚行。八ッ場ダム中止さえ実現できないならば他の改革政策は望むべくもない」と首相を厳しく批判した。」(12月24日付け毎日新聞)そうです。

(文責:事務局)
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