高鈴事件は集団的自衛権容認の根拠にならない(その3)

2015-11-24

●米英軍がイラクでやったことを直視すべきだ

米軍がイラクで民間人を虐殺した証拠は、ウィキリークスが下記のURL等で提示しています。

米軍によるイラク民間人へのヘリ攻撃動画、Wikileaks にて公開されるz https://www.youtube.com/watch?v=uPZmwNBBp10
07年の米軍ヘリによるイラク市民爆殺事件(1)
https://www.youtube.com/watch?v=5k2cluTc7Uk
07年の米軍ヘリによるイラク市民爆殺事件(2)
https://www.youtube.com/watch?v=7bLgAn9-WC4
07年の米軍ヘリによるイラク市民爆殺事件(3)
https://www.youtube.com/watch?v=Y4aJIiReztA
【世界まる見え!】 「ウィキリークス」が暴露した アメリカの衝撃映像
https://www.youtube.com/watch?v=kQj-csuQwWk

岡本氏は、米英軍がイラクでやったことを直視すべきです。

ジュリアン・アサンジ氏が言うように、百歩譲って米英軍がイラクに駐留することが違法でないことを認めるとしても、ケガ人を助けようとする人を撃つことは戦時国際法に違反します。

戦時国際法では、負傷者や民間人を攻撃することは禁止されています(シェアしたくなる法律事務所というサイトの「戦争にもルールがある。 「戦時国際法」の内容とは」というページ参照)。

●米軍に殺されたイラク人やその遺族はかわいそうでないのか

岡本氏は、幼子がいるのに殉職した米軍兵士がかわいそうだと言いたいのだと思います。

では、例えば、上記米軍ヘリによるイラク市民爆殺事件の被害者とその遺族はかわいそうではないのでしょうか。

この事件では、報道関係者(ロイターのカメラマンとドライバー)も殺害されました。ドライバーのサイード・シュマフ氏には4人の子どもがいたことが上記「世界まる見え!」から分かります。岡本氏は、彼らがかわいそうだとは思わないのでしょうか。

岡本氏の見方は、自分にとって都合の悪いものは見ないという、一方的な見方だと思います。

●イラク戦争の理由は石油利権

高鈴事件を理解するには、イラク戦争の理由が石油利権だったことを押さえておく必要があります。

YouTubeの【拡散希望】311の犯人〜アメリカ政府は事前に東北大地震を知っていた! part 2によれば、イラクの石油埋蔵量は世界有数で、他方、当時、アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュ、コンドリーザ・ライス国家安全保障問題担当大統領補佐官及びリチャード・チェイニー副大統領は、揃いも揃って石油を飯の種にしていた人たちで、石油業界とはつながりが深いのですから、イラク戦争の真の理由は、石油利権と見られても仕方のないところです。

フリージャーナリストでNGO「イラクの子どもを救う会」代表の西谷文和氏によると、「イスラム国を生んだのは、イラク戦争とその後の米軍占領です。ブッシュは「大量破壊兵器」の存在をねつ造し、03年、イラク戦争を強行しました。イラクを占領した米軍はそれまでのイラクの軍・国家機構を解体して無政府状態を作り出しました。米国の石油メジャーや建設資本が入り込み、イラクを軍需、石油、鉄鋼、治安ビジネスの一大市場と変えてしまったのです。」、「「残忍なように見えるイスラム国を作って、テロとの戦いをずっと続けたい」というのが、アメリカの本音なのです。空爆は軍需産業に利益をもたらし、空爆でもたらされた無政府状態によって、石油メジャーはイラクの原油の75%を強奪しています。」(ピーブルズニュースの「イラク戦争・占領が生み出した「イスラム国」/「テロとの戦い」で利益得る米軍産複合体/追随する「安倍政権の正体」を見抜こう)。

●イラクの石油の落札者は実質はアメリカの企業だった

Wikipedia「イラク戦争」によれば、「戦後、開発の権利は入札によって他国に取られてしまった」というところまでしか書いていないので、「アメリカの目論見が外れた」とか「侵略の目的は石油利権ではなかった」という見方をしてしまう人もいると思いますが、高遠菜穂子氏は次のように報告しています(法学館憲法研究所というサイトのイラク戦争って何だったんだろう?というページ)。

