水道水源検討報告書は水道法による認可に相当するものではない

2013年5月11日

●栃木県は検証に関する追加資料を求められた

栃木県は検討資料の提出を求められたでお知らせしたとおり、2012年6月29日に開かれた「思川開発事業の関係地方公共団体からなる検討の場 第3回幹事会」において、検討主体(国及び水資源機構)は、「栃木県の思川開発事業に係る水道事業の認可について確認させていただきました結果、関係機関で協議し、調整するということをご回答いただいております。」と言いました。

そして、栃木県からの出席者に対して「思川開発の部分について追加して、その部分に関する資料というのをいただきたい」と要請しました。

栃木県は、県全体の水需要予測を示し、水道用水供給事業の認可については、今後関係機関で協議し、調整するという回答でごまかそうとしましたが、検討主体は、そんなあいまいな回答では困りますと言ったわけです。

●そもそもなぜ水道の認可を確認するのか

ダム事業の検証において、そもそもなぜ水道法に基づく認可を確認することになったのでしょうか。

その理由が書かれた資料はないと思いますので、想像するしかないのですが、おそらくは、ダムを建設しても使わないという事態になることを避けるためだと思います。

つまり、水道事業や水道用水供給事業の認可を得ていれば、それらの事業に関する具体的なことがかなり詳細に決まっているということになるので、ダム完成後ダムを使わないという事態が発生する可能性が小さいということだと思います。

逆に言えば、認可を得ていないということは、ダムの水を使うに当たっての具体的な事項が決まっていないということであり、利水参画者がそのような状態でダムを建設しても、使わないことになる可能性が大きいということだと思います。

なお、総務省行政評価局は、2001年7月に「水資源に関する行政評価・監視結果報告書」を公表し、ダム等の水資源開発施設による開発水量が計画どおり利用されていないことを指摘して、改善を勧告しています。

●栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書は認可に代わるものではない

思川開発事業に関する検討主体から追加資料の提出を求められた栃木県は、2013年3月25日に0.403m3/秒で参画継続の意思があるとして、関東地方整備局長及び水資源機構理事長に回答し、「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」(以下「報告書」という。)を参考資料として提出しました。

しかし、報告書は、水道法による認可に代わるようなものではありません。

なぜなら、報告書には、南摩ダムにためた水をどう使うのかについて具体的なことが全く書かれていないからです。

検討主体が栃木県から報告書を提出させて満足するなら、本気で検証する気がないということです。

●認可を得るのは容易ではない

栃木県が県南2市3町を対象とした水道用水供給事業の認可を得ることは容易ではありません。

県が認可を得るまでにやることは、次のとおりと思われます。

(1) 栃木県水道整備基本構想を改定する。
(2) 県央地域広域的水道整備計画を改定する。
(3) 県南広域的水道整備計画を策定する。
(4) 水道用水供給事業の計画原案を策定する。

県央地域広域的水道整備計画を改定しなければならない理由は、下野市は現在県央地域広域圏に含まれており、下野市が思川開発事業に参画するためには、同市を県央地域広域圏から県南地域広域圏に移さなければならないからです。

広域的水道整備計画を改定したり、策定したりするには、圏域内の市町と協議し、かつ、県議会の議決を得なければなりませんので、県としては結構大変な作業になると思います。

水道用水供給事業の認可を申請するには、事業計画書及び工事設計書を提出しなければならず、それぞれ次のような事項を決めなければなりません(水道法第27条)。

4  第一項の事業計画書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一  給水対象及び給水量
二  水道施設の概要
三  給水開始の予定年月日
四  工事費の予定総額及びその予定財源
五  経常収支の概算
六  その他厚生労働省令で定める事項
5  第一項の工事設計書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一  一日最大給水量及び一日平均給水量
二  水源の種別及び取水地点
三  水源の水量の概算及び水質試験の結果
四  水道施設の位置(標高及び水位を含む。)、規模及び構造
五  浄水方法
六  工事の着手及び完了の予定年月日
七  その他厚生労働省令で定める事項

「その他厚生労働省令で定める事項」とは、水道法施行規則第49条第1項に規定された次の事項です。
(認可申請書の添付書類等)
第四十九条  法第二十七条第一項 に規定する厚生労働省令で定める書類及び図面は、次の各号に掲げるものとする。
一  地方公共団体以外の者である場合は、水道用水供給事業経営を必要とする理由を記載した書類
二  地方公共団体以外の法人又は組合である場合は、水道用水供給事業経営に関する意志決定を証する書類
三  取水が確実かどうかの事情を明らかにする書類
四  地方公共団体以外の法人又は組合である場合は、定款又は規約
五  水道施設の位置を明らかにする地図
六  水源の周辺の概況を明らかにする地図
七  主要な水道施設(次号に掲げるものを除く。)の構造を明らかにする平面図、立面図、断面図及び構造図
八  導水管きよ及び送水管の配置状況を明らかにする平面図及び縦断面図

●広域的水道整備計画の策定は事実上必要だ

なお、広域的水道整備計画(水道法第5条の2)と水道用水供給事業(同法第26条)とは、次元の違う問題であり、水道用水供給事業を開始するには、必ず広域的水道整備計画を策定しなければならないということではないようです。

しかし、実際の例を見ると広域的水道整備計画に位置づけて水道用水供給事業を行う場合がほとんどだと思います。

宮城県や愛知県や大阪府の広域的水道整備事業の例を見てもそうです。
宮城県の例
http://www.pref.miyagi.jp/soshiki/shoku-k/miyaginosuidou.html
愛知県の例
http://www.pref.aichi.jp/cmsfiles/contents/0000013/13612/seibikeikaku.pdf
大阪府の例
http://www.pref.osaka.jp/attach/10582/00000000/110401seibikeikaku.pdf

