栃木県水道ビジョン原案への有識者意見があった

2019-02-03

●「栃木県水道ビジョン」の原案についての有識者の意見が存在した

栃木県が2015年3月に「栃木県水道ビジョン」(量は90ページ)を公表したこと、そしてそれは問題だらけであることは、過去記事「栃木県水道ビジョン」は「ダムありき」だに書いたとおりです。

栃木県水道ビジョンの手続的な問題は、有識者を含めた検討委員会等の検証を経ていないことです。

「都道府県水道ビジョン」作成の手引きには、「策定のための体制」として「必要に応じ、学識経験者等の第三者からの意見を聴取し、都道府県水道ビジョンの妥当性を検証する。」と書かれているので、栃木県としては、学識経験者等の第三者からの意見を聴取した形をつくる必要がありました。

そこで県は、「栃木県水道ビジョン」を最終的に確定する前に有識者から意見をきいていました。公表されていないと思いますが。

その有識者とは、2014年当時国立大学法人宇都宮大学大学院工学研究科(現在は国立大学法人宇都宮大学地域デザイン科学部社会基盤デザイン学科)の池田裕一(いけだひろかず)教授(工学博士)ただ一人です。有識者の候補者リストには全部で6人の名前(池田教授以外は不明)が挙がっていました、残る5人からは意見を聴取しませんでした。

池田教授は、栃木県水道ビジョンについて意見を聴取されるたった一人の有識者だったのですから、その責任は重大でした。

池田教授は、素案と最終稿について意見を述べています。

●素案についての意見

池田教授から意見を聴取した栃木県保健福祉部生活衛生課の衛生・水道担当の谷田部主幹(当時)の話によると、素案について決裁のあった2014年12月25日に池田教授に素案を渡したとのことです。その時、素案について説明した、と復命書に記載されています。

そして、年明けの2015年1月7日に谷田部主幹は、宇都宮大学に出張し、池田教授に約20分間面談し、下記「素案への意見」を聴取しました。

水道が普及していれば安全な水を供給できるが、水道が普及していない地域の水の安全に対する行政の取り組みについても、ビジョンに記載する必要があるのではないか。


●最終稿についての意見

最終稿が池田教授に渡った時期は分かりませんが、2015年2月中旬と思われます。最終稿についての池田教授の意見は次のとおりです。

栃木県水道ビジョンは、国の新たな水道ビジョンの策定を受け、県北圏域、県央圏域及び県南圏域の三広域圏を設定したうえで、課題の抽出・現状の分析を行い、将来の理想像を描き、目標と実現方策を示している。

これを基に各々の水道事業者による水道ビジョンが描かれていくことは、それぞれの地域性に対応した水道事業経営への取り組み、東日本大震災を踏まえた強靭な施設の整備、安心・安全な水道水の安定供給の持続などの効果が期待できる。

加えて、厳しい経営環境への対応を求められる水道事業者にとって、県を調整役として水道事業の多様な連携・発展的広域化の推進が検討されていくことは、水道の将来の方向性・目標として適切であると思慮される。

平成27年2月20日
池田裕一(署名押印)


●意見に内容がなく、お墨付きを与えただけ

池田教授の最終稿についての意見はA4で1枚のごく簡単なものです。

ビジョンには、「平成24年度に策定した「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」に沿い、地下水依存率の高い地域における表流水とのバランスを確保できるように表流水への一部転換となる広域的水道整備を推進する。」(p88)と書かれているのに、池田教授は何も問題を感じず、原案にお墨付きを与えました。そのことにより、思川開発事業にもお墨付きを与えたことにもなります。

池田教授は、「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」を読んだのか疑問です。読んだとしたら、読んだのに問題点を指摘しないことは問題だと思います。 

ちなみに池田教授は、翌2016年5月に、思川開発事業の検証においても国から委嘱されて同事業に直接お墨付きを与えることになります(過去記事思川開発事業に関する学識経験者への意見聴取も虚構だったを参照)。

●謝金はいくらだったのか

池田教授は、栃木県水道ビジョンの案について上記意見を言ったり書いたりすることで、いくらの謝金を受けたのかというと、情報公開された支出負担行為兼支出決議書によれば12万円です。算出根拠は、次のとおりです。

栃木県内大学教授(への謝金の基本単価)@20,000円×3時間×2回

2回とは、素案についての意見照会及び最終稿についての意見照会の2回ということです。

池田教授への委嘱期間は、2014年12月25日〜2015年3月10日で、2014年12月25日に池田教授に素案が渡され、池田教授が県に意見書を提出したのが2015年2月20日ですから、約2か月かけて素案と最終稿を見て、書けば2行程度の意見を口頭で伝えたほか、1枚の意見書を書いたということです。