このイラク復興資金の原資はイラクの石油収入だということだ。その石油、以前はイラク国営だったが、イラク戦争後は民営化され、海外企業がその掘削権争奪を繰り広げている。今年(2011年)6月16日付けのニューヨークタイムスに「イラク石油産業の復興、米下請け企業が支配」という記事があった。

内容はこうだ。2年前に最大規模の掘削権を獲得したのがロシアのルクオイルで、米石油メジャーのエクソンモービルを押さえての"勝利"だった。アメリカは国際入札では負けたが、「石油のためのイラク侵略」という汚名を挽回するには効果的だった。公平に見える石油利権。ところが、下請け企業はハリバートンなど米企業4社で独占されているという。ルクオイルのトップによれば、国際入札といってもその下請け企業として実際に入札してくるのは米企業のみだそうだ。

つまり、アメリカはイラクの石油でしっかりもうけているということではないでしょうか。高遠氏の報告を読まなかったらWikipedia「イラク戦争」の著者にだまされるところでした。

「イラクは石油輸出の決済をドル仕立てからユーロ決済への移行を決定していた。これが実行されるとアメリカドルの世界基軸通貨としての地位が揺らぐため、それを阻止するための防衛戦争として侵略を決行した」(Wikipedia)とも言われています。

アメリカが戦争を起こすのは、余った兵器の在庫処分の意味もあったでしょうが、やはり石油が目的だったと見るべきです。

●奥克彦大使もイラク戦争の目的は石油であると明言していた

アメリカ軍に暗殺されたと思われる奥克彦氏も、2004年3月6日に放送された、NHKスペシャル「奧克彦大使 イラクでの足跡」で「アメリカのイラク戦争の目的は大量破壊兵器ではなく石油利権である」と断言しています。具体的には、次のように発言したようです(ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報というサイトの「奥克彦氏の不審死の理由を問わず、アメリカに隷従せよと説く岡本行夫氏(3)」)。

明らかにまずイラクの石油を温存する。その次はイラクの生産体制をアメリカのコントロール下に置く。これが最初からこの戦争のねらいだったと思いますけどね。その体制をアメリカは作っているなというのが非常によく分かりましたけどね。
大量破壊兵器が見つかったかどうかということの関心?そこに対する関心って言うのはあまりないんですよね。それは戦争をはじめる理由のひとつだったですけれども、そのためにやっているわけじゃないから。それはサダムのレジーム(政権)をつぶすためにやっている戦争だから。

なお、岡本氏は、「すでに2名の外務省職員が尊い命をテロリストに奪われました」(2015.7.13産経)と言いますが、そのテロリストとは米軍である可能性が大きいことは既に議論されているとおりです。

岡本氏は、記者から「国会で現在もくすぶる奥(克彦)さんらへの「米軍誤射説」についてはどうなのか。」と聞かれて、「私は米軍の行動様式を知っているが、そのようなことはあり得ない」と答えています(2004 年 4 月 26 日付け東京新聞)。

誤射ではあり得ない、つまり、イラク戦争のねらいが石油であることを公言していた奥大使が意図的に殺されたことを認めているようにもとれます。

●アメリカは40年間、石油の輸出を禁止していた

「バラク・オバマ政権は先週、ほぼ40年ぶりに米国産の原油を輸出する許可を出した。1975年に米企業による原油輸出が禁止されて以来、初めてのことである。」(JBPRESSの2014年06月30日付け「40年ぶりに原油輸出に踏み切った米国の事情」)そうです。

なぜ2014年までアメリカは原油の輸出を禁止していたかと言えば、アメリカが世界の原油を押さえてしまえば、経済的にも軍事的にも優位に立てるという考え方があるからだそうです。