上記のように、法的には県南広域的水道整備計画を策定しなくても県が水道用水供給事業を開始することはできますが、その場合補助金が使えないことが実際には広域的水道整備計画を策定した上で水道用水供給事業を開始する理由だと思います。

2011年度地域自主戦略交付金交付要綱(厚生労働省)というものがあります。

これによると、思川開発事業に基づく水道用水供給事業は、水道広域化施設整備費のうちの特定広域化施設整備費に該当させないと補助金(補助率1/3)が利用できないと思います。

特定広域化施設整備費の要件として、 「3 水道法第5条の2に基づく広域的水道整備計画に基づく事業であって、別添1の基準に適合するものであること。」(p10)と書かれています。

水道用水供給事業を国の補助金なしに始めることは事実上無理ですから、同事業の認可を得るためには、広域的水道整備計画を策定する必要が事実上あると考えてよいと思います。

そして栃木県が思川開発事業を利用する広域的水道整備計画を策定するには、関係市町が同計画を定めるべきことを知事に要請することが必要です(水道法第5条の2第1項及び第2項)。

●関係市町は広域的水道整備計画の策定を要請していない

ところが関係市町は、栃木県知事に対して広域的水道整備計画を策定することを要請していないというのが実情のようです。

3ダム訴訟の原告準備書面24(2010年9月30日)のp29から引用します。

(2)栃木県の水道施設計画は存在しない 事業実施計画の変更により、栃木県自身の参画水量が0.821m3/秒から0.403m3/秒へと、半分以下になったが、さらに問題なのは、栃 木県にはその参画で得た水量を使う予定そのものがないことである。この 参画水量は、本来は栃木県が水道用水供給事業の水道施設を建設して、県 南地区の各市町の水道に配水するためのものである。

したがって、この水 源保有権確保に伴って、思川から取水して導水する施設、取水した水を浄化する浄水場、その浄水場から県南地区の各市町水道へ配水する施設を栃 木県が建設する水道施設計画がなければならないが、この水道施設計画は 存在しない。

栃木県が県南で水道用水供給事業を展開する話がかつてはあったものの、具体化されることはなく、現在、そのような広域水道計画自 体が存在せず、当該計画に関する公文書そのものが作成されていない(甲 C第8号証および甲C第67号証「栃木県非開示決定通知書」)。巨額の費 用負担を伴う水源保有権確保においてそのように空虚なことがあってよいはずがなく、許されることではない。

「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」を見ると、2市3町(栃木市、下野市、壬生町、野木町、岩舟町)は、現在でも思川開発事業への参画の意思を示しています。

ところが、広域的水道整備計画の策定については知事に要請しないのです。

下野市長は子孫に負の遺産を残すでお知らせしたように、広瀬寿雄・下野市長は、2013年3月市議会で「当面の間は地下水に依存する方針」と答弁しています。

鈴木俊美・栃木市長も2013年3月1日の市議会一般質問で「県が言 うとお り取水量の計算を したが、栃木市の上水道計画において向こう10年は地下水を使 う。南摩ダムに乗るわけではない。県が確保す る表流水量を計算 したが、実際に栃木市がそこか ら取水す るとい うのは違 う」(ムダなダムをストップさせる栃木の会事務局だより2013年3月27日号) と答弁したようです。

佐藤信・鹿沼市長も思川開発事業への参画は継続するが、上水道はできるだけ地下水でまかなう、表流水の浄水場も建設しないと議会で明言しています。

参画市町がこんな調子では、栃木県にとって南摩ダムは、建設しても使わないダムになることは、だれにでも分かることです。

新たな取水施設を必要とせず、既に暫定水利権を使用している小山市は本当に南摩ダムの水が必要かというと、小山市も「広報おやま」は訂正記事を掲載するのかでお知らせしたように、2009年度ごろには、「1日当たり75,900トンの水道水量が必要になります。」と「広報おやま」(2000年12月15日号)に書いていたのに、2009年度の小山市の1日最大給水量の実績値は、47,881m3/日でした。2012年度の1日最大給水量は、更に少ない46,661m3/日でした。小山市は、約6割もの過大推計をすることによって南摩ダムの必要性を訴えていたのです。

それでも小山市は、暫定水利権を使用しているのだから、思川開発事業に参画するしかないという意見もあると思います。

しかし小山市は、暫定水利権なしでも57,784m3/日の水源を保有しています。2012年度現在、57,784m3/日÷46,661m3/日=1.24ですから、水源余裕率は24%となり、余裕がないということではありません。

羽生市(人口約57,000人)は、水源余裕率について「一日最大配水量の増減により、変動します が、今後も10%台で推移すると考えます。事故 や渇水に対して余裕があります。」(水道事業ガイドラインに基づく業務指標の算定結果)という見解を示していますので、24%はそれほど悪い数値ではないと思います。

また、暫定水利権であるために断水事故が起きたことがないという実績もあるのですから、小山市が暫定水利権では不安であるというなら、国土交通大臣は、歪んだ水利権行政を見直し、必要最小限度の恒久水利権を小山市に許可するべきです。

したがって、小山市も南摩ダムの水がどうしても必要という状況ではありません。

とにかく、栃木県では、小山市も鹿沼市も県南の2市3町も南摩ダムには参画するが、ダムの水を使うという姿勢は全く見せないという異常で無責任な状態になっています。

普通の感覚で考えると、思川開発事業に参画すること=広域的水道整備計画の策定を知事に要請すること、だと考えてしまいますが、水道行政の世界ではそうではないようなのです。しかし、そのような非常識をまかり通らせてはならないと思います。

県南地域を対象とした水道用水供給事業については、具体的なことはほとんど何も決まっていないのですから、「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」が水道用水供給事業の認可に相当するものでないことは確実です。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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