意見の分量は2回合計でも12ポの文字で15行ですから、池田教授は効率のよい金稼ぎをしたと思いますが、こうした血税の使われ方は納税者側から見れば問題だと思います。

●なぜ池田教授が水道ビジョンに関する有識者に選ばれたのか

なぜ池田教授が水道ビジョンに関する唯一の有識者に選ばれたのでしょうか。

回議書(2014年12月25日決裁)によれば、栃木県が栃木県水道ビジョン有識者候補リストに6人の候補者を挙げていましたが、その中から唯一池田教授だけが選ばれた理由は、次のとおりです。

2013年度から県公共事業評価委員会委員を委嘱されており、公共事業のあり方について造詣が深く、また、2014年度には県企業局経営評価委員会の委員も務められており、公営企業の経営に関しても精通しているため適任者と考え、水道ビジョン策定に関する有識者とするものである。

箇条書きにすると次のとおりです。

(1)2013年度から県公共事業評価委員会委員を委嘱されており、公共事業のあり方について造詣が深い。
(2)2014年度には県企業局経営評価委員会の委員も務められており、公営企業の経営に関しても精通している。

なお、池田教授以外の候補者が誰なのかについては個人情報という理由で黒塗りとなっており不明です。したがって、ほかに適任者がいなかったのか、検証のしようがありません。

●池田教授は水道事業に詳しいのか

そもそも池田教授は、水道問題に詳しい学者なのでしょうか。

准教授時代のサイトによれば、池田氏が専門とする学問分野は、次のとおりであり、水道の関する論文を発表した形跡もなく、水道に造詣が深いとは思えません。

河川工学
応用生態工学
環境情報工学

池田教授が栃木県公共事業評価委員会委員になったのは前年度、栃木県企業局経営評価委員会委員になったのは早くとも2014年7月と思われ、半年前にすぎません。

水道の専門家でもない人が、前年度に公共事業評価委員会委員になったからといって、急に「公共事業のあり方について造詣が深く」なるとは思えませんし、半年前に企業局経営評価委員会委員になったからといって、「公営企業の経営に精通」するとも思えません。

県が水道ビジョンについて池田教授を有識者に選んだ理由には合理性が感じられません。

●池田教授が県企業局経営評価委員会の委員に選ばれた理由

そもそも河川工学者である池田教授が県企業局経営評価委員会の委員になったこと自体に疑問を感じます。

栃木県企業局経営企画課企画調整担当が2014年7月2日に作成した「栃木県企業局経営評価委員会委員の選任について」というタイトルの文書を見てみましょう。

委員長だった和田尚久氏(東洋大学)の4期8年の任期が2014年6月30日で切れるので、その後任として県は、大学のバランス及び企業局の事業内容との関連度を考慮し、7人の候補者を挙げました。

その後2人の候補者に絞りましたが、その理由は次のとおりです。

大学のバランスを考慮し、国立大学の教授とした。また、企業局の事業内容との関連度から、河川、水工水理学を専門とする者とし、特に、河川工学を専門とする池田教授を第1候補者とした。


県は、池田教授を「河川工学を専門とする」と見ており、水道の専門家とは見ていないことが分かります。

確かに河川工学の範囲は広く、河川の流水を利用するための工学も含みますが、河川工学者で治水でも利水でも専門家と呼べる二刀流の学者は滅多にいないと思いますし、仮に池田教授がそうだとしたら、思川開発事業への意見で水道になぜ言及しないのでしょうか。南摩ダムは、主目的は利水のはずなのに。洪水調節機能にも言及していませんが、それは、南摩ダムが治水ダムとして意味がないことが分かっているからではないでしょうか。

いずれにせよ、県は委員の候補者リストを作りますが、最終的に選任されるのは池田教授という図式があり、池田教授は県から厚く信頼されているようです。

●宇都宮大学は地域の“知”の拠点となっているのか

私は、いわゆる専門家だけがものを言う資格があるとは思いません。専門家とは言えない人の意見も、その内容がもっともなものなら尊重すべきです。学問の境界を越えて活躍する知識人もいます。例えば林学の学者が経済学の本を書いても、内容が良ければ評価すべきであり、何の問題もありません(関良基「自由貿易神話解体新書―「関税」こそが雇用と食と環境を守る」)。