アラン・マースという人が次のように書いています(ファルージャ2004年4月というサイトの「「黒い金」の国際争奪戦:石油と帝国」というページ)。

米国政府が石油を追い求めるのは、単に利益を求めてだけのことではない。まして、普通のアメリカ人が依存している日常品である石油の供給を確保するためだけでもない。石油は権力にも関わっている。諸国家の経済的・軍事的な力が石油にどれだけアクセスできるかに大きく依存している現在の世界では、米国がより多くの石油を支配すれば、ライバルたちが支配できる石油は減る。

この二重の計算----自らの需要のために石油へのアクセスを確保する一方で、他国の石油アクセスを支配すること----こそ、19世紀末から21世紀初頭に至るまで、米帝国と石油の歴史にとって中心的なポイントであった。

イギリスのガーディアン紙の2014年3月20日付けIraq invasion was about oilも米英のイラク侵略は石油が理由だったと言っています。

アメリカがイラクの石油を支配しようとしたことを疑う余地はないと思います。

●米英が秩序を破壊した

岡本氏は、「一部のマスコミは、秩序を維持する側と破壊する側のどちらを被害者、どちらを加害者と考えているのだろうか。何かがおかしい。」と書きますが、イラクのフセイン政権が大量破壊兵器を保有していなかったにもかかわらず、米英が侵略の理由をねつ造してイラクの秩序を破壊したのです。

そして、「米軍によるイラク戦争と、分断統治政策にもとづく占領は、イスラム教スンニ派とシーア派との対立をあおり、内戦ともいえる混乱をつくりだしました。」(2015年7月8日付け赤旗)。

高鈴事件で戦死した上記米兵らは、アメリカの支配者層による金もうけ主義の犠牲者です。彼らは直接的には自爆テロで殺されたのですが、自爆テロが起きた経緯や理由を考えるべきです。最初に秩序を破壊したのは、正当な理由がなくイラクを侵略した米英であるという経緯や因果を見据えた上でなければ、彼らの死の意味は理解できません。

テロが絶対悪なら、侵略戦争もまたテロであり絶対悪です。

語源由来辞典によると、「テロとは、政治的目的のために、暗殺・暴行・破壊活動などの手段を行使すること。また、それを認める主義。恐怖政治。」です。

そうだとすれば、アメリカがイラク戦争でやったこともテロです。

中村隆市ブログ 「風の便り」によると、イラク戦争の犠牲者 推定50万~65万5千人 7割以上が民間人です。

少なめに見ても、イラク戦争から10年、民間人の犠牲11万6000人 米報告(2013年03月15日付けAFP)という数字があります。

「亜空間通信」というサイトの「戦争の姿」というページにクラスター爆弾を使用した「米軍によるバスラ市爆撃の犠牲者50人の一部」の画像があります。米英のやったこともテロでしょう。

アフガニスタンで復興支援を続けていた「ペシャワール会」の伊藤和也氏を殺したのも、高鈴事件で米兵らを殺したのもテロリストかもしれませんが、イラクを侵略した米英もそれらを支援した日本もテロリストです。

実際、イラク戦争に行った米兵だったマイケル・プリスナー氏は、「自分たち米兵がテロリストだった」と言う(戦争に行ったアメリカ兵の告発)ほどひどいことをしてきたのですから、米兵がテロリストだったことは否定できないと思います。

岡本氏は、アラブの人たちがやったテロだけを取り出して秩序の破壊者だと非難しますが、侵略戦争という名のテロを始めた者、それに加担した者がやったことに触れないのは、フェアな議論ではありません。

岡本氏の見方は一方的だと思います。

●イラクに混乱と秩序破壊をもたしたのは誰か

岡本氏は、小泉内閣メールマガジン第120号(2003年12月11日)で次のように言います。

毎日のようにかかってきていた奥大使からの電話もなくなりました。僕は、先週は奥大使と井ノ上書記官の死を嘆き悲しんでいましたが、今週はそれが怒りに変わりました。敵討ちをしてやるという気持ちです。敵討ちとは、テロリストたちが望んでいるようなイラクの混乱と秩序破壊を起こさせないということです。

