河川整備の要望書は高い確率で鬼怒川大水害を予見していた

2019-02-28

●2014年中に鬼怒川下流部の河川整備に関する要望書が3回も出ていた

常総市に対して、2015年鬼怒川大水害以前に鬼怒川の河川整備についての国へ提出した要望書を情報公開請求しました。

すると、次の三つの要望書が公開されました。通常は鬼怒川下流7団体(常総市、守谷市、下妻市、筑西市、つくばみらい市、結城市、八千代町)で構成する鬼怒川下流改修維持期成同盟会で要望するようですが、7月28日のものは、例外的に常総市単独で要望書を提出したように思います。

2014年2月6日 鬼怒川下流河川整備に関する要望書 鬼怒川下流改修維持期成同盟会

2014年7月28日 鬼怒川左岸常総市若宮戸地区の築堤工事に関する要望書 茨城県常総市

2014年11月18日 鬼怒川下流河川整備に関する要望書 鬼怒川下流改修維持期成同盟会

私が請求したのは、2015年9月までに常総市が国に提出した要望書でした。10年分くらいは出てくると思っていましたが、要望書の保存期間は5年なので、2013年度以降分しか出せないとのこと。

ちなみに、国土交通省での要望書の保存期間は3年だそうです。したがって、現在、公開できる要望書は、2015年度以降だそうです。

●2014年2月6日の要望書を見てみる

2014年2月6日の要望書のp3には、次のように書かれています。

鬼怒川下流部においては、堤防断面の狭小・高さ不足及び無堤部などの箇所が未だに多く、また、堤防詳細点検の結果、浸透に対する安全性が不足している堤防の存在も公表されておりますが、これらの危険性について、早期対策の実施を要望します。

特に下記の地区につきましては、より一層のご配慮をお願いします。末尾は要望する工事の種類です。

「下記の地区」とは次の10地区です。

(1)結城市久保田地区(右岸44.25k)築堤
(2)筑西市川島地区(左岸45.50k)築堤
(3)筑西市船玉地区(左岸43.50k)築堤
(4)常総市若宮戸地区(左岸24.50k)築堤
(5)つくばみらい市小絹地区(左岸6.50k)築堤
(6)下妻市前河原地区(左岸32.50k)築堤
(7)常総市中妻地区(左岸15.00k)堤防嵩上げ
(8)常総市坂手地区(右岸9.25k)堤防嵩上げ
(9)常総市羽生地区(右岸15.00k)堤防嵩上げ
(10)常総市三坂地区(左岸21.50k)堤防嵩上げ

番号については説明がありませんが、無造作に並べたのではなく、優先順位を意味していると思います。

なぜなら、2月の要望書と後で見る11月の要望書で要望か所を比べると、要望か所自体は10か所とも全て同じであるにもかかわらず、若宮戸地区を4番目から1番目に変えているからです。

ただし、そうだとすると、三坂地区の堤防が極端に低かったことは分かっていたのですから、それにもかかわらず最下位の優先順位としたことには首を傾げます。

●2014年7月28日の要望書を見てみる

2014年7月28日の要望書は、若宮戸の河畔砂丘を事業者Bが掘削し、そこに国土交通省が土のう積みを設置した直後に、常総市が独自に要望したものです。この問題を6月議会で質問されていたかもしれませんが、機敏な対応だったと思います。次のように書かれています。

しかしながら、大型土嚢を設置していただいたとはいえ、付近の堤防よりは一段と低いため、洪水の危険性は極めて高いものと思われます。もし、この地点から洪水が発生した場合、常総市の市街地にまで達し、被害は甚大となることが想定されます。
つきましては、市民の」生命財産を守るため、若宮戸地区の一刻も早い築堤工事の実施について、特段のご配慮を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

この後、2014年10月10日に国土交通省は、関東地方整備局の事業評価監視委員会による再評価の資料として「鬼怒川直轄河川改修事業」を作成するのですが、常総市の上記要望は一顧だにされず、若宮戸地区の築堤は今後20〜30年に実施する事業にさえなりませんでした。

ちなみに、堤防決壊が起きた三坂町付近の改修については今後20〜30年に実施する事業に位置づけられただけで、今後7年間に実施する事業には位置づけられませんでした。

●2014年11月18日の要望書を見てみる

2014年11月18日の期成同盟会の要望書には、同年2月6日の要望書と同様のことが書かれています。

早期対策の実施を要望する10地区については、2月6日のものと同じです。築堤については順位が入れ替わって、4番目だった若宮戸が1番目に上がっています。

国土交通省にとっては、期成同盟会からの要望書の提出は年中行事にすぎず、真摯に受け止める姿勢はなく、河川整備事業の優先順位は河川管理のプロに任せておけばいいのだ、という感覚だったのではないでしょうか。だから、河川整備の要望書など3年で廃棄してよい文書だったのでしょう。

●他の資料と突き合わせてみた

では、こうして提出された要望は、整備計画にどの程度反映されたのでしょうか。

事業評価監視委員会資料「鬼怒川直轄河川改修事業」(2014年10月10日)p9の「(1)今後の改修方針(事業位置図)」(下に掲げる)と突き合わせてみます。

また、要望書と鬼怒川大水害の被害との関係を『平成27年9月関東・東北豪雨』に係る洪水被害及び復旧状況等についてp9の決壊・溢水のか所を示した地図(下に掲げる)と突き合わせてみます。