ところが池田教授は、当たり障りのない意見を述べて、県の計画にお墨付きを与えているだけにしか見えません。

宇都宮大学長の石田朋靖氏は学長あいさつで、同大学は「広く社会に貢献する」という精神を大切にしていると言いますが、構想発表後半世紀もの間、なくても誰も(公共土木事業で食べている人たちを除く。)困らなかったダム事業の推進に所属教授がお墨付きを与えることがどうして社会貢献になるのでしょうか。

宇都宮大学は、「地域の変革をリードする“知”の拠点形成」と「地域の“知”を創造し変革をリードする大学」を目指すそうです(地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議という資料から)が、私は宇都宮大学を住民にとっての「“知”の拠点」と呼ぶ気持ちにはなれません。

●池田教授は八面六臂の大活躍

池田教授は、次のとおり各種審議会等の委員になったり、有識者として公共事業に意見を述べたり、と行政から引っ張りだこです。

2006年度  利根川水系鬼怒川・小貝川河川整備計画有識者会議委員
2013年度  栃木県公共事業評価委員会委員
2014年度  栃木県企業局経営評価委員会委員
2014年度  栃木県水道ビジョン原案への有識者意見
2015年度  鬼怒川堤防調査委員会委員
2015年度  那珂川河川整備計画有識者会議委員
2016年度  思川開発事業検証における有識者意見
2017年度  栃木市水道ビジョン策定懇談会座長

鬼怒川堤防調査委員会については、過去記事国土交通省は堤防強化策を抹殺したの●鬼怒川堤防調査委員会の茶番、で書いたように、

(1)鬼怒川大水害の原因を堤防決壊に限定し、若宮戸溢水を無視し、そこでの国の失態を覆い隠そうとしている。
(2)堤防決壊のメカニズムを説明しただけで、なぜ三坂地区で決壊しなければならなかったのか、という国の責任に結び付きかねない本当の原因について触れない。
(3)「川裏側で洗掘が生じ」たことが決壊の発端だと言いながら、川裏側を補強しない堤防を今後の対応策としている。

という問題点がありますが、池田教授を委員とする鬼怒川堤防調査委員会は、上記内容の報告書を作成しました。

●栃木市水道ビジョン策定懇談会座長就任は問題だ

特に問題だと思うのは、2014年度に、「平成24年度に策定した「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」に沿い、地下水依存率の高い地域における表流水とのバランスを確保できるように表流水への一部転換となる広域的水道整備を推進する。」(p88)と書かれ、県南の広域的水道整備を推進することを宣言する栃木県水道ビジョンに唯一の有識者としてお墨付きを与え、2016年度には、思川開発事業に学識経験者として直接的にお墨付きを与えた池田教授が、2017年度には栃木市水道ビジョン策定懇談会座長に就任していたことです。

栃木県は、栃木市、下野市及び壬生町に原水を売る水道用水供給事業を経営することを予定しています。つまり、県と栃木市は、将来、売買契約の当事者となる可能性があります。

売買契約の当事者は、利益相反の関係にあります。

理念的には、栃木市が必要とする水量を適正な価格で購入するというwin-winの関係があるのかもしれませんが、実際のところは、栃木市が必要もないのに、というよりも、利水安全度が低下するので有害なのに、県から無理矢理表流水を買わされるという構図があります。

つまり、栃木市が水を買わなければ栃木県が損をするし、栃木市が買えば栃木市が損をするという関係にあります。

そうした利益相反関係にある両当事者に対して一人の有識者がどちらに対しても最善の助言をすることは不可能です。一人の弁護士が、ある訴訟事件の原告と被告の双方の代理人になれないのと同じです。

池田教授は、栃木県が思川開発事業に参画して栃木市等が当該事業で開発された水を使うことを前提とする栃木県水道ビジョンに、唯一の有識者としてお墨付きを与えているのですから、また、国のダム事業検証において直接的に思川開発事業にお墨付きを与えているのですから、栃木市水道ビジョン策定懇談会において、「栃木市は表流水を使わない方が賢明だ」などと言うはずがありません。

表流水の導入に関する池田教授の立場は最初からはっきりしているのですから、「他の水源確保の可能性も検討していきます」(p35)と書くかどうかを検討する栃木市水道ビジョン策定懇談会の座長に就任すべきでなかったと思います。

栃木市は、なぜ栃木市水道ビジョン策定懇談会の座長に、よりによって水道の専門家でもなく、思川開発事業と、これを前提とする栃木県水道ビジョンにお墨付きを与えた池田教授をすえたのでしょうか。何らかの意図があってのことと思われても仕方がないと思います。

(文責:事務局)
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