そもそもフセイン政権打倒を目論み、イラクを侵略し、イラクに混乱と秩序破壊を起こしたのは米英やその侵略を支援した日本などの国々でしょう。

岡本氏の見方は一方的だと思います。

●脈絡無視は詭弁だ

岡本氏は、米兵らが自爆テロで殺されて気の毒だと言いたいのでしょうが、そして、それは確かにそうなのですが、だからといって自衛隊の派遣に結びつけるのは詭弁です。

経緯を無視して自分に都合のよい事実を取り出す論法は、「都合の良い事例のみを挙げる(観測結果の選り好み)」という詭弁です(論理的思考力と論理的な討論 議論 ディベート ディスカッションというサイトから)。

こうした詭弁は、アメリカ建国史でも見られます。例えば、wikipediaで「サンドクリークの虐殺」を読んでください。

侵略者からインディアンと呼ばれた先住民が侵略者を襲撃した事件は確かにあります。しかし、その前に侵略者が先住民に対してひどいことをしているものです。

ところが侵略者は、経緯を無視して、「やられたからやり返す」という大義を掲げて先住民を虐殺しました。

イスラエル人がパレスチナ人を虐殺するときも同じ論法が使われます。

田中宇氏も田中宇国際ニュース解説の「米イラク統治の崩壊」で次のとおり同様の見解を示しています。

米軍がファルージャで行ったような、占領下の市民をわざと挑発し、怒らせてゲリラ攻撃を煽り、その上で正当防衛と称して大攻撃を仕掛ける作戦は、イスラエル軍がパレスチナ占領地で行っている手法である。そして、今回のファルージャ大攻撃につながる3月31日の「アメリカの民間人」4人がファルージャで殺害された事件も、米軍側が大攻撃を仕掛けるための口実として起こした可能性が高い。

岡本氏の論法も「都合の良い事例のみを挙げる」という詭弁です。

●警察も脈絡無視の術を使って不当逮捕をする

2015年11月30日号の週刊プレーボーイに渡瀬夏彦氏が次のように書いています。

県民を排除する機動隊員が、ある男性を挑発するためにわざと手で腰を突き、反発したところに複数の機動隊員が襲いかかって「不当逮捕」するという事件が起きた。

確かに、県民が機動隊員に反発した場面だけを見れば、公務執行妨害罪の現行犯のように見えるかもしれませんが、先に手を出しているのは機動隊員の方です。挑発行為の暴行については不問に付して、反発行為の暴行についてだけ逮捕理由にする。それが「不当逮捕の術」です。

警察も「自分に都合のよい事実だけを取り出す」という詭弁が大好きです。

世の中を自分の思いどおりに動かしたい人たちは、この手の詭弁を常套手段としているので、私たちは、事の経緯をよく見て、だまされないようにしなければなりません。

●日本政府は事実に基づかずにイラク戦争を支持した

なお、日本がイラク戦争を支援した理由について、小泉氏は次のように説明していました(小泉内閣メールマガジン第87号(2003年3月20日))。

戦争か平和かと問われればだれでも平和と答えるでしょう。私もそうです。
しかし、問題は、大量破壊兵器を保有するイラクの脅威に私たちがどう対峙するかです。イラクは12年間、国連の決議を無視し、大量破壊兵器の破棄をしてこなかったのです。

武力行使が始まると、犠牲者なしではすまされません。しかし、大量破壊兵器、あるいは毒ガスなどの化学兵器、炭疽菌などの生物兵器が独裁者やテロリストによって使われたら、何万人あるいは何十万人という生命が脅かされます。フセイン政権がこれらの兵器を廃棄する意思がないことが明らかになった以上、これを放置するわけにはいきません。このアメリカの決断を支持する以外に解決の途はないと思います。これが、支持の理由です。

小泉氏は、イラクが大量破壊兵器を保有するという前提で説明しており、完全な誤りです。

同じ号で岡本氏は次のように書いています。

武力行使が良くないと言うのは簡単だし、僕自身もそう論評してきました。
ただここに至って「武力なしでの問題解決」という最善の選択肢が消滅してしまった後の日本の「次善の選択肢」としては、アメリカを支持することしかないと思うのです。フセインが大量の毒ガスや細菌兵器を隠し持っていることはまず疑いないでしょう。でなければ彼は巨額の経済的損失をイラクにもたらす国連の経済制裁を甘受し続けてきたはずがない。アメリカは国連に見切りをつけて少数国だけで、その除去に乗り出したわけです。

