常総市若宮戸の土のうは崩れたのか(鬼怒川大水害)その2

2018-12-30、2019-01-8追記

●土のうに関する情報の確認

前回記事「常総市若宮戸の土のうは崩れたのか(鬼怒川大水害)」で書いたことは、次のとおりです。
1 鬼怒川大水害発生翌日の2015年9月11日に撮影された鬼怒川左岸25.35k付近の航空写真で見る限り、溢水地点に積んだ土のうは、ほとんど崩れていないように見える。(「崩れる」は、2段積みの上段が落ちるという意味で使っています。)
2 その理由は、(1)段差のある場所の低い方の部分に土のうを埋めるかのように置いたので、土のうは、横からの強い水圧を受けていなかったのではないか、(2)土のうを砂の上に置いたので、土のうは崩れる前に底の砂がさらわれ、ほとんどが崩れずに沈み込んでしまったのではないか。
ということです。

このことを踏まえ、国土交通省が若宮戸左岸25.35k付近の溢水状況を示す唯一の写真(図1。例えば『平成27年9月関東・東北豪雨』に係る洪水被害及び復旧状況等について(2017年4月1日)p21)。について考えてみます。

図1
若宮戸溢水状況

その前に25.35k付近の発電事業者Bの事業用地内に国土交通省が積んだ土のうに関する情報を確認しておきます。

●土のう積みの形

図2は、土のう積みの位置図です。右が上流(北)です。

太い赤線が土のうの設置場所ですが、実際の土のうは曲線を描いている部分もあるのに、すべて直線で描かれており、所詮イメージ図でしかありません。したがって、おおよそのことしか分かりません。

並べた土のうの形は、人家側から見て凹の字型です。事業者Bの隣地の地形は張り出し舞台のようになっていて、張り出しの先に行くほど低くなっていたと考えられます。

位置図に記載されているように、大型土のうの数は794個です。位置図左下に示されているように、横断面を品の字型に積んだのですから、1か所に3個必要なので、3列で割って約264個を横に並べたということです。

1個の土のうの幅は約1mなので、1列の長さは約264mとなります。

土のうの列は折れ曲がっていますが、横から見れば約200mというのが国土交通省の説明(例えば『平成27年9月関東・東北豪雨』に係る 洪水被害及び復旧状況等について2017年4月1日のp22)です。

現在の衛星写真(図3)をGoogleマップで見ても、事業者Bは、河畔砂丘を約200m掘り崩したと思います。

掘削幅が約150mであると、常総市議会やネットでまことしやかに語られていたことについては、鬼怒川大水害で河畔砂丘の掘削量は150m×2mではなかったに書いたので、興味のある方はご覧ください。

土のうの列を横から見れば約200mだとすると、張り出し部分の先端(東)の幅は約66mで、側面の長さは、下流側が約26m、上流側が約36mもあることになります。張り出しでない部分の長さは、下流側(左)が約80m、上流側(右)が約54mでしょうか。グーグルアースが使えれば、被災直前の写真を呼び出して「定規」機能で正確に測れるのですが、私は使えません。しかし、大きくは違わないと思います。



図2
土のう位置図

図3
衛星写真


●土のう積みの形その2(2019-01-08追記)

土のう積みの各部分の大きさについて、上記のとおり推測しましたが、大きく違っていましたので、訂正します。

図2の赤線は、本当のフリーハンドのイメージ図で、事実とは大きく異なります。

図5は、被災前の土のう積みの写真です。ヤフー地図で若宮戸を検索すると、グーグルマップでは被災後の写真になっているのに対して、本考察に好都合なことに、被災前の写真のままでした。撮影時期は、2015年2月頃だと思います。

距離計測機能で土のう積みの延長を直線距離で図ると、やはり約200mでした。

図5
ヤフー地図200m



凹の字の土のう積みの各部分の距離を距離計測機能で図った結果を図6に示します。

縦の部分の距離を足しても約200mになりません(185m)が、それは、土のうが直線で積まれていないことや張り出し舞台が直角に張り出していない(上流側)こと等によるものと思います。

今後こそ、事実と大きく異なることはないと思います。

若宮戸で堤防の役割りを果たしていた河畔砂丘が発電事業者によって掘削されたことに対して、国土交通省がどのような対応策を講じたのかを明確に認識することが、国の責任を考える上で必要だと思います。

図6
貼り出し舞台距離



●土のう積みの高さ

図4は、土のう積みの高さ(Y.P.での標高)を示します(梅村さえこ前衆議院議員取得)。

折れ曲がりを無視して測点の標高を下流側から並べると、以下のとおりです。

下流
21.346m
21.177
21.148
21.318
21.414
21.233
21.353
上流

国土交通省は、これらの標高から土のう2段分の高さを1.6mとみなして差し引き、その平均値約19.7mを、事業者Bが河畔砂丘を掘り崩した後の地盤高と説明しています。

図4
土のう標高

さて、上記写真(図1)にはいろいろ問題はあるのですが、今回は土のうが崩れたのか、という問題に絞って考えてみます。

●どこからどこを撮ったのか

冒頭の図1の写真は、どこからどこを撮ったのかというと、土のう積みの最下流部(最南端)に近いところから上流側(北西)に向けて撮ったと思います。つまり、張り出し舞台より下流側を写したと思います。

●土のうに不陸が生じている

この写真から何が分かるかというと、この写真を撮った時点(国土交通省の説明が正しければ「9月10日6時過ぎ」)で、土のう積みに既に不陸が生じている、ということです。

総延長264mにもなる土のう積みは、ほぼ水平に積まれました。

土のう積みの標高は上記のとおりであり、最高と最低の差は、21.414m−21.148m=0.266mです。つまり、約27cmです。

しかし、写真を見ると、越流している部分と、していない部分の土のうの高さは、約27cmよりはるかに大きいと思います。

越流水の標高が周りの土のうより低く見えるので、越流部分の土のうはかなり大きく沈み込んでいると思います。

●土のうの隙間や下から漏れ出ている

写真中央部で越流していますが、越流幅はせいぜい20mくらい(土のう積みの幅は約200mなので10%未満)に見えます。そこから越流して放射状に流れたにしては、水の量が多すぎないでしょうか。

国土交通省は、これまでの報告書で「若宮戸地先では、9月10日6時過ぎに溢水を確認」(『平成27年9月関東・東北豪雨』に係る洪水被害及び復旧状況等について2017年4月1日p21)としか書いていなかったのに、鬼怒川大水害国家賠償請求事件訴訟の答弁書(2018年11月28日)p8で被告(国)は「9月10日午前6時頃に(若宮戸で溢水が)発生した」と、溢水の発生時刻について言い出しました。

「6時過ぎ」と「6時頃」がいつを指すのか分かりませんが、国土交通省の腹は、溢水が始まってから極めて短い時間に土のうの一部から越流した写真のような状態になったことにしたいということだと思います。

そうだとすると、「6時頃」に溢水が始まって間もない「6時過ぎ」には既に土のう積みから越流し、越流していない部分でも1段目が水没していることになります。

そして、越流していない土のうの底や隙間からも洪水が吹き出しているようにも見えます。

左手の越流していない土のうを発信源とする波頭が見えるような気がします。

以上のような見方は、2015年12月という早い時期にジャーナリストのまさのあつこ氏がヤフーニュースで指摘していたことで、私の発見ではありません。本稿は、その指摘の蒸し返しと言うこともできます。

時々参照したくなるのですが、残念ながら同氏のヤフーニュースは削除されていて、今は見ることができません。

図1については、問題点は他にもあるのですが、それを書くのはかなり後になります。

(文責:事務局)
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