その結果は、下表のとおりでした。

比較表

●要望は改修方針にほとんど反映されていない

期成同盟会は、2014年2月6日の要望書で、築堤とかさ上げについては、10か所を要望していますが、地図からの読み取りなので明確ではないものの、そのうち次の4か所が事業位置図に反映されていると思われます。

(2)筑西市川島(左岸45.50k) 概ね20〜30年間で整備
(5)つくばみらい市小絹(左岸6.50k) 当面7年間で整備
(8)常総市坂手(右岸9.25k) 当面7年間で整備
(10)常総市三坂(左岸21.50k) 概ね20〜30年間で整備

しかし、これら4か所のうち、「当面7年間で整備する事業」と位置づけられたのは(5)と(8)の2か所であり、あとの2か所は、「概ね20〜30年間で整備する事業」という位置づけですから、緊急に整備する必要性がないと判断されたということです。「概ね20〜30年間で整備する事業」ということは、平たく言えば、ボチボチやればいい、ということですから、何もしないよりはましでしょう、という程度の意味でしかないと思います。

つまり、期成同盟会は、緊急に整備してほしいので、「早期対策の実施」を10か所については、「一層のご配慮」をもってしてほしいと要望しているのに、早期対策の必要性があると判断されたのは、たった2か所しかなかったということです。

要望が方針に反映された確率は、2/10と言ってもよいのではないでしょうか。

しかも、上の表に書いたとおり、2015年の鬼怒川大水害では、「当面7年間で整備」とされた(5)と(8)では、溢水も決壊も起きておらず、逆に「概ね20〜30年間で整備」とされた(2)と(10)で溢水と決壊が起きたのですから、国土交通省には優先順位を付ける能力がない、と言われても仕方がない思います。

したがって、河川管理者失格です。それでも国が管理するというのであれば、地元の住民や自治体の意見を十分に尊重して行うべきです。そうすれば、大水害は起きなかったはずです。

看過できないのは、期成同盟会が第4順位に挙げていた若宮戸の築堤要望については、全く無視されたことです。2014年春には河畔砂丘の大規模掘削があり、河畔砂丘がなければ水害が起きると事業者Bを説得して無償で土地を借り、土のうまで積んだのに、「概ね20〜30年間で整備する事業」にさえ位置づけなかったのですから、マニュアルに沿わずに積んだ土のうに効果がないのは分かっていても、ソーラーパネルまで洪水が来ることは今後長期にわたり絶対にないと見ていたことになります。洪水は想定の範囲内に収まると考える思慮の浅い人たちが河川管理者をやっているということです。想定外の大津波は来ないと決めつけていた安倍晋三や東京電力の幹部と全く同じ構図です。

2011年3月以降、国土交通省は、想定外の洪水がいつ来るか分からないからダムが必要だ、と言っていたような気がするのですが。

●8か所の溢水・決壊か所のうち6か所が要望か所だった

『平成27年9月関東・東北豪雨』に係る洪水被害及び復旧状況等について p9で国土交通省は、鬼怒川大水害での決壊と溢水のか所は8か所(若宮戸は2か所とカウントしている)であるとしています。そのうちの6か所は、要望書で整備を要望していたか所でした。

つまり決壊と溢水の被害があった8か所のうちの6か所が要望書で要望したか所だったということです。

また、期成同盟会が要望した10か所のうち、5か所(若宮戸を1か所として)で実際に被害が発生したという見方もできます。

期成同盟会が整備を要望した10か所のうち、その半分で実際に被害が発生したのですから、期成同盟会は、かなり高い確率で危険を予知していたと言えます。

国土交通省としては、大水害が発生する1年半前に整備を要望されたって、築堤もかさ上げも10か所を1年半で完成できるはずがないから、要望を尊重していれば大水害を防げたという説は結果論にすぎない、という反論をしたいのかもしれません。

しかし、若宮戸と三坂町については国土交通省が指定する重要水防箇所に長い間なっているので同じか所の整備要望は以前から出されていたと推測されますし、若宮戸築堤については、2003年度にはサンコーコンサルタント株式会社が若宮戸地先築堤設計業務報告書を作成しているのですから、若宮戸で築堤する時間的余裕は十分にあったはずです。

●要望書に関する経緯を見て分かること

2014年中の鬼怒川河川整備に関する出来事は次のように起きました。

2月6日 鬼怒川下流改修維持期成同盟会が要望書を国土交通省に提出
3〜6月 太陽光発電事業者が若宮戸河畔砂丘を大規模に掘削
7月28日 常総市が要望書を提出
10月10日 国土交通省が事業再評価資料「鬼怒川直轄河川改修事業」を作成
11月18日 鬼怒川下流改修維持期成同盟会が要望書を提出

2014年の1年間で、年度またがりですが、鬼怒川下流の河川整備について3通の要望書が提出されています。これらの経緯を見て、次のような推測ができます。

こういう推測が成り立つのではないでしょうか。

そうだとすれば、常総市等の鬼怒川下流団体は熱心に河川整備を要望していましたが、国土交通省は、その要望をまともに聞いていなかったように私には見えます。

地元の意見もろくに聞かないで河川整備の優先順位を決めておいて、大水害が起きると豪雨が新記録なのだから天災なのだ、という言い訳を簡単に認めるわけにはいかないと思います。

(文責:事務局)
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