しかし、地球上の全人口を何度も繰返し殺害できるくらいの大量破壊兵器をイラクの手から取り上げなければ、そうした兵器がやがて世界中に拡散して取返しのつかないことになる。それにその行動の先頭に立つアメリカは、いざというときに日本を守ってくれる唯一の同盟国である。アメリカ支持しかない…。そのとおりだと思います。

このように、岡本氏も「フセインが大量の毒ガスや細菌兵器を隠し持っていることはまず疑いないでしょう。」と決めつけた上で、米英のイラク侵略を支持しましたが、事実誤認を根拠とする判断だったわけです。

「「武力なしでの問題解決」という最善の選択肢が消滅してしまった」という記述も意味不明です。岡本氏が勝手に「武力なしでの問題解決」という選択肢を消滅させているのだと思います。

岡本氏は、「地球上の全人口を何度も繰返し殺害できるくらいの大量破壊兵器をイラクの手から取り上げなければ、そうした兵器がやがて世界中に拡散して取返しのつかないことになる。」と書きますが、イラクから取り上げなければならない大量破壊兵器がなかったことについて岡本氏が反省の弁を述べたという話は聞きません。

ペガサス・ブログ版というブログの岡本行夫が「イラク大量破壊兵器保有説」を吹聴した現物証拠というページには、次のように書かれています。

(岡本氏が)この誤りを反省したという話を聞かない.反省したとしても国際情勢判断において無能だったという「実績」は消えない.もし有能であり,嘘と知って人々を欺いたとすれば,許し難い犯罪者ということになる.
どちらにしても,テレビなど「公器」に登場して話をする資格など全くない人物である.

なお、「アメリカは、いざというときに日本を守ってくれる」という記述も事実とは違います。その時々の米議会の判断による(日米安全保障条約5条1項参照)のであって、アメリカが日本を常に守ってくれるとは限りません。

東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏も岡本氏と同様の考えのようで、「やはり、米国と連携を強めて中国に対抗するのがもっとも安上がりで、しかも現実的なのだ。集団的自衛権の行使を容認して、米国をつなぎとめる戦略である。」(長谷川幸洋氏「イスラム国ほかテロとの戦いと、集団的自衛権の行使容認との関係を、安倍政権はなぜ曖昧」)と言いますが、長谷川氏が条約を読んだ上で言っているとは思えません。

岡本氏は事実に基づかずに自衛隊のイラク派遣に関与し、巨額の税金を消費させ、隊員の命を危険にさらした(インド洋も含め派遣された隊員から自殺者が54人出ています。派遣自衛隊員の自殺者はイラクで29人、インド洋25人 武力行使の「例外」拡大 安保法制国会 リスクを語らぬ不誠実)のですから、自衛隊の海外派遣を主な目的とする戦争法案について懲りずに賛成できる立場にはないはずです。

●産経新聞もイラク戦争に大義がないことを認めた

wikipedia「産経新聞の報道」には、次のように書かれています。

2003年のイラク戦争の“大義”をめぐり、時の産経抄筆者・石井英夫は、開戦当時「大量破壊兵器の廃棄を目指す戦いだ」と主張した。大量破壊兵器の捜索が難航するにつれ「独裁政権打倒の是非が、この戦争の大義を問う鍵である」と主張を変え、発見が絶望的になると「戦争に大義や正義を主張するのは無意味」と主張した。小林よしのりは、イラク戦争中数度にわたって『新・ゴーマニズム宣言』の中で石井の主張を批判している。

産経新聞の主張はご都合主義です。そして、イラク戦争に大義がないことを認めたということです。

ちなみに、戦争に大義を求めることは、確かに、産経抄筆者の石井英夫氏が言うとおり、ナンセンスです。

●国会は戦争の大義を判断できない

話が本筋から逸れますが、戦争の大義と関連して、荒井広幸・参議院議員(新党改革)が集団的自衛権の行使に際して国会の事前承認制度があれば、(戦争をする正当な理由があるかどうかをきちんと判断できるので、ということでしょう。)歯止めになると言っていますが、ナンセンスです。

荒井氏は、国会議員の能力を過大評価していますし、特定秘密保護法の存在も忘れています。戦争を開始する理由は、国会議員にも国民にも開示されません。

2015年9月の参議院での審議においても、政府は、集団的自衛権の行使の際の被攻撃国からの要請文の原本さえ国会に開示しないと説明しています。岸田外相が水野賢一議員に「要請文は相手国との関係で明らかにしていない」と答弁しています(杉原こうじのブログの集団的自衛権問題研究会 News&Review 特別版 第32号(一般質疑録))。

政府は国会に事実を知らせないのですから、国会は議員の能力がいくら高いとしても、事実に基づいた適正な判断をできるはずがありません。また、正確な情報が国会に提供されたとしても、そして野党議員が正鵠を得た議論をしたとしても、採決の段階では、与党に数で負けますから、通りません。

したがって、国会の事前承認は、歯止めになりません。

●テロリストに抑止力は働かない

岡本氏は、集団的自衛権行使容認論の根拠として高鈴事件を持ち出しています。

そして、集団的自衛権行使容認論は、抑止力を高めることで戦争が起きないようにするのがねらいだと解説されています(「わかりやすく簡単に解説するサイト」の「【集団的自衛権】抑止力とは?わかりやすく解説」参照)。

安倍首相も「もし日本が危険にさらされた時には、日米同盟は完全に機能する。そのことを世界に発信することによって抑止力はさらに高まり、日本が攻撃を受ける可能性は、一層なくなっていくと考えます。ですから、「戦争法案」などといった無責任なレッテル貼りはまったくの誤りであります。」(BLOGOSの「【詳報】「"戦争法案"などという無責任なレッテル貼りは全くの誤り」〜安全保障法制関連法案の閣議決定で安倍総理が会見」)と言っています。

つまり、安倍首相は、戦争法案は、戦争をするための法案ではなく、抑止力によって戦争を未然に防止するための法案であると言っています。

そして、「安倍政権が平和安全法制の根拠として繰り返し強調しているのは、「1972年の自衛権に関する政府見解が出された40年前と比べて、国際社会の環境は大きく様変わりしている。中国やインド等の台頭で世界のパワーバランスが変化し、軍事技術の進化に伴う大量破壊兵器、サイバー攻撃、テロ等の脅威が増大し、かつ脅威が国境を越えて広がる世界の中にあって、どの国も一国では自国の安全を守れない状況になっている」という点」(山本一太参議院議員のブログの安倍総理の味方が一人もいなかった朝まで生テレビの戦後70年特番:その1)です。

つまり、政府は、テロの脅威の増大を集団的自衛権行使容認の根拠としています。

以上により、政府は、テロを抑止力で防ぐと言っています。そのために集団的自衛権の行使が必要だというわけです。

岡本氏も「集団的自衛権こそが武力攻撃に対する抑止力になる」と言っています(篠田博之氏による「報道ステーション」は大丈夫なのか? 4月24日の岡本行夫氏出演めぐる意味)。

しかし、「(「テロリストの核」という問題は)国家と違ってテロリストには報復核攻撃されて困る都市がないので、世界最強の米国の核戦力を持ってしても、弱小国家以下の存在であるテロリストが米国や同盟国の都市で核兵器を爆発させることを抑止できないというパラドックスである。核抑止は喪失の脅迫で効果を得るので、喪失するものがない非対称な相手には効きにくいともいわれる。」(Wikipedia「核抑止」)そうです。

主流メディアの報道によれば、アメリカもフランスもイギリスも、強大な軍事力を保有するにもかかわらず、テロリストから攻撃を受けています。テロに抑止力が効かない証拠です。

岡本氏は、「イスラム国と称するISILは国に準ずる組織であると思います。」(2015.7.13付け産経)と言いますが、2015年11月13日のパリでのテロ事件は、犯人が「イスラム国」だとすれば、「イスラム国」に対して抑止力が働いていない証拠です。(なお、政府は日本人を誘拐・殺害した「イスラム国」が国家に準ずる組織であるかどうかについて、2015年2月現在、判断していません(2015年 2月 2日付けロイター記事「イスラム国が国家に準じる組織か、判断していない=中谷防衛相」)が、自民党の「切れ目のない対応を可能とする国内法制の整備を」という方針に矛盾すると思います。

したがって、高鈴事件の犯人が国家やそれに準ずる組織だったとしても、テロ攻撃事件を例に挙げて集団的自衛権行使容認の根拠にしようとするのは筋違いです。

岡本氏も「他国の海軍も外国と日本船舶を一緒に護衛しています。現在、海上自衛隊がやっていることは海賊対処法に基づく警察行為でありますが、相手が国または国に準ずる組織に変われば、自衛隊の行動は集団的自衛権に変わりますから護衛任務から離れなければならなくなります。」(2015.7.13産経)と書いているのですから、相手が国又は国に準ずる組織でない場合、つまり相手が海賊とか国に準ずる組織と見られないテロリスト集団の場合は、集団的自衛権の問題ではないと言っています。

そうだとすれば、岡本氏が集団的自衛権行使容認の根拠として高鈴事件(アルカイダの犯行とされるが、アルカイダは国に準ずる組織とは見られていない。)を挙げることは矛盾しています。

そして、テロを抑止するために集団的自衛権を行使するという政府の説明も成り立たないことになります。

そもそも強大な軍事力がテロリストにとってはもちろん、国家にとっても抑止力にならないと思います。1941年12月8日、大日本帝国は、強大な軍事力を持つアメリカに戦争を仕掛けたのは、軍事力が抑止力になっていない証拠です。

●シーレーン問題を絡めて集団的自衛権を正当化するのは無理

例えば、ペルシャ湾でアメリカの民間の船舶が「イスラム国」のような、岡本氏によれば国家に準じる組織から攻撃を受けた場合、自衛隊が守れるかと言えば、実際の戦争法によれば、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合でなければならないという要件を満たす必要があるのですから、一般には守れないというのが結論になるでしょう。シーレーン問題に絡めて集団的自衛権を正当化するのは無理です。

●岡本氏には立憲主義が欠けている

岡本氏の主張は、日本国民が幸せに生きるためには、国際社会(=アメリカ)と一緒になって戦争をすることが必要なのだから、そのための法整備をするべきだというふうに私には聞こえます。

戦争法の整備は憲法違反ではないのかという点については、「必要なことは憲法を変えなくてもできるはずだ」という発想があると思います。

「「憲法守って国滅ぶ」では本末転倒だ。」(大川隆法・幸福の科学総裁)、憲法を無視して何が悪い、というような居直りの発想があると思います。

必要だから、時の政権与党が数の力で何でもできるというのでは、憲法の存在意義を否定することになります。

なお大川氏は、「「憲法守って国滅ぶ」では本末転倒だ。」と言いますが、「国防マフィア栄えて国滅ぶ」となってもよいのでしょうか。現に第2次世界大戦前の日本はそうなっていたのに、反省はないのでしょうか。

人類の叡智である憲法の存在意義を否定するとどうなるのでしょうか。

「ヒトラーは、ヴァイマル憲法そのものを廃止したり変更したりすることなく、憲法に違反する法律を次つぎと作って、事実上この憲法を抹殺」(池田浩士「ヴァイマル憲法とヒトラー」岩波現代全書)したそうです。その後ドイツがどうなったかはご存知のとおりです。

●現行憲法では国民を守れないと言うなら、憲法を改正するのが筋

岡本氏が国民の幸福な暮らしを実現するという目標を掲げるのであれば、憲法を骨抜きにするとどうなったかという歴史から学ぶべきです。

自衛隊の存在を多くの憲法学者が容認しているという前例があるのだから、集団的自衛権行使も解釈で認めたっていいじゃないかというのが、首相や岡本氏の意見ではないかと思いますが、憲法に「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」(第9条第1項)と書いてある以上、自衛戦争の範囲を超えての「戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」ができると解釈することは文理上無理があります。

岡本氏などの安倍政権を支持する勢力が「憲法第9条を守っていたのでは国民の命を守ることができない」と考えるのであれば、憲法を改正するしかありません。

ただし、そうした勢力のねらいは国民の命を守ることではなく、私益だと思います。

なぜなら、軍需企業は自民党(国民政治協会)に莫大な額の政治献金をしているからです。

2015年6月3日付けしんぶん赤旗の「軍需9社の献金倍増自民の政権復帰後 1億5070万円 井上氏ただす」によれば、防衛省の中央調達契約額の上位10社のうち9社からの自民党(国民政治協会)への献金額は1億5,070万円(2013年)にもなります。

内訳は以下のとおりです。
三菱重工  3,000万円
三菱電機  1,820万円
川崎重工業  250万円
日本電気  1,500万円
IHI    1,000万円
富士通  1,000万円
小松製作所 800万円
東芝   2,850万円
日立製作所 2,850万円
合計  1億5,070万円

カネが目的で動いている人たちの軍事的脅威増大論にだまされてはいけません。

●まとめ

2003年に岡本氏は、イラクが大量破壊兵器を持っていないにもかかわらず、持っているはずだと言って、国民をだまし、日本がイラク戦争を支援することについて内閣官房参与として大きな役割りを果たしました。多額の税金が大義のない戦争に使われました。イラク戦争に関連して派遣された自衛隊員が54人も自殺しました。航空自衛隊は、2003年12月から5年間にわたり米兵だけで23,000人以上を空輸しました。「これら米兵はイラク各地で「武装勢力掃討」という名の無差別攻撃を繰り返しました。」(2015年11月22日付け赤旗)。

テレビ局や国会はなぜ岡本氏に意見を求めるのでしょうか。戦争を支援するべきかという重大な局面で正しい判断ができなかった人に、テレビ局や国会から報酬をもらって、日本が他国の戦争に参加する話について意見を言う資格があるとは思えません。また、軍需産業から収入を得ているのですから、発言に客観性がありません。

岡本氏は、高鈴事件について、高鈴が襲われただのターミナルが襲われただのと言うことが定まりません。事件が真夜中に起きたというのも、高鈴が原油を積んでいた際に自爆テロボートに襲われたというのも岡本氏の脚色でしょう。高鈴事件は、講談と化していると思います。イラクが保有するとされた大量破壊兵器について情報を持っていなかった岡本氏は、高鈴事件についても確たる情報を持っていないのだと思います。

岡本氏の主張は、船籍が外国にある日本のタンカーを米兵が命をかけて守ってくれたのだから、日本も外国を守るために武力を行使すべきであるというものです。

しかし、実質的な船主である日本郵船に自社のために税金を使うように求める資格があるのか疑問ですし、米兵は高鈴を守るために殉職したわけではなく、前提が成り立ちません。

高鈴事件とは、高鈴の被害について公的な記録がないのですから、正確な実態は不明ですが、事の経緯を見れば、アメリカが仕組んだイラクの石油の分捕り作戦に加わってもうけようとした日本の企業が、当時外務省から出されていた渡航自粛勧告を無視して危険な地域にタンカーを出して自爆テロの巻き添えを食いそうになったという事件と見るべきです。

国家に準ずる組織によらないテロは、集団的自衛権の対象ではないというのが岡本氏の見解(多分政府の見解でもある。)ですから、高鈴事件は、集団的自衛権の問題でありません。タンカーが金もうけのために危険を承知で自ら危険に接近したのですから、シーレーンの問題でさえないということです。

テロリストやテロ国家に抑止力は働かないという観点からも、岡本氏が高鈴事件を集団的自衛権行使容認の根拠として挙げるのは筋違いです。

高鈴事件は集団的自衛権容認の根拠にならない(その1)
高鈴事件は集団的自衛権容認の根拠にならない(その2)
高鈴事件は集団的自衛権容認の根拠にならない(その3)

(文責:事務局)
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